ばあ)” の例文
じいさん、ばあさんがあった、その媼さんが、刎橋はねばしを渡り、露地を抜けて、食べものを運ぶ例で、門へは一廻り面倒だと、裏の垣根から
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男は二十四五の、草臥くたびれたやうな顔、女は六十ばかりの皺くちやなばあさんで、談話はなしの模様でみると、親子といふやうな調子があつた。
「おまえの家の爺さんやばあさんが、どうして人間に禍をくだすことができるものかい、男が何のために蛙なんかこわがるのだ」
青蛙神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
講の連中はたいていひと年入れた者か、隠居役の爺さんばあさんの楽しみ事であるのであったが、かやは重吉をむりにすすめて自分は行かなかった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
そればかりか、春先や秋口になると、田舎の爺さまばあさま連中が丸ビル見物にくる。まずエレベーターの前に立って
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ある日、まゆのあとの青いおかみさんが女の子を連れて来て、祖母にボソボソ言っていたが、またあとから白髪しらがきいろいのを振りこぼしたおばあさんが来た。
翌朝になって孟は、隣のばあさんを頼んではん夫人の所へいってもらった。范夫人は孟が貧乏人であるから、むすめにはからないでそのままことわってしまった。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
田舎のおばあさんが何の技巧も用ゐずに唯丈夫にしやうと織り出した反物が、却て貴族方の美的模範となるのは不思議の様であるが、実は自然の勝利であります。
農民自治の理論と実際 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
ばあさんは、今日けふもうれしさうにはたけ見廻みまはして甘味うまさうにじゆくしたおほきいやつを一つ、庖丁ほうてうでちよんり、さて、さも大事だいじさうにそれをかゝえてかえつてきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
死ぬまで大きな声で話したりして、見舞に往った天理教信者のおかずばあさんを驚かしたものです。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この様なことにつけて、このお爺さんが本当の祖父でないことをかやも知って居たのである。そればかりでなく、かやの家には今一人、これと同じ種類のおばあさんが居たのである。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「むかしむかしあるところにお爺さんとおばあさんとがありました」かな。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
かねて定めてあるばあさんなり、役人なり、或いは医者なりに向って申し出ると、それらの人が、かねて選定してある石女、あるいは、すでに妊娠中の女を提供してその満足に供する——それから
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まあいつの間にこんな田舎のおばあさんになってしまったんだろう。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
俥を下りたのは六十近くの品のいいばあさんで、車夫に銭を払って店へ入ると、為さんに、「あの、私はお仙のおふくろでございますが、こちらのお上さんに少しお目にかかりたくてまいりましたので……」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
なかに、一人ひとり、でつぷりとふとつた、にくづきのい、西洋人せいやうじんのおばあさんの、くろふく裾長すそながるのがました。何處どこ宗教しうけう學校がくかうらしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
摂津の蘆屋あしや老人としより夫婦者めをとものが住むでゐる。神戸に居る息子の仕送りで気楽に日を送つてゐるが、先日こなひだからふとした病気でばあさんが床に就いた。
その他にも爺さんとばあさんが小さな小児を手離すのを承知しないかもわからないというようなことを言う者もあって、終日その相談がまとまらなかった。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主人になった息子とおばあさんだけで、そのお媼さんが、骨だった顔の、ボクンとくぼんだ眼玉がギョロリとしていて、肋骨あばらぼねの立った胸を出して、大肌おおはだぬぎで
孟は隣のばあさんから范家の返事を聞いて、憤り恨んで気絶しそうになったが、思いきることができないので、もう一度よりをもどしたいと思って女の容子ようすを探っていると
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
太鼓たいこしょう篳篥ひちりきこと琵琶びわなんぞを擁したり、あるいは何ものをも持たぬ手をひざに組んだ白衣びゃくいの男女が、両辺に居流れて居る。其白衣の女の中には、おかずばあさんも見えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「しっかりせえ姉やん、六十ばあさんのように」
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
「私はまた不思議な物でも通るかと思つて悚然ぞっとした、おばあさん、此様こんところに一人で居て、昼間だつておそろしくはないのですか。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
皆は茶店のばあさんの手から、渋茶を受取つて咽喉のどを潤した。そしていゝ気になつて長髄彦ながすねひこ楠木正成くすのきまさしげの話をした。
激しいコレラの流行はやった最終だというが、利久はおばあさんがコレラで死ぬとすぐに倒産つぶれた。万さんという息子は日雇人夫ひようとりになったが、そののち、角の荒物屋へ酔って来ていた。
然し武太さんの同情者が乏しい様に、久さんのおかみもあまり同情者を有たなかった。唯村の天理教信者のおかずばあさんばかりは、久さんのおかみを済度さいどす可く彼女に近しくした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しゅくという男があって庚兄庚弟と呼びあっている同年の男の所へ出かけて往ったが、途中で喉が渇いたので何か飲みたいと思って、ふと見ると道傍みちばたへ板の台を構えて一人のばあさんが茶の接待をしていた。
水莽草 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
がかりなくもは、くろかげで、晴天せいてんにむら/\といたとおもふと、颶風はやてだ。貴女あなた。……だれもおばあさんの御馬前ごばぜん討死うちじにする約束やくそくかねいらしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見ると、茶店の縁端えんばたには、誰にいだともないお茶が一つ置いてあつた。咽喉のどの渇いてゐた伝右衛門がそれを飲まうとすると、茶店のばあさんは慌てて止めた。
尋常代用小学校といっても小さく書いてあるだけで、源泉学校だけの方が通りがよかった。おも珠算しゅざんと習字と読本だけ、御新造ごしんぞさんも手伝えば、おばあさんもお手助けをしていた。
祝はばあさんが三娘と言って少女を呼んだことを思いだした。
水莽草 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
老母ばあさん一人の男やもめ——そのおばあさんが丹精の継はぎの膝掛をねて、お出迎え、という隙もありゃしますまい。
ドリユウといふ八十二の爺さんとミユアといふ七十六のばあさんとが、りずまに結婚したことがあつた。
これおもふと……いしげた狂人きちがひふのも、女學生ぢよがくせいれたくろばあさんの行列ぎやうれつも、けもののやうに、とりのやうに、つた、けたとうちに、それみな
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
戸はなかからけられて、襤褸ぼろきれのやうな皺くちやなばあさんが、闇のなかからうつそり顔を出した。
「こいつを聞きたいばっかりに、おれは五十年苦しんだ。ばあさん、おごれ、うんと馳走してくれ。皆一所に飲もう。」後日
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老病で死にかゝつた時、枕もとにばあさんを呼んで言つた。
(まあ、……そうでございますか。——おばあさんにお土産は、明朝みょうあさ、こちらから。……前に悪い川があります、河太郎かわおそが出ますから気をつけてね。)
一体その娘の家は、母娘おやこ二人、どっちの乳母か、ばあさんが一人、と母子おやこだけのしもた屋で、しかし立派な住居すまいでした。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ばあやゆっくり拝みねえッて、つかみかかった坊主を一人引捻ひんねじってめらせたのに、片膝を着いて、差つけて見せてやった。どうしてたまったもんじゃあねえ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あゝ、私も雨には弱りました、じと/\其処等中そこらじゅう染込しみこんで、この気味の悪さと云つたらない、おばあさん。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ばあさんは、七輪しちりん焚落たきおとしを持っていらっしゃる、こちらへと、使者を火鉢に坐らせて、近常さんが向直って
あとで——息の返りましたのは、一軒家であめを売ります、おばあさんと、お爺さんの炉端でした。裏背戸口へ、どさりと音がしたきりだった、という事です。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いまとほつてた。あの土間どまところこしけてな、草鞋わらぢ一飯したくをしたものよ。爐端ろばた挨拶あいさつをした、面長おもながばあさんをたか。……時分じぶんは、島田髷しまだまげなやませたぜ。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其の癖、此方こっちはおばあさん、お前さんの姿を見てから、かえつてと自分の意見が違つて来て、成程なるほどこれぢや怪しいことのないとも限らぬか、と考へてる位なんだ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……ここから門のすぐ向うの茄子畠なすばたけを見ていたら、影法師のような小さなおばあさんが、杖にすがってどこからか出て来て、畑の真中まんなかへぼんやり立って、その杖で
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……石段下のそこの小店のおばあさんの話ですが、山王様の奥が深い森で、その奥に桔梗ヶ原ききょうがはらという、原の中に、桔梗の池というのがあって、その池に、お一方ひとり
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半纏はんてん股引ももひき腹掛はらがけどぶから引揚げたようなのを、ぐにゃぐにゃとよじッつ、巻いつ、洋燈ランプもやっと三分さんぶしん黒燻くろくすぶりの影に、よぼよぼしたばあさんが、頭からやがてひざの上まで
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
脊の低い影のごときばあさんが、ちょうど通りかかった時、生欠伸なまあくびを一つして、「おお寒、寒、寒やの。……ありがとうござります。なまいだなまいだ。」とつぶやくのを聞いた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一、順と見えて、六十を越えたろう、白髪しらがのおばあさんが下足げたを預るのに、二人分に、洋杖ステッキと蝙蝠傘を添えて、これが無料で、蝦蟇口がまぐちひねった一樹の心づけに、手も触れない。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)