驚愕おどろき)” の例文
聞けば聞くほど、お種は驚愕おどろきの眼をみはった。夫が彼女のもので無くなったばかりでなく、嫁まで彼女のものでは無くなりかけて来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分の坤竜丸と左膳の乾雲丸とをまとめて返しに行くつもりで、しきりに左膳の姿を捜していた徹馬が、突如驚愕おどろきの叫びをあげた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かの魂等またみなかくのごとく見えき、されど驚愕おどろき(貴き心の中にてはそのしづまること早し)の重荷おろされしとき 七〇—七二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
勘次かんじは一整骨醫せいこついもんくゞつてからは、世間せけんには這麽こんな怪我人けがにんかずるものだらうかとえず驚愕おどろき恐怖おそれとのねんあつせられてたが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こんな呑気のんきな想像が、実際を見た彼の眼を驚愕おどろきで丸くさせた。細君は夫の留守中に自分の不断着をことごとく着切ってしまった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
色を失へる貫一はその堪へかぬる驚愕おどろきに駆れて、たちまち身をひるがへして其方そなたを見向かんとせしが、ほとんど同時に又枕して、つひに動かず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わたくし武村兵曹たけむらへいそうとは今迄いまゝで喜悦よろこび何處どこへやら、驚愕おどろき憂慮うれひとのために、まつた顏色がんしよくうしなつた。今一息いまひといきといふ間際まぎわになつて、この異變ゐへん何事なにごとであらう。
今度の驚愕おどろきは前の如きものではなく、その大きな眼を一杯に見開き、唇は痙攣けいれんして引きつり、低い呻吟うめくような声が咽喉のどから押し出されました。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
無生物である人形の歩み——まさに、魂の底までもてつけるような驚愕おどろきだった。しかし、当然そうなると、人形のかたわらにある何者かを想像しなくてはならない。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
わたしは一切の話を包まず打ち明けて、この怖ろしい運命から救ってくれと哀願すると、静かに私の話を聴いていた博士の眼にも、一種の驚愕おどろきの色がひらめいた。
膝がしらを少し摺り剥いただけで、ほかに大した怪我もなかったが、あまりの驚愕おどろきにお咲は蘇生の後もぼんやりしていた。その晩から熱が出て、三日ばかり床に就いた。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此時ゆくりなく自分の眼前に、その沈黙した意味深い一座の光景が電光いなづまの如くあらはれて消えた。続いて夜の光景、暁の光景、ことに、それと聞いて飛んで来た娘つ子の驚愕おどろき
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
それが、九歳か十歳の時、大地主の白井樣が盛岡から理髮師とこやを一人お呼びなさるといふ噂が恰も今度源助さんが四年振で來たといふ噂の如く、異樣な驚愕おどろきを以て村中に傳つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
直次が驚愕おどろきに青ざめしおもてを斜に見下して、お蘭樣は冷やかなる眼中まなこに笑みをうかべて、水の底にも都のありと詠みてみかどを誘ひし尼君が心は知らず、我父は此世の憂きにあきて
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
初冬はつふゆの凍つた明い朝なぞ、忽然冷えきつた鏡のおもてに、顳顓こめかみ白髮しらがを見出した時の驚愕おどろき、絶望、其れは事實に對する恐怖であるが、これは自分の心が生みだす空想の恐怖である幻覺ハルシネイシヨンである。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
もう一度こんなような驚愕おどろきを——神経と心臓とをひどく刺戟する病気に大毒な驚愕おどろきを最近に経験するとなると、生命いのちのほども受け合われないなどと——あるいは脅かしかも知れませんけれど……
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
調しらぶるは必定ひつぢやう越前が恐入しは此伊賀亮が爲に一苦勞くらうなりと云に大膳始め皆々驚愕おどろきしからば大岡が恐入しは僞りなるか此後は如何してよからんなどあんじけるに山内笑ひて大岡手を變へて事をなさば我又其うら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かれなにかにだまされたあとのやうに空洞からりとした周圍しうゐをぐるりと見廻みまはさないわけにはいかなかつた。かれ沿岸えんがん洪水後こうずゐじ變化へんくわ驚愕おどろきみはつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
想ふに彼等の驚愕おどろき恐怖おそれとはその殺せし人の計らずも今生きてきたれるに会へるが如きものならん。気も不覚そぞろなれば母は譫語うはごとのやうに言出いひいだせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
掴まれた冬子はと見れば、不意の驚愕おどろき恐怖おそれとに失神したのであろう、真蒼まっさおな顔に眼をじて、殆ど息もない。よい漸次しだいに醒めたと見えて、お葉の顔も蒼くなって来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
再び死にし者に似たる魂等はわが生くるを知り、我を見て驚愕おどろきを目のあなより吐けり 四—六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それが、九歳ここのつ十歳とうの時、大地主の白井様が盛岡から理髪師とこやを一人お呼びなさるといふ噂が、恰も今度源助さんが四年振で来たといふ噂の如く、異様な驚愕おどろきを以て村中に伝つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、若松屋惣七は、驚愕おどろきをふきとるために、顔をなでた。平静を装おうとしているのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
講師の中に賤民の子がある。是噂が全校へひろがつた時は、一同驚愕おどろき疑心うたがひとで動揺した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
樣子やうすうかゞつてるとは氣付きづいたひとはありませんかつたが、いまげん海賊かいぞく仲間なかまその息子むすここのみなとことと、いまはなし樣子やうすで、おぼろながらもれとさとつた亞尼アンニー驚愕おどろきはまアどんなでしたらう。
しかしなるたけ、表沙汰にしたくない、不都合でもあつた時に困る。かう言つて、分家や別家の人達は町の警察に行つても頼めば、役場に行つても頼んだ。それを聞いた人々は皆な驚愕おどろきの目をみはつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
彼等かれら各自めい/\つて種々いろ/\かくれた性情せいじやう薄闇うすぐらしつうちにこつそりとおもつて表現へうげんされてた。女房はようばう言辭ことば悉皆みんなかほたゞ驚愕おどろき表情へうじやうもつおほはしめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さッ! と顔色をえたお妙は、二、三歩、泳ぐようにうしろによろめいて、鈴を張ったような眼で父親の顔を見上げた。急には口も利けないほど、打たれたような驚愕おどろきだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ええ忌々いまいましい奴だと呟きながら、その夜はそのままにやしきへ帰ったが、さてく能く考えて見ると、あれが果して妖怪であろうか、万一我が驚愕おどろき憤怒いかりの余りに、碌々にの正体も認めず
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見るにへざる貫一の驚愕おどろきをば、せめて乱さんと彼は慌忙あわただしことばを次ぎぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
マルヂヴエ群島ぐんとうへんから南方なんほうむかつてはしるなる、一層いつそう流勢ながれはや潮流てうりう吸込すひこまれてるとさとつたときおもはず驚愕おどろきこゑはつしたことと、かつものほんんだおびたゞしきくぢらむれはるか海上かいじやうながめたことほか
その声には驚愕おどろきと当惑の調子が十分にこもっていた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
で、主人あるじ驚愕おどろきは私よりも又一倍で、そう聞く上は最早一刻も猶予は出来ぬ、早速その窓を取毀とりこわし、時宜じきればの室全体を取壊とりくずしてしまわねばならぬと、すぐに家令を呼んでおもむきを命令した。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つと窓へ眼の行ったかの女の口から、絞るような、驚愕おどろきの声が……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人々は皆な驚愕おどろきの眼をみはつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
抜けるように白い女の顔に、驚愕おどろきが紅をさした。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と心中驚愕おどろきの声をあげた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)