紺屋こうや)” の例文
紺屋こうやじゃあねえから明後日あさってとはわせねえよ。うち妓衆おいらんたちから三ちょうばかり来てるはずだ、もうとっくに出来てるだろう、大急ぎだ。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのせっかくの白い衣裳を、一つ流行文様に染めましょうと思って、梟紺屋こうやあつらえたところが、梟は粗忽そこつで真黒々に染めてしまった。
私は党を脱退するにつき、気勢を挙げねばいかんと思い、紺屋こうやに頼んで旗を作り、魑魅魍魎ちみもうりょうが火に焼かれて逃げて行く絵を書いてもらった。
紺屋こうや白袴しろばかまどころでなく、これでは柳吉の遊びに油を注ぐために商売をしているようなものだと、蝶子はだんだん後悔した。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
染物屋を呼んで「紺屋こうや」といいます。庶民の着物であったかすりもまた「紺絣こんがすり」の名で親しまれました。それほどわが国では紺が色のもとでありました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そこには、紺屋こうやがあって、染め上げたぬのを、たくさんに干していた。その地所は、半瓦が貸しているので、いくらでも広く取れるというのである。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そちこれなる紺屋こうやたれさまのご允許いんきょ受けて営みおるかッ、加賀宰相のお許し受けたと申すかッ。不遜ふそんなこと申すと、江戸まえの吟味が飛んでまいるぞッ
その地獄に血の池地獄とか、鶴見地獄とか、紺屋こうや地獄とかいうのがある。これは熱汽、熱泥を噴出する地獄である。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
紺屋こうや白袴しろばかまかと訊いたら、だ自分の鼻に応用するほど確信がないと答えました。金さえ儲かればいんでしょう。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「まだ云ってやがる、いってえおれがいつけえず買いをしたってんだ、もういっぺんぬかしてみろ、大家だろうが紺屋こうやだろうが向うずねをかっ払って……」
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
紺屋こうやの白袴とでもいうのか、元来心掛けの悪いためか、それとも不精なのか、おそらくそれのすべてであろう。
ラジオ雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
庭口から女中さんがごふじょうへくるときは、外で下駄をぬいでくるほど小庭の中はきれいで、浜でとれる小貝や小砂利が磨いてしいてある。外は紺屋こうやの張り場だった。
市中繁華な町の倉と倉との間、または荷船の込合こみあう堀割近くにある閑地には、今も昔と変りなく折々紺屋こうや干場ほしばまたは元結もとゆい糸繰場いとくりばなぞになっている処がある。
久「へい、それはおたく御飯炊ごぜんたきですか、の人は男振は宜しゅうございますが、何しろ真黒に成って働きますから、紺屋こうやなら真青まっさおだが、炭屋だから真黒でどうも」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
古え青屋あおやもしくは藍染屋あいぞめや紺屋こうやなどと呼ばれた染物業者は、エタの仲間と認められておった。
エタ源流考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
町の片側に紺屋こうやがあって、店先の往来で現に更紗を染めているという句であるが、印象としては、既に染めた更紗を、乾燥のために往来へ張り出していると解すべきであろう。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
浜町はまちょう細川邸ほそかわてい裏門前うらもんまえを、みぎれて一ちょうあまり、かど紺屋こうやて、伊勢喜いせきいた質屋しちやよこについてまががった三軒目げんめ、おもてに一本柳ぽんやなぎながえだれたのが目印めじるし
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
実際一桶の藍を流したので、これは東京では知らぬが田舎の紺屋こうやにはよくある事である。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかし長屋は右側ばかりで、左側の空地は紺屋こうや干場ほしばにでもなっているらしく、所まだらに生えている低い秋草が雨にぬれて、一匹の野良犬が寒そうな顔をして餌をあさっていた。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それならよござんした。まあ随分おなかいたでせう。」と云ひながら彼女はぜんごしらへをする。老母は今し方紺屋こうやまで行つたとかで、まるで彼の為めに作られたやうな場面だつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
紺屋こうやの干場へ夢にでものぼつたか大層高いものを立てたがつて感応寺の和尚様に胡麻を摺り込むといふ話しだが、其は正気の沙汰か寝惚けてかと冷語ひやかし驀向まつかうからつたところ、ハヽヽ姉御
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
最後さいごに、偶然ぐうぜんにも、それは鶴見驛つるみえきから線路せんろして、少許すこしつた畑中はたなかの、紺屋こうや横手よこて畑中はたなかから掘出ほりだしつゝあるのを見出みいだした。普通ふつう貝塚かひづかなどのるべき個所かしよではない、きはめて低地ていちだ。
いろ/\の人が鳥渡好い顏を見せて直樣つまらない事に成つて仕舞ふのだ、傘屋のせんのお老婆ばあさんも能い人で有つたし、紺屋こうやのお絹さんといふ縮れつ毛の人も可愛がつて呉れたのだけれど
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
京屋吉兵衛は代々の紺屋こうやで、三代前の吉兵衛は京都へ行って友禅染ゆうぜんぞめの染方をならって来てこれに工夫をくわえ、型紙をつかって細かい模様を描くことを思いつき、豆描友禅まめがきゆうぜんという名で売りだしたが
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして、紺屋こうやの瓶ではないかと思った。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
紺屋こうやの前の榛の木へ…… ああその
閒花集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
ひがし紺屋こうや宿やどとろか
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
紺屋こうやの細君だからあのような好い色に、自由に染めて着られるという意味で、つまりこの花の色彩のすぐれてあざやかに美しいことをめでた言葉だから
神田の紺屋こうやの原をぬけると、もう、陽がかげッて、方々で、打水をするし、夕風がたつし、だいぶ楽になった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この熱汽を吐いておる地獄は、かまど、血の池、紺屋こうや鉄輪かんなわその他にもある。熱汽に水を通して温泉とすることが出来るとならばまた新温泉は無数に出来るわけである。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
安く早く多く作る技の上から見れば、進んだ土地でしょうが、それが誠実なものでない限り、遅れた土地ともいえるでしょう。町には所々に大きな紺屋こうやが残ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「その中に玉川屋という紺屋こうやの娘で、九つになるおたまという子がいたんです、からだも顔もまるくぽっちゃりとしていて、気性もおとなしいすなおな子でしたが、——いやだな」
いろいろのひと鳥渡ちよつとかほせて直樣すぐさまつまらないことつて仕舞しまふのだ、傘屋かさやせんのお老婆ばあさんもひとであつたし、紺屋こうやのおきぬさんといふちゞれつひと可愛かあいがつてれたのだけれど
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
紺屋こうやの干場へ夢にでものぼったか大層高いものを立てたがって感応寺の和尚様に胡麻をり込むという話しだが、それは正気の沙汰か寝惚けてかと冷語ひやかしをまっ向からやったところ、ハハハ姉御
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
永「それは門前の小僧習わぬ経をむで、寺にいると自然と覚えて読んで見たいのだが、また此方こなたは御出家じゃアが、もう旅へ出ると経を読まぬてえ、是が紺屋こうや白袴しらばかまというたとえじゃアのう」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女の口にくわえていた小指にあいの色が浸みているのを証拠に、七兵衛は子分どもに云いつけて紺屋こうやの職人を探させた。向う両国の紺屋にいる長三郎という今年十九の職人が、すぐに召捕られた。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
みなみ紺屋こうや宿やどとろか。
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
今いう職人に属するものでは誰でも知っている雉子きじ(木地)屋敷や轆轤ろくろ屋敷、伴上ばんしょう(番匠)貝戸がいと・細工畑・紺屋こうや畑・鍛冶荒居かじあらいなどの地名がこの地方にはある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
芝石しばいし温泉という、湯滝のある、谿谷けいこくに臨んだ温泉を過ぎて、紺屋こうや地獄を見た。これは紺色をした泥池の底から、同じく怒るがごとくつぶやくが如く熱気を吐いておるのである。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
今度は返事ものどで殺し、だまって押入れから編笠あみがさを取って渡しましたが、幸い、裏は紺屋こうや干場ほしばつづき、さっきのウカツな声とても、近所へまで聞かれたとは思われません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大工町、檜物ひもの町、金屋かなや町、鍛冶かじ町、鋳物師いもじ町、銅町、呉服ごふく町、紙屋町、箪笥町、紺屋こうや町等々工藝の町々が歴史を負って至る所に残る。それらは多く吾々を待っている場所と考えていい。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いろいろの人がちよつと好い顔を見せて直様すぐさまつまらない事に成つてしまふのだ、傘屋のせんのお老婆ばあさんも能い人で有つたし、紺屋こうやのお絹さんといふ縮れつ毛の人も可愛かあゆがつてくれたのだけれど
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
みなみ紺屋こうやあをまど
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
げてねじって紺屋こうやなどにも持って行くのだが、以前ははたを織る女がそのままで首に掛けていることもあったらしく、それが大きな蚯蚓の首に白い輪のあるものと似ているので
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
阿波藍あわあい」といって、日本全土に行き渡り、おそらく紺屋こうやという紺屋、皆多かれ少かれここの藍を用いました。それというのもかつては吾々の着物のほとんど凡てが紺染こんぞめであったからによります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
評判はその頃に高く去るもの日々にうとければ、名物一つかげを消して二度目の花は紺屋こうや乙娘おとむすめ、今千束町せんぞくまちに新つた屋の御神燈ほのめかして、小吉こきちと呼ばるる公園の尤物まれもの根生ねおひは同じ此処ここの土成し
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
単なる人名も土地にとっては歴史だろうが、外からうかがうことはやや困難である。眼に留るのは大小の地役人、社寺の従属者の他に、鍛冶かじ垣内・紺屋こうや垣内という類の諸職の名が多い。
垣内の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
名物めいぶつ一つかげをして二はな紺屋こうや乙娘おとむすめいま千束町せんぞくまちしんつた御神燈ごじんとうほのめかして、小吉こきちばるゝ公園こうえん尤物まれもの根生ねをひはおな此處こゝ土成つちなりし、あけくれのうはさにも御出世ごしゆつせといふはをんなかぎりて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)