脇腹わきばら)” の例文
いつの間にやら、第三コメディ「砂丘さきゅうの家」は幕となった。弦吾は同志帆立に脇腹わきばらを突つかれて、あわてて舞台へ拍手を送った。途端とたん
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その上、大工の半次は喜三郎がしやくにさはつてたまらないから、いきなり後袈裟うしろげさに斬つたことだらう。側に居たケチ兵衞は、脇腹わきばらを刺した
彼がその動作に熱中し過ぎて掛けていた眼鏡を落したのが、私の脇腹わきばらの上に落ちてヒヤリとしたので、とたんに私は眼を覚ましたのだった。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
画家はゆったりと椅子によりかかり、寝巻のシャツをはだけ、片手をその中に差しこんで、それで胸と脇腹わきばらとをなでていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
仔羊たちが、ごくごく乳を吸っている間、おっさん連は、脇腹わきばらを鼻の頭で激しく小突こづかれながら、安らかに、素知そしらぬ顔で、口を動かしている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ひだり脇腹わきばらのあたりにすわりました、女性をんなひざは、寢臺ねだいふちと、すれ/\のところに、ちうにふいと浮上うきあがつてるのですよ。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ここに至って、いさぎよき新兵衛の白状ぶりを期待していると、新兵衛はその刀を取り直すが早いか我が脇腹わきばらへ突き立てた。
右の脇腹わきばらの傷口を、両手でじっと押えながら、全身をきむしるほどの苦痛を、そのかぬ気で、その凜々りりしい気性で、じっとこらえているのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
庸三はドクトルの指図さしずで、葉子の脇腹わきばらひざでしかと押えつける一方、両手に力をこめて、ももを締めつけるようにしていたが、メスが腫物をえぐりはじめると
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
取なといはるゝに忠右衞門殊勝けなげにも然らば父上ちゝうへ御免をかうむり御先へ切腹仕つり黄泉くわうせん露拂つゆはらひ致さんといさぎよくも短刀たんたうを兩手にもち左の脇腹わきばらへ既に突立つきたてんとする折柄をりから廊下らうか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
胸から脇腹わきばらにかけて、出血のために着物がべとべとになっているだけであった。彼はさらに、腕や脚を精細に調べてみた。やはり、腕や脚にも擦過傷はなかった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
脇腹わきばらをつついたり、鼻の穴に棒切ぼうぎれをさしこんだりしてみましたが、馬はくすぐったがったり、くしゃみをするきりで、あくびをする気配けはいさえもありませんでした。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
途端に「あッ」という悲鳴が起こり、刀をふりかぶったまま、鶴吉はからだねじりましたが、やがて、よろめくと、ドット倒れました。脇腹わきばらから血が吹き出しています。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かはやぶれ、にくたゞれて、膿汁うみしるのやうなものが、どろ/\してゐた。内臟ないざうはまるで松魚かつを酒盜しほからごとく、まはされて、ぽかんといた脇腹わきばら創口きずぐちからながしてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その蒼ざめた、死んだやうに見える顏が——お客のメイスンであることを私は認めた。そしてまた彼のシヤツの脇腹わきばらと片方の腕とが殆んど血に浸つてゐるのをも見た。
遠州なだの荒海——それはどうやらこうやら乗切ったが、掛川かけがわ近くになると疲労しつくした川上はふなばた脇腹わきばらをうって、海の中へころげおちてしまった。船はくつがえってしまった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
『あらまあ!』母親はこう言いながら、こわごわ夫の脇腹わきばらをつつきました。父親は眼をあけると、手でこすりこすり、一心に働いている小さい少年のほうをながめました。
この国の風習になっている背負袋ルックザックを、しめがねでとめて肩にかけているし、粗毛織あらけおりらしい布地の、黄ばんだ、バンドつきの服を着ているし、脇腹わきばらにあてている左の下膊かはくには
そのうちの一回ではくるぶしをくじかれ、また鼻をも傷つけられ、その上に顔じゅう一面「パルプのように」ふくれ上がり、腹や脇腹わきばらにはまっかな衝撃のあとを印していたそうである。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
釈迦が女の右の脇腹わきばらから生れたの、聖霊に感じて基督キリストを生んだの、日をんで秀吉ひでよしを生んだのと申すのは、女はけがらわしい物だと思う考えが頭にあって書かれた男の記録でしょうが
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
廊下も真暗です。少佐は爪先探つまさきさぐりに進んで行きました。すると、不意に横から少佐目がけて、パッと懐中電灯がてらされました。そうして同時に、固いものが少佐の脇腹わきばらに当りました。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
馬が飛びあがったのは事実だが、今度は道の向う側のいばらやはんの木のしげみに飛びこんだ。先生は今やむちかかとと両方使って、年とったガンパウダーのやせほそった脇腹わきばらを滅多打ちにした。
ぐいと拍車を両の脇腹わきばらへ入れて、にぎりこぶしで首に一撃いちげきを加えたのである。……
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ひざから脇腹わきばらの方へ進むにしたがって、妻の下半身の表情がおもむろに現れて来る。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
びっくりしていだき起こしてみると、さき深く自分の手で脇腹わきばらえぐっていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
強者にあっては、苦悶くもんも、憐憫れんびんも、絶望も、回復できない亡失の痛切な負傷いたでも、死のあらゆる苦痛も、猛烈な拍車で彼らの脇腹わきばらをこすりながら、この生の喜びを刺激し煽動せんどうするばかりである。
そこで、みんながそとてみますと、ボンは脇腹わきばらのあたりをせわしそうに波立なみだて、くるしいいきをしていました。そうして、もうんでも、がってることもできなかったのであります。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
尤も彼等の方も相手方から、脇腹わきばらだの鳩尾みぞおちだの、顎だのに手痛い打撲を蒙ったものだが、それでみると、なかなかどうして、死んだ相手方も素晴らしく大きな拳骨の持主であったことが立証された。
蛇丸じゃまる——という名のとおりに、生き物のごとく自ら発して、しゃ二に襲いかかってくる壁辰の脇腹わきばらを、下から、つかまで肉に喰い込んで突き——上げたと見えた秒間、その紙一枚のような瞬刻しゅんこくだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
變だなと思つて、身をかはして助かりましたが、それでも、脇腹わきばらはれて、大きい引つ掻きを拵へました、日頃の氣丈で苦にもしないけれど
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
それは、可なり鋭い洋刀ナイフで、右の脇腹わきばらを一突き突いたものだった。傷口は小さかったが、深さは三寸を越していた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
血のみた山刀を振り廻して金蔵は眼を白黒しろくろ、苦しまぎれにお豊の名を呼びながら無茶苦茶に飛びかかって山刀で鍛冶倉の面を斬る。鍛冶倉は左の脇腹わきばらを刺されている。
とほれと脇腹わきばら愚刺ぐさと計りに差貫さしつらぬけば何ぞたまらん庄兵衞はあつと叫も口の中押へ附られ聲出ず苦き儘にもがきけるをお光は上へまたがりて思ひの儘にゑぐりければ七てんたうふるは虚空こくう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今日は初めて刺針さしばりのいうことを聴かず、左右に逃げ回り、カストオルの脇腹わきばらにぶっつかり、腹を立て、そして車に繋がれてからも、まだ一生懸命自分たちの共同の軛を揺すぶろうとしている
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
だから人間でも脇腹わきばらへそのへんに特別な発声器があってもいけない理由はないのであるが、実際はそんなむだをしないで酸素の取り入れ口、炭酸の吐き出し口としての気管の戸口へしたを取り付け
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
はゞせま黒繻子くろじゆすらしいおびひくめにめて、むね眞直まつすぐにてて、おとがひ俛向うつむいて、額越ひたひごしに、ツンとしたけんのあるはなけて、ちやうど、わたしひだり脇腹わきばらのあたりにすわつて、あからめもしないとつたふう
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
きらめく懐剣かいけん、ぴかッと呂宋兵衛の脇腹わきばらをかすめる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弦吾はひじでチョイと同志帆立の脇腹わきばらつついた。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
美奈子は悲鳴を挙げながら、逃げた。牡牛は、逃げ遅れた母に迫った。美奈子が、アッと思う間もなく、牡牛の鉄のような角は、母の脇腹わきばらえぐっていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
どつと流れる人波、押されるともなく行つて見ると、月の隈もない路地の中程、隱居の山右衞門は脇腹わきばらをゑぐられて血潮の中に息が絶えてゐるではありませんか。
手元五尺ばかはすかけに切落きりおとせり兵助は心得たりと飛込とびこみそのはすかけにきられし棹竹にて六郎右衞門が脇腹わきばら目掛めがけ突込つきこんだり六郎右衞門は堪得たまりえず其處にだうとぞたふれたり兵助立寄たちより六郎右衞門がもちし脇差にて最期刀とゞめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのうちに、とうとう左の脇腹わきばらへがっくりと首を落してしまう。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「兄さん」と私は荘六そうろく脇腹わきばらをつつきました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御用とも何とも言はず、ツイ鼻の先でかいを握つて居る男の脇腹わきばらを、思ひ切り一つ突きました。
水戸はドレゴの脇腹わきばら小突こづいた。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
脇腹わきばらめがけて、ぶってやろと
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)