はまぐり)” の例文
お上品で、軽くて、いくらでも食える。二十日 北の駅前、香穂のお狩場焼。はまぐりや海老等の海産物と、牛肉豚肉鶏肉、ごっちゃまぜ。
このたび大阪 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
山中さんちううらにて晝食ちうじき古代こだいそつくりの建場たてばながら、さけなることおどろくばかり、斑鯛ふだひ?の煮肴にざかなはまぐりつゆしたをたゝいてあぢはふにへたり。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きっと健胃剤の類でしたろう。傍らの木の箱に、綺麗にしたはまぐりの貝殻があるのは、膏薬こうやくを入れて渡すのでした。その膏薬も手製です。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
すずめしてはまぐりたぐいにもれず、あらかた農を捨てて本職の煙火師に化けてしまったというのが伝えられているこの郷土沿革なのである。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがはまぐりの貝のやうな、暖かい色をしてゐるのは、かすかな光の加減らしい。眼は人よりも細いうちに、絶えず微笑が漂つてゐる。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
酒のさかなには山家のふき、それに到来物のはまぐり時雨煮しぐれにぐらいであるが、そんなものでも簡素で清潔なのしめぜんの上を楽しくした。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
結果は肯定的で、はまぐりの貝殻を、水で一時間くらい煮ると、簡単なテストでわかるていどに、カルシウムがとけ出るそうである。
貝鍋の歌 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ことばを換えてさらにいってみるならば、要は書の中身が大切な問題となるのである。例えば美しいはまぐり貝があるとする。しじみ貝があるとする。
この尾張の女が、美濃狐のことを聞いて、一度試してやろうと云うので、はまぐり熊葛くまつづらで作ったねり皮とを船に積んで、小川の市へやって来た。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
無秩序に積みかさねられたところは、九千尺に近い山中というよりも、かきやはまぐりの殻を積み上げた海辺にでも、たたずんでいるようであった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
はまぐりが気を吹き出すのであるなどの迷信あれども、別に災難が起こるとか、飢饉ききんの前兆などと申すものもなく、無事平穏である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
立派な仙台平せんだいひらはかまを着けてはいるが、腰板こしいたの所が妙に口をいて、まるではまぐりを割ったようである。そうして、それを後下うしろさがりにっている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ののしらるべくもあるところをかえって褒められて、二人は裸身はだかみの背中をなまはまぐりで撫でられたでもあるような変な心持がしたろう。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
下屋敷ははまぐり町にあった。しかし半次は河岸っぷちをまっすぐに、亀久橋を渡って、しげもり稲荷のほうまで歩いていった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はまぐり井戸といつて、水が蛤の水の様に紫がかつた色をして居り、量も多く質もよく、その辺の家々の共同井戸になつて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
はまぐりの息の中に美しい龍宮城りゅうぐうじょうの浮んでいる、あの古風な絵を想像していた私は、本物の蜃気楼を見て、膏汗あぶらあせのにじむ様な、恐怖に近い驚きに撃たれた。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
壇の浦で有名な平家蟹へいけがになどは八本ある足の中の四本を用いて、はまぐりのごとき貝の空殻あきがらを背負い、他の四本でうている。
自然界の虚偽 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
我国の静かな田園村落の外縁で、屡々見受ける、灰やはまぐりの殻やその他の大きな公共的な堆積は、どこにも見られない。
そこには店頭みせさき底曳網そこびきあみ雑魚ざこを並べたり、あさりやはまぐり剥身むきみを並べている処があって、その附近まわりのおかみさんが、番傘などをさしてちらほらしていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貫之つらゆきの哥に「しほのぼるこしみづうみちかければはまぐりもまたゆられにけり」又俊成卿としなりきやうに「うらみてもなにゝかはせんあはでのみこしみづうみみるめなければ」又為兼卿ためかねきやうとしを ...
要するに山芋やまいもうなぎすずめはまぐりとの関係も同じで、立会たちあいのうえで甲から乙へ変化するところを見届けぬかぎりは、真の調書は作成しえなかった道理である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
このごろの朝の潮干しおひは八時過ぎからで日暮れの出汐でしおには赤貝の船が帰ってくる。予らは毎朝毎夕浜へ出かける。朝の潮干にははまぐりをとり夕浜には貝を拾う。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
今日はまぐりを食べていると、貝のなかから小さな蟹が出た。貝隠れといって、蛤や鳥貝の貝のなかに潜り込み、つつましやかな生活を送っている小さな食客だ。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
その次のは「さけ」とあるらしいが縄暖簾の陰になって居て分らぬ。その次のには「なべ」と書いてあって、最も左の端の障子にははまぐりの画が二つ書いてある。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
あの時分は川尻によしが生えてゐた。潟からは淺蜊あさりしじみはまぐりがよく獲れて、奇麗な模樣をした貝殼も多かつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
はまぐりは一箇の代銀二厘六毛、貝の縦の長さ二寸が標準であった。小鳥は、十羽の代が銀一分七厘三毛。蕨は、一把五十本束代銀五厘二毛、などというのであった。
にらみ鯛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
醒睡笑せいすいしょう』に、海辺の者山家に聟を持ち、たこ辛螺にしはまぐりを贈りしを、山賤やまがつ輩何物と知らず村僧に問うと、竜王の陽物、鬼の拳、手頃の礫じゃと教えたとある通り
貝のままのはまぐりを鉄板の前にのせて、ご飯しのアルミのふたをすっぽりとかぶせながら、そう言う「惚太郎」の細君の声には、たしかに軽い憤りがこめられていた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「この辺には、珍らしい貝はないよ。なんだい、それや、はまぐりぢやないか。そんなもんしやうがねえや」
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
魚や肉などは余りに買わないで多くは浅蜊あさりはまぐりまたは鰯売り位を呼込んで副菜にし、あるいは門前の空地に生い茂っているあかざの葉を茹でて浸し物にする事もあった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
思い切って区々まちまちであったところから、昔、信玄公が勝千代時分に、畳に二畳敷ばかりもはまぐりを積み上げて、さて家中かちゅうの諸士に向い、この数は何程あらん当ててみよと
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
屠蘇と一緒に出される吸物も案外に厄介やっかいなものである。歯の悪いのにはまぐりの吸物などは一番当惑する。
新年雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
目は明いておるが盲目めくらであったと申すか。道理ではまぐりのような目を致しおったわい。それにしても源七とやらは、とうにもう大川から三の川あたりへ参っている筈じゃ。
従って私は水泳の時間は欠席するかはまぐりあさる事によって、せめての鬱晴うさばらしとしたものであった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
なが素人連中しろうとれんぢうにも上手じやうずの人々は我も/\とこゑ自慢じまんもあれば又ふし自慢じまんもあり最もにぎはふ其が中に今宵城富は國姓爺合戰こくせんやかつせんしぎはまぐりだんを語りけるに生得しやうとく美音びおんの事なれば座中ざちうなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この小女力者、大女力者を試すのに、はまぐり五十斛を捕つて、船にせてゆき、少川のまちとまつた。
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
三 赤貝の汁をしぼつてはまぐりの貝に受け入れて母の乳汁として塗つた。古代の火傷の療法である。
眼の下あたりにくぼみがあつたり、頬の骨が飛び出てゐたりするけれども、リヽーの顔は丈が短かく詰まつてゐて、ちやうどはまぐりを倒まにした形の、カツキリとした輪郭の中に
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
田中がまたすぐ礼状を出してそれが桂の父に届いたという一件、またある日正作が僕に向かい、今から何カ月とかするとはまぐりをたくさんご馳走ちそうするというから、なぜだと聞くと
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
... 豚と竹の子のお料理は美味おいしいものですよ」妻君「それからまだ豚のお料理が出来ますか」お登和「ハイ、その次は三段肉の湯煮たのへ醤油と酒で味をつけてよく煮ておいて別にはまぐりを ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
眞珠太夫といふのは、泰西たいせいのヴイナスの傳説のやうに、越中の國で蜃氣樓しんきろうを吐く大はまぐりを見付け、磯へ引あげて一と晩砂濱へ置くと、中から、玉のやうな女の兒が生れたといふのです。
ある店では、紋のついた油障子の蔭から、赤いかにや大粒のはまぐりを表に見せていた。ある店では、ショウウィンドーの中に、焼串やきぐししぎを刺して赤蕪あかかぶ和蘭芹オランダぜりと一しょに皿に並べてあった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
張子のとらや起きあがり法師を売っていたり、おこしやぶっ切りあめひさいでいたりした。蠑螺さざえはまぐりなども目についた。山門の上には馬鹿囃ばかばやしの音が聞えて、境内にも雑多の店が居並んでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ふむ。いい土性っ骨だぜ」妙に感心して坊主頭を振り立てた奴、「だがね、その手は桑名くわなの焼きはまぐりだ。なあ、おめえが今しがたあそこのお邸を抜けて来たてえこたあこちとら百も、承知なんだ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
介殻かいがら——大きいのは栄螺さゞえ位、小さいのははまぐり位の——見たいな家に猫のひたいよりまだ狭い庭を垣根で仕切って、隣の庭がみえても見えない振りをしながら、隣同志でも話をした事のないと云う階級の
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
暴風の日私が海へ行って荒れ海の中ではまぐりをとってきた、それは母が食べたいと言ったからで、母は子供の私が荒れ海の中で命がけで蛤をとってきたことなど気にもとめず、ふりむきもしなかった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
はまぐり御門の時より、一段の進歩だ。それに味方の伝習隊が役に立たぬ」
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
越中島も蘆でいっぱい、春の潮干も土手から下りて干潟がつづき、見事なはまぐりの本場で、土手内はすべて海苔のり干場、これも洲崎海苔といって大判の上物、品は下ったが干場は三十年頃まで残っていた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
吉原帰りは田町のはまぐりへ行って一盃いっぱいやろうと皆其のうちへ参ります。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ちょうどはまぐりくちのようになつてをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)