たけ)” の例文
月の光りは、圃に植えられている、繁った、たけの低い野菜の葉の上に流れて、お繁さんの屋根が、灰色にぼうとなって浮き出ていた。
夜の喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
籠は上に、棚のたけやや高ければ、打仰うちあおぐやうにした、まゆの優しさ。びんの毛はひた/\と、羽織のえりに着きながら、肩もうなじも細かつた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
時頼の時年二十三、せい濶達にして身のたけ六尺に近く、筋骨飽くまでたくましく、早く母に別れ、武骨一邊の父の膝下ひざもとに養はれしかば
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
思いのたけを書き綴って、人伝ひとづてに送っても返事が来ず、到頭とうとうしまいには、多与里の姿を見ただけでもうるさそうに顔を反ける左京です。
たけなす薔薇ばら、色鮮やかな衝羽根朝顔つくばねあさがお、小さな淡紅色ときいろの花をつけた見上げるようなたばこ叢立むらだち、薄荷はっか孔雀草くじゃくそう凌霄葉蓮のうぜんはれん、それから罌粟けし
縁に腰かけているのであったが、たけ延びた草が胸の辺りまで届いて、半身を蔽うているがために、人がいるとも見えなかったのである。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今眺めているたけ高い軍服姿、胸には白く十字を現したダネブログ勲章のコマンドル章をびられたところもさっきのままであるし
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
よくあんな紳士的な服装なりをして汗も出さずにかけられる事だと思うくらいに早く走ける。もっとも足も長かった。身のたけは六尺近くある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ソウイエバ彼女ハ先月アタリカラアノ茶羽織ちゃばおりトイウたけノ短イ羽織ヲ着テイルノヲシバシバ見カケタ。今日モアレヲ着テ歩イテイル。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ゴンクウルはかくの如き賛辞に附記して歌麿の女のたけ高きはこの画家が日本の女を事実よりも立派に美麗になさんと欲したるがためなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かたはば広くたけ高い偉丈夫いじょうぶ! かれはギロギロとするどい眼光で一同を見まわすと、すばやく身をひるがえして戸を閉じ、耳をあてた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その巻紙は貫一がのこせし筆の跡などにはあらで、いつかは宮の彼に送らんとて、別れし後の思のたけひそか書聯かきつらねたるものなりかし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
並んで手をつなぎ合ってもいるし、また背中合せにたけくらべをしているようでもあり、何となく人なつかしい山に見えるからである。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
戸石君は剣道三段で、そうして身のたけ六尺に近い人である。私は、戸石君の大きすぎる図体に、ひそかに同情していたのである。
散華 (新字新仮名) / 太宰治(著)
伝兵衛はもう六十と云っていたが、身のたけも高く、頬の肉も豊かで、見るからすこやかな、いかにも温和らしい福相をそなえた老人であった。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中古の鼠色ねず縮緬ちりめん兵児帯へこおびが、腰でだらしなくもなく、きりっとでもなく穏健おんけんしまっている。古いセルの単衣ひとえ、少したけが長過ぎる。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
浴衣を貸してくれる、珍しくも裾はかかとまである、人並より背の高い私は、貸浴衣のたけは膝までにきまったものと、今まで思っていたのだ。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
「妙なことがあるものですね。わしは年々着物が大きくなりますよ。この間一重に着替えたら、ゆきたけも一寸近く伸びていました」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
長過ぎる程の紺絣の単衣に、軽やかな絹の兵子帯、たけ高い体を少し反身に何やら勢ひづいて学校の門を出て来た信吾の背後うしろから
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ウヰルソンの義弟といふのは、たけ七尺もあらうといふ背高男のつぽで、道を歩く時にはお天道様てんとうさまが頭につかへるやうに、心持せなかゞめてゐた。
待合室をづるとて、あたかも十五六の少女おとめを連れしたけ高き婦人——貴婦人の婦人待合室より出で来たるにはたと行きあいたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
葉の大きい、たけの高くなる植物だけに、その育ち方も著しく感ぜられるのである。平凡なようであるが、煙草苗ということは動かし難い。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
梅にうぐいすやら、浦島が子やら、たかやら、どれもどれも小さいたけの短いふくなので、天井の高い壁にかけられたのが、しり端折はしょったように見える。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こういう人は、こわばったカラやたけの高いシルクハットを得ることが、諸君の文明を得ることと心得違いをしていたのである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
のりのついた真白い、上衣うわぎたけの短い服を着た給仕ボーイが、「とも」のサロンに、ビール、果物、洋酒のコップを持って、忙しく往き来していた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そして頭の方のかどを〓(こんな形に)した方が、そして今よりすこし幅をせまくした方が(普通に)便利ではないのでしょうか、たけの点で。
ただ幾分か優しいように着こなすだけであって着物の仕立方したてかたは同じ事である。帯は幅一すん位、たけは八尺位、まあ細帯ほそおびのようなものです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
車を下りて歩かうにも、足駄のたけが立たない。腹は立つし、気は焦々するし、車夫の頓間とんまを罵つて見たが何うも仕方がない。
初冬の記事 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
真後まうしろせりなずなとあり。薺は二寸ばかりも伸びてはやつぼみのふふみたるもゆかし。右側に植ゑて鈴菜すずなとあるはたけ三寸ばかり小松菜のたぐひならん。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
すでに袖のたけがつまっていますからあの袖を、腕の上に巻き返した格好、あれが出来ませんから、あらためて、袖の長い令嬢にしたのでした。
船長はたけ高く、均整のよく取れた体格で、色のあさ黒い美丈夫である。そうして、不思議に手足を痙攣的に動かす癖がある。
が、そのため息がまだ消えない内に、今度は彼の坐っている前へ、金のよろい着下きくだした、身のたけ三丈もあろうという、おごそかな神将が現れました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
翌日あくるひ手伝の娘を一人附けて呉れた。矢張やつぱりミハイロ同様な貧乏人で、古ぼけた頭巾づきんに穴のいた腰巻に、襯衣しやつと、それで身上しんしやう有りツたけだといふ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
故に人をはかるについて、目方めかたをもってそれがし何貫なんがんときめることは出来る。たけをもってして某は何じゃくずんと定むることも出来る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ぼうぼうの髪を肩までたらし、若布わかめのような着ものをきて、ひげむくじゃらの顔、たけ高く、肩幅広く、熊笹くまざさのような胸毛を風にそよがせている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
振子の振動は私の身のたけと直角になっていた。私は偃月刀が自分の心臓の部分をよぎるように工夫してあることを知った。
落穴と振子 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
その背景の中に、一尺位のたけの二人の人物が浮き出していた。浮き出していたと云うのは、その人物丈けが、押絵細工で出来ていたからである。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
年は廿七とか、たけ高く、女子の中にもかゝる美しき人はあまた見がたかるべし、物言ひ打笑うちえむとき頬のほどさと赤うなる。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この洞穴ほらあなは、アルタミラとはちがつて、たけたかおくふかあなであつて、兩側りようがはかべにやはり多數たすう動物どうぶついてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
たけ高く面しゅのようなる人なり。娘はこの日よりうらないの術を得たり。異人は山の神にて、山の神の子になりたるなりといえり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたしは岸辺に生えた、普通は実をむすばない、たけの高いブルーベリーの茂みがこういう状態のもとでたくさん実をつけたのを見たことがある。
子供とたけくらべをすると、親はたしかに勝つ。しかし段々成長すると、親の身長がかえっておとることもあり得る。精神の面でも、無論その面が多い。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
どんな大男でも、海の幅ほどたけのあるものはないからだ。つまり彼らは、横になりながら足を突っぱろうと試みたのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
彼の顔面の筋肉が、頻りに痙攣し、太い巨きい四肢は、最後のありたけの力を籠めたやうに、烈しく畳の上にのたうつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
先生のたけは日本人並であつたが、髮の毛が赤く縮れた上に、眼が深くくぼんでゐて、如何いかにも神經質らしい人に見えた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
このまつすぎのようにたけたかくなり、かたちおほきくなる樹木じゆもくを『喬木きようぼく』といひ、つゝじやぼけのようにかたちちひさく、機状きじようしげを『灌木かんぼく』とびます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
これも身のたけ七尺をこえ、人なみはずれな腕力に加えて、およそどんな土塀もちょっとした小川も一跳躍にとびこえる特技のあるところから、県中
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっともその土間には、少年の背がかくれるほどのたけの長い雑草ざっそうがおいしげっていて、荒涼こうりょうたる光景をていしていた。
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは法服姿の一人の男を描いていた。たけの高いいかめしい椅子にすわっているが、その椅子の金色が、いろいろな点でその絵から浮び上がっていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「お豊さん、心配しなくてもいいよ。わしはここでは、手荒いことはしませんよ、ただ今晩は、お前さんに、わしの心のたけを聞いてもらいたいのだよ」