饒舌しやべ)” の例文
「へえ。併しイワンはどうして遣りませう。」己はチモフエイに十分饒舌しやべらせた跡で、本問題に帰つて貰はうと思つて、かう云つた。
國許くにもとにござります、はなしにつきまして、それ饒舌しやべりますのに、まことにこまりますことには、事柄ことがらつゞきなかに、うたひとつござります。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
青年はあやまつて、子供を慰めるやうに慰めて、ふと饒舌しやべつた無礼の詞を忘れてくれと頼んだ。そして二人は抱き合つて和睦した。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
朋子 (現る)何を独りで饒舌しやべつてらつしするの。あのね、あなた……(と、夫の耳に口を寄せるやうにして、小声で何か云ふ)
驟雨(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
はなしませう』とつて海龜うみがめふと銅鑼聲どらごゑで、『おすわりな、二人ふたりとも、それでわたしはなをへるまで、一言ひとことでも饒舌しやべつてはならない』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
れことわすれたんべら、かくつたとおもつてたつけが本當ほんたうわかんねえほどかくつたな」寡言むくち卯平うへい種々いろ/\饒舌しやべつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
殺したなどとは無法むはふ云掛いひかけ然樣の覺えは更になし實に汝ぢは見下果みさげはてたる奴なり公儀おかみの前をもはゞからず有事無事ないこと饒舌しやべり立おのがことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いや勿論もちろん、これには御主おんあるじ擁護おうごもあらうて。自分じぶんふことは、兎角とかく出放題ではうだいになる、胸一杯むねいつぱいよろこびがあるので、いつもくちからまかせを饒舌しやべる。
が、老人はわれ/\のに落ちないやうな顔付きには一向無頓着で、僕が相当中華語のわかる男だと見てとると、一層隔てなく饒舌しやべりつゞけた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
それに釣り込まれてわつし等もついうつかりと詰まらねえことを饒舌しやべつたもんだから、今さら拔きさしもならねえやうな羽目になつてしまつて
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
しやくにさわるけれど、だれ仲間なかまさそつてやらう。仲間なかまぶなららくなもんだ、なに饒舌しやべつてるうちにはくだらうし。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
そして饒舌しやべる言葉には自信は持てないだらう、何も彼もカラツポだらう、云へば嘘より他にないのも無理はないだらう、さぞさぞ寂しいことだらう
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
滔々たう/\と縁日の口上口調で饒舌しやべり立てる大気焔に政治家君も文学者君も呆気あつけに取られて眼ばかりパチクリさせてゐた。
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
しかし君香が冗談のやうに皮肉のやうに饒舌しやべつた言葉の中には、とても只笑つては聞き流せない実感らしいものが多くあつた事を彼は疑へなかつた。
ぢいさんは、慣れ切つた調子でべちやくちや饒舌しやべり出した。聞いてゐるうちに、私は又腹が立つてならなくなつた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
尼達の饒舌しやべるのを聞いて、偸目ぬすみめをして尼達の胸の薄衣うすぎぬき掛かつてゐる所をのぞいてゐたことは幾度いくたびであらう。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
女はこんなうそを衝いてゐる。饒舌しやべりながらセルギウスの顔を見てゐるうちに、間が悪くなつて黙つてしまつた。
「……。だから諸君にとつて國語學程重要な物はない。」先生はチョッキのボタンからんだ、恐らくは天麩羅てんぷららしい金鎖を指でまさぐりながら、調子に乘つて饒舌しやべつてをられた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
良人や男連には眼も呉れず饒舌しやべつて居る人の妻を見ても、よしや、もう少し極端な例に接しても、私は寧ろ喜びます、少くとも彼等は楽しんで居る、遊んで居る、幸福である。
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なる丈沢山饒舌しやべつて、同時になる丈沢山食べられるだらうかと云ふ研究に汲々としてゐる。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
学士はまだ患者がなんと思つて饒舌しやべつてゐるか分からないでゐるうちに患者は語り続けた。
餓鬼の時から悪事を覚えた行き立てを饒舌しやべつてゐる内にや、雷獣を手捕りにしたとか云ふ、髭のぢぢむせえ馬子半天も、追々あの胡麻の蠅を胴突どつかなくなつて来たぢや無えか。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
君は寡言くわげんの人で、私も当時余り饒舌しやべらなかつたので、此会見はほとん睨合にらみあひを以て終つたらしい。しかしそれから後三十年の今に至るまで、津下君は私に通信することを怠らない。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おのれが意志を抑へ、おのれが欲するところを制して、獨り鬱々として日を送らんは、その卑怯ものゝ舉動ならずや、餘に饒舌しやべりて途のついでをも顧みざりしこそ可笑しけれ。
かれ其後そのご病院びやうゐんに二イワン、デミトリチをたづねたのでるがイワン、デミトリチは二ながら非常ひじやう興奮こうふんして、激昂げきかうしてゐた樣子やうすで、饒舌しやべことはもうきたとつてかれ拒絶きよぜつする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いつまで饒舌しやべつてやがるのだ、井戸端ゐどばたは米をぐ所で、油を売る所ぢやねえぞと。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
この声の主は不揃なる調子にて早口に饒舌しやべりたり。或はロシア人なりしかと云へり。その他前記数人の申立に符合せり。本人はイタリア人にて、ロシア人と対話せしことなしと云ふ。
絶えず滑らかな英語で、間断なく饒舌しやべりつゞけてゐたのだが、軽井沢でおりてから、四辺あたりにはかに静かになつた客車のなかで、姉のまだ若い時分——私がその肌におぶさつてゐた頃から
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
であるから、一目見て何も彼もわかるといふ人達は、何も饒舌しやべる必要はない。動ずる必要はない。多くは沈黙してゐるものである。寡黙のすぐれてゐるといふのは、このことを言ふのである。
新しい生 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
久兵衞は獨りで引受けて饒舌しやべり立てますが、彌太八は默りこくつてそれを聽くだけ、異議を挾む樣子も無いところを見ると、それは恐らく全部が全部まで本當のことだつたかもわかりません。
神よ、わし達は何と云ふ末世まつせに生きてゐるのでござらう。客人たちは皆黒人の奴隷に給仕もして貰つたさうな。其奴隷共は又何やらわからぬことば饒舌しやべる、わしの眼には此世ながらの悪魔ぢや。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
或は、弥次くつて、饒舌しやべくり廻る人もあらう。黙つて寝て居る人も有らう。走つてる人もあらう。歩いてる人も有らう。かく異つて居るから、万事平均が取れて、うまく運びが取れて行くのだ。
俺の記 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
彼のバビロン城の工人しごとしの言葉のやうな事を、無暗に饒舌しやべつて居りました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
教壇に立ツても、調子こそ細いが、白墨チヨークの粉だらけになツた手を上衣コートこすり付けるやら、時間の過ぎたのもかまはずに夢中で饒舌しやべツてゐるやら、講義は隨分熱心な方であるが、其の割には學生は受ぬ。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
私は彼女の母親にあふとあまり饒舌しやべれなくなるのであります。
ザボンの実る木のもとに (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
子供のやうに饒舌しやべり続けて縁にはまだくまのある目が赫いた。
そのお梅さんに饒舌しやべつて貰ひ、立つて貰ひ、坐つて貰つて而して夫を筆に現はすと、私が日頃みて居る以上によく描けると思ふ。
作物の用意 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こたへられたがあいちやんには愈々いよ/\合點がてんがゆかず、福鼠ふくねずみ饒舌しやべるがまゝにまかせて、少時しばらくあひだあへくちれやうともしませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
れだから彼等かれら婚姻こんいん當日たうじつにも仕事しごと割合わりあひにしてはあまりに多人數たにんずぎるので、ひと仕事しごとあつまつては屈託くつたくない容子ようすをして饒舌しやべるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「さうですか。それは僕が直に説明して上げませう。」かう云つて、己は目下の経済では、外債を募るのが一番好結果を得る方法だと云ふ説明を饒舌しやべつた。
三左 えゝ、詰らぬことをべら/\饒舌しやべるな。おたづねのことだけを手みじかに申上げればよいのだ。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「さうですか。大方そんな事だらうと思つた。お饒舌しやべり共奴が。僕はどうにかして。」
駆落 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
始末にへ無え機嫌上戸での、唯でせえ口のまめなやつが、大方饒舌しやべる事ぢや無え。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ときでも、かれからはなれてたくおもふのでつたが、とも自分じぶんよりかれを一でもはなことはなく、なんでもかれ氣晴きばらしをするが義務ぎむと、見物けんぶつとき饒舌しやべつゞけてなぐさめやうと、附纒つきまとどほしの有樣ありさま
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一人はその声が叫ぶやうであつて鋭いと云ふのも当らないかも知れないと云つてゐた。跡の二人はせはしく不整調に饒舌しやべつたと云つてゐる。どの証人も言語や言語らしい音調を聞き分けたものがない。
少しあまツたるいやうな點はあツたけれども、調子に響があツて、好くほる、そしてやさしい聲であツた「まるで小鳥がさへづツてゐるやうだ。」と思ツて、周三は、お房の饒舌しやべツてゐるのを聞いてゐると
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「お艶は幾太郎をかばひ乍らそんな事をペラペラ饒舌しやべるのか」
高趺たかあぐらかきて面白げに饒舌しやべり立てたり。
國許くにもとにござりますはなしにつきまして、それ饒舌しやべりますのにじつにこまりますことには、事柄ことがらつゞきうちうたひとつござりますので。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みんほかものまつただまつて、きはめて不快ふくわい容貌かほつきをしてゐるにもかゝはらず、女王樣ぢよわうさまなにからなにまで一人ひとり饒舌しやべつてられました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)