捗取はかど)” の例文
この教え方は、道も長いし、迂遠うえんなようであるが、落ちつく処へ落ち附くとかえって歩みはすみやかで、どんどんと捗取はかどるのであります。
棒同然な物で大海たいかい乗切のっきるのでありますから、虫のうより遅く、そうかと思うと風の為に追返されますので、なか/\捗取はかどりませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もしの仕事が思ふやうに捗取はかどつたら、いづれそれを持つて山を下りようと思ふ。けれども斯のことはだ誰にも言はずにある。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それで、娘が再び眼を上げて華やかな顔色に戻ったとき、室内はただ明るく楽しいことが、事務的に捗取はかどって行く宴座となった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「しかもけっこうなお天気さまで——」と、鋸屋は附け足した「こういう日には、山の仕事は目に見えて捗取はかどるものでがんす」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
其れも工程の捗取はかどると共に、何時いつしか他所よそに流れて往って了うた。やがて起ったのが、東京の寺院墓地移転用敷地廿万坪買収の一件である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
足元の明るい中に人里まで出られないと困ると思って急ぎに急いだが、案外路がいいので足も捗取はかどり、六時二十分には和田に着くことを得た。
美ヶ原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
相当道のりも捗取はかどっていなければならないのに、離れて第三者から見ていると、「山科光仙林」の提灯が同じところを行きつ戻りつしている。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
みち十一里じふいちりだけれども、山坂やまさかばかりだから捗取はかどらない。むかし前田利家まへだとしいへ在城ざいじやう武生たけふやなぎみづをんな綺麗きれい府中ふちうである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仕事は少しずつ捗取はかどって来た。進行するにつれて原文になずんでも来たし、訂正のこつ自然ひとりでに会得されて来た。作そのものにも興味が出て来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その日の仕事を早く片付けようという気があるので、いきなり机へ向ったが、心のどこかに引懸りが出来て、なかなか思う通りに捗取はかどらなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなわけで、とかくに仕事が捗取はかどらず、半七らを苛々いらいらさせていると、それから十日ばかりの間に、二つの事件が出来しゅったいして、更に彼等を苛立たせた。
さしも願はぬ一事いちじのみは玉を転ずらんやうに何等のさはりも無く捗取はかどりて、彼がむなしく貫一の便たよりを望みし一日にも似ず、三月三日はたちまかしらの上にをどきたれるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
展覧会ナゾは気紛れに思立っても皆ブショウだからその計画も捗取はかどらないでとうとう実現されなかった。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
歯のあらい、通りのよい、手丈夫な立派な好い大きなくしだ。天下の整理はかくの如くにして捗取はかどるのだ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其の後お房は些とした機會きくわい雑作ざふさなく手を握らせて呉れた。雖然、其の製作はあひ変らず捗取はかどらぬ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
朝早く起きることは仕事を捗取はかどらせる。午前中には元の部屋を片づける。書き損じの原稿をやきすて、新しい方にみずやなどを持ち込む。午後は、本をよみものを少し書く。
この文長ければ学校外の記事をなるべく簡略にせんとて二、三日分を直しかけたれど寐て書く事故少しも捗取はかどらず、右手しびれて堪へ難ければ手を伸ばして左手にてひじむ。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかしその冬から父は病気になって、四月に死んだ。父位着手の億劫おっくうを感ぜなくて、そして根気がよかったら、物理の実験などは、どんどん捗取はかどることだろうと考えることもある。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
くわふるに寒肌あはを生じ沼気沸々ふつ/\鼻をく、さいはひに前日来身躰しんたい鍛錬たんれんせしが為め瘧疫ぎやくえきかかるものなかりき、沼岸の屈曲くつきよく出入はじつに犬牙の如く、之に沿うてわたることなれば進退しんたい容易やうゐ捗取はかどらず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
会社の方ではたゞ一人の社長が機敏に差図し市内二十幾箇所の出張所に百五十人の係員、八十人の配達夫、十人の補助配達夫を使用するだけで事が捗取はかどつてくから民業として立派な収益を得て居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼の仕事は着々と云ふ程には捗取はかどらなかつたが比較的早く進んだ。
「今夜は僕が帰らなかつたから、余つ程小説が捗取はかどつたらう。」
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仕事も捗取はかどって行きました。
正雪の遺書 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
落す詞なり和田峠ののぼりは馬に乘りたれば野々宮高砂のゝみやたかさごなりしがくだりはあなどりて遊び/\歩きたる爲め三里に足らぬと聞くに捗取はかどらぬこと不思議なるうへ下口おりくちはドカ/\と力も足にる故か空腹甚しく餡餅あんもち二盆半の豪傑すら何ぞやらかす物はないかと四方を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
結局小高大高をえて小楢俣に下った方が、山へも登れるし行程もかえっ捗取はかどったに相違なかったと後悔した程である。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
みぞれがぱら/\降出して来て、子供に婆様ばあさまで道は捗取はかどりません、とっぷり日は暮れる、するとしきりに痛くなりました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私の仕事も大分捗取はかどつた。私の眼前めのまへには油のやうに流れて行く千曲川の下流の水がある。みぞれ蕭々しと/\降つて居る。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
なにしろ山霊さんれい感応かんおうあつたか、へびえなくなりあつさもしのぎよくなつたのでいさあし捗取はかどつたがほどなくきふかぜつめたくなつた理由りいう会得ゑとくすることが出来できた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
読書もなかなか捗取はかどらず、最初からでは約ひと月をついやして、五月下旬にようやく以上の諸作を読み終りました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
是より一同みな/\励み勤め昨日に変る身のこなし、一をきいては三まで働き、二と云はれしには四まで動けば、のつそり片腕の用を欠いて却て多くの腕を得つ日〻工事しごと捗取はかど
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それが二三人で持ち合ってなかなか捗取はかどらないような湿しめを帯びていた。やがて医者の声で、どうせ、そう急には御癒おなおりにはなりますまいからと云った言葉だけが判然はっきり聞えた。
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
みイちゃんは婚礼したかどうかしらッ。市区改正はどれだけ捗取はかどったか、市街鉄道は架空蓄電式になったか、それとも空気圧搾あっさく式になったかしらッ。中央鉄道は聯絡したかしらッ。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
お房が周三のモデルになつて、彼の畫室ぐわしつのモデルだいに立つやうになツてから、もう五週間しうかんばかりになる。しか製作せいさく遲々ちゝとして一かう捗取はかどらぬ。辛面やツとかげとひなたが出來たくらゐのところである。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
この美しい娘はもう私に頼る必要はなくなった。——しかし、私はどんな感情が起って不意に私を妨げるにしても自分の引受けた若い二人に対する仕事だけは捗取はかどらせなくてはならないのである。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ああ。何だのかだのと例によって、なかなか捗取はかどらなかったのだけれど、やっとね。今日で二度目さ。この年で始めたんじゃあ、どうせ本ものになりっこはないから、せめて色紙ぐらい間誤つかないようになれば大出来としないじゃあね」
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
読書もなかなか捗取はかどらず、最初からでは約一月を費して、五月下旬にようやく以上の諸作を読み終りました。
半七捕物帳の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何しろ山霊感応あったか、蛇は見えなくなり暑さもしのぎよくなったので、気もいさみ足も捗取はかどったが、ほどなく急に風が冷たくなった理由を会得えとくすることが出来た。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其のあいだおよそ九里何丁、道々も手掛りの様子を聞きつゝまいりますこと故、なか/\捗取はかどりませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これより一同みなみな励み勤め昨日に変る身のこなし、一をきいては三まで働き、二と云われしには四まで動けば、のっそり片腕の用を欠いてかえって多くの腕を得つ日々にちにち工事しごと捗取はかど
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ある日回診の番が隣へ廻つてきたとき、何時いつもよりは大分だいぶ手間が掛ると思つてゐると、やがて低い話し聲が聞え出した。それが二三人で持ち合つて中々捗取はかどらないやうなしめを帶びてゐた。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
府中から日野まで一里二十七丁という事になっていますが、女の足弱をつれて夜道の旅だから捗取はかどらない。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
汗を吹抜きの風通かざとおし……さして難渋にもござらなんだが、それでも素面のようではない。一人前、顔だけ背負しょって歩行あるく工合で、何となく、坂路が捗取はかどりません。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出てけ/\といじめられましても泣き附いて居りましたが、仕方がありませんから此の子を連れ、此の七月下旬から江戸へ出て来ます道々も、乞食をしながらの事ゆえ道も捗取はかどらず
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼も多吉とおなじように、こんな事がいつまでも捗取はかどらないと、外国人に対してかみの御威光が自然に薄らぐ道理であるから、せいぜい働いて早く埓を明けろと云った。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何しろ体がしのぎよくなったために足のよわりも忘れたので、道も大きに捗取はかどって、まずこれで七分は森の中を越したろうと思う処で五六尺天窓あたまの上らしかった樹の枝から
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おらアな、昨夜ゆうべの内にお百度を済まして、うやら気がかれるから、今朝早立はやだちにして、十八里の道を急ぎ急いでもうちっと早くと思ったが、生憎あいにくの大雨で道も捗取はかどらず、到頭とうとう夜半よなかになっちまった
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おまけに江戸の勝手をよく知らない人たちが道を訊きながら歩くのですから、いよいよ捗取はかどらない。その日の八ツ半(午後三時)頃に青山六道の辻にさしかかりました。
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なにしろからだしのぎよくなつたゝめにあしよわりわすれたので、みちおほきに捗取はかどつて、づこれで七もりなかしたらうとおもところで、五六しやく天窓あたまうへらしかつたえだから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其の翌日が熊ヶ谷泊りで、それから鴻の巣、桶川と中仙道を下りましたが、足弱あしよわの連で道も捗取はかどりませんので、天神橋へ掛りますと日はトップリ暮れ、足は疲れましたから御新造は歩けませんから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)