そし)” の例文
春告鳥はるつげどり』のうちに「生質野夫やぼにて世間の事をすこしも知らず、青楼妓院せいろうぎいんは夢にも見たる事なし。されば通君子つうくんしそしりすくなからず」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
余の仏菩薩をそしってはならぬ、破戒をすすめてはならぬなどと、厳重に弟子を誡めて、七箇条の起請文を書き、一同に署名させている。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
悪を恥ずるのもまた自らの卑しさを自ら恥ずるのであって、人にそしられるゆえではない。行為はそれ自身に貴く、あるいは卑しい。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「人の我をそしるやそのく弁ぜんよりは、るるにかず。人の我をあなどるや、そのく防がんよりは、するにかず」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
やすきにつこうとしたそしりはあるとしても、それはさめきらぬ婦人の無自覚から来た悲しい錯誤であると言わなければならない。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
是によつて国書生等は不治悔過ふぢくわいくわの一巻を作つて庁前にのこし、興世王等をそしり、国郡に其非違を分明にしたから、武蔵一国は大に不穏を呈した。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
随分皮肉なこともいうお爺さんでございましたから、この詞を余り正直に聞いて、源氏物語の文章をそしられたのだと解すべきではございますまい。
繰りかえしを彼らは迷う事なく選ぶ。進展がないとそしる人があるかも知れぬが、その代りあのひいでた初期の作物に並び得るものを今も無造作に造る。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
平田篤胤が世上の俗神職の多くをそしりて、源順朝臣が『倭名抄』に巫覡ふげきを乞盗部に入れたるを至当とせるを参考すべし。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
ところが家來けらいたちは主人しゆじんおろかなことをそしり、たまりにくふりをして、めい/\の勝手かつてほうかけたり、自分じぶんいへこもつたりしてゐました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
僕は幾ら非人間呼ばはりをされようと不孝者のそしりを受けようと更に頭はあがらないのです。けれども千登世さんだけはわるく思つて下さいますな。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
自分は西洋の事とさへ云へば、一般に日本現在の状態に比較して自然と彼方かなたを稱美し此方こなたそしるやうな傾きになる。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
「津戸為守は、専修念仏を起して聖道の他の諸宗派をそしっている、不都合千万だ」そこで領守が召して糺問されるというような沙汰さたがあったから、為守は驚いて
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
秋壑はある時、数百艘の船に塩を積んでそれをひさがした。すると詩を作ってそれをそしった者があった。
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これらの人をつらねて、五〇貨殖伝くわしよくでんしるし侍るを、其のいふ所いやしとて、のちの博士はかせ筆を競うてそしるは、ふかくさとらざる人のことばなり。五一つねなりはひなきは恒の心なし。
◯この怨語を聴きたる三友は、ヨブを以て神をそしる不信の徒となしたのである。そしてすべてかかる語を傍よりひややかに批評する者は、彼らと思を同じうするほかはない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
罪を待つ身でありながら何たる厚顔こうがん——とそしる者もある。虫のいいやつと、舌打ちならす者もある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せふかゝる悲境に沈ましめ、殊に胎児にまで世のそしりをうけしむるをおもんばからずとは、是れをしも親の情といふべきかと、会合の都度つどせつ言聞いひきこえけるに、彼も流石さすがに憂慮のていにて
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
怒った理由はその点であるが、そんなことを云える立場でもなし、云えばかみそしることになる。
心緒こころばえよしなき女は、こころ騒敷さわがしくまなこ恐敷おそろしく見出みいだして、人を怒り言葉あららか物言ものいいさがなく、くちききて人に先立ち、人をうらみねたみ、我身に誇り、人をそしり笑ひ、われひと勝貌まさりがおなるは、皆女の道にたがえるなり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
呉起ごきおのれそしりしもの三十餘人よにんころして、ひがしゑい(六五)郭門くわくもんで、其母そのははわかる。((己ノ))ひぢんでちかつていはく、「卿相けいしやうらずんば、ゑいらじ」と。つひ曾子そうしつかふ。
わたしは一生人にそしられて日影で暮すことを何とも思やしません。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
と、ののしそしる人。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
従って道元自身も、百丈の語をひいて、有仏性と言い無仏性というもともに仏法僧をそしるのであることを認めている。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
日本にも三善為康みよしのためやすの『拾遺往生伝』中に、浄蔵大法師をそしった者その日より一切の物を鼠に食わる。
「その覚えはある筈だ」第二は叩きつけるように叫んだ、「誹謗とは無いことを曲げてそしるのをいう、その事実が有ったとすれば誹謗ではない、決して誹謗ではないんだ」
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だその命名につきて一場いちぢやうの奇談あり、迷信のそしまぬかれずとも、事実なればしるしおくべし。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
いな、女学校に通う学生のあいだにおいてさえも、なお往々にしてこのそしりをまぬかれないものもある。わがはいのいう思慮しりょとはいわゆる「ロジカル・マインド」で、推理の力のいいである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
今まで物を讃えると、唯物主義とそしられたり、物を仰ぐと偶像だとへんせられたりしたが、しかしそれは唯心主義の行き過ぎで、「心」と「物」とをそんなに裂いて考えるのはおかしい。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一 兄公こじゅうと女公こじゅうとめは夫の兄弟なれば敬ふ可し。夫の親類にそしられにくまるれば舅姑の心にそむきて我身の為にはよろしからず。睦敷むつまじくすれば嫜の心にも協う。又あいよめを親み睦敷すべし。殊更夫のあにあによめあつくうやまふべし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
お上人も房籠りというて他所よそへはおいでにならないで、九条殿へだけおいでになるということは、人によっては上人程のお方でも貴顕へはへつらっておいでになるとそしる者がないとは限りません。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「もう、そんなことなど、忍びもしますが、今日は、余りにひどいことを、みんなして、つけつけというばかりか、誰やら、和歌うたにまでんで人をそしるので、口惜しくなってしまったのです」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
素襖すあをかきのへたながら、大刀たちの切字や手爾遠波てにをはを、正して点をかけ烏帽子ゑぼし、悪くそしらば片つはし、棒を背負しよつた挙句の果、此世の名残執筆の荒事、筆のそつ首引つこ抜き、すゞりの海へはふり込むと
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わしが無理借りに此方こちへ借りて来て、七ツさがりの雨と五十からの芸事、とても上りかぬるとそしらるるをかまわず、しきりに吹習うているうちに、人の居らぬ他所よそへ持って出ての帰るさに取落してしもうた
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ただその命名につきて一場いちじょうの奇談あり、迷信のそしまぬかれずとも、事実なればしるしおくべし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
しかも結局は掠奪せられ恥辱を受けることに終わっている。その証拠は眼前の京都に歴然として現われているではないか。古聖先賢も財宝をそしり、諸天仏祖皆財宝を恥ずかしめた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「……一門の茅屋ばうをくぺうあり、三尺の雄刀七尺の身、憂国みだりに招く衆人のそしり……」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この窯には時代がないのだといった方が早い。思いようによってはまさに時代遅れの窯である。それをそしる人もあろうが不思議なことには最も進んだ科学が産むものより、ともかく美しい。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一 およそ婦人の心様こころさまの悪き病は、やわらしたがわざると、いかりうらむと、人をそしると、ものを妬むと、智恵浅きと也。此五のやまいは十人に七、八は必ず有り。是婦人の男に及ざる所也。自らかえりみいましめてあらためさるべし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この家の主人はずうずうしい恥知らずのけちんぼなりとそしる人もあれば、あるいはわれわれがちょっと来るたびごとに五円、六円の玉露ぎょくろを出す必要はない、彼は「戊申詔書ぼしんしょうしょ」のご趣意をよく奉ずる
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
仰ぎて信ずる外はない。あの上人の義をそしるは大きなるとがである
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もはや世のそしりもおそれませぬ、人の批判にもおくしませぬ、いまこそ、瓦礫のなかに無名のしかばねを曝す覚悟ができました、いまこそおのれの死處がわかりました、さきほどの過言を
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
如何いかなる事情あるかは知らざれども、妾をかかる悲境に沈ましめ、ことに胎児にまで世のそしりを受けしむるをおもんばからずとは、これをしも親の情というべきかと、会合の都度つどせつに言い聞えけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
あえてその人をかんなりとてとがむるにあらず、またこれを買う者を愚なりとてそしるにあらず、ただわが輩の存意には、この人をしてなお三、五年の艱苦かんくを忍び真に実学を勉強して後に事につかしめなば
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ一つここで注意したいのは、吾々が固有のものを尊ぶということは、他の国のものをそしるとかあなどるとかいう意味が伴ってはなりません。もし桜が梅をそしったら愚かだと誰からもいわれるでしょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
余の家風までそしりおった不届き者め、それでもまことの武道を心得おると申すか
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……新蔵はその心得で戦っている、一番槍も大将首も問題ではない、一人でも多く強敵を討って合戦に勝とうとする、それだけだ、他人がなんとそしろうとも自分のことはかれ自身がよく知っている
石ころ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)