山家やまが)” の例文
彼は明らかにここらの山家やまがに生まれた者ではなく、ここらに育った者でもなく、町に住んでいる人びとと同じような服装をしていた。
山家やまがあたりにむものが、邸中やしきぢう座敷ざしきまでおほききのこいくつともなくたゝるのにこうじて、大峰おほみね葛城かつらぎわたつた知音ちいん山伏やまぶしたのんでると
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だが、山家やまがらしい質素な食事に二人で相変らず口数すくなく向った後、私達が再び暖炉の前に帰っていってから大ぶ立ってからだった。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そう言って呼んでくる声を聞くようになりますと、さすがに山家やまがもいい陽気に向かいます。越後路えちごじからの女のわかめ売りの声です。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ガラリピシャ用はねえかなんてえ山家やまがの者で面白おもしれえが、彼女あれア旦那何処へもき処がないので、可愛相で、彼女はちょいと様子が
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
山の畑の段々道、山裾を切り拓いた赤土の道、柿や蒟蒻芋こんにゃくいもを軒に吊した淋しい百姓がちらほらと、冬枯れの山家やまがは、荒涼としています。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
山家やまが育ちの田舎侍などの眼に、それがまことの女らしく見えたのは当然であるとしても、七郎左衛門までが欺かれるはずはない。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山家やまがの女はなお婆となにかいい交わしている間に、牝牛の腹の下にかがみ込んで、抱えていた酒壺の中へ白い液を懸命にしぼり取っていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪い方の部の者は折々出て来てもなかなか怖がって、余注意してどうかするとそうそう自分の山家やまがへ逃げて帰るというような者が多い。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
幾代となく住み古した山家やまがの風趣とでもいおうか、じっと見ているといつか心が澄みとおって、遙かに渓流の音さえ聞えてくるように思える。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
のぶる口上に樸厚すなおなる山家やまが育ちのたのもしき所見えて室香むろか嬉敷うれしく、重きかしらをあげてよき程に挨拶あいさつすれば、女心のやわらかなるなさけふかく。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
西行さいぎょうも同じであり、或る充たされない人生の孤独感から、常に蕭条しょうじょうとした山家やまがをさまよい、何物かのイデヤを追い求めた。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
海もあれば山家やまがの奥在所もあり、旧藩の所領も幾つかに分れていたという大きな一県において、全県共同にこの問題を考えてみるということが
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
○さてかの茶店さてんにて雪の氷をめづらしとおもひしに、その次日より塩沢しほざは牧之ぼくし老人が家にありしに、日毎に氷々こほり/\とよびて売来る、山家やまが老婆らうばなどなり。
こんな山家やまがのことで、気の利いた女中はいないし、ああして殿方が女気なしの旅をしておいでなさるのは、何かにつけて御不自由でいらっしゃるし
山家やまがの句であろう。冬が近くなったので、炭を焼くべく炭竈を塗り、もう何時いつ冬が来ても差支ない用意がととのった。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
さびしい修道者しゆどうしや仲間なかますくな山家やまがくらしのうちにも、なにまうけるこゝろがあつて、たのしみになつてゐるものです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
かへつとく吉兵衞は宿やどりし山家やまがの樣子何かに付てうたがはしき事のみなればまくらには就けどもやらず越方こしかた行末ゆくすゑのことを案じながらも先刻せんこく主人あるじの言葉に奧の一間を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
山家やまがでは家近かにこれを見る事が普通である処が往々あって、特に紫色の美花を開くので人をしてこれを認め易からしめまた覚え易からしむるのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
むかし越後国えちごのくにまつ山家やまが片田舎かたいなかに、おとうさんとおかあさんとむすめと、おやこ三にんんでいるうちがありました。
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
七月朔日ついたち四更に発す。冷水ひやみづ峠を越るに風雨甚し。轎中唯脚夫のつゑを石道に鳴すを聞のみ。夜明て雨やむ。顧望こばうするに木曾の碓冰うすひにも劣らぬ山形なり。六里山家やまが駅。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さむらいたちは、山家やまがに押し入って金目のものを、手あたり次第に略奪する。——これを御奉納と称して。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
山家やまがの夏は早く過ぎて、その朝などはもう冷々とした秋の気が感じられた。都へ帰らなくてはならない。この陰鬱な山や森や段畑や鉄道線路とも又しばらくお別れだ。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
マンションともいえるような宏壮な洋館をしめ、伊那の奥から引いてきたまさ葺の山家やまがにひきこもり、メンバという木の割籠わりごからかき餅をだし、それを下物さかなにして酒を飲みながら
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ただ二つ三つ覚えていることを云えば、当時あの辺はまだ電燈が来ていないで、大きなを囲みながらランプの下で家族達と話をしたのが、いかにも山家やまがらしかったこと。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのあわただしく翅をはためかすのを面白く眺めてると伯母さんは後ろから肩ごしに顔をだして 黒い蝶蝶は山家やまがのおぢいで、白いのや黄いろいのはみんなお姫様だ といふ。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
大浪おおなみ、いかずち、白滝、青鮫あおざめなど、いずれも一癖ありげな名前をつけて、里の牛飼、山家やまが柴男しばおとこ、または上方かみがたから落ちて来た本職の角力取りなど、四十八手しじゅうはってに皮をすりむき骨を砕き
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かけひの水音を枕に聞く山家やまがの住居。山雨常に来るかと疑う渓声けいせいうち。平時は汪々おうおうとして声なく音なく、一たび怒る時万雷の崩るゝ如き大河のほとり。裏にを飼い門に舟をつなぐ江湖の住居。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これでは、ぼうしの徽章きしょうを見なくても、山家やまがから出てきたことがわかるでしょう。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
でかんしょ、でかんしょと、山家やまがの猿は、ヨイヨイ。花のお江戸で芝居する。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「公方さまとて、同じ人間——女の魂までも、自由になさることは出来ませぬ。いつぞやもこのわたしは、そなたと一緒にめようなら、どのような山家やまがをも、いといはせぬというたはずじゃ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
よひとおもふにはや更けそめし山家やまがなるこのともしびに死ぬる虫あり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
成程、山家やまがの爺さんらしいのが起き上って埃を叩いていた。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「でもいいことよ、却って静かでいいわ、山家やまが住居で……」
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
風の日は雪の山家やまがも住みくて
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
山家やまがそだちの五郎助が
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
山家やまが子等こらげんあれど
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
とちょっと低声こごえに呼んだ——つまはずれ、帯のさま、肩の様子、山家やまがの人でないばかりか、髪のかざりの当世さ、鬢の香さえも新しい。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云っている所へ雑木山から出て来たのは、そのそまの女房と見えて、歳ごろは二十七八で色白く鼻筋通り、山家やまがには稀な女でございます。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お客人は、いったい何を求めて、こんや山家やまがへお越しでござったか。ここはいわゆる——山中長物なし、ただとりあるのみ——ですが」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの山家やまが育ちの小学生も生まれて初めて東京魚河岸うおがしの鮮魚を味わい、これがオサシミだとお粂に言われた時は目をまるくして
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「雨が続きましたら、もう一日御逗留なさいませ、ごらんの通りの山家やまが、お構い申し上げることはできませんけれど」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
○さてかの茶店さてんにて雪の氷をめづらしとおもひしに、その次日より塩沢しほざは牧之ぼくし老人が家にありしに、日毎に氷々こほり/\とよびて売来る、山家やまが老婆らうばなどなり。
人は生れ変って来るというから、もしかすると、自分はまえの世で山家やまがにいたのではないか、それでこんな感じになるのではないか、などと宇乃は思った。
河原づたひに夜ゆけば、芒にまじる蘆の根に、水の聲、蟲の聲、山家やまがの秋はまた一としほの風情ぢやなう。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
山家やまが御馳走ごちそう何処いずくも豆腐湯波ゆば干鮭からざけばかりなるが今宵こよいはあなたが態々わざわざ茶の間に御出掛おでかけにて開化の若い方には珍らしくこの兀爺はげじいの話を冒頭あたまからつぶさずに御聞おききなさるが快ければ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その遠山とほやまばた——このはたは、やまそばといふことでなく、やはり、やまはたけでせう——そのあきくもが、えずかゝつてゐるはずの、とほ山家やまがはたけのあるところが、あきるといふと
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
早く細君に死なれて、いまは年頃の娘さんと二人だけの家庭の様子で、その娘さんも一緒に東京からこの健康道場ちかくの山家やまが疎開そかいして来ていて、時々このさびしき父を見舞いに来る。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これでは帽子の徽章を見なくても、山家やまがから出て来たことはわかるでせう。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
寂しさに堪へて眺むる白雪のほのぼのとして山家やまがなりけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)