くら)” の例文
食物の品柄次第にて、にわかにこれをくらいて腹を痛むることあり、養生法においてもっとも戒むるところなれば用心せざるべからず。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「貴さまとは警官に向つて無禮だぞ!」巡査も少し身がまへをして、「おれをそんなに馬鹿にする氣なら、鐡拳をくらはせて見せる!」
馬に巧者な香川氏の友達は、言ひ訳ばかりに杯に唇をあてたが、香川氏は酒を見ると、何もかも忘れてしたゝかくらひ酔つてしまつた。
荷馬橇の馬は、狭霧さぎりの様な呼気いきを被つて氷の玉を聯ねたたてがみを、寒い光に波打たせながら、風に鳴る鞭をくらつて勢ひよく駈けて居た。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのとき凄まじい勢いで再び窓が開いたものだから、乞食は面くらって跳びのいた。百姓おやじが癇癪をおこして鉄砲を持ちだしたのである。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
逃げ出したのではない、とどろきの源松これにありと知って、風をくらって逃出しにかかったのでないことは、その気分ではっきりわかる。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
爾後じごうるときは鉄丸をくらい、かっするときは銅汁を飲んで、岩窟がんくつの中に封じられたまま、贖罪しょくざいの期のちるのを待たねばならなかった。
しかのみならず、多数の人が泡をくらって大騒ぎに騒ぎ立てておる際、彼の言葉の辻褄の合わぬ事などに気の付く場合でなかった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
京橋の河岸通から吹いて來る折からの風と共に目もけない砂煙すなけむりくらつて、自分等二人は休むともなく其の邊のビイヤホオルに這入つた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
また洞の外には累々たる白骨の、うずたかく積みてあるは、年頃金眸が取りくらひたる、鳥獣とりけものの骨なるべし。黄金丸はまづ洞口ほらぐちによりて。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
どっちの場合も、人様ひとさまのおかげをもって、どえらい傍杖的そばづえてき被害をくらおそれが十分に看取かんしゅされたものだから、どうして落付いていられようか。
樽野は風をくらつて部屋から飛び出した。彼は一目散に庭を横切り笹籔に覆はれた土堤を上へ上へと兎のやうに伝つて庚申堂の裏手に達した。
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
畜生ゴッデム‼」と叫びながら、ふいをくらって倒れる奴、おかせず飛掛とびかかったが、なにしろ相手は大男の毛唐、双手もろてで龍介君の首を掴むと見る間に
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
秋山男爵に乳の辺りに当身をくらわせられて、それから後は前後不覚、只今貴方様のお声で始めて正気になりましたような次第でござりまする。
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
こうして飲まずくらわず七日間寝ていた。八日目になると、やおら起きて衣をつけて山を降りた。毒虫の好餌となってゆがんだ顔で人に尋ねた。
「やい重吉、この三年三月の間、来る日も来る日も、よくもおれを虐げたな。今日こそ怨みをはらしてやる、これでもくらえ」
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
くわの先にくずされた蟻群ぎぐんの一匹のごとく蠢めいている。ひしゃくの水をくらった蜘蛛くもの子のごとく蠢めいている。いかなる人間もこうなると駄目だ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ルピック氏は、こういうふうにして、息子たちに不意打ちをくらわすのが好きである。手紙もよこさずにおいて、やって来る。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
×「殿様御免なすってから大きな声をして、此奴こいつア少しくらい酔ってるもんですから詰らん事を云って、何卒どうぞお構いなく彼方あちらへお出でなすって」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なるほど噸数は一万噸、大砲は二十糎砲だからすごいには違いないが、憐れむべし、防禦力がゼロである。十五糎砲弾をくらったらすぐに穴があく。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
五十人もの男をしらつぶしに洗って見ろ、あの阿魔を殺したがっている野郎は五人や七人じゃねえ筈だ——俺が殺したというのか? くそでもくら
宮田が、不意をくらって、少したじろいた腕の下をくぐると、倭文子は矢のように階段をころび落ちるように、かけ下った。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これ粟稗あはひえなどにまぜ、又はとちばかりも食とす、又もちにもする也。(もちにする杤は別種なりとぞ)ならの実もくらふ、そのしかたは杤にたりとぞ。
一四しやうを殺しあざらけくら凡俗ぼんぞくの人に、法師の養ふ魚一五必ずしも与へずとなん。其の絵と一六俳諧わざごととともに天下あめがしたに聞えけり。
「そうです。一里半少し遠いか。」と、くらふとった方が言った。体格から、言葉から兵役に行って来た男らしく見える。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
大喰岳「信飛界、大喰岳、嘉門次」とは、群獣のこの附近に来て、食物をあさりくらうので、かくは名づけたのであると。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
瞬間の衝撃ショックくらうと、かえってしびれた方の腕が動いて、びんを窓から河の中へ投げ捨てたと云う面白い例が載っているぜ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
するとすべての亡者たちがその深淵に飛び込んで、魔法使の屍に蝟集しながら、てんでに歯を剥いてそれにくらひついた。
酒五斗に、大きな羊を、丸焼きのまま銀盤に供えてくらわせた。左慈は、ぺろんと平げて、まだ物足らない顔していた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一所懸命にすがり付いていた腕を引き抜かれて、ハズミをくらった私は、固い人造石の床の上にドタリと尻餅しりもちを突いた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
熟々つら/\かんがふるにてんとんびありて油揚あぶらげをさらひ土鼠もぐらもちありて蚯蚓みゝずくら目出度めでたなか人間にんげん一日いちにちあくせくとはたらきてひかぬるが今日けふ此頃このごろ世智辛せちがら生涯しやうがいなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
すぐまた反対の側から同様のを続けてくらうと出かかった悲鳴も声にはならず、もう不貞不貞ふてぶてしい覚悟でさらに飛び散る弾の中を踊りくぐってゆくのだった。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
竹操りのこの人形も、美しい御婦人でござりますで、爺が、この酒をくらいます節も、さぞはや可厭いやであろうと思いますで、遠くへお離し申しておきます。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
めり拳をくらわす時の実用のため——が、あちこちに毒々しくちらついて、ぺっと唾をして靴でこすりながら——。
おれがくらい込んでもお前にはとばっちりが行くようにはしたくないで、打ち明けないのだ。どこに行っても知らない知らないで一点張りに通すがいいぜ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「うふッ」叩きつけられたように伏していた喬之助が、噴飯ふきだしたのだ。「あははははは、御苦労な! 土偶人形でくにんぎょうの勢揃い……カッ! これでもくらえッ!」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
磁気学研究所ボルネオ支所の村尾健治によって爆撃をくらい、彼らが永劫に安泰と信じていた球体は、原子系の中から叩き出されようとしているのです……。
宇宙爆撃 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「まさか」と思っていた、面くらった監督は、夢中になって無電室にかけ込んだが、ドアーの前で立ち往生してしまったこと、どうしていいか分らなくなって。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
函館停車場はごく粗朴そぼくな停車場である。待合室では、真赤にくらい酔うた金襴きんらん袈裟けさの坊さんが、仏蘭西人らしいひげの長い宣教師をつかまえて、色々くだを捲いて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
第九 食物しよくもつ衣服いふくごと分限ぶんげんによるは勿論もちろんなれど、肉食にくしよくあざらけくあたらしきしな野菜やさいわかやわらかなるしなえらぶべし。よく烹熟にたきして、五穀ごこくまじくらふをよしとすること
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
農は粗服を用い粗食をくらい汗を流し耕作をかせぎ、工はその職を骨折り、商人は御静謐せいひつ御代みよどもに正路の働きにて、かたじけなくも御国恩を忘れざるよう致すべきの処
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「誰がツて……野郎、又威嚇おどし文句で、又兵衛(酒屋の主人)のとこへ行つて、酒の五合もくらつて来たんだ」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
明日あすの晩の、ヹネチヤゆきの汽車の時間を下部ギヤルソンに問うて二十三時二十分と答へられたのには一寸ちよつとくらつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼は咽喉を扼する力によつて相手の膂力は到底己れの敵對し得る所でないと知つた。突然背後からくらつた昏倒するほどの打撃は相手が二人であることを彼に告げた。
無法な火葬 (旧字旧仮名) / 小泉八雲(著)
學生はスカをくらツて、前へ突ンのめツたかと思ふと、頭突づつきに一ツ、老爺の胸のあたりをどんと突く。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
大下組が街の顔役かおやくとか、親方とかいう一聯いちれんの徒党に対する政府の解散命令をくらってから、組の若いもんから、三下さんしたのちんぴらに至るまですべてが足を洗う様に余儀なくされた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
「けんどお前は常時此處に居るんやし、お時さんは自分の家に居るんやさかい、どうしてもお前の方が憎まれる。……寢てるとこ咽喉笛にくらひ付かれたらなんまん陀佛だぶつや。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「ボーイ!」と面くらった支配人は金切声で呼び立てた「地下室の酒場に居られますそうで」
闘牛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
言草いひぐさが皆の気に入つて、帽子の上からかろく二つほどくらはせて、酒の事はお流れになつた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
わくに縛りつけられて、ヒンヒン鳴いている奴を、薪割まきわりのようなやつで、ひたいを一つガンとくらわせると、ころりっと参ってしまいまさあ、それを骨切りのこぎりで、ごそごそっと首を引けば
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)