おぎな)” の例文
「お追従ついしょうは止して下さい。ひとりの姜維を得たとて、街亭の大敗はおぎなえません。いわんや失った蜀兵をや。へつらいは軍中の禁物です」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、私はかうして彼は自分の缺點をおぎなひながら、なほ私にはヒンドスタンの勉強を續けさせて、もつと一途にやらせようと云ふのだなと思つた。
自分は、その懸賞金を受取ると、盗難に逢った六円をおぎなった残りで、晩秋の大和へつましい小旅行を企てたのであった。
天の配剤 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
第六十九条 クヘカラサル予算ノ不足ヲおぎなためニ又ハ予算ノほかしょうシタル必要ノ費用ニツルためニ予備費ヲもうクヘシ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
さいはひを愛する愛、その義務つとめに缺くるところあればこゝにておぎなはる、怠りておそくせるかいこゝにて再び早めらる 八五—八七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
足りない学費を少しずつおぎなってやって園芸学校を卒業させ、卒業すると自分の学園の園芸手に推薦してやった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人間は、自分の利益とか快楽にしか奉仕しないということ、犠牲とか献身けんしんとかいうことは、その苦痛をおぎなって余りある自己満足があって始めて成立し得ること。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
なはくゝつたべつびんそこはう醤油しやうゆすこしあつた。卯平うへいはそれでもれをつけてやうや蕎麥掻そばがきあぢおぎなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
室内しつないの有樣に付きては口碑こうひ存せず。火をきしあとの他、實地じつちに就いての調査てうさも何の證をも引き出さず。余は茲に想像そうぞうを述べて此點に關する事實じじつ缺乏けつばうおぎなはんとす。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
で、今は、この記録の不備をおぎなう意味で、わずかにその数節を読者に提供することだけで満足したい。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一週に一度は、派出婦がやって来て、食料品をおぎなったり、洗い物を受けとったりして行くのが例だった。いつまで寝ていようと、もう気儘きまま一杯にできる身の上になった。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
朝は粥にして、玉蜀黍とうもろこしおぎない、米を食い尽し、少々の糯米もちごめをふかし、真黒い饂飩粉うどんこ素麺そうめんや、畑の野菜や食えるものは片端かたっぱしから食うて、粒食の終はもう眼の前に来ました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
足りないもののすべてのおぎないになるといった、安心と慰めを与えてくれるなにかがあった。
虹の橋 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
主人孫右衞門と、錢形平次は、互におぎなひ合つて、事件の眞相は、明かに浮び上がるのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
また一方いつぽうでは人口じんこう増加ぞうかにつれてこれまで食料しよくりようにしてゐたくさもだん/\りなくなり、それをおぎなふためにはたけをこしらへて、農作のうさくをする必要ひつようがおこるし、同時どうじにまた野獸やじゆう
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
つまりこのあと言葉ことばおぎなへば、わたしりあひのひともとではないといふ言葉ことばにすぎません。さうした言葉ことばれるのとひと氣持きもちにまかせるのと、どちらがいとおもひますか。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
いわば動物として最も微妙びみょうなる知能を有する者、または才能によりて力の足らぬところを、武器をもっておぎない、豺狼虎豹さいろうこひょうも遠く及ばぬ力をたくましゅうするさまをいいあらわしたものであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
小六ころくうつまでは、こんな結果けつくわやうとは、まるかなかつたのだから猶更なほさら當惑たうわくした。仕方しかたがないからるべく食事中しよくじちゆうはなしをして、めて手持無沙汰てもちぶさた隙間すきまだけでもおぎなはうとつとめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
諫説かんぜいしてきみかほをかすにいたつては、所謂いはゆるすすみてはちうつくすをおもひ、退しりぞいてはあやまちおぎなふをおもものなるかな(七三)假令もし晏子あんしにしてらば、これめにむちるといへど忻慕きんぼするところなり。
広く世界各国の都市と其の河流かりう及び江湾の審美的関係より、さらに進んで運河沼沢せうたく噴水橋梁けうりやうとう細節さいせつわたつてこれを説き、なほ其のらざる処をおぎなはんが為めに水流に映ずる市街燈火の美を論じてゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まへにいへるがごとく、雪ふらんとするをはかり、雪にそんぜられぬため屋上やね修造しゆざうくはへ、うつばりはしらひさし(家の前の屋翼ひさし里言りげんにらうかといふ、すなはち廊架らうかなり)其外すべて居室きよしつかゝる所ちからよわきはこれをおぎなふ。
成政は、その精力的な体を、両肱りょうひじに誇張して、頭の粗雑を舌でおぎなってゆくような雄弁で、日頃の抱懐ほうかいを、呶々どどと、云いまくした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汝いかでかこゝに來れる、我は汝を下なる麓、時の時をおぎなふところに今も見るならんとおもへるなりき。 八二—八四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
こんな偉大な事業を完うする爲めに、こんな弱いものをお選びになつた神は、その攝理せつりの限りない藏から、最後まで我々の手段の不備をおぎなつて下さるでせう。
戦争で、とうとい兵士は死ぬ、国力は減る、それをおぎなうのは赤ん坊の誕生だ、笑い事ではない。先生の家には留守番がないのだ。ちょっといってくる、静粛せいしゅくにしているんだぞ。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
食祿の少ない武家が、内職でそれをおぎなふのは公然の秘密で、女は手内職から賃仕事、男は釣、細工物、中には稽古事から、芝居の下座で、三味線まで彈いたと言はれて居ります。
川上の上は一面に銀灰色ぎんかいしょくもやで閉じられて、その中から幅の広い水の流れがややにごってせ下っていた。堤のくずれに板の段をおぎなって、そこから桃畑に下りられるようになっている。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
また汝の今見る水は、みなぎるゝ河のごとくに、冷えて凝れる水氣のおぎなふ脈より流れいづるにあらず 一二一—一二三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
使いの者は、秀吉の前に出て、いかに毛利勢が、その強大な国力を傾けて来たかを——ことばをもっておぎなった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親類に夫の折合おりあしき部分をおぎなうべし。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それを以てこの「三国志」の完結の不備をおぎない、また全篇の骨胎こったいをいささかでもまったきに近いものとしておくことは訳者の任でもあり良心でもあろうかと思われる。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、幾多の実証や文献を伴って、史伝としておぎなうに、何のあぶなげもなく語りうる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
意志の不足へ意志をおぎなったのである。玄徳は急に起って
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)