はか)” の例文
主人の君も我を愛し給ふ。この愛は、さきはからずも我母上を、おのが車のわだちにかけしことありと知りてより、愈〻深くなりまさりぬ。
神戸から同船して来た津田の店をうてはからず馬来街マレイ・ストリイト遊女街いうぢよまちに出た。同じ様な公娼の街は四箇所あるがこれが第一にさかんだと津田が語つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
気が狂うほどの緊張を幸いに受けずとすんだ余には、彼の恐ろしさ嬉しさの程度をはかり得ぬと云う方がむしろ適当かも知れぬ。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
料理はもともとことわりはかると書く通り、美味うま不味まずいを云々うんぬんするなら、美味の理について、もっと深く心致さねばなるまい。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その時己の目の前にはからずもヱネチアが浮かんだ。幾条かの運河が縦横に流れ、美しい天が晴れ渡つてゐる。そこには宮殿があり、鐘楼がある。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
この悪習慣が一流の学者にまで浸潤し、どれ程世人を誤っていて事体を複雑に導いているか実にはかり知るべからずである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
何ぞはからむ、数週の後に朽木氏の訃音が至つた。朽木氏は生前しやうぜんにわたくしの答書を読んだ。そして遺言して友人をしてわたくしに書を寄せしめた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あるいは長生するやもはかられざれども、また今直ちに何事か起り来るありて、にわかに死するやも料られざるにはあらずや。
一夜のうれい (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いま、奥殿おくでんいたらずとも、真情まごゝろつうじよう。湖神こしんのうけたまふといなとをはからず、わたしきざはしに、かしはつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
愚なる我の思ひはからん由もなければ少しも心に懸けざりしが、扨は斯からん後の今の事を仰せ置かれしよ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
時の緩急かんきゅうはからず、事の難易を問わず、理想を直ちに実行せんとするは、急進家なり、しこうして革命家なるものは、それ急進家中の最急進家にあらずして何ぞや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ここらはちょっと面白い交際であったのだが、はからずまた職務上でも坐席を並ぶることになったのだ。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
かくては我身の上の今宵如何いかに成りなんをもはかられざるをと、無常の愁はしきりはらわたむなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「否、否。疾風の計、迅雷の天撃。いにしえの孫呉にも勝るものである。兵は機を尊ぶ。以後、事の急なる時は、朕に告ぐるまでもない。よろしくけいの一存においてはかれ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ソコで私は今度中津にかえっても宗太郎をば乳臭にゅうしゅうの小児と思い、相替らずそうさん/\で待遇して居た処が、何ぞはからん、この宗さんが胸に一物、恐ろしい事をたくらんで居て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
虎頭ことうはか虎鬚こしゅを編む。固より禍を受くるを知る。言此に止まる。伏して乞う之をかんがみよ。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
風俗が正しく見えるようでなければ病者びょうしゃが信じません、随って薬もおのずから利かんような事になるですが、医者は頓知頓才と云ってず其の薬より病人の気をはかる処が第一と心得ますな
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だ予は、予が今日の分として、この実験の意義、価値の幾許いくばくなるかをはかり知るあたはざるのみ。真理の躰察、あに容易ならんや。予は唯だ所謂いはゆる「悟後の修行」に一念向上するあらんのみ。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
例の沈黙むっつりと云れる調子を以て、きれ/″\とあやしい挨拶を施し、別れてこちらへ来懸ったが、序にと二階を下て用達に行くと、手を洗う後ろに立て居たのは、はからざりき歌ちゃんすなわち小歌で
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
それから全くの浪人となってあしたに暮をはからずという体だったが、奇態に記憶のよい男で、見る見る会話がうまくなり、古道具屋の賽取さいとりしてどうやらこうやら糊口ここうし得たところが生来の疳癪かんしゃく持ちで
「竹渓書院竹渓傍。又値新年此挙觴。魏闕只言聊玩世。并州豈料竟為郷。官情一片春氷薄。旅思千重烟柳長。江戸東風三十度。空吹愁夢到南張。」〔竹渓書院竹渓ノほとリ/又新年ニヒテ此ニ觴ヲ挙グ/魏闕只言フ聊カ世ヲ玩ブト/并州豈はかランヤ竟ニ郷トルヲ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
然るにはからずも物語は物語を生んで、斷えむと欲しては又續き、こゝに金澤氏に説き及ぼさざることを得ざるに至つた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
忙しいのはよいが、生活のためにこの物資を得る仕事で私の本来の研究がどの位妨げられているかはかり知られぬ、その点は平素非常に遺憾に思っている。
僕は老人らうじんに導かれて千八百八十八年に巴里パリイ歿くなつた全権大使ナホノブ、サメジマ君の墓をはからずも一ぱいした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
元来「料理」とは、理をはかるということなのだ。「ものの道理を料る」意であって、割烹かっぽうを指すのではない。
料理の秘訣 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
病はえぬれども、聲潰れたれば、身を助くべき藝もあらず、貧しきが上に貧しき境界きやうがいに陷いり、空しく七年の月日を過して、はからずも君にめぐりあひ候ひぬ。
されど今なまじいに鷲の首などとう時は、かの恐しき魔法使の整え来ぬともはかり難く因りて婆々ばばが思案には
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岡はからめて本郷から起る。高き台をおぼろに浮かして幅十町を東へなだれるくちは、根津に、弥生やよいに、切り通しに、驚ろかんとするものをますはかって下谷したやへ通す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いなとよ時頼、あしたの露よりも猶ほあだなる人の身の、何時いつ消えんも測り難し。我れ斯くてだに在らんにはと思ふひまさへ中々に定かならざるに、いかで年月の後の事を思ひはからんや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
吾人は『三国志』を読み死せる孔明生ける仲達を奔らするの一節に至り、ひそかにその奇談に驚きたり。しかるに今やはからざりき吾人が眼前においてまたこのことあるを見んとは。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
驚きに驚かされし静緒は何事ともわきまへねど、すいすべきほどには推して、事の秘密なるを思へば、まらうどの顔色のさしも常ならず変りて可悩なやましげなるを、問出でんもよしあしやをはかりかねて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
はからざりき、今日、かくの如きことあらんとは」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何ぞはからむ、京水自筆の巻物に拠るに、直温の過去帖には一の虚構だになくして、其他の文書は皆虚構であらうとは。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「千年の桑かの。川の底もはかられぬ。あかりも暗いわ、かわうそも出ようず。ちとりさっしゃるがい。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我は寺に往きて聖母の前に叩頭ぬかづき、いかで我に己に克つ力を授け給はれと祈りて、さて頭を擧げしに、何ぞはからむ聖母のおもては姫の面となりて我を悦ばせ又我を苦めむとは。
かの曾槃そうはんの著である『国史草木昆虫攷』の書物がある事を思い出し、早速これを書架より抽き出して繙閲はんえつして見たところ、はからずもその巻の八に左の記事のあるのを見出した。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
斯くならん末を思ひはからせ給ひたればこそ、故内府殿の扨こそ我に仰せ置かれしなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
料理とは食というもののことわりはかるという文字を書きますが、そこに深い意味があるように思います。ですから、合理的でなくてはなりません。ものの道理に合わないことではいけません。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
こゝは英雄えいゆう心事しんじはかるべからずであるが、ぶちまけられるはうでは、なん斟酌しんしやくもあるのでないから、さかしま湯瀧ゆだき三千丈さんぜんぢやうで、流場ながしば一面いちめん土砂降どしやぶりいたから、ばちや/\とはねぶ。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「誰知当此夜。身在此山中。想君亦尋花。歩月墨水東。月自照両処。花香不相通。恰如心相思。遊迹不可同。」何ぞはからむ、これは花亭が書をたてまつつて職を罷めた三月であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
料理とはことわりはかること
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
彼奴かやつ神通広大じんずうこうだいなる魔法使にて候えば、何を仕出しいださむもはかがたし。さりとて鼻に従いたまえとわたくし申上げはなさねども、よき御分別もおわさぬか。」と熱心に云えばひややかに
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼ははからぬ深きなげきにあいて、前後を顧みるいとまなく、ここに立ちて泣くにや。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おお! 事ある時は、それから母屋へげよ、という、一条ひとすじの活路なのかもはかられん。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼ははからぬ深き歎きに遭ひて、前後を顧みる遑なく、こゝに立ちて泣くにや。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
毛色のかわった犬一疋いっぴきにおいの高い総菜にも、見る目、ぐ鼻の狭い土地がら、おもかげを夢に見て、山へ百合の花折りに飄然ひょうぜんとして出かけられたかもはかられぬを、狭島の夫人、夜半より
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼ははからぬ深き歎きにひて、前後を顧みるいとまなく、こゝに立ちて泣くにや。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
何ぞはからん、成善は医者と看做みなされて降等に逢い、三十俵の禄を受くることとなり、あまつさえ士籍のほかにありなどとさえいわれたのである。成善は抗告を試みたが、何の功をも奏せなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
肋膜炎ろくまくえんを病んだ挙句が、保養にとて来ていたが、可恐おそろし身体からだを気にして、自分で病理学まで研究して、0,などと調合する、朝夕ちょうせき検温気で度をはかる、三度の食事も度量衡はかりで食べるのが、秋の暮方
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その心にわかにはかりかねたる、胸はまたとどろきぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)