悪口わるくち)” の例文
旧字:惡口
はじめの二、三にちは、そのおんなたいして、べつにしたしくしたものもなかったが、また、悪口わるくちをいうようなものもありませんでした。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
和尚おしょうさま、きますとゆうべねずみがこちらへがって、わたくしどもの悪口わるくちもうしたそうですね。どうもけしからんはなしでございます。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「ハハハそれじゃ刑事の悪口わるくちはやめにしよう。しかし刑事を尊敬するのは、まだしもだが、泥棒を尊敬するに至っては、驚かざるを得んよ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
△「まア何うしたんだ、勝もあんまり大人気ねえじゃねえか、熊の悪口わるくちは知ッてながら、せッてえば、くだらねえ喧嘩するが外見みえじゃアあるめえ」
それに、時々、そのきした目がかすむのを井筒屋のお貞が悪口わるくちで、黴毒性ばいどくせいのそこひが出るのだと聴いていたのが、今さら思い出されて、僕はぞッとした。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
そうですとも。ゾイリアと云えば、昔から、有名な国です。御承知でしょうが、ホメロスに猛烈な悪口わるくち
Mensura Zoili (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さんざん悪口わるくちの歌を歌ひますと、達磨さんもやつと目をさまして、あたりを見廻しましたが、お友達の鼠だと知りましたから、またグーグーと眠つてしまひました。
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
それはさっき、泣き虫の蛾次郎がじろうに、さんざんな悪口わるくち揶揄やゆをなげられていためくらの少年——鞍馬の竹童。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いままでどおりの生活がいつまでも続くとでも思っているのかしら、相変らず、よそのひとの悪口わるくちばかり言いながら、寝て起きて食べて、ひとを見たら泥棒と思って
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
はらばいになって芝生しばふに顔をうずめた。息切れがとまると、またなに悪口わるくちをいってやろうと考えた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
先日こなひだの事、都路華香氏を訪ねて、いつものやうにそろそろ拝み倒しにかゝつたが、旋毛つむじ曲りの華香氏を動かすには何でも画家ゑかき仲間の悪口わるくちを言はねばならぬと思つたらしかつた。
己の家の饅頭がなぜこんなに名高いのだと思う、などとちゃらかすので、そんならお前さんはもう早くから人の悪口わるくちも聞いていたのかと問えば、うん、と言ってすましている。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
乃公おれそばでは喫んでれるななんて、愛想あいそづかしの悪口わるくちいって居たから、今になって自分が烟草を始めるのは如何どうもきまりが悪いけれども、高橋の説を聞けばまた無理でもない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
高橋れい悪口わるくちを言出せば、先生、だまって見てれ、そのかわりに我れ鰻飯うなぎめしなんじおごらんと。
当時の屠者えたの事を評して、「蓋人中最下之種」と侮辱極まる言辞を用いているのも、畢竟僧侶の同一見地から出た悪口わるくちで、当時彼らの見る旃陀羅の地位を言いあらわしたものなのである。
何そんな気のいた物は有りさうにもしない生れると直さま橋のたもとの貸赤子に出されたのだなどと朋輩はうばいの奴等が悪口わるくちをいふが、もしかするとさうかも知れない、それなら己れは乞食こじきの子だ
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そうじゃないなんておもったり、いったりするものがあったら、それこそ神様をうやまわないで、人の悪口わるくちをいう人だといってやります。ジャンセエニュ先生せんせい生徒せいとはみんなおとなしくて、勉強家べんきょうかです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
悪口わるくちをあびせかけられ、向うの通りを行く人々からは相手にされないで、源一もすっかり元気をなくし、くたびれはてて焼けあとの焼け煙突えんとつのうえにあかあかと落ちてくる夕日が目にうつると
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
浪子が病みて地をえしより、武男は帰京するごとに母の機嫌きげんの次第にしく、伝染の恐れあればなるべく逗子には遠ざかれとまで戒められ、さまざまの壁訴訟の果てはこうじて実家さと悪口わるくちとなり
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「何のためだろう、丙はあちこちで君の悪口わるくちを言い歩くよ」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「おまえに悪口わるくちうの」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かれは、いたっておとなしい性質せいしつで、自分じぶんのほうからほかのものに手出てだしをしてけんかをしたり、悪口わるくちをいったりしたことがありません。
どこで笛吹く (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、こんなことをいいっては、あざわらいました。そして中将ちゅうじょう奥方おくがたかっても、はちかつぎの悪口わるくちばかりいっていました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
東京に生れて東京に育ったその父は、何ぞというとすぐ上方かみがた悪口わるくちを云いたがる癖に、いつか永住の目的をもって京都に落ちついてしまった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世間の悪口わるくちだろうから取上げるなよ、わしが来ましてから御新造はちっともほかへ出た事はないぞ、弁天へ参詣にくにも小女が附き、決して何処どこへも行った事はない
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また、よくもさっきは、この竹童をめくらとあなどって、土塊つちくれをぶつけたり、お師匠ししょうさまの悪口わるくちをたたいたり、そして、鞍馬くらまの竹童のことを、天下のお乞食こじきさまとののしり恥ずかしめたな。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをこのまちじゃ理解もなしに、さも弟だの妹だのの結婚を邪魔じゃまでもするために片づかずにいるように考えるんでしょう。そう云う悪口わるくちを云われるのはずいぶんあなた、たまらないものよ。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「まるで悪口わるくちの言葉のようだわ……。」
「そうよ、ものはこわすし、あまり、りこうではないわ。」と、二人ふたりは、いっしょになって、きよの悪口わるくちをいっていました。
北風にたこは上がる (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただ原口さんが、しきりに九段くだんの上の銅像の悪口わるくちを言っていた。あんな銅像をむやみに立てられては、東京市民が迷惑する。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その上に為朝ためとも悪口わるくちることいことたくさんにならべて、どうか一にちはや為朝ためともをつかまえて、九州きゅうしゅう人民じんみん難儀なんぎをおすくくださいともうげました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
誰を見ても怖がってあれじゃアねえ/\と云やアがる……何うしたんですエ……幇間が……、成程、悪口わるくちを利いたんで……安、己があの侍に喧嘩ア吹ッかけて、あの頭巾をふんだくるから
学校がっこうでは、正雄まさおも、いっしょになって悪口わるくちをいった一人ひとりなのでした。なかには、まったくそんな悪口わるくちなどをいわずに、だまっていた生徒せいともありました。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
最初妹からつけられて、たちまち家族のうちに伝播でんぱんしたこの悪口わるくちは、近頃彼女自身によって平気に使用されていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
村の者も今迄はかてえ人だったが、う言う訳だがな泊り歩くが、役柄もしながらハアよくねえこッたア年老としとった親を置いて、なんて悪口わるくちく者もあるで、なるだけ他人ひとには能く云わしたいが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なんだい、こんなくろいからすなんかつまらないなあ。」といって、かごのまえって、悪口わるくちをいいましたけれど、主人しゅじんは、そんなことに頓着とんちゃくせず
からすの唄うたい (新字新仮名) / 小川未明(著)
どうして私の悪口わるくちを自分で肯定するようなこの挨拶あいさつが、それほど自然に、それほど雑作ぞうさなく、それほど拘泥こだわらずに、するすると私の咽喉のどすべり越したものだろうか。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悪口わるくちをきいて居る処へ、ガラリと戸を明けて帰って来たが、ずぶぬれ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だんだんがたつと、こんどは反対はんたいに、ひとりぼっちのおんなを、みんなして、悪口わるくちをいったり、わざと仲間なかまはずれにしたりして、おもしろがったのでした。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし津田にとついでからの彼女は、嫁ぐとすぐにこの態度を改めた。ところが最初つつしみのために控えた悪口わるくちは、二カ月経っても、三カ月経ってもなかなか出て来なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
孫「誰だ、そんな悪口わるくちをいうのは」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この健康けんこうそうなあかぼうほどもある人形にんぎょうは、そのひょうきんなかおつきでは、いまにも、足音あしおとにおどろいて、をくるくるさし、とおりかかるひとになにか悪口わるくちをいって
戦争はぼくをおとなにした (新字新仮名) / 小川未明(著)
又与次郎の悪口わるくちた。其与次郎は今頃窮屈な会場のなかで、一生懸命に、奔走し且つ斡旋あつせんして大得意なのだから面白い。もし先生をれてかなからうものなら、先生はたしてない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
幸「悪口わるくちをきゝなさんな」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
無欲むよくな、正直しょうじき人間にんげんだ。そんな悪口わるくちをいうもんでねえ。ゆきって、仕事しごとがなくなってこまっているだろうから、わたしは、明日あすにも、ちょっといってのぞいてみるつもりだ。
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)
また与次郎の悪口わるくちが出た。その与次郎は今ごろ窮屈な会場のなかで、一生懸命に、奔走しかつ斡旋あっせんして大得意なのだからおもしろい。もし先生を連れて行かなかろうものなら、先生はたして来ない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とうさんの悪口わるくちなんかいったら、ぼくは、承知しょうちしない。もし、学校がっこうへいって、試験勉強しけんべんきょうばかりしていたら、ぼくは、ほんとうの自然しぜんというものを、永久えいきゅうにわからずにしまったろうな。
金歯 (新字新仮名) / 小川未明(著)
両人は出直そうとしては出遅れ、出遅れては出直そうとして、柱時計の振子ふりこのようにこっち、あっちと迷い続けに迷うてくる。しまいには双方で双方を思い切りのるい野郎だと悪口わるくちが云いたくなる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「やあい、どこかの弱虫よわむしめ、やあい。」と、うしろのほう子供こどもらが悪口わるくちをいいました。
角笛吹く子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ほんとうに、かわいそうなことをしたな。おれに、よく悪口わるくちをいったり、いしげたり、からかったが、あのは、かわいい、いいだった。おれ、ちっともにくいとおもったことがなかったよ。」
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)