禿頭はげあたま)” の例文
シャガレた声で上座かみざから、こう叫んだ向う鉢巻の禿頭はげあたまは、悠々と杯を置いて手をあげると、真っ先きに立った桃の刺青を制し止めた。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ほお、上に判然と書いてあるんだね。俺は、頭の上が禿げて見えねえから、禿頭はげあたまかと思って。——大頭おおあたまなのに、小頭こあたまと言うのも……」
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
院長いんちょう不覚そぞろあわれにも、また不気味ぶきみにもかんじて、猶太人ジウあといて、その禿頭はげあたまだの、あしくるぶしなどをみまわしながら、別室べっしつまでった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
赤いえりをかけ出したり、急に素晴らしいネクタイをつけたり、禿頭はげあたまへ香水をふりかけて見たりし出した時に用うべき言葉である。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
と言って、嘉助は禿頭はげあたまでた。正太が結婚について、いかにさかんな式を挙げたかということは、この番頭の話でほぼ想像された。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此処の実業界の重鎮じゅうちんには仮髪かつらかぶっている禿頭はげあたまがある。用意周到な男で、刈り立てのと十日伸びのと二十日伸びのを持っている。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
じつくもつかむやうなはなしだが、まんが一もと旅亭やどや主人しゆじんんでいてると、果然くわぜん! 主人しゆじんわたくしとひみなまではせず、ポンと禿頭はげあたまたゝいて
去る頃ある雑誌に「竹の里人が禿頭はげあたまを振り立てて」など書ける投書あるを見たり。竹の里人を六十、七十の老人と見たるにや。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
蘿月は一家の破産滅亡の昔をいい出されると勘当かんどうまでされた放蕩三昧ほうとうざんまいの身は、なんにつけ、禿頭はげあたまをかきたいような当惑を感ずる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
或る日、ナポレオンは侍医をひそかに呼ぶと、古い太鼓の皮のように光沢の消えた腹を出した。侍医は彼のそばへ、恭謙な禿頭はげあたまを近寄せてつぶやいた。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
本邦で蛇の脱皮ぬけがらで湯を使えばはだ光沢を生ずと信じ、『和漢三才図会』に雨に濡れざる蛇脱へびのかわの黒焼を油でって禿頭はげあたまに塗らば毛髪を生ずといい
暗い闇の中の提灯は、木槿垣もくげがきを背にして立った荻生さんの蒼白い顔と父親の禿頭はげあたまとそのほかの群れのまるく並んでいるのをかすかに照らした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
奧州の南部には、字の讀めない者に讀ませるやうに、——繪で書いた暦がある。——禿頭はげあたまに濁りを打つて半夏はんげと讀ませる——と言つたやうな話を
つまり、六郎氏の死体は、裸体はだかにされた上、禿頭はげあたまに、ふさふさとした鬘までかぶせて、吾妻橋下に投込まれていたのだった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此方こなたに、千筋の単衣ひとえもの小倉の帯、紺足袋を穿いた禿頭はげあたまの異様な小男がただ一人、大硝子杯おおコップ五ツ六ツ前に並べて落着払った姿。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云いながら入物いれものごとほうり付けましたが、此の皿は度々たび/\焼継屋やきつぎやの御厄介になったのですから、おふくろ禿頭はげあたま打付ぶッつかってこわれて血がだら/\出ます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私の知っている父は、禿頭はげあたまじいさんであったが、若い時分には、一中節いっちゅうぶしを習ったり、馴染なじみの女に縮緬ちりめん積夜具つみやぐをしてやったりしたのだそうである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『いけ好かない奧樣だね。』と言つたが、『迎への人かえ? 何とか言つたけ、それ、忠吉さんとか忠次郎さんとかいふ、禿頭はげあたまの腹のでつかい人だよ。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
町の様子は出て行った時そのままで、寂れた床屋の前を通る時には、そこの肥った禿頭はげあたまの親方が、細い目をみはって、自分の姿を物珍らしそうに眺めた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
七十代の婿むこと八十代のしゅうととは、共に矍鑠かくしゃくとして潮風に禿頭はげあたまを黒く染め、朝は早くから夜は手許てもとの暗くなるまで庭仕事を励んだ。二人ともに、何が——と。
でも、鱶の方でも、妙な、丸つこい、てか/\光る禿頭はげあたまに、大きな三つ目をもつた怪物が立つてゐるものですから、さう、たやすくは飛ついて来ません。
動く海底 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
禿頭はげあたまの会員は、実にこのレグルもしくはレーグルの息子で、レーグル(ド・モー)と署名していた。彼の仲間は、手軽なので彼をボシュエと呼んでいた。
それはこの高級武官が自分の昔の上官であつたと云ふ事を、長老が知つてゐて、それで長老の肥え太つた赤ら顔と禿頭はげあたまとが喜に赫いてゐると云ふ事である。
そして、丁寧ていねいに帽子をぬいだ小さな禿頭はげあたまが、人のいい眼付とおずおずした微笑といっしょに、そこに現われた。
日比谷公会堂での三度目の辱かしめられた演奏会がおわった夜、馬場は銀座のある名高いビヤホオルの奥隅の鉢の木のかげに、シゲティの赤い大きな禿頭はげあたまを見つけた。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼等のある者は非常に長い髪を垂れていると伝えられるが、これは殆ど禿頭はげあたまと云ってもい位で、脳天に僅少わずかばかりの灰色の毛がちょぼちょぼと生えているのみであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小学校も満足に出ていないもくしょうが、エンジナーになる勉強をしているというのは、禿頭はげあたままげを結うようなものだ、などというわけである。彼は相手にならなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
辻潤つじじゅん禿頭はげあたまに口紅がついている。浅草のオペラ館で、木村時子につけて貰った紅だと御自慢。集まるもの、宮島資夫すけお五十里いそり幸太郎、片岡鉄兵、渡辺渡、壺井繁治、岡本潤。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
君の禿頭はげあたまの手前に対してもげ口上は許さないと、強引に持ちかけられましてな
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
飛ばしてきた古色蒼然そうぜんたるロオドスタアがキキキキ……と止って、なかから、煙草たばこきだし、禿頭はげあたまをつきだし、容貌魁偉ようぼうかいいじいさんが、「ヘロオ、ボオイ」としゃがれた声で、呼びかけ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
さて組合の禿頭はげあたまのトムソンが赤つちやけたる鹿爪しかつめらしき古外套ふるぐわいたうををかしがり
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ナーニ、その小判の自慢をしたかったので大屋の禿頭はげあたま、店子たちを招待んだんで。さて自慢をしたはいいが、ご馳走が終ってみんな帰った後で、小判を調べてみると、一枚不足しているんで。
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
博士は、把手ハンドルから手を放すと、手をあげて、禿頭はげあたまをガリガリといた。
丹波たんばのきんか頭(禿頭はげあたまという方言ほうげん)が負けずにやりおるわ——などと日頃のおうわさにもよくお口に遊ばす。あははは、今、おつむを見ておるうちに、ふと、お上のお戯れを思い出したのでござった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
禿頭はげあたまをなでながら、小さな体を一層小さくするばかりである。
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
失敬ですが、あなたのその頭脳、その禿頭はげあたまには
「とんでも無い。この禿頭はげあたまが」
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
若いそらで禿頭はげあたま
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
旅亭やどや禿頭はげあたまをしへられたやうに、人馬じんば徃來ゆきゝしげ街道かいだう西にしへ/\とおよそ四五ちやうある十字街よつかどひだりまがつて、三軒目げんめ立派りつぱ煉瓦造れんぐわづくりの一構ひとかまへ
ホラ直ぐそこに若いスマートな男と、赤っ鼻の禿頭はげあたまが立っているでしょう。あの通りの姿で幽霊が出て来て、あの通りの事を云うんだそうです
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
蘿月らげつは一家の破産滅亡めつばうむかし云出いひだされると勘当かんだうまでされた放蕩三昧はうたうざんまいの身は、なんにつけ、禿頭はげあたまをかきたいやうな当惑たうわくを感ずる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「実は橋本閣下、私は今日は坊主になってまかり出なければならないのですが、この禿頭はげあたまに免じて、特別の御用捨ごようしゃを願います」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「なんだね? 清次郎せいじろう氏。おめえ、半纒はんてんさまで禿頭はげあたまとしたのかね? 禿頭なら、その頭だけで沢山なようなもんだが……」
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
禿頭はげあたまに濁りを打って半夏はんげと読ませる——と言ったような話を思い出して、俺はさっそく麻布あざぶの南部様御屋敷へ出かけたのさ
その絶頂には小さな丸髷まるまげが一つ乗っているのでした、その髪の下は完全な禿頭はげあたまで、その禿頭にはくろんぼがベタベタと瘡蓋かさぶたの如く一面に塗られていて
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
三吉は、達雄の傍にいる大番頭が特に日蔭の場所をえらんだことを言って笑った。嘉助の禿頭はげあたまは余計に光って撮れた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いつの間にか木が抜けて、空坊主からぼうずになったり、ところまだら禿頭はげあたまと化けちまったんで、丹砂たんしゃのように赤く見える。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも、すぺりと円い禿頭はげあたまの、護謨コム護謨コムとしたのには、少なからず誘惑を感じたものだという。げええ。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年取ったというよりもむしろ古くなったという方が適当な禿頭はげあたまの人で、その語るところによると、一七九三年十六歳のおり、忌避者として徒刑場に投ぜられ
そして戸が少しあいて、行儀ぎょうぎよく帽子ぼうしをとった小さな禿頭はげあたまが、人のいい目つきとおずおずした微笑びしょうと共にあらわれるのだった。「皆さん、今晩は。」とかれはいった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)