先方むかう)” の例文
私は、然し、主筆が常に自己おのれと利害の反する側の人を、好く云はぬ事を知つて居た。「先方むかうが六人で、此方こつちよりは一人増えたな。」
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
段段先方むかうでは憎しみを増し、此方ではひがみが募る。意地を張つても、悲しいことには、彼女の一家は人のなさけと憐みとできなければならない。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
が、先方むかうは? さう思ふと、美奈子は寂しかつた。普通にお墓詣りをする人が、こんな雨降りの日に出かけて来る訳はない。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
本人ほんにんは、引手茶屋ひきてぢややで、勘定かんぢやう値切ねぎられたときおなじに、これ先方むかう道具屋だうぐや女房かみさん)も感情かんじやうがいしたものとおもつたらしい。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
左迄さまで恐るゝにも足らぬぢやないか、して労働者などグヅ/\言ふなら、構まはずに棄てて置け、直ぐ食へなくなつて、先方むかうから降参して来をらう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ブライアン氏は、ぶつぶつ小言を言ひながら、とても約束の時日までには先方むかうに着きかねるといふ電報を打つた。鉄路レールが水に浸つたといふ文句は精々倹約して
惡くするばかしで、結局君の不利益ぢやないか。そりや先方むかうの云ふ通り、今日中に引拂つたらいゝだらうね
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
ロミオ されば明白はっきりはうが、わしはカピューレットのあのうつくしいむすめまた戀人こひゞとめてしまうた。わしめたれば先方むかうもまた其通そのとほりにめたのでござる。
ひげするんではない、吾身わがみいやしめるんだ、うすると先方むかうでは惚込ほれこんだと思ふから、お引取ひきとり値段ねだんをとる、其時そのとき買冠かひかぶりをしないやうに、掛物かけものきずけるんだ。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
あゝはえますれどれで中々なか/\苦勞人くらうにんといふに、れはまあ幾歳いくつのとし其戀そのこひ出來できてかと奧樣おくさまおつしやれば、てゝ御覽ごらんあそばせ先方むかう村長そんちやういもと此方こちら水計みづばかりめしあがるお百姓ひやくしやうくもにかけはし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ひがし西にしみなみ三方さんぽうこのしま全面ぜんめんで、見渡みわたかぎ青々あを/\としたもりつゞき、處々ところ/″\やまもある、たにえる、またはるか/\の先方むかう銀色ぎんしよく一帶いつたい隱見いんけんしてるのは、其邊そのへん一流いちりうかはのあることわかる。
是非先方むかうより頭を低し身をすぼめて此方へ相談に来り、何卒半分なりと仕事を割与わけて下されと、今日の上人様の御慈愛おなさけ深き御言葉を頼りに泣きついても頼みをかけべきに、何として如是かうは遅きや
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
御頼み申すと云にぞお勇は彌々いよ/\にのり然樣さうならば先方むかうはなしてウンと云時は御變替へんがへなりません其所そこを御承知で御座りますかとねんおせば重四郎何が扨武士に二ごんは御座りませんと云ふにぞお勇はそれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『ハ。』と答へて、二人とも急いで店から自分達の下駄を持つて來て、裏に出ると、お吉はもう五六間先方むかうへ行つて立つてゐる。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
女は自分の云つてることがちつとも先方むかうへ通らないもどかしさと、一年も前の古い後藤の名を云ひだされた邪慳さとで、無暗に心がいきりたつた。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
うすると此方こつち引手茶屋ひきてぢやや女房かみさん先方むかうしやくさはらせたから、「てますか。」とつたんだらう。てますかとつたものを、たれないとはふはない。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
当季たうきやうなものは誠に少なくなりましたがとつて、服紗ふくさ刀柄つかいてくんだよ、先方むかうけないやうに、此方こちらを向けて鋩子先ばうしさきまでた処でチヨンとさやをさ
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
はやく、はやく、先方むかうでは吾等われら搜索さうさくしてるのだ、はやく、此方こなた所在ありからせろツ。』と、わたくしさけこゑしたに、武村兵曹たけむらへいそう二名にめい水兵すいへいとは、此時このとき數個すうこのこつてつた爆裂彈ばくれつだん一時いちじした。
サン 此方こち非分ひぶんにならぬやうに、先方むかうから發端しかけさせい。
すると先方むかうから合図があつた。
大切に致して至極しごく宜敷よろしう御ざいますと申ければ重四郎それあまりと申せば能過よすぎます私し風情ふぜいと云にお勇否々いへ/\然樣さやうでは御座りません御承知なれば御世話おせわ致しませう先でも金子の望みはなけれ共たびの御方はしりかるいによつ其故そこ先方むかう氣遣きづかひに思ひますから金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『ハ。』と答へて、二人も急いで店から自分達の下駄を持つて来て、裏に出ると、お吉はもう五六間先方むかうへ行つて立つてゐる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いまわかぎはこゑけられたので、先方むかう道中だうちう商売人しやうばいにんたゞけに、まさかとおもつても気迷きまよひがするので、今朝けさちぎはによくた、まへにもまをす、図面づめんをな
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なんでございますか誠に結構けつこう御茶碗おちやわんでと一々聞いて先方むかうはせなければなりませんよ、それからぽツぽとけむの出るやうなお口取くちとりが出るよ、粟饅頭あはまんぢう蕎麦饅頭そばまんぢうが出るだらう。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
源助は、先方むかうでもほんの田舎者な事を御承知なのだから、万事間違のない様に奥様の言ふ事を聞けと繰返し教へて呉れた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
先方むかうから來た外套の頭巾の目深い男を遣過すと、不圖後前あとさきを見𢌞して、ツイと許り其旅館の隣家の軒下に進んだ。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
先方むかうから来た外套の頭巾目深の男を遣過やりすごすと、不図後前あとさきを見廻して、ツイと許り其旅館の隣家となりの軒下に進んだ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
先方むかうへ行くなと思へば、先方へ行く様に見える。何処の港を何日いつ立つて、何処の港へ何日着くのか。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
行く時のそれは先方むかうにゐるうちに大方癒つてゐたので、二人はさほど疲れてゐなかつた。が、流石に斯うして休んでみると、多吉にも膝から下の充血してゐる事が感じられた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
するもんだ、お前達の先生はさう教へないか? 此方こつちから何か言つて返事をしなかつたら、殴つても可い。先方むかうで殴つて来たら此方からも殴れ。もつとはきはきしなけあ可かん。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私が幸ひ独身者には少し余る位収入みいりがあるので、先方むかうの路を乗越して先へ出て見たのだ。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
那麽あんな男なら、何人先方むかうで入れても安心だよ。何日いつだツたか、其菊池が、記者なり小使なりに使つて呉れツて、俺の所へ来た事があるんだ。可哀相だから入れようと思つたがね、』
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
札幌にも小樽にもう一軒の貸家も無いといふ噂もあり、且は又、先方むかうへ行つて直ぐうちを持つだけの余裕も無しするから、家族は私の後から一先づ小樽にゐた姉のもとへ引上げる事にした。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
れて居ても危險は矢張危險ぢやないですか。危險! 若しかするとうしてる所へ石が飛んで來るかも知れません、石が。』と四邊を見𢌞したが、一町程先方むかうから提燈が一つ來るので
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
一町程先方むかうから提燈が一つ来るので、渠は一二歩後退あとずさつた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)