衣裳いしょう)” の例文
また『春色梅暦』では、丹次郎たんじろうたずねて来る米八よねはち衣裳いしょうについて「上田太織うえだふとりの鼠の棒縞、黒の小柳に紫の山まゆ縞の縮緬を鯨帯くじらおびとし」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
一の宮に特殊な神事という鶏毛打とりげうちの古楽にはどのくらいの氏子が出て、どんな衣裳いしょうをつけて、どんなかねと太鼓を打ち鳴らすかのたぐいだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
荒物屋のおいま——今年十七になる滅法可愛らしいのが、祭り衣裳いしょうの晴れやかな姿で、湯島一丁目の路地の奥に殺されておりました。
御殿の衣裳いしょうべやのかかりにいいつけて、いちばん上等な着物を、いそいで持って来て、カラバ侯爵こうしゃくにお着せ申せ、とおっしゃいました。
馬子まごにも衣裳いしょうというが、ことに女は、その装い一つで、何が何やらわけのわからぬくらいに変る。元来、化け物なのかも知れない。
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
妙子が観劇の衣裳いしょうのままで羽織も脱がずに、絨毯じゅうたんの上に新聞紙を敷いて横倒しにすわったなり安楽椅子にもたれかかっているのを見
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
紙で作った衣裳いしょうかんむりの行司木村なにがし、頓狂声の呼出しが蒼空あおぞらへ向かって黄色い咽喉を張りあげると、大凸山と天竜川の取り組み。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
平生ふだんよりは夜が更けていたんだから、早速おつとめ衣裳いしょうを脱いでちゃんとして、こりゃ女のたしなみだ、姉さんなんぞも遣るだろうじゃないか。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アルカージナ わたしの舞台衣裳いしょうときたら、豪勢なものでしたよ。……なんといっても、着付けにかけちゃ、わたしゃ負けませんからね。
吉原仁和賀よしわらにわか朝鮮行列七枚続しちまいつづきの錦絵につきて唐人とうじん衣裳いしょうつけたる芸者の衣裳の調和せる色彩に対してゴンクウルの言ふ所次の如し。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すると女は、男をその家の納戸なんどのような部屋へ案内した。外出用の衣裳いしょうが、いく通りもそろえてある。どれでも、気に入ったのを着ろという。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だが、その言葉が終るか終らないに、作りものの衣裳いしょうとばかり思っていたその虎が、ヒョイと四つ足で立ち上がったのである。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
男の方はたいてい外套を着てるが、女の方になるてえと、手前がありだけのものをほうり出しても、まだ足りないくれえどえらい衣裳いしょうだぜ!
室殿はちと行儀ぎょうぎがよくないので、かみ衣裳いしょうも常にきちんとしていなければならない御殿住居の夏は余り好むところでないらしい。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六条院の諸夫人も皆それぞれの好みで姫君の衣裳いしょうに女房用の櫛や扇までも多く添えて贈った。劣りまさりもない品々であった。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その戦いぶりを見ようとして、権現様側に集まっていた群集の中に、お力もいた。髪を綺麗に結び、新しい衣裳いしょうを着ていた。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今の洋装のように体の輪郭を自由に現わしていた女の衣裳いしょうも、立ち居に不自由そうな十二ひとえに変わっている。住宅としては寝殿造りが確定した。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼女は流行さえ気にしなければ、一生着るだけの衣裳いしょうに事欠かないほどのものを持っていた。丸帯だけでも長さ一間幅四尺もある金庫に一杯あった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
朝早くとび起きて、頭はすがすがしく、気持は澄み、からだも夏の衣裳いしょうのように軽やかな時にだけ、彼は出かける。別に食い物などは持って行かない。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
芝居のことを若者の一人語りいでし時、このたびのは衣裳いしょうも格別に美しきよし島にはいまだ見物せしものすくなけれど噂のみはいと高しと姉なる娘いう。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
こうは見て来るものの、しかし、この衣裳いしょうに覆われた雛妓の中身も決して衣裳に負けているものではなかった。わたくしは襟元から顔を見上げて行く。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ようやく衣裳いしょうそろえて、大きな欝金木綿うこんもめんの風呂敷にくるんで、座敷のすみに押しやると、髪結が驚いたような大きな声を出して勝手口から這入はいって来た。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その氏神を持つ町内の氏子うじこの男女たちは、もう一ケ月も前からそろいの衣裳いしょうやその趣向の準備について夢中である。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
金襖きんぶすま立派なる御殿のうちもあやなる美しき衣裳いしょう着たる御姫様床の間に向って何やらせらるゝその鬢付びんつき襟足えりあしのしおらしさ、うしろからかぶりついてやりたき程
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
白木しらきのものを別として塗は拭漆のもの多く稀には墨漆すみうるし朱漆しゅうるし。しばしば特殊な衣裳いしょうをこらしてある。透彫すかしぼり浮彫うきぼりや、また線彫せんぼりや、模様もまた多種である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そのくせ、そんなにしてかざり立てたのこらずの衣裳いしょうも、王女みずからのうつくしさにはおよびませんでした。
その舞台や衣裳いしょうを想像して見たばかりで、今の青年は侮辱せられるような感じをせずにはいられないのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
還って来た時には綾錦あやにしきの衣を着て、その上を海のおおうていた。脱がせて常の麻衣あさごろもに着かえさせると、たちまちにして前の衣裳いしょうが見えなくなったとある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
例えば石、例えば衣裳いしょう、例えば軍隊、例えば権力。そして表現の量に重きをおいて、深くその質を省みない。表現材料の精選よりもその排列に重きをおく。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かねて竜宮界りゅうぐうかいにも奇麗きれいな、華美はでなところとうかがってりますので、わたくしもそのつもりになり、白衣びゃくいうえに、わたくし生前せいぜんばんきな色模様いろもよう衣裳いしょうかさねました。
だれも彼もがはなやかに着飾きかざり、それぞれ美しい花のついた葵のかずらをかけて、衣裳いしょうには葵のかずらをつけている。……
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
父親さえもそれが小雪の本身だと信じていることでした、……美しい衣裳いしょうを着たい年ごろ、お化粧をしたり、髪かざりをすることがなにより楽しい年ごろの娘に
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
綺麗きれいに盛りつけます」という言葉に誘われて、食器はと見れば、これまたガラクタばかり。食器は料理の衣裳いしょうだということを、ご婦人講師さんとくとお考えあれ。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
今までおいになっていたおぐしを、少女のようにすきさげになさり、おんおば上からおさずかりになったご衣裳いしょうして、すっかり小女こおんな姿すがたにおなりになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
団十郎のふんした高時の頭は円く、薄玉子色の衣裳いしょうには、黒と白とのうろこの模様が、熨斗目のしめのように附いていました。立派な御殿のひさししとみを下した前に坐っています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
紅、黄、紫、あい、黒などの、禁ぜられた衣裳いしょうを着用できるのは、舞台上の扮装ふんそうの場合だけである。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
明るい色の衣裳いしょうや、麦藁帽子むぎわらぼうしや、笑声や、噂話うわさばなし倐忽たちまちあいだひらめき去って、夢のごとくに消えせる。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
小さな娘は着のみ着のままであまり大きくなり始めてるのだった。生長はそういう悪戯いたずらをすることがある。裸体がふしだらとなる頃には、衣裳いしょうは短かすぎるようになる。
夜も大分遅くなっていたので、主人はわたしたちに旅の衣裳いしょうを着かえさせようとせず、ただちに案内して、大きな古風な広間にあつまっている人たちのところへ連れていった。
横浜おきで歓迎船が見えだしてから、ぼくはあわてて、あなたの写真を内田さんと一緒にらせてもらいました。あなたの衣裳いしょうも顔もしわくちゃにレンズのなかにぼけて写っていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
箪笥たんすから取出した衣裳いしょうを義母と義姉はつぎつぎと畳の上にくりひろげて眺めた。妻はもっている着物を大切にして、ごく少ししか普段着ていなかったので、ほとんどがまだ新しかった。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
あくるとしとったほうのおんなは、デパートの、かざられた衣裳いしょうまえっていました。そこには、三万円まんえんふだのついた帯地おびじ、また二万円まんえんふだのさがったが、かかっていました。
かざぐるま (新字新仮名) / 小川未明(著)
披露目ひろめをするといってもまさか天婦羅を配って歩くわけには行かず、祝儀しゅうぎ衣裳いしょう、心付けなど大変な物入りで、のみこんで抱主かかえぬしが出してくれるのはいいが、それは前借になるから
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
所作事しょさごと道成寺入相鐘どうじょうじいりあいのかね」——怪しげな勘亭流かんていりゅう、それを思い切って筆太に書いた下には、うろこ衣裳いしょうを振り乱した美しい姫、大鐘と撞木と、坊主が数十人、絵具が、ベトベトとしてなまな色。
辰弥は生得馴るるに早く、咄嗟とっさの間に気の置かれぬお方様となれり。過分の茶代に度を失いたる亭主は、急ぎ衣裳いしょうを改めて御挨拶ごあいさつまかり出でしが、書記官様と聞くよりなお一層敬い奉りぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
もちっとあとのことで、九女八はこの大阪から帰ってから後、大正二年の七月に、浅草公園の活動劇場しばいみくに座で、一日三回興業に、山姥やまうば保名やすなを踊り、楽屋で衣裳いしょうを脱ごうとしかけて卒倒し
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「敵といえば、わかっているよ。例の緑色の怪物だ。いや、ここでは緑色の衣裳いしょうをぬいでいるかもしれないが……。しかし、少くともわれわれのいるここへ来るときは、例の服装でいるだろう」
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
或る冬の日本郷肴町ほんごうさかなまちの小鳥屋の前に立って、その頃流行していたセキセイインコの籠のたくさん並んでいるのを見ていたが、どうもこの小鳥の極彩色の華美な衣裳いしょうと無限につづくおしゃべりとが
木彫ウソを作った時 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
その人は、おごった衣裳いしょうも着ていないし、宝石もつけてはいず、誰もその名を知る人はありません。けれど、その人はわたしを待ち受けているし、また、わたしがきっと行くものと信じきっています。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
朝鮮の祖母は私に美しい衣裳いしょうを持って来てくれた。