見透みすか)” の例文
四人は店口に肩をならべ合って、暗い外を見透みすかしていた。向うの塩煎餅屋しおせんべいやの軒明りが、暗い広い街の片側に淋しい光を投げていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「まあ、」と飛んだ顔をして、斜めに取って見透みすかした風情は、この夫人ひとえんなるだけ、中指なかざし鼈甲べっこうを、日影に透かした趣だったが
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
有体ありてい見透みすかした叔父の腹の中を、お延に云わせると、彼はけっして彼女に大切な夫としての津田を好いていなかったのである。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生活に對する今日こんにちまでの經驗が何事によらずすぐと物の眞底を見透みすかして興味をいでしまふし、其れと同時に、路傍に聞く新しい流行唄はやりうたなども
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
まさか六郎兵衛が知っていようとは予想もしなかったので、その名を云われたときは、心のなかを見透みすかされたように思った。
男湯と女湯との間は硝子戸がらすど見透みすかすことができた。これを禁止されたのはやはり十八、九年の頃であろう。今も昔も変らないのは番台の拍子木の音。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見て赤川大膳は心中に驚き見透みすかされては一大事と氣をはげましいか山内やまのうち狂氣きやうきせしか上にたいし奉つり無禮の過言くわごんいで切捨きりすてんと立よりて刀のつかを掛るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「何だ何だ?」と、小平太も心のうちを見透みすかされまいと思うから、わざと威勢よく二人のそばへ顔を寄せて行った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
由無よしなき者の目には触れけるよ、と貫一はいと苦く心跼こころくぐまりつつ、物言ふも憂き唇を閉ぢて、唯月に打向へるを、女は此方こなたより熟々つくづく見透みすかして目も放たず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
どうせ見透みすかされつくすのですから、なまじい夫に対する心のつくりかざりをせず、正直に無邪気むじゃきにともにくらすべし。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
其癖そのくせ私は祖母を小馬鹿にしていた。何となく奥底が見透みすかされるから、祖母が何と言ったって、ちッとも可怕こわくない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
無事ではあったけれども、こんなに見透みすかされてしまった上に、これが肩書附きの人間であることがわかってみれば、決して気味のよい道づれではありません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、この出來事できごとわたし眠氣ねむけ瞬間しゆんかんましてしまつた。やみなか見透みすかすと、人家じんか燈灯ともしびはもうえなくなつてゐた。Fまち夢中むちうとほぎてしまつたのだつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
大佐は孫軍曹の心の中を見透みすかすように注目した。何処を見ているか分らないような気味の悪い眼である。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
何となく、人を見透みすかしているような眼で。——藤吉郎には、小癪こしゃくに思えて、余り交わりをしなかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女優のしたあらゆる事が、殆どすべて見通しに女神によつて見透みすかされてゐる。先生の神に對する憧憬と、近代的の女性に對する輕侮はかういふ處にも覗ひ知る事が出來る。
毎日二時過ぎると小さなおかまでお湯をわかして、たらいへ行水のお湯をとってくれた。私は裏からも表からも見透みすかしの場処でのんきに盥の中へ座る。雨蛙にもお湯をぶっかける。
先刻さっきから覚めてはいるけれど、尚お眼をねむったままでているのは、閉じた眶越まぶたごしにも日光ひのめ見透みすかされて、けば必ず眼を射られるをいとうからであるが、しかし考えてみれば
大藏は四辺あたりを見て油断を見透みすかし、片足げてポーンと雪洞を蹴上けあげましたから転がって、灯火あかりの消えるのを合図にお菊の胸倉をって懐にかくし持ったる合口あいくちを抜く手も見せず
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると、ほのかな闇を見透みすかして居る彼の目に、柿の樹の幹のかげから黒い小さな人影が、不思議にも足音なしに現はれて来た! その人影が小さかつたことが彼をいくらか安心させた。
私は心を見透みすかされたかと驚いた。戯談や洒落の解らぬ私は、いつも一概に他人ひとの嗤ひといふものに戦きを強ひられる傾向であつたが、就中、自身の上に振りかゝつた嗤ひに身震ひを覚えた。
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
外には女将が乗りつけて来た男爵お待受けの自動車が、雨上りの道へのつそり匍匐はひつくばつてゐる。二人の男はお茶代をはじいてゐる女将の腹を見透みすかしたやうに、四五銭がとこ顔をゆがめて、一寸笑顔を見せた。
朝倉先生は、次郎の気持ちを見透みすかすように、微笑びしょうしながら言った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
思わず、忍音しのびねを立てた——見透みすかす六尺ばかりの枝に、さかさまに裾を巻いて、毛をおどろに落ちかかったのは、虚空に消えた幽霊である。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
物干台から家の中に這入はいるべき窓の障子がいている折には、自分は自由に二階の座敷では人が何をしているかを見透みすかす。
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人のところの世帯ぶりに、すぐ目をつけるお銀は、家へ帰ってからも山内の暮し方を、見透みすかして来たように話した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ろくろく口もかないで、下ばかり向いている彼女の態度のうちには、ほとんど苦痛に近い或物が見透みすかされた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小平太が進んでこの危い役割を引請ひきうけたのは、一つは心のうちを見透みすかされまいとする虚勢きょせいからでもあったが、一つにはまた、ここで一番自分の働きぶりを見せて
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
と、左手ひだりてはう人家じんか燈灯ともしびがぼんやりひかつてゐた——Fまちかな‥‥とおもひながらやみなか見透みすかすと、街道かいだう沿うてながれてゐるせま小川をがは水面みづもがいぶしぎんのやうにひかつてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
と息が止るようで、あと退さがってむこう見透みすかすと、向の奴も怖かったと見えて此方こっちのぞく、たがいに見合いましたが、何様なにさま真の闇で、互ににらみあった処が何方どっちも顔を見る事が出来ません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
見透みすかさるゝ樣な物なり夫共事成就の上此伊賀亮は五萬石の大名だいみやうに御取立になり貴殿は三千石の御旗本位おはたもとぐらゐこれが御承知ならば伊賀亮何樣いかやうにも計ひ對面すべしと云に強慾がうよく無道ぶだうの大膳是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
にこやかな唇元くちもとと、心の奥を見透みすかすような眼とを持って、武蔵は立った。小次郎もまた、笑みを持ってそれに応えようとしたが、意思と反対に、顔の筋は妙に硬ばってしまって、笑えなかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右の縮緬の胴巻をかおへこすりつけるようにして、面と手をわななかせたり、また、急に思い出したように、忙しく前後左右、原、やぶ、木立を見透みすかしたり、どうしても落着かないものになっている。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼の永才を見る眼は、心の底まで見透みすかしているように静かだった。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
物干台からうちの中に這入はいるべき窓の障子しょうじいている折には、自分は自由に二階の座敷では人が何をしているかを見透みすかす。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わけても、旦那に顔を見られるたびに、あの眼が、何だか腹の中まで見透みすかすようで、おどおどしずにゃいられない。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大きい木戸から作り庭の燈籠とうろうの灯影や、橋がかりになった離室はなれ見透みすかされるような家は二軒とはなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
種々にたゞされける所さしも世にとゞろ明奉行めいぶぎやうの吟味故其言葉そのことば肺肝はいかん見透みすかす如くにて流石さすがの平左衞門も申掠る事能はずと雖も奸智かんちたけたる曲者くせものゆゑたちまち答への趣意を變じて其身のつみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
羞恥はにかましくて、それと寧子の両親に会うと、改まって、用事でもないと、こちらの肚を見透みすかされそうなので、ただ、彼女の家の門を、行きずりの人の如く装って、行ったり来たりしてみるだけで
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒸暑い夏のには、まばらな窓のすだれを越してこういう人たちの家庭の秘密をすっかり一目ひとめ見透みすかしてしまう事がありました。今でも多分変りはあるまい。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこに男の女を追いかけている姿がかすかに見透みすかされた。それが浅井とお今とであるらしかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その日清戦争のことを見透みすかして、何か自分が山のほこらの扉を開けて、神様のお馬のくつわを取って、跣足はだしで宙を駈出かけだして、旅順口にわたりゃあお手伝でもして来たように申しますが
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足許あしもと見透みすかしている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つむぎだか、何だか、地紋のある焦茶の被布を着て、その胡麻塩ごましおです。眉毛のもじゃもじゃも是非に及ばぬとして、鼻の下に薄髭うすひげが生えて、四五本スクとねたのが、見透みすかされる。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の目はさういふ点で人間の滑稽味を、ずつと奥の奥まで見透みすかしてしもうので、その口にかゝつては、どんな生真面目きまじめな男でもカリケチユアライズされないではゐないのである。
亡鏡花君を語る (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
お千代は昨夜も良人おっとの留守を窺って、またしても小日向水道町の家へ出掛けたので、婆さんが勧誘する事の意味に心付くと共に、昨夜のことまで見透みすかされているような心持がして
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これは、と思うと、縁の突当り正面の大姿見に、渠の全身、飛白かすりの紺も鮮麗あざやかに、部屋へ入っている夫人が、どこから見透みすかしたろうと驚いたその目の色まで、歴然ありありと映っている。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水浅黄色の暖簾のれんのかかった家の入口からは、まわりに色硝子の障子のはまった中庭や、つるつるした古い光沢つやのある廊下段階子などが見透みすかされた。芳太郎は時々そこらの門口に立ち停った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お夏は人いきれに悩んだごとくうっかりしてたたずんだが、我知らずうるんだ目のまなじりの切れたので左手ゆんでを見ると、見透みすかさるる庭の模様、百合の花にも、松の木の振にも、何となく見覚えがある
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
広々した廓内くるわうちはシンとしていた。じめじめした汐風しおかぜに、尺八のふるえが夢のように通って来て、両側の柳や桜の下の暗い蔭から、行燈あんどんの出た低い軒のなかに人の動いているさまが見透みすかされた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)