つまびらか)” の例文
其他生理学上に於てつまびらかに詩家の性情を検察すれば、神経質なるところ、執着なるところ等、類同の個条蓋し数ふるにいとまあらざる可し。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
わがすむ魚沼郡うをぬまこほりの内にて雪頽なだれため非命ひめいをなしたる事、其村の人のはなしをこゝにしるす。しかれども人の不祥ふしやうなれば人名じんめいつまびらかにせず。
若しも一々これを解釈してつまびらかに今日の通俗文に翻訳したらば、婬猥いんわい不潔、聞くに堪えざること俗間の都々一どどいつに等しきものある可し。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「大音寺前の温泉」とは普通の風呂屋ではなく、料理屋を兼ねた旅館ではないかと思われる。その名前や何かはこれをつまびらかにしない。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今日の晴雨をつまびらかに考ふるなるべしと思へば、そらのさま悪しゝ、舟出し難しなど云はれんには如何せんと、傍観わきみする身の今さら胸轟かる。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
実隆が『源語』を読み初めたのは何歳ごろからのことであるか、日記ではこれをつまびらかにし難いが、けだし文明の初年からのことであろう。
しかしこれを書した年月をつまびらかにしない。「近日倩友人清川吉人摹抄」と云ふより推せば、これを写したものは門人清川玄道愷きよかはげんだうがいであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
明治二十一年出版とされている「怪談乳房榎」のほんとうの製作年代はつまびらかにされていないが、前二作より遅れていることは明らかだろう。
あるいは一首の和歌のために命を助かり、領土を帰されしなどを始めとし、しばしばたけきもののふを動かしたること歴史伝説の上につまびらかなり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
私は時折地図に思いをはせた。だが私はその町に着くまでは、どのあたりに窯があるかをさえつまびらかにすることが出来なかった。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ヲヽランデヤノーワは日本を距ること遠くもないので、この殿が侵略されることを怖れて、その旅程をつまびらかには申上げないのである、と言つた。
辞世は「何処どこやらで鶴の声する霞かな」と云ふ由。うらむらくはその伝をつまびらかにせず。唯犬が嫌ひだつたさうだ。(九月十日)
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
素人しろうとにしてはきました、其後そのご独逸どいつへ行つて、今では若松わかまつ製鉄所せいてつじよとやらにると聞いたが、消息せうそくつまびらかにしません
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
翁の臨終りんじゅうには、かたちに於て乃木翁に近く、精神に於てトルストイ翁に近く、而していずれにもない苦しみがあった。然し今はつまびらかに説く可き場合でない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これを一読するにおしむべし論者は幕末ばくまつ外交の真相しんそうつまびらかにせざるがために、折角せつかくの評論も全く事実にてきせずしていたずらに一篇の空文字くうもんじしたるに過ぎず。
第一種の方には略製りやくせいにして胸部の搆造かうざうつまびらかならざるものも有れど大概は右にべしが如くなるべし。兩種共樣々の模樣もやう有り。殊に渦卷うづまき形を多しとす。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
連島の三宅定太郎も、池田屋事件前後には、六十余町歩の田産残るところわずか八町歩だったというが、その間のくわしい経緯は、いまつまびらかにしない。
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
西欧の詩人吾これをつまびらかにせず、東洋の古今ただ詩作家の少なからざるを見るのみ、真詩人の態度を得たるものあるを知らず、屈原くつげん陶潜とうせん杜甫とほ李白りはく
絶対的人格:正岡先生論 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
なおつまびらかに考えて見るに自己を愛するばかりでは家は治まらず家を愛するばかりでは国が立たぬゆえ、家を愛し国を愛することは人間の生存上必要であるが
その喜多流をんだ由来も、もとよりつまびらかでないが、元亀天正の乱世に、肥前に似我という忠勇無双の士が居た。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
これも境の神を祀りしところにて地獄のショウツカの奪衣婆だつえばの話などと関係あること『石神問答』につまびらかにせり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
共にコフクシと読み、巨福と関係あるもので元は其社があったものと想われるが、今は其所在をつまびらかにしない。
マル及ムレについて (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
巨勢三杖大夫の伝はもとよりつまびらかにしえないのであるが、「法王帝説」註記に、扶桑ふそう略記の欽明きんめい天皇十三年条に
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
更に之をつまびらかに曰へば智慧とは実地と理想とを合する者なり、経験と学問とを結ぶ者なり、坐して言ふべくつて行ふべき者なり。之なくんば尊ぶに足らざる也。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
た正科の外、別に英語の一科を設け、子弟をして深く新主義の蘊奥うんのうに入り、つまびらかにその細故さいこを講ずるの便を得せしめんと欲するは、余の諸君と共に賛する所なり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
僕達はこの老人のお蔭で車窓に現場を控えながら半世紀前の伊勢詣りの模様をつまびらかにすることが叶う。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
(——直さんの意味つまびらかならず。談者、境氏に聞かんとして、いまだ果さざる処である——)
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて石蒜即ち彼岸花の球根が英国に伝播でんぱし栽培されてすこぶる珍重がられた事については、別にあの博聞強記を以て鳴らした南方みなかた翁に記述の一文があってその由来をつまびらかにしている。
「藤原宿奈麿すくなまろ朝臣の妻、石川女郎いらつめ愛薄らぎ離別せられ、悲しみうらみて作れる歌年月いまだつまびらかならず」という左注のある歌である。宿奈麿は宇合うまかいの第二子、後内大臣まで進んだ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
未ダつまびらかならず仙覚抄ニ云山ちさとは木也田舎人は、つさの木といふこれなりといへり、いかゞあらむ、但し此はマツ山松ヤママツサクラ山桜ヤマザクラなどいふ如く山に生たるつねの知左〔牧野いう
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
孔子こうしいにしへ仁聖じんせい賢人けんじん(一七)序列じよれつする、太伯たいはく伯夷はくいともがらごときもつまびらかなり。ところもつてすれば、(一八)由光いうくわういたつてたかし。(一九)其文辭そのぶんじすこしも概見がいけんせざるはなん
一々府政へ密告して居るのである、さいはひにして彼の内状を最もつまびらかにする、もつとも信用すべき人の口より其の報道を得たのは、天実に我々労働者の前途を幸ひするものと信ずるのである
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
此等の陶畫すゑものゑは、皆濕に乘じて筆を用ゐるものなれば、一點一畫と雖、漫然これを下すべきにあらずなど云へり。彼は猶其つまびらかなるを教へんために、不日我を聚珍館に連れ往かんと約せり。
それから歐洲をうしうわたつて、六七ねん以前いぜんことあるひと佛京巴里フランスパリ大博覽會だいはくらんくわいで、かれ面會めんくわいしたとまでは明瞭あきらかだが、わたくし南船北馬なんせんほくば其後そのゝちつまびらかなる消息せうそくみゝにせず、たゞかぜのたよりに、此頃このごろでは
中川の意見はねて玉江嬢に語りし事もあり、今は一層つまびらか我説わがせつを述べ
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
昨夕さくせき八時三十分アフイミアは汁を盛れるへいを持ちて彼の階段を通過する際、終に倒れて下肢かし骨折をなせり。吾人は不幸にして未だルキアノツフ氏の該階段を修繕せしむるに意ありや否やをつまびらかにせず。
読者若しつまびらかに「伽羅枕」の後半部を読まば、彼の義気、彼の侠気、彼の毒気とを兼ね合せて、一条の粋抜く可からざるあるを見む。
雪水せつすゐ江河かうがみなもとやしなふなど、此外つまびらかにいはゞなほあるべし。是をおもへば天地の万物すつべきものはあるべからず、たゞすつべきは人悪じんあくのみ。
おそのさんの談話の如きは、もとより年月日をつまびらかにすべきものに乏しい。わたくしは奈何いかにして編年の記述をなすべきかを知らない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
今度はもう掛値かけねなし、一日もからないと云う日になった、と云うのを私は政府の飜訳局ほんやくきょくに居てつまびらかしって居るからたまらない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
世の荒波にもまれながらも、よくその心の純真さを失わなかった。泥沼の蓮とは晩香のことである。(廿五年三月号の主婦と生活につまびらかである。)
ただしこの遺精の語義、果して当代に用ふる所のものと同じきや否やをつまびらかにせず。識者の示教しけうを得ば幸甚かうじんなり。(四月十六日)
『尾張名所図会』に言う所の博学多材の学者鷲津幽林はすなわちこの幸八である。わたくしの見た鷲津氏系譜はいずれの時何人なんぴとの作ったものかをつまびらかにしない。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かくて不折君は余に向ひてつまびらかにこの画の結構けっこう布置ふちを説きこれだけの画に統一ありて少しも抜目ぬけめなき処さすがに日本一の腕前なりとて説明詳細なりき。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
矢は如何なる物のうちに入れおききしかつまびらかならざれど、獸皮じゆうひ或は木質もくしつを以て作りたる一種の矢筒やづつりしは疑無うたがいなからん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
明史みんし外国伝がいこくでん西南方のやゝつまびらかなるは、鄭和に随行したる鞏珍きょうちんの著わせる西洋番国志せいようばんこくしを採りたるにもとづくという。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何もつまびらかではないが、ともかくこんな念入の仕事仕度があるとは誰も考えなかったであろう。これは今もある日本の風俗のうちの特筆されていい一つに違いない。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ちなみに翁の和歌は誰かに師事したものには相違なかったが、その師が誰であったかは遺憾ながらつまびらかでない。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
旅の前には様々の計画もたてるが、いざ大和やまとへ行って古仏に接すると、美術の対象としてつまびらかに観察しようというよくなど消えてしまって、ただ黙ってその前に礼拝してしまう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼女について最もはやく書かれたものと思われる林長孺ちょうじゅの紀文では「烈婦蓮月」となっていて、漢文を書きほぐしてみると、いまだその姓氏をつまびらかにせず、京師けいしの買人某の妻なり。
蓮月焼 (新字新仮名) / 服部之総(著)