きのこ)” の例文
山家やまがあたりにむものが、邸中やしきぢう座敷ざしきまでおほききのこいくつともなくたゝるのにこうじて、大峰おほみね葛城かつらぎわたつた知音ちいん山伏やまぶしたのんでると
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三三 白望しろみの山に行きて泊れば、深夜にあたりの薄明るくなることあり。秋の頃きのこを採りに行き山中に宿する者、よくこの事に逢ふ。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
... 太田の金山かなやまへでも御一緒に参ってみたいものです。秋に山へ参ると松茸のほかに色々なきのこが出ていて面白うございましょうね」お登和嬢
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
火事できのこが飛んで来たり、御茶おちゃ味噌みその女学校へ行ったり、恵比寿えびす台所だいどこと並べたり、或る時などは「わたしゃ藁店わらだなの子じゃないわ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雨がつゞいたあとでは、雑木林にきのこが立つ。野ら仕事をせぬ腰の曲った爺さんや、赤児を負ったお春っ子が、ざるをかゝえて採りに来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そんな晩に一度か二度美しい狐にあったこともある。紅葉がそろそろ散りはじめ、月もだんだんかけてくると、いよいよきのこの季節となる。
山の秋 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
しめじはこのへんでいちばんいいきのこだということ、なに茸とかいって傘の径が一尺もある気味の悪いのもたべるということなど。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
ちょうどこの白い触肢のあるきのこみたいに、ばらっと短い後毛おくれげが下ってさえ、もう顔の半分も見えなくなってしまうのですから。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
女学生たちのゆう飯の膳に出たものは、山女やまめの塩焼と豆腐のつゆとひらとで、平の椀には湯葉と油揚あぶらげきのことが盛ってあった。
山椒魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寝ころんでいるのがきてくると、こんどは乾草の原っぱへ出かけたり、森へきのこをとりに行ったり、でなければ百姓が投網とあみをするのを見物する。
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そこにはすたれた古い石坑が一つあって、今ではただきのこがはえるだけのことで、腐った板の引き戸で地面にふたがしてある。
彼女は灌木が大きなきのこのように生え群がる間を抜けて、鬱蒼うっそうとした雑木林の中に潜入した。出た処はケンウッドの森の一寸した突出部であった。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ブランデスは、そういった臭いきのこが近くに生えているような氣がして、二三度身體のむきを變えたが、でもやっぱり起きあがろうとはしなかった。
荷物を斜めに背負って、ちょこちょこ出かけますと、きのこが歩いて行くといって笑われますが、一向平気なものでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
根の間から生え出たきのこが、病衰した樹木の汁を吸って、それをしだいに空洞くうどうになしていた。黒ありが朽木を砕いていた。
それにその裏手が、なしだの桃だのの苗木が植えつけられてあり、なおそれに続いて荒れた雑木林があって、そこには食べられる小さなきのこがあったりした。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
汽船が着くと、例の客引きたちはいち早くきのこのようにデッキに現われて、一人一人の客に世話を焼いていた。
わしはすべての陰気なものを生み出すようなほこらの陰の湿地しっちにぐじゃぐじゃになって、むらがりはえた一種異様な不気味ぶきみな色と形をした無数のきのこを見つけました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「下をごらん。あの下にきっと石筍せきじゅんがあるから。ああ、ある、ある。まるで白いお化けきのこみたいだねえ。」
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
木曾では鳥屋とやの小鳥もれ、きのこの種類も多くあるころで、旅人をもてなすには最もよい季節を迎えていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうでなければ、石占山いしうらやまから取って来てお茶うけのつもりで出したあのきのこの中に、きちがい茸があってそれを食べたために、すべての者が狂い出したのでしょう。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「左様——」と阿賀妻はほほ笑んだ、「野には、ふくいくと匂うきのこが今を限りとむらがり生えていましたな」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
左衛門尉は馬に乗つてつて来た。石黒氏は阿父おとつさんに催促せられて慌てて頭を下げてゐた。左衛門尉は自分の前にきのこのやうにつくばつてゐるこの二人に目をつけた。
人間だってきのこだってそう簡単にそだつものではない。いかにもそれが重要なことであるかのごとく、かれらのほかには君を理解する者が十分ないかのごとき態度だ。
あちこちに廻転木馬・輪投げ・動揺椅子・電気るうれっと・糸引き・人形撃ち・玉ころがしなどのゲイムの小屋がきのこのようにすくすくと建ってそれぞれに客をあつめ
その間、彼の眼のうちらには、彼女の幼時の写真の古いきのこのような色がひとりでにたまってくるようだった。次の部屋から再び帰ってきた彼女は彼に二枚の写真を渡した。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
高射砲弾は、さかんに頭上で炸裂さくれつしていた。照空灯しょうくうとうと照明弾とが、空中でみ合っていた。その中に、真白な無数のきのこがふわりふわりと浮いていた。落下傘部隊らっかさんぶたいであった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丁度四歳の初冬の或る夕方ゆうかた、私は松や蘇鉄そてつ芭蕉ばしょうなぞに其の年の霜よけをし終えた植木屋のやすが、一面に白く乾いたきのこび着いている井戸側いどがわ取破とりこわしているのを見た。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
何をたって連藏さんとは心安いもんで、きのこちっとばかり採ったから商売の種に遣りてえと思って持って来て、縁側で一服って居ると、向うの離座敷で暴れ廻る客があるだ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ある日、母が珍しく裏の山にナバ(きのこ)を取りに出た。兄と私とが嬉しがってその前後に飛びまわった。すると猫も跡からやって来て、手柄顔に高い松の木に駈けあがったりした。
私の母 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
ファアウマのは丹毒のおそれがあるから素人療法では駄目らしい。夕食後騎馬で医者の所へ行く。朧月夜おぼろづきよ。無風。山の方で雷鳴。森の中を急ぐと、例のきのこの蒼い灯が地上に点々と光る。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
むせぶほど強烈な草いきれや、きのこのかおりが鼻につく、私はそれをむさぼるように吸い込む。
彼は落ちてる木の実や苔の間のきのこなどを食べ、ところどころに湧き出てる泉の水を飲み、疲れると一枚の毛布にくるまって落葉の上に眠り、そしてただ真っ直ぐに歩いて行きました。
魔法探し (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
浅ましくも竹笊たけざるへ、みにくきのこのように入れたのが、ざっと二十もあるでしょう。
にちさうしてもなくつて巨人きよじん爪先つまさきには平坦へいたんはた山林さんりんあひだ介在かいざいしてかく村落そんらく茅屋あばらやこと/″\落葉おちばもたげてきのこのやうなちひさな悲慘みじめものでなければならなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
干したきのこの汁はもう冷えていて、ひなた臭いような味だけが舌に残り、七十郎は顔をしかめた。気の毒に、と彼は口の中で呟き、それから、両手をうしろに突いて、ぐたっと上躰を反らせた。
が、後ろのベンチで、春婦の群れがきのこのようにかたまったままじっと二人を眺めていた。彼は溜息を洩らすと、再び宮子から放れて脊を延ばした。すると、逆に宮子の身体が甲谷の方へ倒れて来た。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
林中にはもみが生ひ茂つて、その木下こしたにはきのこの群生した所もあつた。そこを通抜けると、紅葉もみぢして黄色く明るくなつた林を透して深い谿間たにまが見える、その谿間をイーサルの川が流れてゐるのである。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
その食物は多くは山林の自然生の草の実あるいはきのこ等であって、その草の毒であるか毒でないかという事を知るのは実に鋭敏なもので、なんでもこの草はこういう病気の折にはこれを喰えばなおるとか
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そこからきのこの薫りは生れ
秋の日曜 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
三三 白望しろみの山に行きてとまれば、深夜にあたりの薄明うすあかるくなることあり。秋のころきのこを採りに行き山中に宿する者、よくこの事に逢う。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
談中——主なるものは、きのこで、かれが番組の茸をげて、比羅びらの、たこのとあのくたらを説いたのでも、ほぼ不断の態度が知れよう。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その小屋の隅に見なれないきのこの二つ三つ生えているのをお年が見つけて、あれは何だと蛇吉にたずねると、それは蛇を捕る薬であると彼は説明した。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その瞬間教授の頭にきのこのやうにむくりと持上つたものがある。理髪床かみゆひどこ親仁おやぢが好く地口ぢくちといふものだ。
それを付け合せのきのこの淡白の味が飄逸に取做とりなす、山野の侘びとフランス人工のおごりとの取合せだ。
食魔に贈る (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし、稚市の姿が、視野から外れてしまうと、滝人はかたわらの、大きなきのこに視線をとめ、それから、家族の一人一人についての事が、数珠じゅず繰りに繰り出されていった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ぢいやがやまからきのこつてたり、くりひろつてたりするころは、おうち爐邊ろばたたのしいときでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
というのは、その地方には一種のひどく水氣をふくんだきのこがあって、それが二三日生えていたかと思うと、すぐにくずれて、どうにも鼻もちのならない惡臭を發散するのであった。
それらの落葉の間からはときどき無気味な色をしたきのこがちらりとのぞいていたり
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
きのこのさせる業と見るよりほかにみようはないが、それにしても、一応食物を分析した上でなければ科学的の立証はできないが、巷間こうかんの伝説に従えば、左様の例は決して無いことではない。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)