どころ)” の例文
旧字:
いや、尼どころか、このくらい悟り得ない事はない。「お日和ひよりで、坊さんはお友だちでよかったけれど、番傘はお茶を引きましたわ。」
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いいですか、およそ人間たるものが、心臓を失ったら、立ちどころに死んでしまうでしょう。しかるに君はちゃんとこうして生きて居らるる。
人の物を毀して無闇に打ってかゝるどころじゃアない……何しても娘子むすめっこ怪我が無くって宜かった、丈助長持は其処へ捨て放しにして置いて宜しい
ママにはもっと書くべき世界がある。ママの抒情じょじょう的世界、何故其処そこの女主人公にママはなり切らないのですか。ひとのことどころではないでしょう。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこが気転のかしどころで、はい/\と言つて二つ返事で買ひ戻しておけば、客は少からぬ好意をもつて店を見る事になる。
そして、この五官の中心となって、これを統一する認識の主体が、つまり第六意識です。この意識が「意根」を依りどころとして、一切のものを認識するわけです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
◯二十節は改訳して「されど悪しき者は目くらみのがどころを失わん、そののぞみは死なり」とすべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
どころなき身なれば結句よき死場処と人目を耻ぢぬやうに成りけり、にがにがしき事なれども女の心だて悪るからねば檀家の者もさのみはとがめず、総領の花といふを懐胎もうけし頃
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が、それよりも、もっと美奈子を寂しくしたことは、今迄いままで愛情の唯一ゆいいつどころとしていた母が、たとい一時ではあろうとも、自分よりも青年の方へ、親しんでいることだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
六十人余りの女達とは収容所で別れて、税関の倉庫に近い、荒物屋兼お休みどころといつた、家をみつけて、そこで独りになつて、ゆき子は、久しぶりに故国の畳に寝転ぶことが出来た。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
俚俗りぞくと文芸とをつなぎ合わせようとする試みは、なるほど最初からの俳道の本志であったには相違ない。しかしその人を動かそうとした力の入れどころが、いつのまにか裏表にかわっていたのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
で、仏元は廷珸のところへ往って、雲林を返して下さいというと、廷珸は承知して一幅を返した。一幅は何もことなってはいなかった。しかし仏元は隠しじるしのありどころについてその有無をしらべた。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これも普通の小供こどもならもなく忘れてしまっただろうと思いますが、僕は忘れるどころか、がなすきがな、何故なぜ父はのような事を問うたのか、父がくまでに狼狽ろうばいしたところを見ると、余程の大事であろうと
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「あるどころかね。あれば仕合せなんだが。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
三瀬川みつせがは、船はてどころかげ暗き伊吹いぶきの風に
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
昔は「女髪結おんなかみゆどころ
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
実は乗りたや玉の輿こしで、いずれ、お手車どころたしかに見える。自然と気ぐらいが高くなっているのであろうと、浅はかにも考えたが—違いました。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「義眼を入れたレビュー・ガールの名前をつきとめるんだって、誰にもたずねちゃ駄目だぞ。敵の密偵みっていは巧妙に化けている。どころに殺されちまうぞ」
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小博奕が出来るから此処こゝに居るのだが、おめえ子柄こがらはよし、今の若気わかぎでこんな片田舎へ来て、儲かるどころか苦労するな、ちっとは訳があって来たろうが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ふねれば、すら/\といでて、けないどころか、もとの位置ゐちへすつともどる……つた諾亜ノアふねごときものであらう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
正「イヤどうも忘れるどころじゃアねえが、誰だっけ、強気ごうぎと不器用だからチョイと胴忘れをしたが、お前の名前は」
そういう生物が、いつわれわれのんでいる地球へやって来ないとも限らない。彼らは、そのすぐれた頭脳でもって、人間たちを立ちどころに征服してしまうかもしれない。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふ。其処そこしぶりながら備中守びつちうのかみ差出さしだうでを、片手かたて握添にぎりそへて、大根だいこんおろしにズイとしごく。とえゝ、くすぐつたいどころさはぎか。それだけでしびれるばかり。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
関取は下駄を穿いており、大きななり下駄穿げたばきだから羽交責どころではない、ようやく腰の処へ小さい武士ぶしが組付きました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もし漢青年が今日こんにちのように切迫せっぱくした時局を知ったなら、彼はどころ故山こざんに帰り、揚子江ようすこう銭塘口せんとうこうとの下流一帯を糾合きゅうごうして、一千年前のの王国を興したことだろう。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
作「え、なに己だ、林の蔭に隠れていたが、危ねえ様子だから飛び出して来て、與助野郎の肋骨あばらを蹴折って仕舞った、兄い無心どころじゃねえ突然いきなりったんだな」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
勝手が違ったので、一枚着換えたやつが、しからばともいわず、うっかり、帽子の茶系統どころを、ひょいと、脱いで、駆出したのがすでにおかしいのでございました。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人の警官が、いくら雨霰あめあられと飛んでゆく機関銃の弾丸たまらわせてもビクとも手応てごたえがないのにあきれてしまって、こんなことを叫びました。しかしその証明は、どころにつきました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
向岸むこうぎしへ急ぎますと、勇助は泳ぎを知らんどころでは有りません至って上手で、抜手ぬきでを切って泳ぎながら
其の白妙が、めされて都にのぼると言ふ、都鳥の白粉おしろいの胸に、ふつくりと心魂こころだましいめて、肩も身も翼に入れて憧憬あこがれる……其の都鳥ぢや。何と、げるどころではあるまい。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
竹「私を斬ったな、法衣ころもを着るお身で貴方は恐しい殺生戒を破って、ハッ/\、お前さんは鬼になったどころじゃアないじゃになった、あゝ宗達という御出家は人殺しイ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「迷惑どころではござりましねえ、かさねがさね礼を言われて、わしでっかくありがたがられました。」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
知合ちかづきにも友だちにも、女房に意見をされるほどの始末で見れば、行きどころがなかったので、一夜ひとよしのぎに、この木曾谷まで遁げ込んだのだそうでございます、遁げましたなあ。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勘「えゝ姐さん目をかけるどころじゃアない、何時いつでも井戸端へ行くたア、水を汲んでやります」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
身のおきどころがなく成つて、紫玉のすそが法壇に崩れた時、「ざまを見ろ。」「や、身を投げろ。」「飛込とびこめ。」——わツと群集の騒いだ時、……たまらぬ、と飛上とびあがつて、紫玉をおさへて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それどころじゃない、立派な亭主持の身で有りながら悪いことをするものが世間にはいけいこと有りやす、一昨日おとゝいたなで盆の余り勘定をしていると、彼処あすこでは酒も売り肴もあるもんだから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
作意でほぼその人となりも知れよう、うまれは向嶋小梅むこうじまこうめ業平橋なりひらばし辺の家持いえもちの若旦那が、心がらとて俳三昧に落魄おちぶれて、牛込山吹町の割長屋、薄暗く戸をとざし、夜なか洋燈をつけるどころ
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
千「わたくしは世間へ申すどころじゃア有りませんが、あなたの方で」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
水でも飲ましてりたいと、障子を開けると、その音に、怪我けがどころか、わんぱくに、しかも二つばかり廻って飛んだ。仔雀は、うとりうとりと居睡いねむりをしていたのであった。……憎くない。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
森「蔑すむどころか上げにごしますよ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それどころですか、くらつてましたなあ、りさうですね。りさうですね。」
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(天罰はどころじゃ、足四本、手四つ、つら二つのさらしものにしてやるべ。)
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婦人おんなただ御新姐ごしんぞ一人、それを取巻く如くにして、どやどやと急足いそぎあしで、浪打際なみうちぎわの方へ通ったが、その人数にんずじゃ、空頼そらだのめの、余所よそながら目礼どころの騒ぎかい、貴下あなた、その五人の男というのが。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
触るよ、触るどころか、抱いて寝るんだ。何、玉香が、香玉こうぎょくでも、おんなもうじゃは大抵似寄りだ、心配しなさんな。その女じゃああるめえよ、——また、それだって、構わねえ。俺が済度して浮ばしてる。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恁云かういところぢや山寺やまでらどころではないとおもふと、にはか心細こゝろぼそくなつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)