がき)” の例文
がきの一草庵と思いきや、粗末な荒土ながら土塀がひろくめぐらしてある。近づけば、燈火も点々、三つ四つは奥のほうに見える。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中庭のがきのばらにからみ、それからさらにつるを延ばして手近なさんごの木を侵略し、いつのまにかとうとう樹冠の全部を占領した。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
へえ、これは、その、いえまえとおりますと、まきがきにこれがかけてしてありました。るとこの、しりあながあいていたのです。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
すると向うからお嬢さんが一人ひとりがきに沿うて歩いて来た。白地のかすりに赤い帯をしめた、可也かなりせいの高いお嬢さんだつた。
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やまざくらのように緑色みどりいろ若葉わかばをもつもの、がきおほいかなめもちのように紅色べにいろのうつくしい若芽わかめをもつものもあり
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
そのつぎにはがきがあって二つの土蔵があって、がちょうの叫び声がきこえる、それはこの町の医者の家である。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
月影つきかげは、夕顏ゆふがほのをかしくすがれるがき一重ひとへへだてたる裏山うらやま雜木ざふきなかよりさして、浴衣ゆかたそで照添てりそふも風情ふぜいなり。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かれは、ともかく、この、えびをゆうちゃんにせようとおもって、またかみつつんで、がきあいだかくしました。
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
隱元豆いんげんまめつるなどをたけのあらがきからませたるがおりき所縁しよゑんげん七がいへなり、女房にようぼうはおはつといひて二十八か九にもなるべし、ひんにやつれたれば七つもとしおほえて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夜の九時頃、寺の者が大概寝静まって了うとウヰスキーの角壜かくびんあおって酔いを買った後、勝手に縁側の雨戸を引き外し、墓地のがきを乗り越えて散歩に出かけた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何故かと云へば、卒塔婆そとばがきの横を通つてその入口に達すると「あづまアバート」と書いた木札がかかつてゐて、ちやんと、アパートではないとことわつてゐる。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「少将の歌われた『葦垣あしがき』の歌詞を聞きましたか。ひどい人だ。『河口かはぐちの』(河口の関のあらがきや守れどもいでてわが寝ぬや忍び忍びに)と私は返しにうたいたかった」
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
このとき、黒い背広の男が、いけがきの向うからひょっと座敷をのぞいた。刑事だと俺は直感して
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
その丘と庭の境には丸竹まるたけすかがきをして、それに三条みすじのとげをこしらえた針金を引いてあった。
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
仕立屋さんはつなをとって、ヤギを青あおとしたがきのところや、〈ヒツジのあばら〉という草や、そのほかヤギのすきなもののはえているところへ、つれていってやりました。
五月十一日 日曜 くもり 午前は母や祖母そぼといっしょに田打たうちをした。午后ごごはうちのひばがきをはさんだ。何だか修学旅行しゅうがくりょこうの話が出てから家中へんになってしまった。僕はもう行かなくてもいい。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこは朝顔の絡まった四つ目がきで、その垣の向うにあなたが立っていた。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蝦蟆を打ち殺すと仰向あおむきにかえる。それを名目読みにかいると云う。透垣すきがきをすいがき茎立くきたちをくく立、皆同じ事だ。杉原すいはらをすぎ原などと云うのは田舎いなかものの言葉さ。少し気を付けないと人に笑われる
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『さうですな、建仁寺がきは、正直の処三年位しか持ちませんな』
晩秋の頃 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
おたがい、若い頃の、がき、夕顔棚の貧乏暮しのときから、ふんどし一ツで、肝胆かんたんのかたらいもし、出ては、莫迦ばかもしあい、ときには喧嘩もし
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庭と中庭との隔てのがきがことしの夏は妙にさびしいようだと思って気がついて見ると、例年まっ黒く茂ってあの白い煙のような花を満開させるからすうりが
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
近所の板塀いたべいやいけがきには、麦わらが立てかけてほしてある。めんどりが鶏小舎とりごやでひくく鳴いている。村ははしからはしまで静かだ。そこで正九郎は何もすることがない。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
中宮ちゅうぐうのお住居すまいの庭へ植えられた秋草は、今年はことさら種類が多くて、その中へ風流な黒木、赤木のませがきが所々にわれ、朝露夕露の置き渡すころの優美な野の景色けしきを見ては
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それから少しはなれてがきの下で三人の学生がなにやらこそこそ相談をしていた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
片側かたがはのまばらがき一重ひとへに、ごしや/\と立亂たちみだれ、あるひけ、あるひかたむき、あるひくづれた石塔せきたふの、横鬢よこびんおもところへ、胡粉ごふんしろく、さま/″\な符號ふがうがつけてある。卵塔場らんたふば移轉いてん準備じゆんびらしい。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのつぎの日は、二ばんめのむすこのばんでした。このむすこは、にわがきのところに、いい草ばかりはえている場所ばしょをさがしだしました。ヤギはその草をきれいに食べてしまいました。
馬鹿野郎ばかやらうめとのゝしりながらふくろをつかんでうら空地あきち投出なげいだせば、かみやぶれてまろ菓子くわしの、たけのあらがきうちこえてどぶなか落込おちこむめり、げん七はむくりときておはつと一こゑおほきくいふになに御用ごようかよ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
がきの外を通りかかると
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
大太刀をさしたわらじ穿きの男が、前栽せんざいがきをたてとして、後ろ向きにつッ立っていたのであった。——何者だろうか。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南の春の庭を捨てておいて、源氏は東の町の西の対に来て、さらに玉鬘に似た山吹をながめようとした。竹のませがきに、自然に咲きかかるようになった山吹が感じよく思われた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかるべき門は見えるが、それも場末で、古土塀ふるどべい、やぶれがきの、入曲いりまがつて長く続く屋敷町やしきまちを、あまもよひの陰気な暮方くれがた、その県のれいつかふる相応そうおう支那しなの官人が一人、従者をしたがへて通りかかつた。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たれがもひにかほたるかぜにたゞよひてたゞまへ、いとおよぶまじとりてもたゞられず、ツト團扇うちわたかくあぐればアナヤほたる空遠そらとほんで手元てもといかゞるびけん、團扇うちわはながきえてちぬ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「もっともっと森のおくで、まだ十五分ぐらいかかるわ。大きなカシの木が三本立っているその下に、おばあさんのおうちがあるのよ。まわりには、クルミのがきがあるわ。あなた、知っているでしょう。」
がきの外でまた
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)