しづ)” の例文
八 廣く各國の制度を採り開明に進まんとならば、先づ我國の本體をゑ風教を張り、然して後しづかに彼の長所を斟酌するものぞ。
遺訓 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
群集の中から三人の男が影のやうに舟にすべり込んでともづなを解いた。しづかに艣を操つて、松明の火を波にさはるやうに低く持つて漕いでゐる。
それはしづかに近寄つて來た。間も無くその黒い船體が眼界に現はれた、——それは實際西部の峽灣を巡𢌞に來た巡洋船であつた。
みらるゝにひさしく浪々なし殊に此程は牢舍らうしやせし事ゆゑはなはやつれ居ると雖も自然と人品じんぴんよく天晴の武士さぶらひなりしかば大岡殿しづかに言葉を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そしてその下流は、長白山脈を右にした、襞の多い、皺の多い山地の中へとしづかに日に輝いて流れて行くのを私達は見ました。
一少女 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
の人の眠りは、しづかに覚めて行つた。まつ黒い夜の中に、更に冷え圧するものゝ澱んでゐるなかに、目のあいて来るのを覚えたのである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
終夜よもすがら供養くやうしたてまつらばやと、御墓の前のたひらなる石の上に座をしめて、経文きやうもんしづかにしつつも、かつ歌よみてたてまつる。
苦痛の重荷に押し据ゑられたる我は、アヌンチヤタが足の下に伏しまろびしに、アヌンチヤタしづかにたすけ起し、すかして戸外に伴ひ出でぬ。
(お妙はうつむきて悲しげに聽きゐたるが、やがて湯の沸きたるに心づきて、茶碗につぎて父にすゝめる。鬼貫はしづかに湯をのみて又考へる。)
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そうしづかにはちのこつたみづゆかかたむけた。そして「そんならこれでおいとまをいたします」とふやいなや、くるりとりよ背中せなかけて、戸口とぐちはうあるした。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
にん兵士へいしはそれをながら二三分間ぷんかん彷徨うろ/\してましたが、やがてしづかにものあといてすゝんできました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私はしづかに足を運んだ。別に行き逢ふ人もないのに、殊更迂路まはりみちをして、白い野薔薇のところ/″\咲いてゐる小径こみちつて歩いた。『別に急ぐことはない。急いだつて同じことだ』
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
大佐たいさわらひながらしづかにあゆすと、一同いちどう吾等われら前後左右ぜんごさゆう取卷とりまいて、家路いへぢむかふ。
それでも、療治を受けたあとなぞはしばらくしづかに寢る方がいゝと院長は言ひ附けた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
幾度いくたびも廊下の角を曲がつた末に、主人と己とは一つの扉の前に立ち留まつた。鍵のから/\鳴るのが聞えた。続いて鍵で錠を開けた。油の引いてあるくるるが滑かに廻つて、扉がしづかに開いた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
スタニスラウスはしづかに手を振つた。人に邪魔をせられずに落ち着いてゐたいと思つたからである。けふかあすかは知らぬが、自分はもうこの椅子から立ち上がらずにしまふのが分かつてゐる。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
旅の身の大河おほかはひとつまどはむやしづかに日記にきの里の名けしぬ(旅びと)
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いまものうてくだされ、天人てんにんどの! さうしてたかところひかかゞやいておゐやる姿すがたは、おどろあやしんで、あと退さがって、しろうして見上みあげてゐる人間共にんげんども頭上とうじゃうを、はねのあるてん使つかひが、しづかにたゞよくもって
しかし道の通り合せに、真直に見て歩く女があつたからといつて、何処の誰ぞとも知らないうちは余り取逆上とりのぼせてはならない。さういふ折には一度急ぎ足に女を追越して、しづかにあとを振かへつてみるがいい。
何か珍らしい行列が向うの町からしづかにやつて來るらしい
鳥料理:A Parody (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
しづかで確実な夕闇と、絶え間なく揺れ動く
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
こんな晩ではそれがしづかに呟きだすのを
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
しづかにも、その黒い大きい扉が開く時。
爾時そのとき我血は氷の如く冷えて、五體ふるひをのゝき、夢ともうつゝとも分かぬに、屍の指はしかと我手を握り屍の唇はしづかに開きつ。
とぢて居ければ此上はことばを以て諭さん樣もなく拷問がうもんに及ぶより外はなしと思はれしなり然れどもなほしづかに長庵を見られ如何に長庵ふだつじ人殺ひとごろしのつみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
競技ゲームまゐれ』と女王樣ぢよわうさまあいちやんにまをされました、あいちやんはおどろきのあま一言ひとことをもませんでしたが、しづかにあといて毬投場まりなげばきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
郎女は、しづかに両袖もろそでを胸のあたりに重ねて見た。家に居時よりは、れ、しわ立つてゐるが、小鳥のはねとはなつて居なかつた。手をあげて唇にさはつて見ると、喙でもなかつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
しづかに夜は明けて来た。私は車窓の明るくなつて来るのを感じた。ひろい野に銀のやうな霧が茫とかゝつて、山も丘もぼんやりとぼかしのやうに空に彫られてあるのを私は感じた。
アカシヤの花 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
『あゝ、壯快さうくわい壯快さうくわい!。』とわたくし絶叫ぜつけうしたよ。櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさしづかに立上たちあが
博士は重々しい調子で、しづかにかう云つた。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
私達は再びしづかに歩き出した。
生者と死者 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
蒼ざめた馬をしづかに進める!
娘は黙つてしづかにうなづいた。
駆落 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
しづかに私は酒のんで
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
そこで、あいちやんはそのちひさな動物どうぶつしたき、屹度きつとそれがしづかにもりなかむだらうとおもつててゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
われはしづかに、ジエンナロよ、そはよも眞面目なる詞にはあらじといひて、其手を握りしに、ジエンナロは手を引き面をそむけ、舟人にくがに着けよと命ぜり。
聞れ心に思はれけるは老中方始め諸役人の前にて今一おう明白の吟味を聞せんと故意わざしづかにことば
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此時このときしづかに艇頭ていとうめぐらして此方こなたちかづいてたが、あゝ、その光譽ほまれある觀外塔上くわんぐわいたふじやうよ※ いろくろい、筋骨きんこつたくましい、三十餘名よめい慓悍へうかん無双ぶさうなる水兵すいへいうしろしたがへて、雄風ゆうふう凛々りん/\たる櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ
今日の墓参に相応ふさはしくしづかにその心を繞つた。
草みち (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
その時こそはしづかに飲まう
Bは躍る心を押へつゝしづかに把手ハンドルを廻した。
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)