とお)” の例文
歳は私よりとおばかり上だが、何分なにぶん気分が子供らしくて、ソコデ私を中津にえすような計略をめぐらしたのが、私の身には一大災難。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
むかしあるところに、お百姓ひゃくしょうのおとうさんとおかあさんがありました。夫婦ふうふあいだにはとおになるかわいらしい女の子がありました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そこで初めて怪談がかりになって、証拠の片袖を御覧に入れるんだからとおに一つも仕損じはありゃあしねえ。ねえ、そうじゃあありませんか
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とおのものには十五の返しをなさる御姉さんの気性を知ってるもんだから、皆なその御礼を目的あてに何か呉れるんだそうですよ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五年の百合ゆりには五つ花が出来、十年の百合にはとお花が出来る、——彼等はいつか年上としうえのものにそう云う事を教えられていた。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私のここのとおのころでございます、よく母に連れられて城下から三里奥の山里に住んでいる叔母の家を訪ねて、二晩三晩泊ったものでございます。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかも此の霧の中に、野面のづらかへすひづめの音、ここのツならずとおならず、沈んで、どうと、あたかも激流の下より寄せ気勢けはい
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『これはよいだ。とおか十一になったら、おてらへやって、りっぱなおぼうさんにしよう。』とおっしゃったのですよ。
まど格子こうしには、あかいとうがらしがとおばかりひとふさにしてむすびつけてあります。そこには、よくたるのでした。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
大師匠はとおの時からやっている。それも元来たちの好いのを認められてのことだ。子供の時からだと芸が身体の中に織り込まれて身体と一緒に発育する。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
阿父おやじさんは、とおにならない私には、新聞紙の一頁を二つに折ったほどの大きさの顔に見えた四角い人だった。胸毛も生えて、眉毛がねじれ上っていた。
前様めえさまア留守勝でうちの事は御存じござんねえが、悪戯いたずらはたすかは知らねえが、頑是がんぜがねえとおにもなんねえ正太郎だから、少しぐれえの事は勘弁して下さえ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とおのものなら九つまで相手に美点があっても、たった一つ欠点があれば、あいつは馬鹿だという烙印を捺すために、九つの美点は無視されてしまうのである。
即ち学者の先輩は艮斎が十六、成斎がとお、况斎が九つ、漁村が八つになった時、抽斎は生れたことになる。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
卓や棚の上にも大小の製作がとおばかり載つて居る。十五畳敷程の広さだ。そのおも製作室アトリエ巴里パリイにあるとしても、これがロダン翁程の大家の製作室アトリエかと驚く外は無い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
親譲りの山も林もなくなりかゝってお吉心配に病死せしより、としわずかとおの冬、お辰浮世のかなしみを知りそめ叔父おじ帰宅かえらぬを困り途方とほうに暮れ居たるに、近所の人々
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とおを出たばかりの幼さで、母は死に、父はんで居る太宰府へくだって、はやくから、海の彼方あなたの作り物語りや、唐詩もろこしうたのおかしさを知りめたのが、病みつきになったのだ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ト言懸ける折しも、官員風の男がとおばかりになる女の子の手を引いて来蒐きかかッて、両人ふたりの容子を不思議そうにジロジロ視ながら行過ぎてしまッた。昇は再び言葉をいで
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
耳のそばでとおの金だらいを一時にたたかれた様なガーンとした気持で帰って行くのである。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その「はち」の語を隠して、とおに足らぬ「十無とおない」だと、隠語で云ったのが本であろう。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
その訳は、吉ちゃんの心があらくて、細かいことが、よく分らないためでしょうと思います。それですから、秀ちゃんがとおものを考える間に、吉ちゃんは一つ位しか考えられません。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それからは蜘蛛は、もう一生けん命であちこちにとおも網をかけたり、夜も見はりをしたりしました。ところが困ったことは腐敗ふはいしたのです。食物しょくもつがずんずんたまって、腐敗したのです。
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あの曲馬団の暴雨風あらしの夜の最初の接吻! それは黒吉がまだとおの時であった……。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
昨日きのう御身に聞きたきことありといひしが、余の事ならず」ト、いひさしてかたちをあらため、「それがし幾歳いくとせ劫量こうろうて、やや神通を得てしかば、おのずから獣の相を見ることを覚えて、とおひとつあやまりなし。 ...
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
今年とおになつた、大根さんのおうちはお父さんが髪床やさんでした。
髪床やの大根さん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
まあ、とおばかりの時からいたずらをした女ですね。6530
「いえ、何んにもございません、でも三人の申合せで、間違いのないことになっております、長崎屋の身上のとおのうち三つは私、十のうち二つは友三郎と岡さん、つまり半分だけは兄の七郎兵衛のものになるわけで」
とおオ!)
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこへとおぐらいの小供こどもけて来て犬をしかり付けた。小供は徽章きしょうの着いた黒い帽子をかぶったまま先生の前へまわって礼をした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うまくあたって地に落ちて来ることもあるが、又すぐに飛び揚がってしまって、とおに一つも子供たちの手には捕えられない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もっともとおぐらいまでの小児が、家からここへ来るのには、お弁当が入用いりようだった。——それだけに思出がなお深い。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するとほどなく部落から、逃げて来たらしい七八人の男女なんにょが、あえぎ喘ぎ草山へ上って来た。彼等のある者は髪を垂れた、とおには足りない童児どうじであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まだ、やっととおか、十一になったばかりであります。ひどいあめらないかぎりは、かぜばんにも、わたししたってすずらして夕刊ゆうかんっています。
煙突と柳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とおろ/\しながら、惣吉は年はとおだが親孝心で発明な性質うまれつき、急いで降る中を四五町先を見当みあてにして参りました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とおばかりの従姉いとこと、私はだんまりで、二人ともこぼれない涙にが光っていた。おなじようにムンヅリしていたが、子供心にも思うことは違っていたのかもしれない。
これによってこれを見れば文一君は僕を出し抜いて土曜講習へ通うのみならず、一日にとおも玉子を食って黙っているのだ。競争試験となると刎頸ふんけいの友も当てにならない。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ある時は八幡宮はちまんぐうの石段を数えて登り、と進んで七つと止まり、七つだよと言い聞かして、さて今の石段はいくつだとききますと、大きな声でとおと答える始末です。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
喋り出した。三十八円とお銭ヤスだなどと喋っている。このラジオで朝子供らが体操をやります。徹夜したり、早起きしたりした朝私は二階の窓からその校庭の様子を目の下に眺めます。
燈火ともしびわずかほたるの如く、弱き光りのもとに何の夢見て居るか罪のなき寝顔、せめてもうとお計りも大きゅうして銀杏いちょうまげ結わしてから死にたしとそでみて忍び泣く時お辰おそわれてアッと声立て
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
果してそうなら、抽斎の生れた時は三十一歳で、迷庵よりはとおわかかったのだろう。抽斎の棭斎に師事したのは二十余歳の時だというから、恐らくは迷庵をうしなって棭斎にいたのであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とおぐらいの女の子が、そこからからだをのりだすようにして、たすけをもとめていました。ぽけっと小ぞうは、すぐ、ぽけっとから小がたのぼうえんきょうをとりだして、目にあてました。
かいじん二十めんそう (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この子は乳さえ沢山たくさん呑ませれば必ず見事に育つと云うのを聞て、父が大層たいそう喜んで、れはい子だ、この子が段々成長してとおか十一になれば寺にやって坊主にすると、毎度母に語ったそうです。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
でもその時はまだとおばかりで。
とおオ!)
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宗助と小六の間には、まだ二人ほど男の子がはさまっていたが、いずれも早世そうせいしてしまったので、兄弟とは云いながら、年はとおばかり違っている。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するとそれは、とおばかりのおとこで、しかもその子供こどもは、弱々よわよわしくえたうえに、盲目めくらであったのであります。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、一里あまり奥の院まで、曠野の杜を飛々とびとびに心覚えの家数は六七軒と数えてとおに足りない、この心細い渺漠びょうばくたる霧の中を何処へ吸われて行くのであろう。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「浦島太郎」は一冊のうちとおばかりの挿絵を含んでいる。彼はまず浦島太郎の竜宮りゅうぐうを去るの図をいろどりはじめた。竜宮は緑の屋根瓦に赤い柱のある宮殿である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お前がおっかに手を引かれてうちへ来た時に、私のおっかさんがマアとおや十一で奉公に出るのはあんまり早いじゃアないかと云ったら、お前何とお云いだ、おふくろがとる年で
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
嫗 あしたも明後日あさっても、三日も五日もとお日も、一と月も二た月も、毎晩強情に防いでいたら、いくら執念深い蛇でもあきらめて、しまいには来なくなるかも知れない。
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)