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凄味
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すごみ
ふりがな文庫
“
凄味
(
すごみ
)” の例文
振り袖を長くひらめかして、走って行く鈴江のようすというものは、美女であるだけに
凄味
(
すごみ
)
があって、狂女を思わせるものがあった。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
堂のうしろの笑い声が消えた次の一瞬——同じ場所からこう鋭い——何ともいえない
凄味
(
すごみ
)
をもった老婆のしゃがれ声がしたのであった。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
窓から首を出して見ると、一帯の松林の
樹
(
き
)
の間から、
国府津
(
こうづ
)
に特有な、あの
凄味
(
すごみ
)
を帯びた
真蒼
(
まっさお
)
な海が、暮れ方の光を暗く照り返していた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
「髭のあった時分の顔には、なつかしみが有った。何だか髭を取ってしまったら、
凄味
(
すごみ
)
が出て来た」と言って笑うものがあった。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
盛り場だけに、この公園の
夜更
(
よふ
)
けは、一層物さびしく、変てこな
凄味
(
すごみ
)
さえ感じられた。腕時計はほとんど十二時を指していた。
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
▼ もっと見る
すらすらと歩を移し、露を払った
篠懸
(
すずかけ
)
や、
兜巾
(
ときん
)
の
装
(
よそおい
)
は、弁慶よりも、
判官
(
ほうがん
)
に、むしろ新中納言が山伏に
出立
(
いでた
)
った
凄味
(
すごみ
)
があって、且つ色白に美しい。
木の子説法
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
時折女中たちに目っかって
喧嘩
(
けんか
)
の時に言いだされてしょげていたが、子供たちに
威張
(
いば
)
るときは、円朝の
凄味
(
すごみ
)
で眼をしかめたり、声を低くしたりした。
旧聞日本橋:06 古屋島七兵衛
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
殊更
憂
(
うれい
)
を含む
工合
(
ぐあい
)
凄味
(
すごみ
)
あるに
総毛立
(
そうけだち
)
ながら
尚
(
なお
)
能
(
よ
)
くそこら
見廻
(
みまわ
)
せば、床に
掛
(
かけ
)
られたる一軸
誰
(
たれ
)
あろうおまえの姿絵
故
(
ゆえ
)
少し
妬
(
ねた
)
くなって一念の
無明
(
むみょう
)
萌
(
きざ
)
す途端
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
この女も今晩のうちに殺してしまわなければならぬ女だ——と幾分の
凄味
(
すごみ
)
を見せたはずなのに、ずるずるべったりにここまで牛に引かれて来てしまって
大菩薩峠:33 不破の関の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
死者の
枕頭
(
ちんとう
)
に刃物を置く習慣は、その刃物の
光鋩
(
こうぼう
)
、もしくは、その形状の
凄味
(
すごみ
)
より来る視覚上の刺戟暗示を以て
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「
什麽
(
どんな
)
ことするつて
俺
(
お
)
ら
泥棒
(
どろぼう
)
はしねえぞ、
勘次
(
かんじ
)
」
其
(
そ
)
の
切
(
き
)
れた
目尻
(
めじり
)
に一
種
(
しゆ
)
の
凄味
(
すごみ
)
を
持
(
も
)
つておつたが
立
(
た
)
つた
時
(
とき
)
、
卯平
(
うへい
)
はのつそりと
戸口
(
とぐち
)
に
大
(
おほ
)
きな
躯幹
(
からだ
)
を
運
(
はこ
)
ばせた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
いささか悪魔の門を潜ってきた
凄味
(
すごみ
)
を漂わしているのであるが、僕の記憶に間違いがなければ、咢堂夫人はイギリス人であった筈で、こうなると意味が違う。
咢堂小論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
ちょいと
凄味
(
すごみ
)
を見せようというつもりらしい。勝手に
上
(
あが
)
り
框
(
がまち
)
へ腰を下ろして、
精
(
せい
)
ぜい苦味走って控えながら
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
ウワルプルギスナハトには思ったような
凄味
(
すごみ
)
はなかった。しかし思わない凄味がどこかにあった。お化けは居ないがヘクセンやエルフェンは居そうな気がした。
異郷
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
鍋山は左の足をぐっと引いて半身になり、木刀の尖を床につくほど下げ、(
地摺
(
じず
)
り青眼とでもいうのか)
凄味
(
すごみ
)
のある構えで、じんわりと伊兵衛の眼に見いった。
雨あがる
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その点で美術関係の諸方面にかなり信用が蓄積されていた。そういう下地がある上に、彼は一旦物事を
遣
(
や
)
り出すと、その成績に
冴
(
さ
)
えて
凄味
(
すごみ
)
が出るほど徹底した。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
崖の
離屋
(
はなれ
)
では三人の男が顔をあわしていた。三人のうちの一人は四十四五で、素肌へ茶の縦縞の薄い
丹前
(
たんぜん
)
を
被
(
き
)
ていたが、
面長
(
おもなが
)
の色の白い顔のどこかに
凄味
(
すごみ
)
があった。
春心
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
それは別段大きくはないのだけれど、いやに底光りがして、何とも云えない
凄味
(
すごみ
)
が差すのであった。
壁の眼の怪
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
ややともすれば
強請
(
ゆすり
)
がましい
凄味
(
すごみ
)
な態度を示すに引き比べて昔ながらの
脚半
(
きゃはん
)
草鞋
(
わらじ
)
に
菅笠
(
すげがさ
)
をかぶり
孫太郎虫
(
まごたろうむし
)
や
水蝋
(
いぼた
)
の
虫
(
むし
)
箱根山
(
はこねやま
)
山椒
(
さんしょ
)
の
魚
(
うお
)
、または
越中富山
(
えっちゅうとやま
)
の
千金丹
(
せんきんたん
)
と呼ぶ声。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
と僕は
凄味
(
すごみ
)
でも何でもなく、極く穏かに相談を持ち込んだ。十何年も前のことだけれど、芝公園が頭に浮ぶ。然うだ。学校の帰りを芝公園までブラ/\歩いたのだった。
勝ち運負け運
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
München の珈琲店を思い出す。日本人の群がいつも行っている処である。そこの常客に、
稍
(
や
)
や無頼漢肌の土地の好男子の連れて来る、
凄味
(
すごみ
)
掛かった別品がいる。
ヰタ・セクスアリス
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
碧々
(
へきへき
)
たる湖上に浮んで居るところの
朦朧
(
もうろう
)
たる山脈の間から正月二十六日の弦月が上りかけたその美しさ……
微
(
かす
)
かなる光が湖面に映って何となく
凄味
(
すごみ
)
を帯びて居りますが
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
凄味
(
すごみ
)
があつたわ。もう出来ないか知ら。(やつて見る)ほら出来た。うまくうつつたでしよ。
ラムプの夜:――学芸会のための一幕劇
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
トヨ公は、四十ちかい横太りの、
額
(
ひたい
)
が狭く坊主頭で、眼がわるいらしく、いつも眼のふちが赤くてしょぼしょぼしていましたが、でも、ちょっと
凄味
(
すごみ
)
のきく風態の男でした。
女類
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
トントン……と二階
梯子
(
はしご
)
を響かせながら、
酒膳
(
しゅぜん
)
を運んで来た女は、まアその色の黒きこと狸の如く、
煤
(
すす
)
け
洋燈
(
らんぷ
)
の
明
(
あか
)
りに大きな眼を光らせて、
寧
(
むし
)
ろ滑稽は
怖味
(
こわみ
)
凄味
(
すごみ
)
を
通越
(
とおりこ
)
している。
菜の花物語
(新字新仮名)
/
児玉花外
(著)
おまえにその気があるんなら、いい割をくれてやる。どうだ、はっきりしたところをぬかせ。わたしは、顔に、ちょっとこう
凄味
(
すごみ
)
をつけましてねえ、ニヤッと笑ってみせたんです。
犂氏の友情
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
二筋三筋
扇頭
(
せんとう
)
の微風に
戦
(
そよ
)
いで
頬
(
ほお
)
の
辺
(
あたり
)
を往来するところは、
慄然
(
ぞっ
)
とするほど
凄味
(
すごみ
)
が有る。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
何か滑稽な言葉だけにかえって
凄味
(
すごみ
)
をはらんで「僕はまじめに脅迫します」
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
だが、それだけ、殺気が充実して、すべての面上、必殺の
凄味
(
すごみ
)
があふれる。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
作家の部屋と云うものは、なんとなく
凄味
(
すごみ
)
があって気味が悪い。歩きながら、女子美術の生徒のむらさきの
袴
(
はかま
)
の色の方が、ふくいくとしていると考える。小説とはつまらないものかも知れない。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
ゴロツクは
脅迫
(
きょうはく
)
の意味そうな。
乳呑子
(
ちのみご
)
連れた
女
(
メノコ
)
が来て居ると云うので、二人と入れ代りに来てもらう。眼に
凄味
(
すごみ
)
があるばかり、
例
(
れい
)
の
刺青
(
いれずみ
)
もして居らず、
毛繻子
(
けじゅす
)
の
襟
(
えり
)
がかゝった
滝縞
(
たきじま
)
の
綿入
(
わたいれ
)
なぞ着て居る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
ある
凄味
(
すごみ
)
と
優
(
やさ
)
し
味
(
み
)
をつけ加えた特殊の表情であった。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
たゞ何心なく他を
眺
(
ながむ
)
る眼にしては
甚
(
はなは
)
だ
凄味
(
すごみ
)
を帯ぶ。
運命論者
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
「惡人はもう少しノツペリして
凄味
(
すごみ
)
があるな」
銭形平次捕物控:008 鈴を慕う女
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
凄味
(
すごみ
)
に富んでいるかわからない。
上海游記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
南蛮寺
(
なんばんじ
)
の
奥
(
おく
)
のほうから、ジャン、ジャン、ジャン!
妖韻
(
よういん
)
のこもった
鐘
(
かね
)
の
音
(
ね
)
——そして一種の
凄味
(
すごみ
)
をおびた
貝
(
かい
)
の
音
(
ね
)
がひびいてきた。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
先にもいった通り、覗き眼鏡で見る景色は、丁度水中に潜って目を開いた世界の様に、異様に
淀
(
よど
)
んで、いうにいわれぬ
凄味
(
すごみ
)
を添えているのです。
湖畔亭事件
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
これも柄から手を放して、冷やかな態度で立ち向かったが、その冷やかな態度の中には、吸血鬼的の
凄味
(
すごみ
)
があって、相手を
怯
(
おびや
)
かすに足るものがあった。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
血走っているというわけでも、殺気が
迸
(
ほとばし
)
るというわけでもないが、なんとなく一道の
凄味
(
すごみ
)
が流れ出しました。
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
野山
(
のやま
)
に、によき/\、と
言
(
い
)
つて、あの
形
(
かたち
)
を
想
(
おも
)
ふと、
何
(
なん
)
となく
滑稽
(
おど
)
けてきこえて、
大分
(
だいぶ
)
安直
(
あんちよく
)
に
扱
(
あつか
)
ふやうだけれども、
飛
(
と
)
んでもない
事
(
こと
)
、あれでなか/\
凄味
(
すごみ
)
がある。
くさびら
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
信一郎は、そう云いながら、何事もないように、笑っている夫人の美しさに、ある
凄味
(
すごみ
)
をさえ感じた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
「つめ
賽
(
さい
)
は博奕の法度、場銭を
掠
(
さら
)
ったうえに
簀巻
(
すまき
)
にして川へ叩きこまれても文句の云えねえのが仲間の定法だ、——正さんの顔なら
凄味
(
すごみ
)
があってきっと
威
(
おど
)
しが利くぜ」
お美津簪
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
お藤は、
所作
(
しょさ
)
そのままの手でぴたりとおさえておいて、
凄味
(
すごみ
)
に冷え入る
剣幕
(
けんまく
)
をおさよへあびせた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
いささか鬼気を感ぜしむる
凄味
(
すごみ
)
があるのだが、私の記憶に誤りがなければ彼の夫人はフランス人の筈であり、日本人の女房があり、日本人の娘があると、
却々
(
なかなか
)
こうは言いきれない。
堕落論〔続堕落論〕
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
与右衛門は歩き歩き
途
(
みち
)
の前後に注意していた。その与右衛門の眼には
凄味
(
すごみ
)
があった。
累物語
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
「
止れ
(
アレテ
)
!」と、縮みあがるような
凄味
(
すごみ
)
のある声でどなりつけた。たちまちセエヴル焼の人形のようにこわばってしまった二人の前へ駆け寄って来た兵士、今度は何を立腹したのか、いきなり
ノンシャラン道中記:02 合乗り乳母車 ――仏蘭西縦断の巻――
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
寂
(
さ
)
び沈んだ、一種の
凄味
(
すごみ
)
を帯びた正木博士の声は、ここで
一寸
(
ちょっと
)
中絶した。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
夜の
路次
(
ろじ
)
などで、この猫に出逢うと一種の
凄味
(
すごみ
)
をさえ感じさせられる。
柿の種
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
兄ちゃん、少し
痩
(
や
)
せたわね。ちょっと
凄味
(
すごみ
)
が出て来たわ。
律子と貞子
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
そういう役は、わたしとはまるで縁がない筈ですよ。それにしても、わたしの舞台に、そんな
凄味
(
すごみ
)
が出るようでは、芸が未熟な証拠です。矢っ張り道楽でならった武術の方が、表芸に
祟
(
たた
)
ってくるのですねえ。有難いことを
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
凄
常用漢字
中学
部首:⼎
10画
味
常用漢字
小3
部首:⼝
8画
“凄”で始まる語句
凄
凄惨
凄愴
凄艶
凄気
凄腕
凄然
凄婉
凄絶
凄文句