かます)” の例文
あの一段高い米のかますの積み荷の上に突っ立っているのが彼奴きゃつだ。苦しくってとても歩けんから、鞍山站あんざんたんまで乗せていってくれと頼んだ。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
蝋塗りに螺鈿らでんを散らした、見事なさやがそこに落散つて、外に男持の煙草入たばこいれが一つ、金唐革きんからかはかますに、その頃壓倒的に流行つた一閑張いつかんばりの筒。
炊事場の掃溜場から、かますを吊した例の棒を肩に掛けて腰を上げると、籾、羽二重、村長を呟くかわりに、爺はう怒った様に喚くのである。
(新字新仮名) / 金史良(著)
というのだが、金田一先生はこの最後の一行を、「破れたかますの皮のよう」と訳しておられる(『ユーカラ集Ⅰ』p。234-6)。[215]
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
取散らした包紙の黴臭かびくさいのは奥の間の縁へほうり出して一ぺん掃除をする。置所から色々の供物くもつを入れたかますを持ってくる。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
六茎を括りつけていないのはない、猟士の山帰りのつとにも、岩魚を漁るかますの中にも蕗が入れてある、同じく饗膳に上ったことは、言うまでもない。
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
と仲間体の男はなにげなきていで返事をして、お茶を飲んでしまうと懐中からかますを取り出して、炭火で火をつけて鉈豆なたまめでスパスパとやり出しました。
それが明日あすからといふかれそののこつた煙草たばこほとんど一にちつゞけた。煙草入たばこいれかますさかさにして爪先つまさきでぱた/\とはじいてすこしのでさへあまさなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
盗まれた品物を調べてみますと、水深計の糸、五百発ばかりの弾薬ケース、九十発ばかりの小銃弾、麦粉一袋、砂糖のかますなど、大事なものばかりです。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
「十日えびすの、売り物は」上りはなの二帖へいって、重吉は外を眺めながら、調子の狂った節で低くうたいだした、「——はぜ袋にとり鉢、銭かます、小判に金箱」
ちゃん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
抱くことも抱えることも出来ないので、頭骨も手骨も諸共にかますにさらえこみ、土を運ぶようにして海へ流した。
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
藁で造った一人用二人用のかますの中に、夫婦親子が首から下を差し入れて、囲炉裏の四側にごろごろと寝ている。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
生の軸木をにとってしらべていた小山は、唾を吐くように、かますにポイと投げて汚れた廊下をかえってきた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
石炭を入れるかますだの、鶏を入れるような、大きな、平ッたい竹籠だの、およそ野蛮な、ざッかけない、わびしい感じのするものがうずたかくそこに積まれてあった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
火をつけてから手のひらの上へ載せてやって、自分も思い出したように帯の間にある紅い琥珀こはくかますを抜き取ると、こはぜの附いたふたの下へ白い小さな手の甲を入れた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かます鉈豆煙管なたまめぎせるを取出した亀吉は、もう一度にやりと笑うと、おつねの出してくれた煙草盆で二三服立続けにすぱりすぱりとやっていたが、頭から夜具やぐかぶった歌麿が
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と、忽ちそこへ勘定方の武士にひきいられた足軽たちが重そうに銭叺ぜにかますをかついで来た。一荷や二荷ではない。何十というかますの山、いや銭の山がまたたくうちに積まれた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこでその私の友人は、帰郷後さっそく、一日人夫を雇って、その「たらの芽」を採って貰い、それを贈るも贈る、一かます荷造にして先日会食した一人の方へ贈り届けた。
自力更生より自然力更生へ (新字新仮名) / 三沢勝衛(著)
「そうか」そして考えついてかます莨入たばこいれからの櫛を出して、「此の櫛なら、いくらか貸すだろう」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
猪之介は漸く上りかまちの端の方へ腰を掛けて、腰の煙草入れのかますの破れかゝつたのを探りながら
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
財布に入れて懐中などは思いも寄らず、三両五両となるとかますに入れて三泣き車に載せて行く。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
といふ歌から、近くは明治三十五年に出版せられた若越方言集に、クヾツとはかますなり。物を入るる物なりとあるまで、多くの書物にそれが一種の袋であることを証拠立てゝ居る。
かますを卸してまぐさあてがってどっさり喰わせ、虫の食わないように糸経いとだてを懸けまして、二分と一貫の銭を持って居りますゆえ、大概のものなら駈落かけおちをするのだから路銀に持ってきますが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老人は腰からかますを抜き出して、一服つけた。私はこの機会を逸してはと考えた。
想い出 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
かますの煙草入を懐中ふところしまうと、しずかに身を起して立ったのは——あらためて松の幹にも凭懸よりかかって、すがって、あせって、もだえて、——ここから見ゆるという、花の雲井をいまはただ、あおくも白くも
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっけもない事を言いましたので、何気なく手にとりあげて、とみつこうみつ打ち調べているとき、ころり、とかますの中から下におちたものは、丁半バクチに用いる象牙細工の小さなさいころです。
勘次はかますを抱えて蔵の中から出て来ると、誰にも相手にされず、台石の上でひとりぼんやりしている安次の姿が眼についた。それは弱々しいとり残された者の感じで不意に彼の心に迫って来た。
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
こんな日にはよくしじみ売りのお媼さんが来た。背中に大きなかますを背負って、真白になってやって来た。蜆や蜆——とぼとぼとお媼さんは呼び声だけを後に残して、影絵のように雪の中に消えて行った。
立春開門 (新字新仮名) / 河井寛次郎(著)
片隅に積んであったかますのうえへ、おさんどんをどさりと抛りだした。
鉱石入りの小さなかますを背負って腕組みをしながら登って来る人夫の姿が朧ろげに現れる、もう鼻と鼻とが擦れ合う程に近寄っている、互に挨拶の言葉をいい交わして、一歩下りさま振り返った時には
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
良いかますであつたから
蝋塗ろうぬりに螺鈿らでんを散らした、見事なさやがそこに落散って、外に男持の煙草入が一つ、金唐革きんからかわかますに、そのころ圧倒的に流行はやった一閑張いっかんばりの筒。
棒の両端にかますを吊して、ぶらんぶらん担ぎ廻る例の「皆喰爺」が、寮の裏で見える度に、私は尹書房ユンソバングを思い出すのだ。
(新字新仮名) / 金史良(著)
貝殻を投げ込み、薪を焚き、石灰が出来あがると、かますに詰めて河岸へ運び出す。単純で少しの変化もない仕事。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かれ什麽どんなをしんでもかますなかつてくのをふせぐことは出來できない。しか寡言むくちかれいたづらに自分じぶんひとりみしめて、えずたゞ憔悴せうすゐしつゝ沈鬱ちんうつ状態じやうたい持續ぢぞくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
越後地方では木をえぐって作った塩槽の上に塩をかますのままで置き、その底にたまる滷汁にがりをメダレと呼んでいた。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
敷居の上へ腰をおろして煙草入れを引抜き、太い煙管きせるを取り出して口にくわえ、かますを横にしてはたいてみる。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
足軽に命じて、そこにある限りのかますを、ことごとく破らせると、銭の山は雪崩なだれをなして堤上をうずめた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それによごれたかますを並べ、馬の餌にするような芋の切れ端しや、砂埃すなぼこりに色の変った駄菓子が少しばかり、ビールびんの口のとれたのに夏菊などさしたのが一方に立ててある。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お救い米を宛てにして、大勢の難民が子供を連れ在方から出てきたが、お救い小屋が廃止になったので、子供に食わせる道がなく、生きたままかますや俵に入れて川に流した。
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
本誌七巻三号の倉光君の報告せられた「かまとクグ」(五九頁)によると、今でも山陰地方では、山子・木挽こびき・石屋等に限って、かます様の藁縄製の袋を携帯しているが、旧皮屋部落の青年が
とここで、鐸をさかさまに腰にさして、たもとから、ぐったりした、油臭い、かます煙草入たばこいれを出して、真鍮しんちゅう煙管きせるを、ト隔てなく口ごと持って来て、蛇の幻のあらわれた、境の吸う巻莨まきたばこで、吸附けながら
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かぶっていた桐油とうゆを、見世みせすみへかなぐりてて、ふところから取出とりだした鉈豆煙管なたまめぎせるへ、かます粉煙草こなたばこ器用きようめたまつろうは、にゅッと煙草盆たばこぼんばしながら、ニヤリとわらって暖簾口のれんぐち見詰みつめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
煙草盆を引寄せてかますの粉煙草をひねりましたが、火皿に足りさうもないので、苦笑ひにまぎらせてポンと煙草入を投ります。
貝殻を投げ込み、薪を焚き、石灰が出来あがると、かますに詰めて河岸かしへ運び出す。単純で少しの変化もない仕事。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
家の人々はわらかますの中に入ってかたわらに寝るのだと謂って、ちゃんとその様子が絵にかいて載せてある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
果敢はかない煙草入たばこいれかますなか懸念けねんするやうにかれ數次しばしばのぞいた。陰鬱いんうつせま小屋こやなかのぞかますそこくらかつた。わづかにまじつたちひさなしろ銀貨ぎんくわたびかれこゝろいくらかのひかりあたへた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
張合いのないことおびただしいが、こっちには計画があるから、予定を運んで、召捕った時に、彼が持っていたきたない財布——むろん沢山ははいっていないが——それとかますの煙草入れ、鼻紙などを
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鐚銭びたせんに至るまで、あらゆる種類が網羅されてあり、それを山に積んで、右から左へ種類分けにして、奉書の紙へ包んでみたり、ほごしてみたり、かますへ納めてみたり、出してみたりしている。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかるにまた近来ニューヨークのソロモンという人が同じ考えを起して大仕掛けに資本をかけてこの法を用いる事になったそうである。かますのような物に母貝を沢山に並べたのを一度に写真にとる。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)