“榎:えのき” の例文
“榎:えのき”を含む作品の著者(上位)作品数
泉鏡花25
三遊亭円朝5
国枝史郎4
岡本綺堂4
永井荷風4
“榎:えのき”を含む作品のジャンル比率
芸術・美術 > 演劇 > 大衆演芸11.3%
文学 > 日本文学 > 小説 物語1.9%
文学 > 日本文学 > 小説 物語(児童)0.5%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
とお隅は土間へり、庭へ出ましてかどえのきの下に立つと、ピューピューという筑波おろしが身に染みます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
路傍の両側に立つ一里づかえのきも、それを見返らずには通り過ぎられないほど彼には親しみの深いものになっていた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
平次の指さしたのは、塀の内から大きなえのきの枝が差出たあたり、塀から二間ばかり離れて流れて居る、三尺ほどの溝川でした。
一釣瓶ひとつるべごとにえのきのこぼれたやうなあか毛蟲けむし充滿いつぱい汲上くみあげた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
向う座敷は障子をあけ放して、その縁側に若い女客が長い洗い髪を日に乾かしているのが、えのきの大樹を隔ててみえた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
入り日を浴びて花やかに夕ばえすれば、つい下のえのき離れて唖々ああと飛び行くからすの声までも金色こんじきに聞こゆる時
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかし、広巳は海晏寺の前のえのきの傍でい、それから八幡祠の境内で逢った女以外の女は、求めてはいなかった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
きっと、えのきの下を振顧ふりかえって、お蝶はしばらく立ちすくみましたが、さっき父のいったことばが思い出されると共に、
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下総しもうさが下綱だったり、蓮花れんげよもぎの花だったり、鼻がになって、腹がえのきに見える。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向座敷は障子をあけ放して、その縁側に若い女客が長い洗い髪を日に乾かしているのが、えのきの大樹を隔ててみえた。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
他所よそのおぢさんのとりさしがて、わたしとこはしつめで、えのきした立留たちどまつて
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おや/\裏庭うらにはえのき大木たいぼく散込ちりこむにしてはかぜもないがと、おもふと
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこでえのきの實を集めるばかりでなく、時には橿鳥かしどりの落して行つた青いの入つた羽を拾ひました。
と云いながら、側にあったえのきの根株へ頬片ほっぺたこすり付けますから悪者は痛くてたまりません。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と上を見る。やぶは尽きて高い石垣、えのきが空にかぶさって、浴衣に薄き日の光、二人は月夜をく姿。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何しろ二十年ちかく昔の事であるから、記憶も薄くなつてはつきりしないが、お宮の坂の下の、えのき小路、といふところだつたと覚えてゐる。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
西側は、けやきむくえのきなどの大樹が生い茂り、北側は、濃い竹林がおおいかぶさっている。
桑の虫と小伜 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
森と言っても崖ぎしの家に過ぎない、ただ非常に古いえのきしいとが屋根を覆うていて、おりおり路上に鷺の白い糞を見るだけであった。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
門におおきえのきがあって、榎やしきと云や、おめえ興津おきつ江尻まで聞えたもんだね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かたへに一ぽんえのきゆ、年經としふ大樹たいじゆ鬱蒼うつさう繁茂しげりて
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と呼びながら、身長せいの高い肩幅の広い男が、大えのきすその、やぶの蔭から、ノッソリと現われて来た。その声で解ったと見え、
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『西遊記』一に、肥後五日町の古いえのき空洞ほらに、たけ三尺余めぐり二、三尺の白蛇住む。
中でも裏山の峰に近い、この寺の墓場の丘の頂に、一樹、えのきの大木がそびえて、そのこずえに掛ける高燈籠が、市街の広場、辻、小路。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えのきえだからはとき々はら/\としづくちる、中流ちうりう太陽がさして、みつめてるとまばゆいばかり。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夜、父が寄席へ出かけた留守中、浜子は新次からおうまえのきの夜店見物をせがまれると、留守番がないからと言ってちらりと私の顔を見る。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
と——道は日蔭にはいったようです。すッくと高いえのきの木が、そのやぶの陰を陰湿いんしつにして——
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
路傍みちばたに小高く土を盛り上げ、えのきを植えて、里程を示すたよりとした築山つきやまがある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
川向こうを見ると城の石垣いしがきの上に鬱然うつぜんと茂ったえのきがやみの空に物恐ろしく広がってみぎわの茂みはまっ黒に眠っている。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
丁度私が國に居た頃、えのきの實を拾ひに行つて其下に落ちて居た橿鳥かしどりの羽を見つけたやうに。
すると直ぐそこからえのきが芽を出して、正月の十七日にはその枝に沢山の大判小判の金貨がなりました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
ここに中空をしのいでえのきが一本、こずえにははや三日月が白くななめかかった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭が川でつきてしまうところに大きなえのきがあるので、その下が薄い日蔭になりなかなか趣があった。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
えのき木蔭こかげ會合くわいがふして、お月樣つきさまび、お十三じふさんし、パラリとつて三々五々さん/\ごゞ
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この、芸者たちと一緒にごはんを食べた割烹店の在る花街を、えのき小路、とは言はなかつたかしら。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
宮内省くないしょう裏門の筋向すじむこうなる兵営に沿うた土手の中腹に大きなえのきがあった。
白沙を敷いた広い庭には高野槇こうやまきがあり、えのきがあり、かえでがあり、ぼくになったまさきなどがあって微陽うすびが射していた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「まだありますよ。血染の脇差の始末に困つてえのきの枝の上から、塀外のどぶに投げ込んだ奴」
「それは世間並のことで、えのき長者は代々、男でなければ、家督を取らないことになつて居ります」
少年の私を楽ませてくれた駒ヶ池の夜店やえのきの夜店なども、たまに帰省した高校生の眼には、もはや十年一日の古障子の如きけちな風景でしかなかつた。
木の都 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
峠の上の国境に立つ一里塚いちりづかえのきを左右に見て、新茶屋から荒町あらまちへ出た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
帰る時、鹿見村しかみむらのはずれの土橋のたもとに、えのきの樹の下に立ってしょんぼりと見送ったのが、(と調子を低く)あの、婦人おんなだ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さてまた洞は岩畳み、鬼蔦おにづたあまたひつきたれど、ほとりにえのきの大樹あれば
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
店の前には大きいえのきが目じるしのように突っ立って、おあつらえ向きの日よけになっていた。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
というから粥河はこれを飲んでは大変と顔色がんしょくが変りまする。其のうち海の方に月は追々昇って来ますると、庭のえのきに縛られて居る小兼が、
しばらくすると暗くなった、杉、松、えのき処々ところどころ見分けが出来るばかりに遠い処からかすかに日の光のすあたりでは、土の色が皆黒い。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「こはいぶかし、路にや迷ふたる」ト、彼方あなたすかし見れば、年りたるえのき小暗おぐらく茂りたる陰に、これかと見ゆる洞ありけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
隣りの寺の屋敷にある大きな、高いえのきこずえが、寂寞に堪えないといったような表情をして(実際、そんなに感ぜられた)軽くふわふわとそよいでいた。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
「親分も知つて居なさるでせう、十二そうえのき長者——新宿から角筈へかけて、一番大地主で、家には鎌倉の執權しつけんとかの、お墨附を持つて居る」
つかもりえのきに、線香せんかうけむりあは
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
牧牛会社の前までくると日が入りかかって、川端のえのきの霜枯れの色が実に美しい。
高知がえり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
古い城下の、しいえのきやタモの大木のある裏町には、星ぞらがともすればおおわれがちで、おけらがぶるぶると、溝汁どぶじるの暗い片かげに啼いていた。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
橋のあったのは、まちを少し離れた処で、堤防どてに松の木が並んでうわっていて、橋のたもとえのきが一本、時雨榎しぐれえのきとかいうのであった。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ヨワンえのき伴天連バテレンヨワン・バッティスタ・シロオテの墓標である。
地球図 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その時眼前のえのきの木へ火柱がヌッと立ったかと思うと四方一面深紅となった。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一里ごとにつかを築き、えのきを植えて、里程を知るたよりとした昔は、旅人はいずれも道中記をふところにして、宿場から宿場へとかかりながら、この街道筋を往来した。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
峠村組頭の平兵衛が家はその部落の中央にあたる一里塚のえのきの近くにある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
弟はまた弟で、えのきの実の落ちた裏の竹藪たけやぶのそばの細道を遊び回るやら、橿鳥かしどりの落としてよこす青いの入った小さな羽なぞをさがし回るやら。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もうその頃には紋太郎は少し離れたえのきの蔭に身を小さくして隠れていたが、
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夜目よめながら老木おいきえのき洩る月のしろがねの網に狂ふものあり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
夜目よめながら老木おいきえのき洩る月のしろがねの網に狂ふものあり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お千代は黙っていた。空はいよいよ明るくなって、裂けかかった雲のあいだから日の光りが強く洩れて来たので、半七は彼女を誘うようにして、路ばたの大きいえのきの下に立った。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
炭坑事務所から二十間ばかり離れて、三四本の大きなえのきが立っていた。
狂馬 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
よじくれたえのきくさむらのはてに、浅い海が白く光っていた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
と見ると生垣が有りまして、這入口はいりぐちに大きなえのきが有り
と折りから正三君が飛び立って、えのきの大木のみきをたたいた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また一方に、小刀の先にて田虫の上に、「犬」という字をいくつも書くべし。あるいは白はしをもってえのきへ取り移すまねを三度すれば、その木かぶれて、こちらの田虫消ゆという。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それは山鹿素行やまがそこうの墓のある寺で、山門の手前に、旧幕時代の記念のように、古いえのきが一本立っているのが、私の書斎の北の縁から数多あまたの屋根を越してよく見えた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ウウと吠掛ほえかかったから、八さんは、ワッと云ってげ出すと、追掛けようとする野良をからかさでばッさり留めて、橋袂はしたもとえのきぶッつかりそうな八さんを
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼さがりからは冬の陽の衰えた薄日も射さず、雪こそは降り出さなかったが、その気配を見せている灰色の雲の下に、骨を削ったようなえのきや樫の木立は、寒い凩に物凄い叫びをあげていた。
不幸 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
墓を囲んだすぎえのきが燃えるような芽を出している。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
女はこの界隈かいわいを、のたうち廻ったものらしく、二、三町隔たった広場にある、大きなえのきの下に、下駄やくしのようなものが散っていた。自身に毒をんだという話もあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
表だけ見えて、欄干が左右へ……真中まんなかえのきの大樹があって仕切る、その二階がね、一段低くなってながれに臨んで、も一つ高い座敷が裏に有りそうなんだ、夢だからね、お聞き。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
欝蒼としたけやきえのき、杉、松の巨木に囲まれた万延寺裏手の墓地外れに一際目立つ「蔵元先祖代々之墓」と彫った巨石おおいしが立っているのが、木の間隠れに往来から見える。
えのきみきをたたいてきたえただけのことがあった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
宗吉は、一坂ひとさか戻って、段々にちょっと区劃くぎりのある、すぐに手を立てたように石坂がまた急になる、平面な処で、銀杏いちょうの葉はまだ浅し、もみえのきこずえは遠し
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土地の口碑こうひ、伝うる処に因れば、総曲輪のかのえのきは、稗史はいしが語る、佐々成政さっさなりまさがその愛妾あいしょう、早百合を枝に懸けて惨殺した、三百年の老樹おいきの由。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或日わざ/\前年彼を見たえのきの蔭に行つてみた。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
が、有名な高燈籠がえのきこずえともれている……葉と葉をくぐって、の影が露を誘って、ちらちらと樹を伝うのが、長くかかって、幻の藤の総を、すっとなびかしたように仰がれる。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
途中でおぶってくれたりなんぞして、何でも町尽まちはずれへ出て、さびしい処を通って、しばらくすると、大きなえのきの下に、清水しみずいていて、そこで冷い水を飲んだ気がする。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
練塀ねりべい小路えのき妙見境内にて一人。
こは山蔭の土の色鼠に、朽葉黒かりし小暗おぐらきなかに、まわり一かかえもありたらむえのきの株を取巻きて濡色のくれないしたたるばかりちりも留めずつちに敷きていたるなりき。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぐったりとした四肢ししの疲れのように田舎路は仄暗ほのぐらくなってゆくのだが、ふと眼を藁葺屋根わらぶきやねの上にやると、大きなえのきの梢が一ところ真昼のように明るい光線をたたえている。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
人間の顔によく似た大岩がどこのやぶの中に在って、二股ふたまたになった幹の間から桜の木を生やした大えのきはどこの池の縁に立っているという事まで一々知っていたのは恐らく村中で彼一人であったろう。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
茶店の横にも、見上るばかりのえんじゅえのきの暗い影がもみかえでを薄くまじえて、藍緑らんりょくながれ群青ぐんじょうの瀬のあるごとき、たらたらあがりのこみちがある。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭の隅に一本のえのきの大木があった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
だから、すっかりあっしも朗らかになってね、あそこへ回ったんですよ。あそこの妙見さまへね。だんなは物知りだからご存じでしょうが、下谷の練塀ねりべい小路の三本えのきの下に、榎妙見というのがありますね。
まず葛西の小岩井村百姓文吉の処に兄が居りはしまいかと思って、村の入口で聞きますると、それはあのえのきのある処から曲ってくと、前に大きなはんの木が有るからと教えられて、其の通り参って見ると
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とうに人のものになってしまったのですが、ご存じでいらッしゃいましょう、小石川こいしかわの水道橋を渡って、少しまいりますと、大きなえのきが茂っている所がありますが、私はあの屋敷に生まれましたのです。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
半日の閑をえのきせみの声
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
二の橋の日向坂はその麓を流れる新堀川しんほりかわ濁水だくすいとそれにかかった小橋こばしと、ななめに坂を蔽う一株ひとかぶえのきとの配合がおのずから絵になるように甚だ面白く出来ている。
富豪大鳥井紋兵衛のやしきは、二本えのきと俗に呼ばれた、お城を離れる半里の地点、小原村に近い耕地の中に、一軒ポッツリ立っていたが、四方に林を取り巡らし、ほりに似せて溝を掘り、周囲を廻れば五町もあろうか
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土手につづくえのきの樹。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「丸橋忠彌召捕の時、麻布二ほんえのきの寺前の貸家に、三百三十たるの毒藥が隱してあつた。これは由比正雪が島原で調合を教はつたといふ南蠻祕法の大毒藥で、一と樽が何萬人の命を取るといふ恐ろしいものであつた」
谷町九丁目から生玉いくたま表門筋へかけて、三・九の日「えのきの夜店」の出る一帯の町と、生玉いくたま表門筋から上汐町六丁目へかけて、一・六の日「駒ヶ池の夜店」が出る一帯の町には路地裏の数がざっと七、八十あった。
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
茶店ちゃみせの横にも、見上みあげるばかりのえんじゅえのきの暗い影がもみかえでを薄くまじへて、藍緑らんりょくながれ群青ぐんじょうの瀬のある如き、たら/\あがりのこみちがある。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
えのきの新芽。
すかんぽ (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「——有難や、地下にもなお、この天禄があるか。地上の物は、ここ数旬の滞陣に、あけび、胡桃くるみえのきの実、山葡萄やまぶどう、食える物は零余子ぬかごにいたるまで喰べ尽したかに見らるるが、……弥太郎、まだまだあるなあ」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薬がなくっては困ったもの、ういう時は苦い物でなければいけない、だらすけがいが、今此の先にねえ、あのえのきの出て居るうちが有る、あれから左の方へ構わず曲ってくと、家が五六軒ある、其処そこの前に丸太が立って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
楊弓場ようきゅうばの軒先に御神燈出すこといまだ御法度ごはっとならざりし頃には家名いえな小さく書きたる店口の障子しょうじ時雨しぐれゆうべなぞえのき落葉おちばする風情ふぜい捨てがたきものにてそうらひき。
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さすがの米友も、誰を呼びかけて、何をいおうとの心も失せ、参宮道の真中のえのきの大樹の下に立つと、何かいい知れず悲しくなって、その大樹に身を寄せておもておおうているうちに、いつしか、しくしくと泣いている自分を発見しました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)