)” の例文
砧村きぬたむら途中とちう磨石斧ませきふひろひ、それから小山こやまあがくちで、破片はへんひろつたが、此所こゝまでに五ちかあるいたので、すこしくまゐつてた。
秋もう末——十月下旬の短い日が、何時しかトツプリと暮れて了つて、霜も降るべく鋼鉄色はがねいろに冴えた空には白々と天の河がよこたはつた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
町の尽頭はずれまで来た時に、お杉は初めて立止たちどまった。尾行して来た人々もう散ってしまった。お杉は柳屋のかどに寄って、皴枯しわがれた声で
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もう可いから、彼方へ御行で……お前の云った事は、う充分解ってる。其処を退いたら可いだろう。邪魔だよ、何時までも一人で、其処を
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
燈籠というものはその庭を一と目眺めたときに、うその位置が宿命的に定っているほど動かないところにあるものである。
庭をつくる人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
女はう泣声ではなかった。こう云い乍ら半帕に伏せた眼を上げた。彼は此時、本能的とでも云った様に其名刺を引込めた。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
すると女の答えるには、其の眼鏡を懸けたおふささんには、う情人が付いて居て、其の夜も其の男の来るのを待って居るとの事で有りました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
論語はい本だ。い本だからと言つて、それで人生がひつくりかへるものなら、この世は幾度かう引くり覆つてゐる筈だ。
私は自分の用事を済してから根気よく人々の間を泳いで探し廻ったが、問題の老婦人の姿はう何処にも見えなかった。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
ういつの間にか去つて微かに遠雷のやうに聞こえる嵐の音に耳を傾けながら、降る如く一面に星の現はれた空をぽかんと仰向いて見上げてゐた時
ヂュリ いゝえ、母樣かゝさま明日あすしき相應ふさはしい入用いりよう品程しなほど撰出えりだしておきました。それゆゑ、わたしにはお介意かまひなう、乳母うばはおそば夜中よぢゅう使つかくだされませ。
紅葉もみじするのは、して、何時か末枯すがれて了っている中に、ひょろ/\ッと、身長せいばかり伸びて、せいの無いコスモスが三四本わびしそうに咲き遅れている。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ほんの僅かの間に、其處にはう私の見るを厭つた大爭鬪が石段の半ば以上に亙つて開かれてゐた。
相変らずの油照あぶらでり、手も顔もうひりひりする。残少なの水も一滴残さず飲干して了った。かわいて渇いて耐えられぬので、一滴ひとしずく甞めるつもりで、おもわずガブリと皆飲んだのだ。
時々ふッとう駄目だろうと思うと、きりでも刺されたように、急に胸がキリキリと痛む。何とも言えず苦しい。馴染なじみの町々を通っても、何処を如何どう車が走るのか分らない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ういはずと行つてやつて呉れたまへな、對手むかふではう一生懸命になつてるんだから。』
媒介者 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
なに、う知つてゐる? 中々油断のならない狼連だ。旦那や夫人おくさまが御心配なさるのも無理は無い。併し嬢様は滅法お怜悧りこうだから子、君達のやうな間抜に喰はれる筈はないワ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
平吉はう五十の上、女房はまだ二十はたちの上を、二ツか、多くて三ツであろう。この姉だった平吉のぜんの家内が死んだあとを、十四、五の、まだ鳥も宿らぬ花が、夜半よわの嵐に散らされた。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風早學士は、此の醫學校の解剖學擔任の教授で、今日の屍體解剖の執刀者だ。年は四十にだ二ツ三ツ間があるといふことであるが、頭はう胡麻鹽になツて、顏も年の割にしなびてゐる。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
必ず一点の汚涜をどくもありません——貴方の為めにわざはひの種となるのです、——篠田さん、我がつま、何卒御赦おゆるし下ださいまし、貴方の博大の御心には泣いて居るのです、私はう決心致しました
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
要するに、そんな事は何うでもかった。今はう日本の土地を離れ切った。そして坂本新太郎は死んだのである。其の犯人として日本警察に狩立てられている森為吉も既に存在しないのである。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
じっさい、日本を出てから、その時でう一年近く経っていた。
鉄道工事もをはつた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
わらごとではい、なにてもころだと、心中しんちういろ/\苦悶くもんしてるが如何どうない、破片はへん獸骨じうこつ、そんなところしか見出みいたさぬ。
二人は又接穂つぎほなさに困つた。そして長い事もだしてゐた。吉野はう顔のほてりも忘られて、酔醒よひざめの佗しさが、何がなしの心の要求のぞみと戦つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今度はう諦めたのか、ただしは病中の為か、流石さすがのお杉も執念深く追っては来なかったので、これを幸いに重蔵は又もや漂泊さすらいの旅路にのぼった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
画を逆さまに掛けて置いてそれが逆さまだと判るやうだつたら、う一かどの鑑定家といつてい。その上の心得は余り画を愛しないといふ事だ。
というより不意に、足や額に痛みを感じ、感じるときはう額ぎわを切られていた。——それ故城下の剣客は誰一人として立向うことができなかった。
天狗 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
しかしながら線香の匂は、あながち彼の幻覚ばかりではなかった。隣りではう親戚の者が集って仏の仕末をしていた。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
と、捨鉢すてばちになって彼も勝手な理窟を考えた。五六十円と睨んだ彼女の懐中はう自分の様に思えだした。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
初め此方こっちが世話になったのは、とっくに恩は返している。何倍此方が尽しているか知れやしない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
だが、母もマリヤもおれがこう踠死もがきじにに死ぬことを風の便たよりにも知ろうようがない。ああ、母上にもう逢えぬ、いいなずけのマリヤにもう逢えぬ。おれの恋ももう是限これぎりか。
私が手を洗って二階へあがって見たら、お糸さんはう裾をおろしたり、たすきを外したりして、整然ちゃんとした常の姿なりになって、突当りの部屋の前で膝を突いて、何か用を聴いていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
はれ、無慚むざんな! こゝに若殿わかとのころされてござる、のみならず、二日ふつかはふむられてござったヂュリエットどのが、ついいまがたなっしゃれたやうにながして、ぬくいまゝで。
あれ造物者ざうぶつしやが作ツた一個の生物せいぶつだ………だから立派に存在している………とすりや俺だツて、何卑下ひげすることあ有りやしない。然うよ、此うしてゐるのがう立派に存在の資格があるんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それでもう今夜はあの娘も斷念あきらめたと見えて、それを話し出した時には流石さすがに泣いてゐたけれども、平常のやうに父親の惡口も言はずねもせずあの通りに元氣よくして見せて呉れるので
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
貴方、浅草の寿座ことぶきざに掛って居る芝居見た事ある? 其の人は一座の女形おやまなんですって、今夜もう今頃はお娯しみの最中よ、そりゃ仲が良くって、妾達ける位だわ、と野放図も無く喋り立てます。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
油臭い蒲団ふとんの中で、朝為吉が眼を覚ました時には、隣の夜具は空だった。彼は別に気に止めなかった。それよりもう永い間、おかにいる為吉には機関の震動とその太い低音とが此の上なく懐しかった。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「ヘエ、そしてよつちやん、う牢屋へ行らしつたのですか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
茶店ちやみせ老人夫婦らうじんふうふとは懇意こんいつて『旦那だんなまた石拾いしひろひですか。始終しじうえては、りますまい』とわらはれるくらゐにまでなつた。
宿の内儀かみさんう四十位の、亡夫は道庁で可也かなりな役を勤めた人といふだけに、品のある、気の確乎しつかりした、言葉に西国の訛りのある人であつた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
奥様は七つ違いの二十三で、御縁組になってからう六年になるそうですが、まだ御子様は一人もございませんでした。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ココア色をした小鳥が離亭はなれの柱に、その朱塗の籠のなかで往き来し、かげは日影のひいたあたりにはう無かった。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
池の縁を通りかかったとき、前夜道路を横切っていった女の後姿が、チラと脳裡に浮んだが、公園を出るとうすっかり忘れていた。彼は市街まちへ帰った。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
吸物すひものひ尽した。小僧は『おかはりを』といつて、塗の剥げた盃をさしつけた。松潜まつくゞりはかへでの枝に居らぬ。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
部屋へ来てみると、ランプを細くしてう床もってある。私はますでお糸さんと膝を列べている時から、妙に気がいらって、今夜こそは日頃の望をと、芝居も碌に身にみなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こんな時彼はう見得も外聞も考えない。むさぼる様にのぞき込んだ。彼の心は叫びを上げた。「素敵だッ」と。湯の中へ寒暖計を投げ込んだ様に、彼の満足は目盛の最高頂へ飛び上った。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
「雪岡さん。あなたう好い情婦おんなが出来たんですってねえ。大層早く拵えてねえ。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
なん圖星づぼしであらうが?……(ロミオらに對ひ)ようこそ! 吾等われらとても假面めんけて、美人びじんみみりさうなはなしさゝやいたこともござったが、あゝ、それは過去むかしぢゃ、とほい/\過去むかしぢゃ。
やがてはどうせ私もう長い事は無いし、いつか一度思ふ存分飮んで見度いと思つてゐたが、矢つ張り阿彌陀樣あみださまのお蔭かして今日旦那に逢つて斯んな難有ありがたいことは無い、毎朝私は御燈明を上げながら
山寺 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)