ふた)” の例文
米「湯灌は大体たいてい家柄のうちではうちでするが、殊によるとお香剃こうぞりの時ふたを取ると剃刀かみそりを当てる時何うかすると顔を見ます事がござります」
すると、この石鹸に面白いところは、塩水に溶解するから奇体ですよとの追加があったので、急に貰って行く気になってふたをした。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しな硬着かうちやくした身體からだげて立膝たてひざにして棺桶くわんをけれられた。くびふたさはるのでほねくぢけるまでおさへつけられてすくみがけられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
はまぐりの如き貝殼かいがらは自然に皿形さらがたを成し、且つ相對あひたいする者二枚を合する時ふたと身との部さへそなはるが故に物をたくふる器とするにてきしたり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
そのうえふたは取りっ放し積もったちりほこりの具合で、これはどうでも一年前に誰か盗んだに違いないとこう目星を付けたものさ。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ぱたんと画具箱えのぐばこふたをして、細君は立ち上った。鶴子をう可く、しゃがんでうしろにまわす手先に、ものがやりとする。最早露が下りて居るのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
土瓶のふたの形、つまみの形——さうして、大いにさうして、耳につるをつけて、完成した土瓶の形は安定してゐるか。
やきもの読本 (旧字旧仮名) / 小野賢一郎(著)
どのビンせんなしには置かないし、開いたガラス瓶には必ず紙のふたをして置く。くずも床の上に散して置かないし、悪い臭いも出来るだけ散らさぬようにする。
するとふたは苦もなく開いた。李夫は葢をする時に、既に釘をそこここはぶいてあったのであった。
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
母は一寸ふたをあけてみて、黙つて、涙ぐんだままたもとへ入れた。姉は、義兄や、母や、兄や、前田の姉や、花子や、雪子や、私などに枕許まくらもとをとり囲まれて、眠るやうに死んだ。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
仕懸し始末を申立て御吟味ごぎんみを願ふべしと云ふに五兵衞は甚だ赤面せきめんなし夫れは如何にも迷惑めいわく仕つるにより其處そこはどうかと申すを半四郎は否々いや/\そこふたいらぬ彼是云るゝなら御吟味を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふたを開けた様に戸が明いて居て、爾して、其の所から高輪田長三が顔を出して居るのです、私は何うして此の戸を脱け出そうかと苦心して居る時ゆえ此の様を見て嬉しく思いました
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
僕はふと思ひだした、小脇のポートフォリオの中から、ゆふべ友人の細君が「道中で召上れ」といつてれたハルビンのチョコレートの小函こばこを出し、ふたを払つてうやうやしく夫人にすすめた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
それから黒い手提鞄を椅子の横に置いて、パッと拡げると、その中にゴチャゴチャに投げ込んであった理髪用のはさみや、ブラシをふたの上につまみ出しながら、私を見てヒョッコリとお辞儀をした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
魚市場に上荷げてあつたふたもない黒砂糖の桶に腰をかけて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
硝子がらすふたうしろには、白鑞しろめおもて飾なく
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
みんなのくれた玩具おもちゃも足や頭の所へ押し込んだ。最後に南無阿弥陀仏の短冊たんざくを雪のように振りかけた上へふたをして、白綸子しろりんずおいをした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かまどにはちひさななべかゝつてる。しるふたたゞよはすやうにしてぐら/\と煮立にたつてる。そともいつかとつぷりくらくなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ちら/\灯火あかりが差しますから山三郎はいぶかしく思い、棺の中からあかりのさす道理はなし、何んでも怪しいと考え、棺桶のふたを力にまかせて取りますと、此の棺の中に何物がおりますか
見てうたがはらせと言ながらと立上り床の間に飾置かざりおきたる破果やれはて具足櫃ぐそくびつふたかい遣り除けそこさぐつて一包のかね取出とりいだ二個ふたりに示し爰に百兩あるからは必ず心配しんぱい無用なりと浪人しても流石は武士ものゝふ用意の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それからポンとふたをあけた。絵絹が巻かれてはいっている。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一個の土瓶のふただけ見ても興味が湧くのである。
やきもの読本 (旧字旧仮名) / 小野賢一郎(著)
硝子がらすふたうしろには、白鑞しろめおもて飾なく
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
彼は果物籃くだものかごふたの間へ、「御病気はいかがですか。これは吉川の奥さんからのお見舞です」と書いた名刺をし込んだあとで、下女を呼んだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
らそれ仕入しいれたつきりおきられねえんだよ」おしなまくらうごかしていつた。勘次かんじまたふたをした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あれを切んなよ、チョッ不精な奴だな、おりふたの上で切れるもんか、爼板まないたを持って来なくっちゃアいかねえ、厚く切んなよ、薄っぺらに切ると旨くねえから、おれが持って来いてったら直に持って来な
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
膝の上の行李を取り上げるとポンとふたを取ったものだ。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼等をもって、単に金銭を得るがゆえに、その義務に忠実なるのみと解釈すれば、まことに器械的で、ふたもない話である。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伊「生憎あいにく誰も居りませんで……師匠菓子器のふたを明けとくと砂が這入っていけないから……あなた何うぞ此方へ、これはお初にお目に懸ります、わたくしは紀伊國屋伊之助と申しまする至って不調法もので」
妹がもし見ないと云ったら、二人で棺のふたをもう一遍開けようと思ったのである。「御止しなさいよ、こわいから」と云って百代は首をふった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の車室内へ運んでくれた果物くだものかごもあった。そのふたを開けて、二人の伴侶つれに夫人の贈物をわかとうかという意志も働いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うちへ着いて遺骨を仏壇の前に置いた時、すぐ寄って来た小供が、ふたを開けて見せてくれというのを彼女は断然拒絶した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その叔母はついと立って戸棚の中にある支那鞄しなかばんふたを開けて、手に持った畳紙をその中にしまった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火鉢ひばちにはちひさななべけてあつて、そのふた隙間すきまから湯氣ゆげつてゐた。火鉢ひばちわきにはかれつねすわところに、何時いつもの坐蒲團ざぶとんいて、其前そのまへにちやんと膳立ぜんだてがしてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
空は茶壺ちゃつぼふたのように暗く封じられている。そのどこからか、隙間すきまなく雨が落ちる。立っていると、ざあっと云う音がする。これは身に着けた笠と蓑にあたる音である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけ銀金具ぎんかなぐいたつくゑ抽出ひきだしけてしきりなかしらしたが、べつなに見付みつさないうちに、はたりとめて仕舞しまつた。それから硯箱すゞりばこふたつて、手紙てがみはじめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
火鉢ひばちには小さななべが掛けてあって、そのふた隙間すきまから湯気が立っていた。火鉢のわきには彼の常に坐る所に、いつもの座蒲団ざぶとんを敷いて、その前にちゃんと膳立ぜんだてがしてあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして箱のふたをはずして、文鳥を出した。文鳥は箱から出ながら千代千代と二声鳴いた。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助は銀金具ぎんかなぐの付いた机の抽出ひきだしを開けてしきりに中をしらべ出したが、別に何も見つけ出さないうちに、はたりとあきらめてしまった。それから硯箱すずりばこふたを取って、手紙を書き始めた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
井深は一箇月ほど前に十五銭で鉄瓶てつびんふただけを買って文鎮にした。この間の日曜には二十五銭で鉄のつばを買って、これまた文鎮ぶんちんにした。今日はもう少し大きい物を目懸めがけている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今にやろう、今にやろうと考えているうちに、とうとう八時過になった。仕方がないから顔を洗うついでをもって、冷たい縁を素足すあしで踏みながら、箱のふたを取って鳥籠を明海あかるみへ出した。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うん、面白おもしろいものがつたつけ」とひながら、たもとからつて護謨風船ゴムふうせん達磨だるまして、おほきくふくらませてせた。さうして、それをわんふたうへせて、その特色とくしよく説明せつめいしてかせた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「うん、面白いものが有ったっけ」と云いながら、たもとから買って来た護謨風船ゴムふうせん達磨だるまを出して、大きくふくらませて見せた。そうして、それをわんふたの上へせて、その特色を説明して聞かせた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)