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谷中
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やなか
ふりがな文庫
“
谷中
(
やなか
)” の例文
そして彼女は自分の住所姓名だけは確実に書きながら、先の住所は簡単に
巴里
(
パリ
)
とか、赤坂とか、
谷中
(
やなか
)
とか、本郷と書いて置くだけだ。
春:――二つの連作――
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
私はこの
老女
(
ひと
)
の
生母
(
ははおや
)
をたった一度見た覚えがある。
谷中
(
やなか
)
御隠殿
(
ごいんでん
)
の
棗
(
なつめ
)
の木のある家で、
蓮池
(
はすいけ
)
のある庭にむかった
室
(
へや
)
で、お
比丘尼
(
びくに
)
だった。
旧聞日本橋:09 木魚の配偶
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
さうして秋の淋しさは人の前髮を吹く風にばかり籠めてゞもおく樣に
谷中
(
やなか
)
の森はいつも隱者のやうな靜な體を備へてぢつとしてゐた。
木乃伊の口紅
(旧字旧仮名)
/
田村俊子
(著)
二十八日の夜
丑
(
うし
)
の刻に、抽斎は遂に絶息した。即ち二十九日午前二時である。年は五十四歳であった。
遺骸
(
いがい
)
は
谷中
(
やなか
)
感応寺に葬られた。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
是等を救助せずして静まるべきの筋にあらずとて、先づ救民小屋
造立
(
つくりたて
)
の間、本所
回向院
(
えこういん
)
、
谷中
(
やなか
)
天王寺、
音羽
(
おとは
)
護国寺、
三田
(
みた
)
功運寺
大菩薩峠:16 道庵と鯔八の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
▼ もっと見る
何でも
谷中
(
やなか
)
に御友達とかの御葬式があるんですって。それで急いで行かないと間に合わないから、上っていられないんだと
仰
(
おっし
)
ゃいました。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
(
谷中
(
やなか
)
なら、墓原の森の中を根岸で下りる、くらがり坂が可い。踏切の上の。あすこいらで、笹ッ葉の下へでも隠れておいで。)
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それにしても、お直の死骸をどこへか処分しなければならないので、お豊は更にお紋の母と相談の上で、
谷中
(
やなか
)
まで出て行った。
半七捕物帳:35 半七先生
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
四十九日の
蒸物
(
むしもの
)
を、幸さんや安公に配ってもらってから、その
翌日
(
あくるひ
)
母親とお庄とは、
谷中
(
やなか
)
へ墓詣りに行った。その日はおもに女連であった。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
上野の堂坊のいらかが、冬がすみのかなたに、灰黒く煙って、楼閣の
丹朱
(
にしゅ
)
が、黒ずんだ緑の間に、ひっそりと沈んで見える、
谷中
(
やなか
)
の林間だ。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
すると、四、五日の後、若井氏は突然私の
谷中
(
やなか
)
の宅に訪ねて来られました(私は、その頃は谷中
茶屋町
(
ちゃやまち
)
に転居しておった)。
幕末維新懐古談:61 叡覧後の矮鶏のはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
谷中
(
やなか
)
の墓地近くになっても貸家はみつかりそうにもなかった。いたずらに歩くばかりで、歩きながら、考えることは情ないことばかりだった。
貸家探し
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
吉原
(
よしわら
)
だといやァ、
豪勢
(
ごうせい
)
飛
(
と
)
びゃァがるくせに、
谷中
(
やなか
)
の
病人
(
びょうにん
)
の
知
(
し
)
らせだと
聞
(
き
)
いて、
馬鹿
(
ばか
)
にしてやがるんだろう。
伝吉
(
でんきち
)
ァただの
床屋
(
とこや
)
じゃねえんだぜ。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
一応、そう反駁はしてみたものゝ、この父に、それ以上理屈は通らぬとあきらめて、彼は、
谷中
(
やなか
)
警察署にでかけて行つた。
光は影を
(新字新仮名)
/
岸田国士
(著)
何という不安な日がそれから二人の上に続いたろう。節子はその心配を胸にもちながら、高輪から
谷中
(
やなか
)
の家へ引移って行ったことを思い出した。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
谷中
(
やなか
)
の方にチト急な用があって、この朝がけ、出尻をにょこにょこ
動
(
うご
)
かしながら、上野
山内
(
さんない
)
の五重の塔の下までやってくると、どこからともなく
平賀源内捕物帳:萩寺の女
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
「お屋敷に、御奉公していた源次という男が昨夜
谷中
(
やなか
)
で殺されました。別段お掛り合いがあるわけではございませんが、念のためお届け申します」
銭形平次捕物控:115 二階の娘
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
谷中
(
やなか
)
へ帰るとまた暗く、寒く、どうかすると寒の雨降る夜中ごろにみかん箱のようなものに赤ん坊のなきがらを収めたさびしいお弔いが来たりした。
銀座アルプス
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
即ち左手には
田町
(
たまち
)
あたりに立続く
編笠茶屋
(
あみがさぢゃや
)
と
覚
(
おぼ
)
しい低い人家の屋根を限りとし、右手は
遥
(
はるか
)
に
金杉
(
かなすぎ
)
から
谷中
(
やなか
)
飛鳥山
(
あすかやま
)
の方へとつづく深い木立を境にして
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
清「
谷中
(
やなか
)
日暮
(
ひぐらし
)
に
瑞応山
(
ずいおうざん
)
南泉寺
(
なんせんじ
)
と云う寺が有ります、夫に
宮内健次郎
(
みやのうちけんじろう
)
と云う者が居ますが、夫へは多分参りますまい」
政談月の鏡
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
三日
(
みつか
)
は孫娘を断念し、
新宿
(
しんじゆく
)
の
甥
(
をひ
)
を
尋
(
たづ
)
ねんとす。
桜田
(
さくらだ
)
より
半蔵門
(
はんざうもん
)
に出づるに、新宿も
亦
(
また
)
焼けたりと聞き、
谷中
(
やなか
)
の
檀那寺
(
だんなでら
)
を
手頼
(
たよ
)
らばやと思ふ。
饑渇
(
きかつ
)
愈
(
いよいよ
)
甚だし。
鸚鵡:――大震覚え書の一つ――
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
今その格子戸を明けるにつけて、細君はまた今更に物を思いながら外へ出た。まだ
暮
(
く
)
れたばかりの
初夏
(
しょか
)
の
谷中
(
やなか
)
の風は上野つづきだけに
涼
(
すず
)
しく心よかった。
鵞鳥
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
谷中
(
やなか
)
から上野を抜けて東照宮の下へ
差掛
(
さしかか
)
った夕暮、
偶
(
ふ
)
っと森林太郎という人の家はこの辺だナと思って、
何心
(
なにごころ
)
となく
花園町
(
はなぞのちょう
)
を
軒別
(
けんべつ
)
門札
(
もんさつ
)
を見て歩くと
忽
(
たちま
)
ち見附けた。
鴎外博士の追憶
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
江戸の東北、
向島
(
むこうじま
)
浅草から
谷中
(
やなか
)
根岸
(
ねぎし
)
へかけて寺が多い。その上どころの湯灌場買いを一手に引き受けて、ほっくりもうけているのが神田
連雀町
(
れんじゃくちょう
)
のお古屋津賀閑山。
つづれ烏羽玉
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
谷中
(
やなか
)
に
知人
(
ちじん
)
の
家
(
いゑ
)
を
買
(
か
)
ひて、
調度萬端
(
てうどばんたん
)
おさめさせ、
此處
(
こゝ
)
へと
思
(
おも
)
ふに
町子
(
まちこ
)
が
生涯
(
せうがい
)
あはれなる
事
(
こと
)
いふはかりなく、
暗涙
(
あんるい
)
にくれては
我
(
わ
)
が
身
(
み
)
が
不徳
(
ふとく
)
を
思
(
おぼ
)
しゝる
筋
(
すぢ
)
なきにあらねど
われから
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
一つは
本郷追分
(
ほんごうおいわけ
)
から
谷中
(
やなか
)
までひと舐めさ、こっちはおめえ小石川から出たやつが上野へぬけてよ、北風になったもんで湯島から
筋違橋
(
すじかいばし
)
、向う
柳原
(
やなぎわら
)
、浅草は
瓦町
(
かわらちょう
)
から
茅町
(
かやちょう
)
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
鳩巣
(
きゅうそう
)
の『
駿台雑話
(
すんだいざつわ
)
』にも「老僧が接木」なる一章があり、三代将軍が
谷中
(
やなか
)
辺へ鷹狩に出た時、将軍とは知らずに今のような理窟をいって聞かした、という話が出ている。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
白翁堂勇斎
(
はくおうどうゆうさい
)
に知らし、勇斎の注意で萩原は女の住んでいると云う
谷中
(
やなか
)
の
三崎町
(
みさきちょう
)
へ女の家を探しに往って、
新幡随院
(
しんばんずいいん
)
の
後
(
うしろ
)
で
新墓
(
しんはか
)
と牡丹の燈籠を見、それから白翁堂の紹介で
牡丹灯籠 牡丹灯記
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
ヤツが
谷中
(
やなか
)
や
谷村
(
やむら
)
などのごとく、ヤの一字音に化しているのを見ると、本来は
拗音
(
ようおん
)
であったかと思うが、北武蔵から上州辺にかけては、ヤトといって谷戸の二字を宛てている。
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
門司から
備後
(
びんご
)
の尾ノ道まで乗りました汽船にも酔いもせずに、三日三夜かかって新橋に着きますと、岡沢先生御夫婦のお迎えを受けまして
谷中
(
やなか
)
の閑静なお宅に御厄介になりましたが
押絵の奇蹟
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
谷中
(
やなか
)
の秋の夕暮は淋しく、江戸とは名ばかり、このあたりは
大竹藪
(
おおたけやぶ
)
風にざわつき、
鶯
(
うぐいす
)
ならぬむら
雀
(
すずめ
)
の
初音町
(
はつねちょう
)
のはずれ、薄暗くじめじめした露路を通り抜けて、額におしめの
滴
(
しずく
)
を受け
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
ところで昔、大口が
谷中
(
やなか
)
の方で開いていたという薬屋の店はどうなったろう。
議会見物
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
転じて山の手方面では
谷中
(
やなか
)
の
諏訪
(
すわ
)
の台、諏訪明神社前の崖上、ここにも掛茶屋があって、入谷、
日暮里
(
にっぽり
)
の
田圃
(
たんぼ
)
越しに遠く隅田川、紫がかった筑波の姿まで眼界
広濶
(
こうかつ
)
、一碗の渋茶も嬉しい味
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
先ず客を招く準備として、
襖絵
(
ふすまえ
)
の
揮毫
(
きごう
)
に
大場学僊
(
おおばがくせん
)
を
煩
(
わずら
)
わした。学僊は当時の老大家である。毎朝
谷中
(
やなか
)
から老体を運んで来て描いてくれた。
下座敷
(
したざしき
)
の襖六枚には
蘆
(
あし
)
に
雁
(
がん
)
を
雄勁
(
ゆうけい
)
な筆で活写した。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
江戸の人々は、一日も早く、世間が平和になるようにと
希望
(
のぞ
)
みながら、家根へ上ったり、門口に立ったりして、上野の方を眺めていた。長州の兵は、根津と
谷中
(
やなか
)
から、上野の背面を攻めていた。
甲州鎮撫隊
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
谷中
(
やなか
)
の墓地を通って見ても、木の幹の影はやはり紫では決してなかった。
めでたき風景
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
そこに立ちますと、団子坂から、蛍の名所であった蛍沢や、水田などを隔てて、
遥
(
はる
)
かに上野
谷中
(
やなか
)
の森が見渡され、右手には
茫々
(
ぼうぼう
)
とした人家の海のあなた雲煙の果に、
品川
(
しながわ
)
の海も見えるのでした。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
一月十八日
谷中
(
やなか
)
本行寺
(
ほんぎょうじ
)
。
播磨屋
(
はりまや
)
一門、水竹居、たけし、立子、秀好。
五百五十句
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
家のない私は三十前後のころ
谷中
(
やなか
)
の
真如院
(
しんにょいん
)
という寺に
仮寓
(
かぐう
)
していた。
独り碁
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
遠藤清子の
墓石
(
おはか
)
の建ったお寺は、
谷中
(
やなか
)
の
五重塔
(
ごじゅうのとう
)
を右に見て、左へ曲った通りだと、もう、法要のある時刻にも近いので、急いで家を出た。
遠藤(岩野)清子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
女は人込みの中を
谷中
(
やなか
)
の方へ歩きだした。三四郎もむろんいっしょに歩きだした。半町ばかり来た時、女は人の中で留まった。
三四郎
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そら
又
(
また
)
化性
(
けしやう
)
のものだと、
急足
(
いそぎあし
)
に
谷中
(
やなか
)
に
着
(
つ
)
く。いつも
變
(
かは
)
らぬ
景色
(
けしき
)
ながら、
腕
(
うで
)
と
島田
(
しまだ
)
におびえし
擧句
(
あげく
)
の、
心細
(
こゝろぼそ
)
さいはむ
方
(
かた
)
なし。
弥次行
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
江戸の
谷中
(
やなか
)
の時光寺という古い寺で不思議の噂が伝えられた。それはその寺の住職の英善というのが、いつの間にか狐になっていたというのである。
半七捕物帳:25 狐と僧
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
電話が切れた後のシーンとした沈黙は
谷中
(
やなか
)
の方の夏の夜へ、明るく電燈の
点
(
つ
)
いた町中の自働電話室へ、その電話口に立つ節子の方へ岸本の心を誘った。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
その頃まで何事もなかつたらしいが、お葉が鈴川主水と別れて、一人立ちをすることになり、
谷中
(
やなか
)
三崎町に茶店を開いたのは、そんなに遠いことではない
銭形平次捕物控:314 美少年国
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
「なあに、今夜、おれがしょぴき出すから、女を一匹、
谷中
(
やなか
)
の
鉄心庵
(
てっしんあん
)
ッて古寺にかつぎ込んでくれりゃいいんだ」
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
さァさ
来
(
き
)
た
来
(
き
)
た、こっちへおいで、
高
(
たか
)
い
安
(
やす
)
いの
思案
(
しあん
)
は
無用
(
むよう
)
。
思案
(
しあん
)
するなら
谷中
(
やなか
)
へござれ。
谷中
(
やなか
)
よいとこおせんの
茶屋
(
ちゃや
)
で、お
茶
(
ちゃ
)
を
飲
(
の
)
みましょ。
煙草
(
たばこ
)
をふかそ。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
田中舘
(
たなかだて
)
先生の肖像を頼む事に関して何かの用向きで、中村
清二
(
せいじ
)
先生の御伴をして、
谷中
(
やなか
)
の奥にその
仮寓
(
かぐう
)
を尋ねて行った。それは多分初夏の頃であったかと思う。
中村彝氏の追憶
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
けれども
谷中
(
やなか
)
へは中々来ない。
可也
(
かなり
)
長い葬列はいつも秋晴れの東京の町をしずしずと練っているのである。
点鬼簿
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
三月中梅痴は梁川星巌、岡本花亭、大沼枕山らと
谷中
(
やなか
)
天王寺の桜花を賞したことが諸家の作に見えている。八月十三日に梅痴は結城に帰る時枕山を伴って行った。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
谷
常用漢字
小2
部首:⾕
7画
中
常用漢字
小1
部首:⼁
4画
“谷中”で始まる語句
谷中村
谷中三崎町
谷中口
谷中台
谷中鶯
谷中初音町
谷中天王寺
谷中延命院
谷中感応寺
谷中清水町