横町よこちょう)” の例文
そのうち、ポン、ポンと、うちわ太鼓だいこをたたいて、げたのはいれのおじいさんが、ちいさなくるまきながら、横町よこちょうからてきました。
金色のボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
ウォルタアとチャアリイは帰路を失って迷児まいごになったもの、早晩どこかの横町よこちょうででも発見されて、安全にれ戻されることだろう。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
いつも両側の汚れた瓦屋根かわらやね四方あたりの眺望をさえざられた地面の低い場末の横町よこちょうから、今突然、橋の上に出て見た四月の隅田川すみだがわは、一年に二
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おまけに窓の外を見ると、始終ごみごみした横町よこちょうに、麦藁帽むぎわらぼうをかぶった支那シナの車夫が、所在なさそうにうろついている。………
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
章一は電車通りで自動車をおりてつまさきあがりになった狭い横町よこちょうを往って、やしろの裏手の樹木の下になったその家を叩いた。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
街灯はまだともされず、ただそこここの家の窓に灯影ほかげがさしはじめたばかりであったが、横町よこちょう袋小路ふくろこうじでは、兵隊や馭者や労働者がわんさといて
その頃、一帖いちじょう七銭の原稿用紙を買いに、中井の駅のそばの文房具屋まで行くのに、おいはぎが出ると云う横町よこちょうを走って通らなければならなかった。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
やしゃ子ねずみまで何万なんまんなん千という仲間なかまのこらずぞろぞろ、ぞろぞろ、まっくろになって、ねこ陣取じんどっている横町よこちょうはらかってめていきました。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
わたくしが富士川游ふじかわゆうさんに借りた津軽家の医官の宿直日記によるに、允成ただしげは天明六年八月十九日に豊島町どおり横町よこちょう鎌倉かまくら横町家主いえぬし伊右衛門店いえもんたなを借りた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
七、八けんさきの横町よこちょうから、地蔵行者じぞうぎょうじゃ菊村宮内きくむらくないが、れいの地蔵尊じぞうそん笈摺おいずる背負せおって、こっちへ向かってくるのが見える。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これをきいて、お妃さまには、わかい王さまがどんな横町よこちょうの生まれのひとか、よくわかりました。そこで、あくる朝、おとうさまにこのなやみを話して
ゆっくり、ゆっくりうたう、そのうたが、ラクダイ横町よこちょうのせまい道はばを、いっぱいにふるわせていくのを、いのきちは、じっと、いつまでも、きいていた。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
お前の生れる時に我身おりゃ夜中よなかにこの横町よこちょう産婆ばばさんの処に迎いに行たことがある、その産婆さんは今も達者にし居る、それからお前が段々大きくなって
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ぼくはついにロンドンのはずれのうすぎたない横町よこちょうにある古着屋ふるぎやにしのびこんで、ほしい物を手に入れ、できればおかねもついでに手にいれることにしたんだ
あるあきあさのこと、イワン、デミトリチは外套がいとうえりてて泥濘ぬかっているみちを、横町よこちょう路次ろじて、町人ちょうにんいえ書付かきつけってかねりにったのであるが
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私のうちは向うに見えるこん暖簾のれん越後屋えちごやと書き、山形に五の字をしるしたのが私の家だよ、あの先に板塀があり、付いて曲ると細い新道のような横町よこちょうがあるから
「ああ、いいとも。それじゃ、ぼくの車に乗せていってあげよう。ついその横町よこちょうにおいてあるんだよ。」
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……まことに事理明白な次第でありますが、幸か不幸かこの御心配は御無用である事を、横町よこちょうの黒犬と竪町たてちょうの白犬とが往来の真中で証明してくれるのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この人は、たいへんなお金持で、町の大通りをすっかりと、そのうえ小さな横町よこちょうまでも、銀貨でぎっしりと、しきつめることができるくらい、お金を持っていました。
林のはずれを右へまがって、大通りへつづく横町よこちょうまできたとき、陽気ようき楽隊がくたいきょくが流れてきた。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
おまえさまのおまれなすったとき、このわしは夜中よなかに、あの横町よこちょうのさんばさんのところへむかえにいったもんです。そのさんばさんは、いまもたっしゃにしておるようです。
その横町よこちょう居酒屋いざかや川越屋かわごえや土間どまへとびこんだチョビ安は、威勢よく
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこ此処ここに二、三軒今戸焼いまどやきを売る店にわずかな特徴を見るばかり、何処いずこの場末にもよくあるような低い人家つづきの横町よこちょうである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
白は生垣に沿いながら、ふとある横町よこちょうへ曲りました。が、そちらへ曲ったと思うと、さもびっくりしたように、突然立ち止ってしまいました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、女がそれとなしに青年の間をけて寄って来た。政雄は女はたしかに己のものだと思った。政雄は空地と人家の間になった狭い横町よこちょうの方へ歩いた。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もし抽斎がわたくしのコンタンポランであったなら、二人のそで横町よこちょう溝板どぶいたの上でれ合ったはずである。ここにこの人とわたくしとの間になじみが生ずる。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やはり毎朝まいあさのようにこのあさ引立ひきたたず、しずんだ調子ちょうし横町よこちょう差掛さしかかると、おりからむこうより二人ふたり囚人しゅうじんと四にんじゅううて附添つきそうて兵卒へいそつとに、ぱったりと出会でっくわす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
直ぐ左へ曲って是から只今角に石屋のあります処から又あとへ少し戻って、細い横町よこちょうを入ると、谷中の瑞林寺ずいりんじという法華寺ほっけでらがあります、今三浦の屋敷へ程近い処まで来ると
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「カフェーや、きっさてんや、いろんなみせがならんでいるだろう。だから、大学だいがくの学生で、この横町よこちょうへあそびにくるくせがついたものは、みんな、らくだいしてしまうのだ。」
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
そのあとから、みんながついて、あちらの横町よこちょうほうへまがってえなくなってしまいました。
日の当たる門 (新字新仮名) / 小川未明(著)
尺取しゃくと横町よこちょう
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
希臘ギリシャの美術はアポロンを神となしたる国土に発生し、浮世絵は虫けら同然なる町人ちょうにんの手によりて、日当りしき横町よこちょう借家しゃくやに制作せられぬ。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女はそこの横町よこちょうを左へ曲った。むこうから待合まちあいの帰りらしい二人のわかい男が来たが、その二人の眼は哲郎の方へじろじろとそそがれた。彼はきまりが悪かった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その内にふとお君さんが気がつくと、二人ふたりはいつか横町よこちょうを曲ったと見えて、路幅の狭い町を歩いている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また左官の正太郎は白島山平の手蔓てづるから正道しょうどうの者で有ると榊原様へお抱えになり、後には立派な棟梁となり、正太郎左官と云われて、下谷茅町したやかやちょう横町よこちょういけはたへ出ようと云う処に
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
横町よこちょうかたがわに、一けん古物店こぶつてんがありました。竹夫たけおは、いつからともなく、ここのおじさんと、なかよしになりました。おじさんは、いつも、みせにすわって、新聞しんぶん雑誌ざっしんでいました。
ひすいの玉 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ラクダイ横町よこちょうという、へんなあだ名の横町よこちょうが、大学だいがくちかくにあった。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
これは五百と同じく藤堂家に仕えて、中老になっていた人である。五百は久しく消息の絶えていたこの女と話がしたいといって、ほど近い横町よこちょうにある料理屋誰袖たがそでに案内した。成善も跡に附いて往った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
希臘ギリシヤの美術はアポロンを神となしたる国土に発生し、浮世絵は虫けら同然なる町人ちょうにんの手によりて、日当りしき横町よこちょう借家しゃくやに制作せられぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あの横町よこちょう水菓子屋みずがしやの前まで走ってって、いきなり短刀を出して首を突いたのですよ、おっそろしい」
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼等はある電車の終点から細い横町よこちょうを曲って行った。夫はかなり酔っているらしかった。たね子は夫の足もとに気をつけながらはしゃぎ気味に何かと口をいたりした。
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あの細い横町よこちょうほうに参り、庄三郎に突かれたなり右の手を持ち添えて、左から一文字にぐうッと掛けて切った、此方こっち(左)の疵口きずぐちから逆に右の方へ一つ掻切かっきって置いて、気丈な新助
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
短夜みじかよの明けぎわにざっと一降ひとふり降って来た雨の音を夢うつつのうちに聞きながら、君江は暫くうとうとしたかと思うと、たちまち窓の下の横町よこちょうから
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして、五六ちょう往ってちょっとした横町よこちょうを右へ折れ曲って往くと、家の数で十軒も往った処の右側の門燈もんとうに「喜楽きらく」と書いた、牛肉屋とかしわ屋を兼ねた小料理屋があった。
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
松葉杖をついた癈兵はいへいが一人ゆっくりと向うへ歩いてく。癈兵はいつか駝鳥だちょうに変っている。が、しばらく歩いて行くうちにまた癈兵になってしまう。横町よこちょうかどにはポストが一つ。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
横町よこちょうに十四五間の高塀たかべいが有りまして、九尺くしゃくの所に内玄関ないげんかんとなえまする所があります。
さまざまな物売の声と共にそのへん欞子窓れんじまどからは早や稽古けいこ唄三味線うたしゃみせんが聞え、新道しんみち路地口ろじぐちからはなまめかしい女の朝湯に出て行く町家まちやつづきの横町よこちょう
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、しばらくそうしていても、この問屋とんやばかり並んだ横町よこちょうには、人力車じんりきしゃ一台曲らなかった。たまに自動車が来たと思えば、それは空車あきぐるまの札を出した、泥にまみれているタクシイだった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何処どこくかと、見えがくれに跡を附けてまいりますと、一人ひとりは川口町四十八番地の店蔵みせぐらで、六間間口ろっけんまぐちの立派なかまえ横町よこちょうの方にある内玄関ないげんかんの所を、ほと/\と叩くと、内からひらきを明け
「それは、この横町よこちょうを往って、それから三つ目の街路とおりを、右へ折れてけば宜い」
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)