)” の例文
その外廓がいかくは、こう軍艦の形にして、船の側の穴の処に眼鏡をめたので、容堂公のを模して足らないのを駒形の眼鏡屋がりました。
女が心づいて、水指の中へ墨をって入れておいた、平中はそうとは知らず、その墨の水で眼を濡らしたので、女が平中に鏡を示して
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
須貝 (火をってやりながら)そうなりますね。僕は、始めにステージの仕事を片づけて、後でロケの方をやりたいつもりです。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
「でも、先刻さっき帳場を覗いて見ましたが、汚いすずりの中に、何日前にったか、腐って臭くなった磨りかけの墨がうんと溜って居ましたよ」
二分ずつ、り減らされてゆくのではあるまいか——どうりんを絶した使い手にしろ、疲れぬ肉体というものを持っている筈がない。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りあげて立派な学者になれるなら、誰にでも出来る。わしにでも出来る。ビードロやの主人にでも出来る。ああ云う事をする者を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
職人は暫くそんな悪戯いたづらをしてゐたが、最後にたもとを探つて、マツチを取り出したと思ふと、ぱつと火をつて虱の背に当てがつた。
小包をあけて見たら、その通りにちゃんとそろっていた。どうも少し驚いたが、唐墨の試験に絶好の機会と、早速って色を見ることにした。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「今薬局で芫菁をっているのですが、どんなに我慢をしても、あれにはかないません」とのことで、それからしばらく外へ出て休んでいました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
だんだんその事情を取調べると、閩中には茉莉花まつりかを飲めば仮死するという伝説がある。茉莉花の根をって、酒にまぜ合わせて飲むのである。
それは二時ごろで、外には絹糸のような雨が降っていた。広栄はやがて算盤を置いて、傍の硯箱すずりばこを引き寄せて墨をりだした。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
頭の上を風の吹き過ぎるごとに、楢の枯れ葉のれ合う音ががさがさとするばかり。元来この楢はあまり風流な木でない。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
軈て智惠子は、昨日來た友達の手紙に返事を書かうと思つて、墨をり乍ら考へてゐると、不圖、今日初めて逢つた信吾の顏が心に浮んだ。……
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
松年先生はよく私に墨をらせた。墨は男がすると荒つぽくていかぬが、女の子が磨るとこまかでいいと言はれて、よく私は墨すりをやらされた。
写生帖の思ひ出 (新字旧仮名) / 上村松園(著)
セイロンで買って来た三匹の猫いたちモングースを相手に「退屈だ退屈だ」と御託を並べながら、『決闘』の完成に「神経を一ポンドほどりへらし」たり
特に女の眼をよろこばせそうな冬菜ふゆなは、形のまま青くで上げ、小鳥は肉をつぶしして、枇杷びわの花の形に練り慥えてあった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「一羽の目白はんがな、一生懸命り餌を食べてはるしな、もう一羽のが盃の水の中へ頭入れて、行水つこてはるえ。」
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
私の心はもうたつた一つの場所にばかり住んでゐて、らされてゐます——びた釘のやうに腐蝕してゐるのです。
空は墨をったように黒くなって日も暮れた。そのうち風が穏やかになり、雨が小降りになって星の光も見えてきた。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
シャベルの先をみると、土とはげしくったために、鋼鉄が磨かれて、うつくしい銀色に、ぴかぴか光っていた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
マーキュ 出來できた。此上このうへ洒落競しゃれくらべぢゃぞ。これ、足下おぬしそのうすっぺらなくつそこは、いまこと/″\って、はて見苦みぐるしいあししゃらうぞよ。
そして皆がしぼられたかすなんだ。俺達あみんな働きすぎたんだ。俺達あ食うために働いたんだが、その働きは大急ぎで自分の命をへらしちゃったんだ。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
このくだものの天来の美味と本質とは、ほんのり吹き出たが、市場に出す車のなかでりとれてしまうとともにうしなわれ、単なる腹ふさげとなる。
そうして身体からだを動かす拍子に両肩と首すじがピリピリと痛むのに気が付いた。大方ハドルスキーに抱きすくめられた時に暴れていたのであろう。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いや、墨はわしがらねばなりません、それ、お前さんは婿どのの前にその紙をひろげて——そう、わからんか」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
半蔵はその足で二階の梯子段はしごだんを登った。三郎や益穂をも呼んで、すずりふでの類を取り出し、紙をひろげることなぞ手伝わせた。墨も二人の弟子にらせた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
戸外では寒いからっ風が勢いこんで吹きすさんでいるらしく、建てつけの悪るい障子がりへらされた溝ときしり合って、けたたましい音を立てていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
母「かやや、其処そこすゞりがあるから朱墨しゅずみを濃くって下さい、そうして木綿針もめんばりの太いのを三十本ばかり持ってな」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
課長のゆっくり書類を portefeuilleポルトフョイユ から出して、硯箱すずりばこふたを取って、墨をるのを見ている。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、母親ははおやってかせました。自分じぶんでもそのうなぎあたましかったとえて、くちばしりつけながら、そして
「はい」と云うと童子の紅丸、野宿の場合の用心に、いつもひうち石を持っている。カチカチとると火を出した。木口に移して早速の松火。忽ち水路明るくなる。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
源助、宮浜の児を遣ったあとで、天窓あたま引抱ひっかかえて、こう、風の音を忘れるようにじっと考えると、ひょい、と火をるばかりに、目に赤く映ったのが、これなんだ。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美奈子が、小切手帳を持って来ると、荘田は、かたわらの小さいデスクの上にあった金蒔絵まきえ硯箱すずりばこを取寄せて不器用な手付で墨をりながら、左の手で小切手帳を繰ひろげた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これはお歯黒をつけるには必ず必要の五倍子ふしの粉を売っていた店で、店の中央に石臼いしうすえて五倍子粉をっている陰陽の生人形が置いてあって人目をいたもの
仮にあの材料の石類がみな手近てぢかにあったとしても、あれをみがって穴をあける技術が備わるまで、頸に玉を貫いて掛ける風習が、始まらずに待っていたか。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「まあよかろう」土田は机の上へ書類をひろげ、硯箱すずりばこをあけて朱墨をりだした、「——郡奉行か」
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
森谷牧場と森谷農場とを目当てとしての、つまり、牧場と農場での労働に身体からだり減らして余生を引きる人々によって形成されている、唯一の商業集落であった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
同じような人々は、同じような経過をとって、同じ障害にぶつかり、同じく身をりへらしていた。
ただゴシゴシと砥石に鉞の刃の喰い込んでれる音が耳に入った。今三人の悪者の眼は等しく砥石と鉞の上に集められた。等しく三人の心は砥石の上に向けられている。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして最初になめらかそうな処をえらんで本という字を懸命に書いてみた。草履ぞうり拭物ふきものの代りをした。彼は短い白墨がって来ると上目うわめをつかって、暫く空を見ていてから
(新字新仮名) / 横光利一(著)
さじとしては貝殼にけたるもの用ゐられ、肉差しとしては獸骨をりてとがらしたるもの用ゐられしならん。肉差しの如き骨器は常陸椎塚の貝塚より數個出でたり
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
途中で曲つてゐる梯子段を踏みあやまつて、私は四五段も辷り落ち、ひぢをしたたかり剥いたのだが、驚いてとんで来た医者に、抱き取られながらも、いい気味だいい気味だ
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
だが、まだ浴場とのあいだにりガラスの戸がある。ガラガラと音を立ててそれがひらかれた。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二度表から潜り戸を引っ張ってみたり、欞子窓れんじまど硝子ガラスの障子のすきから家の中を窺いてみようとしたけれど、隣家となりの女房が見ているので、押してそうすることもならず
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
矢五太夫は、人々に、こういいながら、机の前へ坐って、急いで、墨をり出していた。女房が
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
その一はカポッキオにちかづき、牙をうなじにたてゝ彼を曳き、堅き底を腹にらしむ 二八—三〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
もうちっとしたら貰えましょうと慰めるのも油になって、やゝ久しく無言で居たが、筆をと云うに女が硯筥すずりばこを持来り、りましょうという下からもはや筆を溜り水に染めて
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
それが自分の部屋の東向きの窓障子のりガラスに明るく映って、やはり日増にやわらいでくる気候を思わせるのだが、電線を鳴らし、窓障子をガタピシさせている風の音には
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
物理学者や化学者は物質をり砕いて原子の内部に運転する電子の系統を探っている。そうして同一物質の原子の中にあるる「個性」の胚子はいしを認めんとしているものもある。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
次の日、ふと道助は昨日腹立ちまぎれに物置の中へはふり込んでそのまゝになつてゐる小鳥のことを思ひ出した。もう昼近くのことでをやる時刻はとつくに過ぎてゐたのだ。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)