男女なんにょ)” の例文
敬太郎はどこの何物とも知れない男女なんにょあつまったり散ったりするために、自分の前で無作法に演じ出す一分時いっぷんじの争を何度となく見た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、柱の下をはなれて、まだ石段へ足をおろすかおろさないうちに、小路こうじを南へ歩いて来た二人の男女なんにょが、彼の前を通りかかった。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
吉さんは人の見得ないものを見る。汽車の轢死人れきしにんがあった処を吉さんが通ると、青い顔の男女なんにょがふら/\いて来て仕方しかたがないそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おとなしく手をとられて常人のごとく安らかに芝生しばふ等の上をあゆむもの、すべて老若ろうにゃく男女なんにょあわせて十人近い患者のむれが、今しも
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だから人情は人の食物くいものだ。米や肉が人に必要物なる如く親子や男女なんにょや朋友の情は人の心の食物だ。これは比喩ひゆでなく事実である。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
多くの男女なんにょの恋のうちで、ただゆるされた恋のみが成就するのじゃ。そのほかの人々はみな失恋のにがいさかずきをのむのじゃ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その高きに過ぐるかしらを取って押さえ、男女なんにょ両性の地位に平均を得せしめんとするの目的を以て論緒ろんしょを開き、人間道徳の根本は夫婦の間にあり
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わずか数年の後、恋の満足をげてしまった二人の男女なんにょは、自分が質問する日本の衣服の、その後における流行の変遷へんせんさえ多くは語らなかった。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
むかし呂洞賓りょどうひんという仙人は、仙道成就しても天に昇ったきりにならずに、何時迄も此世に化現遊戯けげんゆげして塵界じんかい男女なんにょ貴賎を点化したということで
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そういうおん身の考え方は、浄土門でもっともみ嫌う聖道門的考えかただ。師の上人のお教えでは、男女なんにょの差はないはずだ、そういうけじめを
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とばかりありて、仮花道に乱れ敷き、支え懸けたる、見物の男女なんにょ袖肱そでひじの込合うたる中をば、飛び、飛び、小走こばしりわらわ一人、しのぶと言うなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中庭を隔てた対向むこうの三ツ目の室には、まだ次の間で酒を飲んでいるのか、障子に男女なんにょ二個ふたつの影法師が映ッて、聞き取れないほどの話し声も聞える。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
一体男女なんにょの道はそういうものでない、私のうちく堅い家であったけれども、やっぱりこれにナ許嫁いいなずけが有ったが、私がつい何して、貰うような事で
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その日になれば男女なんにょ乞食こじきども、女はお多福たふくの面をかぶり、男は顔手足すべて真赤に塗り額に縄の角を結び手には竹のささらを持ちて鬼にいでたちたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
歌仙は三十五通りの男女なんにょ僧俗の、絵額の排列を聯想れんそうせしめ、今でも我々は便宜上、この毎二句の続けがらを絵様(タブロオ)と呼ぶことにしている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
用があって兜町かぶとちょう紅葉屋もみじやへ行く。株式仲買店である。午前十時頃、店はき廻されるような騒ぎで、そこらに群がる男女なんにょの店員は一分間も静坐じっとしてはいられない。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
カピューレット長者ちゃうじゃさきに、ヂュリエットおよ同族どうぞくもの多勢おほぜいぱうよりで、他方たはうよりきた賓客ひんきゃく男女なんにょおよびロミオ、マーキューシオー假裝者かさうしゃの一ぐんむかふる。
召し使ひたる男女なんにょ共、あたゞに立ち騒ぎ打ち喜びて、かほどの首尾しあわせはよもあらじと、今までに引き換へてさゞめき合ひ候ひしが、そが中に唯一人、妾をり育て候乳母めのとの者
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここでは男女なんにょはげしく労働する。君のように都会で学んでいる人は、養蚕休みなどということを知るまい。外国の田舎にも、小麦の産地などでは、学校に収穫とりいれ休みというものがあるとか。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また彼はいう、——世間の男女なんにょ老少、多く交会こうえ婬色いんじき等の事を談じ、これをもって慰安とすることがある。一旦は意をも遊戯し徒然つれづれをも慰めるようであるが、僧には最も禁断すべきことである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
山の手ながら松のうちは車東西に行き違いて、隣家となりには福引きの興やあるらん、若き男女なんにょの声しきりにささめきて、おりおりどっと笑う声も手にとるように聞こえぬ。未亡人は舌打ち鳴らしつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
また自分たちが猥雑わいざつな心もちにとらわれやすいものだから、男女なんにょの情さえ書いてあれば、どんな書物でも、すぐ誨淫かいいんの書にしてしまう。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
場中じょうちゅうの様子は先刻さっき見た時と何の変りもなかった。土間を歩く男女なんにょの姿が、まるで人の頭の上を渡っているようにわずらわしくながめられた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
音の力は恐ろしいもので、どんな下等な男女なんにょが弾吹しても、聴く方から思うと、なんとなく弾吹者その人までをゆかしく感ずるものである。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
されば別とは区別の義にて、この男女なんにょはこの夫婦、かの男女はかの夫婦と、二人ずつ区別正しく定るという義なるべし。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
馬揃いにれ集まって、貝が、太鼓の音とともに進発する軍隊に対して、領下の老幼男女なんにょは、いつまでもいつまでも声涙を抑えて見送っていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
し子供が出来たなら、男女なんにょかゝわらず其の子をもって家督と致し家の再興を頼むと御遺言書にありましたが、事によると殿様の生れがわりかも知れません
「しかし竜田、アダムとイヴあって以来、世界に男女なんにょただ二人ばかりではない。たとえば、神月とその美人と、」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その頃の湯風呂には、旧式の石榴口じゃくろぐちというものがあって、夜などは湯烟ゆげ濛々もうもうとして内は真暗まっくら加之しかもその風呂が高く出来ているので、男女なんにょともに中途の蹈段を登って這入はいる。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
男女なんにょの間変らじと一言ひとことかわせば一生変るまじきはもとよりなるを、小賢こさかしき祈誓三昧きしょうさんまい、誠少き命毛いのちげなさけは薄き墨含ませて、文句を飾り色めかす腹のうちなげかわしと昔の人のいいたるが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
冬は暖い火が焚いてある。夜はあかる燈火ともしびみなぎっている。そしてこの広い一室の中ではらゆる階級の男女なんにょが、時としてはその波瀾ある生涯の一端を傍観させてれる事すらある。
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
呉家ののちに生るゝ男女なんにょにして此の鴻恩こうおんを報ぜむと欲せば、深く此旨を心に収め、法事念仏を怠る事なかれ。事他聞たもんを許さず、あやまつて洩るゝ時は、あるいは他藩のうらみを求めむ事を恐る。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
がくそうしはじむる。男女なんにょりあうて舞踏をどる。
そうしてそれを食う時に、必竟ひっきょうこの菓子を私にくれた二人の男女なんにょは、幸福な一対いっついとして世の中に存在しているのだと自覚しつつ味わった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで、戸の隙間すきまから、そっと外を覗いて見ると、見物の男女なんにょの中を、放免ほうめんが五六人、それに看督長かどのおさが一人ついて、物々しげに通りました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夜の更くるを恐れて二人は後へ返し、渓流たにがわに渡せる小橋の袂まで帰って来ると、橋の向うから男女なんにょの連れが来る。そして橋の中程ですれちがった。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのエー男女なんにょ同権たる処の道を心得ずんば有るべからず、しばらく男女同権はなしと雖も、此事これは五十百把の論で、先ず之をたきゞ見做みなさんければならんよ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いずれ一度はとりことなって、供養にとて放された、が狭い池で、昔売買うりかいをされたという黒奴くろんぼ男女なんにょを思出させる。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
智慧とか、身分とか、男女なんにょの差とか、そういうものを根本もとにして考えるから、信心もまた、智慧、境遇などに依って、差のあるもののように考えられてくる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れから彼方あちらの貴女紳士が打寄うちよりダンシングとかいって踊りをして見せるとうのは毎度の事で、さていって見た処が少しもわからず、妙な風をして男女なんにょが座敷中を飛廻とびまわるその様子は
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おぼつかなくもかきに沿い、樹間このまをくぐりて辿たどりゆけばここにも墓標新らしき塚の前に、一群ひとむれ男女なんにょが花をささげて回向えこうするを見つ、これも親を失える人か、あるいは妻を失えるか、子を失えるか
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人は互に徹底するまで話し合う事のついに出来ない男女なんにょのような気がした。従って二人とも現在の自分を改める必要を感じ得なかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
井伊の陣屋の男女なんにょたちはやっと安堵あんどの思いをした。実際古千屋の男のように太い声にののしり立てるのは気味の悪いものだったのに違いなかった。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この時切符を売りはじめしかば、人々みな立ちて箱の前に集まりし時、ほかより男女なんにょ二人ふたりの客、静かに入り来たりぬ。これ松本治子と田宮峰二郎なり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
どさどさぶちまけるように雪崩なだれて総立ちに電車を出る、乗合のりあいのあわただしさより、仲見世なかみせは、どっと音のするばかり、一面の薄墨へ、色を飛ばした男女なんにょの姿。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
縁側へお遊ばして生垣の外を御覧になると、若い男女なんにょを三四人の男が引立てようといたしている。
道俗の男女なんにょは、旱天ひでりに雨露をうけたように、ここへ息づきを求めてくるのであります
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表現派の画に似た部屋の中に紅毛人の男女なんにょが二人テエブルを中に話している。不思議な光の落ちたテエブルの上には試験管や漏斗じょうご吹皮ふいごなど。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
る時花時分はなじぶんに私は先生といっしょに上野うえのへ行った。そうしてそこで美しい一対いっつい男女なんにょを見た。彼らはむつまじそうに寄り添って花の下を歩いていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すすき彼方あなた、舞台深く、天幕の奥斜めに、男女なんにょの姿立顕たちあらわる。いつわかき紳士、一は貴夫人、容姿美しく輝くばかり。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)