掃除そうじ)” の例文
もうし上げます。町はもうすっかり掃除そうじができてございます。人民じんみんどもはもう大悦おおよろこびでお布令ふれたずきれいに掃除そうじをいたしました」
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
目がさめたときには、すっかり夜があけ、明るい太陽たいようがさしこんでいて、出勤しゅっきんしてきた店員てんいんの話し声や掃除そうじをする音がきこえていた。
藤原六雄ふじわらろくおは、ランプ部屋べやへはいって、ランプの掃除そうじをしていた。彼は、今年二十八歳のひどくだまりやの、気むずかしやであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
二条の院はどの御殿もきれいに掃除そうじができていて、男女が主人の帰りを待ちうけていた。身分のある女房も今日は皆そろって出ていた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「それからんだぜ。火がおこったら、ぐに行燈あんどん掃除そうじしときねえよ。こんなァ、いつもよりれるのが、ぐっとはええからの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
足場を払って綺麗きれい掃除そうじを致し、幔幕まんまくを張って背景はいけいを作ると、御玄関先は西から南を向いて石垣になっていて余り広くはありませんから
店先の掃除そうじをして一飯の雑作に有りついた。誤解や面倒がる関門を乗りして四郎の明澄性めいちょうせいはそれらの町々の人の心をもとらえた。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
××の鎮海湾ちんかいわん碇泊ていはくしたのち煙突えんとつ掃除そうじにはいった機関兵は偶然この下士を発見した。彼は煙突の中に垂れた一すじのくさり縊死いししていた。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
兼吉や桑作までときどきくわを休めに焚火のそばへ来て、お師匠さまの墓掃除そうじにはまた皆で来てあげるなぞと語り合うのであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すでに申し上げた、あの心の掃除そうじです。いったい化粧の目的は、顔を美しく綺麗きれいに見せるためではなくて、顔や肌の手入れです。掃除です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
同じ友人に依頼して誰が掃除そうじしてくれたるか、もしわかったならば礼もしたいから、住職なり番人なりにただしてくれと、いって送るけれども
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
看護婦がそろそろ起き出して室内を掃除そうじする騒がしい音などは全く気にならないで、いい気持ちに寝ついてしまうのである。
病院の夜明けの物音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もうすべてのことは発覚していると思っていたのに、ボロ自転車の掃除そうじをしていたやあ公は正九郎の顔をみても、別になんともいわなかった。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ちょうどスタンドの女が起きて店の掃除そうじを終えたところであった。ガラス戸が開け放されていたので、店内の女は私を認めて追っかけてきた。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼女が手伝って掃除そうじすると、まめやかな男主あるじは、手製のおしるこを彼女にと進めたりした。彼女はその日のことを記した末
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
よし子は障子をたてて、枕元まくらもとへすわった。六畳の座敷が、取り乱してあるうえに、けさは掃除そうじをしないから、なお狭苦しい。女は、三四郎に
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何一つ荷物のないのは相変らずだったが、それでも隅々まで女の掃除そうじの手がとどいて、源右衛門とのさかいの壁には、厚い紙が何枚もはられた。
また朝夕に部屋の掃除そうじ励行れいこうせしむること厳密を極め、するごとに一々指頭をもって座布団ざぶとんたたみ等の表面をで試み毫釐ごうり塵埃じんあいをもいといたりき。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ちり一つすえずにきちんと掃除そうじが届いていて、三か所に置かれた鉄びんから立つ湯気ゆげで部屋の中はやわらかく暖まっていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「新宿のねェよ、女郎屋じょうろうやでさァ、女郎屋に掃除そうじを取りに行く時ねェよ、饂飩粉うどんこなんか持ってってやると、そりゃ喜ぶよ」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
利休はその子紹安じょうあんが露地を掃除そうじし水をまくのを見ていた。紹安が掃除を終えた時利休は「まだ充分でない。」と言ってもう一度しなおすように命じた。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
落ちぶれたと言っても、さすがに、きちんとした二部屋のアパートにいたが、いつも隅々すみずみまで掃除そうじが行きとどき、殊にも台所の器具は清潔であった。
メリイクリスマス (新字新仮名) / 太宰治(著)
家の掃除そうじをさせている間、梶は久しぶりに一人市見物に出ていった。すると、あれほど大都会の中心を誇っていた銀座は全く低くきたなく見る影もなかった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
街路は清潔に掃除そうじされて、鋪石ほせきがしっとりと露にれていた。どの商店も小綺麗こぎれいにさっぱりして、みがいた硝子の飾窓かざりまどには、様々の珍しい商品が並んでいた。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
学校へゆく二人ふたり兄妹きょうだいに着物を着せる、座敷を一通り掃除そうじする、そのうちに佐介はくわを肩にして田へ出てしまう。お千代はそっとおとよの部屋へはいって
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
何だか、もと奉公していたうちがなつかしいような気がした。始終掃除そうじをしていた部屋部屋のちんまりした様子や、手がけた台所の模様が、目に浮んだ。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
みずから、厩も掃除そうじしていて、たいへんなよろこびかただ。かくもよろこぶかれを、見たこともないほどだった。
それは掃除そうじが行届いているかいなかとか、設備が完備しているかいないかということとは別問題である。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
戸口を掃除そうじしてたひとりの女が他の女に言った、「もうだいぶ前から一生懸命に弾薬が作られてるよ。」
「あら、失礼いたしました。しけで大へんでしたなあ。今日きょうは石ころ掃除そうじのお手つだいをしていますの」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
みんな朝飯を食いに食堂に行った後のがらんとした寝室しんしつを、コックの小母おばさんが、掃除そうじしていましたが
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わたしはその間に掃除そうじまし、居残りの巡査と話してるのにもきて、そろそろ風呂の湯加減でも見ておこうかと、鍵を持って廊下を渡って行ったんですが……。
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
見たところ、もう住み古した雑な座敷であるが、それでも八畳で広々としているのと、小綺麗に掃除そうじをしているのとで何となく明るくて居心地が好さそうに思われる。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
周三は、吃驚したやうに頭をもたげると、お房は何時の間にか掃除そうじましてわきに來て突立ツてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
次郎は愉快ゆかいそうに笑って、事務室にはいり、すぐ掃除そうじをはじめたが、その時になって、大河のにっと笑った顔と、そのあとで言った言葉とが、変に心にひっかかりだした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それはちょうど滅多に掃除そうじしない部屋をたまに掃除したりすると、黴菌ばいきんみたいな形の、長い尻尾しっぽを生やした黒いほこりがフワフワとそこらに飛び立って驚くことがあるものだが
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
そこらじゅう血まみれになったあとの掃除そうじに十日も掛った自分の手を、三月の間暇さえあれば嗅いでぶつぶつ言っていたくらいゆえ、坂本を匿うのには気が進まなかったが
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
また彼女は、とびらに耳を押しあてて、台辞せりふを繰り返してる役者たちに耳を傾けた。そして一人で廊下の掃除そうじをしながら、彼らの台辞回しを小声で真似まねたり、身振りをしたりした。
日本でも同じ事で年若くして弟子入りすると先ず掃除そうじをやらされる位いの事である。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
すると、男女が三、四人やって来たが、昨夜の顔触かおぶれとは全然ちがっている。そして、家の中へはいるとしとみを上げ掃除そうじなどをして、かゆと強飯こわめしとを主人の女とその男に給仕した。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
にんじんは、いくら掃除そうじをしてやっても、耳のあなに、しょっちゅうパンくずめている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
よく覚わらないのでばちでたたかれました。お稽古けいこの暇には用使いから、お掃除そうじから、使わねば損のように皆が追い使いました。私はいっそ死んでしまおうと思った事もありました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
かれまわりを掃除そうじするニキタは、そのたびれい鉄拳てっけんふるっては、ちからかぎかれつのであるが、このにぶ動物どうぶつは、をもてず、うごきをもせず、いろにもなんかんじをもあらわさぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こっちが朝九時ごろ起きて二階の雨戸をけでもすると、向うの二階で掃除そうじをしていた女たちが、日を受けてるのでまぶしそうにこっちを見やりながら、かすかなみを送ったりした。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
それに小僧が無精で掃除そうじをせぬので、卓の上には白いほこりがざらざらと心地悪い。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
うち吝嗇けちじゃから見附かるとしかられる、これを股引ももひきはかま一所いっしょに戸棚の上にせておいて、ひまさえあればちびりちびり飲んでた男が、庭掃除そうじをするといって、くだんの蜂の巣を見つけたっけ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
煙草たばこが好きで、いつでも煙管きせる羅宇らおれたのに紙を巻いてジウジウ吸っていたが、いよいよ烟脂やにたまって吸口すいくちまでにじみ出して来ると、締めてるメレンスの帯を引裂いて掃除そうじするのが癖で
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その翌日から、不思議なことが八幡様はちまんさまに起こりました。今まで荒れ果てていたお宮の中が、綺麗きれい掃除そうじされました。屋根はつくろわれ、柱や板敷いたじきは水でかれ、色々の道具はみがき上げられました。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
母や兄嫁は立ったり坐ったり、何となしに家事に忙しかったが、勝代はざっと二階の掃除そうじをして、時間はずれの朝餐を一人で食べると、下女に吩咐いいつけて、二階の炬燵こたつに火を入れさせて閉籠とじこもった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
離れの掃除そうじにいった女中のおきぬは、悲鳴をあげながら母屋へころげこんで来た。離れで人が殺されているというのである。ゆうべの係は誰だ、おふみさんです、ということでおふみが呼ばれた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)