緋縮緬ひぢりめん)” の例文
其後そのあとから十七八とも思われる娘が、髪は文金ぶんきん高髷たかまげい、着物は秋草色染あきくさいろぞめ振袖ふりそでに、緋縮緬ひぢりめん長襦袢ながじゅばん繻子しゅすの帯をしどけなく結び
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と見ると、丸髷まるまげの女が、その緋縮緬ひぢりめんそばと寄って、いつか、肩ぬげつつ裏のすべった効性かいしょうのない羽織を、上から引合せてやりながら
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
緋縮緬ひぢりめんの腰卷が一つ、その裾が風にあふられるのを小股に挾んで、兩手で乳を隱すと、丈なす黒髮が、襟から肩へサツとなびきます。
待給まちたま諸共もろともにのこヽろなりけん、しのたまはりしひめがしごきの緋縮緬ひぢりめんを、最期さいごむね幾重いくへまきて、大川おほかわなみかへらずぞりし。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とお延は新九郎の青額に、気も魂も吸い込まれて、ゾクゾクとうずくふるえを緋縮緬ひぢりめんにつつんでいつかぴったりと寄り添って来た。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてかごの上に結んである緋縮緬ひぢりめんのくけひもをひねくりながら、「こんなひもなぞつけて来るからなおいけない、露見のもとだ、何よりの証拠だ」
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一つには緋縮緬ひぢりめんの着物を着せ、一つには紫縮緬の着物を着せ、腰に下げた將棊しやうぎの駒の形の迷子札には、うるはしい墨色で名前まで書いてあるのだ。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
長々と地面に引擦ひきずった燃立つような緋縮緬ひぢりめん長襦袢ながじゅばんの裾に、白いすねと、白い素足がかわる交る月の光りを反射しいしい、彼の眼の前に近付いて来た。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
赤い色としては違わないけれども、以前は猩血のようなのが、今は緋縮緬ひぢりめんのように、臙脂えんじのように、目のさめるほどあざやかな色をしていました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浮橋はすぐに花魁の部屋へ行って見ると、八橋はあお刷毛はけでなでられたような顔をして、緞子どんす緋縮緬ひぢりめんのふちを取った鏡蒲団かがみぶとんの上に枕を抱いていた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
当人は黒羽二重の小袖に緋縮緬ひぢりめんの襦袢、大たぶさに薄化粧という風俗、丸一の親方そっくりなので、「太神楽」と声がかり、随分あくが強かったらしい。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「どうだい。逸見なんざあ、雪隠せっちんへ這入って下の方を覗いたら、僕なんぞが、裾の間から緋縮緬ひぢりめんのちらつくのを見たときのような心持がするだろうなあ」
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
程もなく三越みつこしから大きな箱が届きました。「何だろう」と思って開けましたら、燃立つような緋縮緬ひぢりめん白羽二重しろはぶたえの裏、綿わたをふくらかに入れた袖無しです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
今度は女に化けて逐電しようという計画のためにか、なまめかしい緋縮緬ひぢりめん長襦袢ながじゅばんを素はだにひっかけながら
糸鬢奴いとびんやっこ仮髪かつらを見せ、緋縮緬ひぢりめんに白鷺の飛ちがひし襦袢じゅばん肌脱はだぬぎになりすそを両手にてまくり、緋縮緬のさがりを見せての見えは、眼目の場ほどありて、よい心持なり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
燃えるような緋縮緬ひぢりめんには、妻のもとの若肌のにおいがするようなので、僕はこッそりそれを嗅いで見た。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
それは薄葡萄ぶどうの浜縮緬ちりめん、こぼれ梅のすそ模様、ふき緋縮緬ひぢりめんを一分程にとって、本紅ほんこうの裏を附けたのでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
... ころがって悪いとはいわねえが、もしそのそばに緋縮緬ひぢりめんが? ワーッ、いけねえ、勘忍してくれえ?」忠三往来へ突っ立ってしまった。「いや大丈夫!」と思い返した。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お京は白い襟のついた緋縮緬ひぢりめんの長襦袢を着ている。鬘下かつらしたにした髪からは、濃いビンツケの香が立ち、白粉と香水とのまじった官能的なにおいは、金五郎の鼻孔をくすぐる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
お勢は黄八丈の一ツ小袖に藍鼠金入繻珍あいねずみきんいりしゅちんの丸帯、勿論もちろん下にはおさだまりの緋縮緬ひぢりめん等身ついたけ襦袢、此奴こいつも金糸で縫のッた水浅黄みずあさぎ縮緬の半襟をかけた奴で、帯上はアレハ時色ときいろ縮緬
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
明石あかしからほのぼのとすく緋縮緬ひぢりめん」という句があるが、明石縮あかしちぢみを着た女の緋の襦袢じゅばんが透いて見えることをいっている。うすもののモティーフはしばしば浮世絵にも見られる。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
緋縮緬ひぢりめん長襦袢ながじゅばん繻子しゅすの帯をしどけなく締め、上方風かみがたふう塗柄ぬりえ団扇うちわを持って、ぱたり/\と通る姿を、月影にすかし見るに、うも飯島の娘お露のようだから、新三郎は伸びあが
適当な場所に粟粒あわつぶ程のぼたんまでつけてあるし、娘の乳のふくらみと云い、腿のあたりのなまめいた曲線と云い、こぼれた緋縮緬ひぢりめん、チラと見える肌の色、指には貝殻かいがらの様な爪が生えていた。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
蒲団から出して居る瑞樹みづきの手のてのひらには緋縮緬ひぢりめんのお手玉が二つ載つて居るのです。私が五つこしらへて遣つて置いたのを、花樹はなきに三つ持たせてつたのであらうと私は点頭うなづくと云ふのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その頃は一般に合せびんにして髪は引詰めて結う風だったのに、もとどりを大段に巻きたて、まげ針打はりうちにして元結をかけ、地にひきずるほどの長小袖の袖口から緋縮緬ひぢりめん襦袢じゅばんえりを二寸もだし
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しばらくあっけにとられて居た婆やが、あたふた追い掛けて見ると、かやは、すこし色の褪せた緋縮緬ひぢりめんの帯を小さく貝の口結びにした後姿を見せて、書院の縁へ顔を、うつぶせにして居た。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
冑の忍の緒を増花形ますはながたに結び——これは討死の時の結びようである——馬の上にて鎧の上帯を締め、秀頼公より賜った緋縮緬ひぢりめんの陣羽織をさっと着流して、金の采配をおっ取って敵に向ったと言う。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そしてゆすりあげる度にしどけなくすそが乱れて、お由好みの緋縮緬ひぢりめんがだらりと地へ垂れ下る。その度に彼等は立止って、そのむっちりと張切った白い太股ふともものあたりをあわせてやらねばならなかった。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
落せしかば誠に勿化もつけの幸ひなりと悦びながら足を早めてはしる程にやがて鈴ヶ森へぞ指懸さしかゝりける斯る所に並木なみきの蔭より中形ちうがた縮緬ちりめんの小袖のすそたか端折はしをり黒繻子くろじゆすおびにてかたむす緋縮緬ひぢりめんたすきかけ貞宗さだむね短刀たんたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小親この時は楽屋着のすそ長く緋縮緬ひぢりめんの下着踏みしだきて、胸高に水色の扱帯しごきまといたり。髪をばいま引束ねつ。優しき目のうちりんとして
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
緋縮緬ひぢりめんの腰巻が一つ、そのすそが風にあおられるのを小股こまたに挟んで、両手で乳を隠すと、丈なす黒髪が、襟から肩へサッとなびきます。
「どういたしまして、燃えるような緋縮緬ひぢりめん夜着よぎがありますよ」二人の洋盃コップにビールが無くなっているので、山西はかわりを注文して、それに口をけながら
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ちょっといきがった髪の結いよう、お化粧、着こなし、緋縮緬ひぢりめんの前掛、どう見ても湯女ゆな気分の色っぽい女。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
静かに呼ぶ者があって、中二階の梯子段はしごだんに、緋縮緬ひぢりめんの燃えるすそと、白い女の足もとだけが見えた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
着物も羽織もくすんだ色の銘撰めいせんであるが、長い袖の八口やつくちから緋縮緬ひぢりめん襦袢じゅばんの袖がこぼれ出ている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
燃え立つばかりの緋縮緬ひぢりめん、その長襦袢ながじゅばんをダラリと引っかけ、その上へ部屋着の丹前を重ね、鏡台の前へだらしなく坐り、胸を開けて乳房を見せ、そこへ大きな牡丹刷毛で
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
緋鹿子絞ひかのこしぼりの扱帯しごき、燃え立つような緋縮緬ひぢりめんの湯もじ、白足袋たびを穿かされた白い足首……そのようなものがこうした屍体解剖室の冷酷、残忍の表現そのものともいうべき器械
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
道臣等の親子三人が支度を調へ、留守を昔の社家の長老に頼んで東の門まで出かけた時、お時の裾端折つて緋縮緬ひぢりめんの湯もじを精一杯見せた旅姿は、左の方のだら/\坂の半腹に見えた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
いつもの通り牡丹の花の灯籠を下げて米が先へ立ち、あとには髪を文金の高髷たかまげに結い上げ、秋草色染あきくさいろぞめ振袖ふりそでに燃えるような緋縮緬ひぢりめん長襦袢ながじゅばん、其の綺麗なこと云うばかりもなく、綺麗ほどなお怖く
「ええ、」ともいわず蝶吉はおもてを背けると、御所車のすだれの青い裏に、燃立つような緋縮緬ひぢりめんを、手にからんで、引出して、目をぬぐって
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女夫枕めをとまくらに靜かに横たはつた花嫁の死骸は、紅絹裏もみうらの夜の物をはね退け、緋縮緬ひぢりめん長襦袢ながじゆばんのまゝ、血汐の中にひたつてゐるのです。
九州者ノ二三年先ニ江戸ニ来タトイッテモ、マダ江戸ナレハシマイカラ一ツタマシイヲ抜カシテヤロウト心附イタカラ、緋縮緬ひぢりめんノジュバンニ洒落しゃれタ衣類ヲ着テ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
というのは泣いたとたん、倍も綺麗きれいに見えるんでね、緋縮緬ひぢりめんよりなお素敵だ。全くあねごは変ですねえ。笑ってよく泣いてよく、それで怒ってもいいんですからねえ。あッ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それさ、わかい男のお客さんが鼓を打って、緋縮緬ひぢりめんの女のお客さんが聞いていたろう」
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
阿古屋の髪の毛を一本一本に黒繻子くろじゅすをほごして植えてあるばかりでなく、眼のたまにはお母様の工夫でにかわを塗って光るようにし、緋縮緬ひぢりめんの着物に、白と絞りの牡丹を少しばかり浮かし
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
襷には、大真田おおさなだ緋縮緬ひぢりめん、革、雑多であったが、すべてに、鎖がり合せてあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
島が屋敷奉公に出る時、おさななじみのお七が七寸四方ばかりの緋縮緬ひぢりめんのふくさに、紅絹裏もみうらを附けて縫ってくれた。間もなく本郷森川宿もりかわじゅくのお七の家は天和てんな二年十二月二十八日の火事に類焼した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
同じ文学士河野英吉の親友で、待合では世話になり、学校では世話をする(蝦茶えびちゃ緋縮緬ひぢりめんの交換だ。)と主税が憤った一人である。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白無垢のつまをさばいた下からチラリと長襦袢の緋縮緬ひぢりめんが燃えて、桃色珊瑚を並べたような爪先が、雪の上にキチンと揃った美しさは、何に讐えようもありません。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ほんとの乞食ではあるまい、どこか侍の子だろうとて、女郎にいろいろ話しおるが、緋縮緬ひぢりめんの袖のついた白地の浴衣ゆかたと、紺縮緬のふんどしをくれたが、嬉しかった。