小流こながれ)” の例文
おぼろの清水と云うんですか、草がくれで気が着かなかった、……むしろそれより、この貴婦人に神通があって、露を集めた小流こながれらしい。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるに初雪しよせつのち十月のころまでにこの二条ふたすぢ小流こながれ雪のため降埋ふりうめられ、流水は雪の下にあり、ゆゑ家毎いへごとくむべきほどに雪を穿うがち水用すゐようを弁ず。
八重申しけるはわが身かつて伊香保いかほに遊びし頃谷間の小流こながれみ取りて山道のかわきをいやせしゆえはからず痢病りびょうに襲はれて命もあやうき目にひたる事あり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
やうや雪解ゆきどけがすんだばかりなので、ところどころでちよろ/\小流こながれが出来てゐた。掘返へしても掘返へしても、かなり下の方まで土がぢく/\ぬれれてゐた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
そして病人に手拭てぬぐひできつく頬冠ほゝかむりをさせて裏口まで連れ出した。背戸せどには小流こながれ可笑をかしさにたまらぬやうに笑ひ声をたてて走つてゐた。医者は病人をそのふちに立たせてかういつた。
(かくて、小流こながれに添いつつく。石がきにサフランの花を見つつ心付く)あらこいが、おおきな鯉が、——(小流をのぞく)まあ、死んでるんだよ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例えば牛込弁天町辺うしごめべんてんちょうへんは道路取りひろげのため近頃全く面目をことにしたが、その裏通うらどおりなる小流こながれに今なおその名を残す根来橋ねごろばしという名前なぞから、これを江戸切図に引合せて
燐寸マッチの燃えさしは路傍の小流こながれに落したが、さらさらと行く水の中へ、ツと音がして消えるのが耳についたほど四辺はしずかで。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしはむかし北廓を取巻いていた鉄漿溝おはぐろどぶより一層不潔に見える此溝も、寺島町がまだ田園であった頃には、水草みずくさの花に蜻蛉とんぼのとまっていたような清い小流こながれであったのであろうと
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこンとこは梅林で、上の山が桜の名所で、その下に桃谷というのがあって、谷間たにあい小流こながれには、菖蒲あやめ燕子花かきつばたが一杯咲く。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今は河岸かしの様子も変り小流こながれも埋立てられてしまったので元柳橋の跡も尋ねにくい。
ゆるい、はけ水の小流こながれの、一段ちょろちょろと落口を差覗いて、その翁の、また一息やすろうた杖に寄って、私は言った。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
既ち小石川柳町こいしかはやなぎちやう小流こながれの如き、本郷ほんがうなる本妙寺坂下ほんめうじさかした溝川みぞかはの如き、団子坂下だんござかしたから根津ねづに通ずる藍染川あゐそめがはの如き、かゝる溝川みぞかはながるゝ裏町は大雨たいうの降るをりと云へばかなら雨潦うれうの氾濫に災害をかうむる処である。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
片原の町から寺へ来る途中、田畝畷たんぼなわての道端に、お中食処ちゅうじきどころの看板が、屋根、ひさしぐるみ、朽倒れにつぶれていて、清い小流こながれの前に、思いがけない緋牡丹ひぼたん
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
即ち小石川柳町こいしかわやなぎちょう小流こながれの如き、本郷ほんごうなる本妙寺坂下ほんみょうじざかしたの溝川の如き、団子坂下だんござかしたから根津ねづに通ずる藍染川あいそめがわの如き、かかる溝川流るる裏町は大雨たいうの降る折といえば必ず雨潦うりょうの氾濫に災害をこうむる処である。
小豆あずきあらひと云ふ変化へんげを想はせる。……夜中に洗濯の音を立てるのは、小流こながれに浸つた、案山子かかし同様の其の娘だ。……
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこンとこ梅林ばいりんうへやまさくら名所めいしよで、そのした桃谷もゝたにといふのがあつて、谷間たにあひ小流こながれには、菖浦あやめ燕子花かきつばた一杯いつぱいく。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
天晴あっぱれ夕雲のくれないに彩られつと見えたのは、塀にあふるるむらもみじ、垣根をめぐ小流こながれにも金襴きんらん颯とみなぎったので。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
畑の裾は、町裏の、ごみごみした町家まちや、農家が入乱れて、樹立こだちがくれに、小流こながれを包んで、ずっと遠く続いたのは、山中みちで、そこは雲の加減で、陽が薄赤くさっす。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一方が小山のすそ、左が小流こながれを間にして、田畑になる、橋向うへ廻ると、山の裙は山の裙、田畑は田畑それなりの道続きが、大畝おおうねりして向うに小さな土橋の見えるあたりから
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……ぢきその飛石とびいしわたつた小流こながれから、おまへさん、苫船とまぶね屋根船やねぶね炬燵こたつれて、うつくしいのと差向さしむかひで、湯豆府ゆどうふみながら、うたいで、あの川裾かはすそから、玄武洞げんぶどう對居山つゐやままで
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
両方でを寄せるうちに、松の根を草がくれの、並木下の小流こながれから刎出はねだしたものではない。昼間、竜巻の時、魚が降った、あの中の一ぴきで、河北潟から巻落されたに違いない。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
床几しょうぎの前には冷たそうな小流こながれがあったから手桶ておけの水をもうとしてちょいと気がついた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外套がいとうの袖を引く、こもれる力に、画家を小流こながれふちに引戻す)ちょっと御覧なさいまし。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
床几しやうぎまへにはつめたさうな小流こながれがあつたから手桶てをけみづまうとして一寸ちよいとがついた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
山清水の小流こながれのへりについてあとを慕いながら、いい程合で、透かして見ると、坂も大分急になった石磈道いしころみちで、誰がどっちのを解いたか、扱帯しごきをな、一条ひとすじ湯女ゆなの手からうしろに取って
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一方、杉の生垣を長く、下、石垣にして、その根を小流こながれ走る。石垣にサフランの花咲き、雑草生ゆ。垣の内、新緑にして柳一本ひともと、道をのぞきて枝垂しだる。背景勝手に、紫の木蓮もくれんあるもよし。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い、しずかな、曇った日に、山吹も色が浅い、小流こながれに、苔蒸こけむした石の橋がかかって、その奥に大きくはありませんが深く神寂かんさびたやしろがあって、大木の杉がすらすらと杉なりに並んでいます。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しろい、しづかな、くもつたに、山吹やまぶきいろあさい、小流こながれに、苔蒸こけむしたいしはしかゝつて、おくおほきくはありませんがふか神寂かんさびたやしろがあつて、大木たいぼくすぎがすら/\とすぎなりにならんでます。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
貧しい場末の町端まちはずれから、山裾やますその浅い谿たにに、小流こながれ畝々うねうねと、次第だかに、何ヶ寺も皆日蓮宗の寺が続いて、天満宮、清正公せいしょうこう、弁財天、鬼子母神きしぼじん、七面大明神、妙見宮みょうけんぐう、寺々に祭った神仏を
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つまが幻のもみじする、小流こながれを横に、その一条ひとすじの水を隔てて、今夜は分けて線香の香のぷんと立つ、十三地蔵の塚の前には外套がいとうにくるまって、中折帽なかおれぼう目深まぶかく、欣七郎がステッキをついてたたずんだ。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
町を流るゝ大川おおかわの、しも小橋こばしを、もつと此処ここは下流に成る。やがてかたへ落ちる川口かわぐちで、の田つゞきの小流こながれとのあいだには、一寸ちょっと高くきずいた塘堤どてがあるが、初夜しょや過ぎて町は遠し、村もしずまつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まずし、と早速訪ねて参りましたが、町はずれの侍町、小流こながれがあって板塀続きの、邸ごとに、むかし植えた紅梅が沢山あります。まだその古樹ふるきがちらほら残って、真盛まっさかりの、朧月夜おぼろづきよの事でした。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、なぞへに蘆の上から、下のその小流こながれを見て、一同に立留たちどまつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山沿やまぞいの根笹に小流こながれが走る。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)