工風くふう)” の例文
工風くふうの無えこともねえ、私等わしらどうせ遊んでゐるで、渡して上げずか。伊良湖なら新居へ行かずに、この先の浜へ着けりや好いだ」
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
もしも小山さんが自分の責任をのがれるような工風くふうをするとかあるいは和女おまえたのんで家へ金を借りに来るような意気地いくじのない人であったら
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
即ちその身の弱点よわみにして、小児の一言、寸鉄はらわたを断つものなり。既にこの弱点あれば常にこれを防禦するの工風くふうなかるべからず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私は色々考えた結果、極くおだやかにお嬢さんを取戻す工風くふうをしたのです。つまり、賊の方から熨斗のしをつけて返上させるといった方法ですね。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
仁左衞門は押とゞめ汝がうつは小細々々ちひさい/\今懷中の物を取のみにては面白からず後のたねにする工風くふうありまづ其方兩人は斯樣々々かやう/\に致せと言付萬澤の御關所を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
放情自娯、頭を空つぽにして、水と風の中に感情を抛棄し、動物の眼になつて魚を狙ひ、原始的な智力で釣る工風くふうをしたり、天候や水温を観察する。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
すくなくとも日本建築にほんけんちく古來こらい地震ぢしん考慮かうりよなかくはへ、材料ざいれう構造こうさう工風くふうらし、つひ特殊とくしゆ耐震的樣式手法たいしんてきやうしきしゆはふ大成たいせいしたと推測すゐそくするひとすくなくないやうである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
んでもでも十数年の後には徒手にて出来る工風くふうなれども、政府にてはまだ農業は鄙事ひじなりとでも思わるるにや
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
流石さすが明治めいぢおん作者さくしや様方さまがたつうつうだけありて俗物ぞくぶつ済度さいどはやくも無二むに本願ほんぐわんとなし俗物ぞくぶつ調子てうし合点がてんして幇間たいこたゝきておひげちりはらふの工風くふう大悟たいご
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
彼は朝になってもう二三日帰りをのば工風くふうはないかと考えたが、そのうちに停車場ていしゃばへ往く自動車が迎えに来たので、しかたなしにそれに乗って出発した。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
安「ハイ、お位牌と婚礼を致しますかナ……成程、如何にも御尤さまでございますから、何うか工風くふうを致しましょう、兎に角、主人へ話して見ましょう」
窓際に立寄ると、少し腰をかがめなければ、女の顔は見られないが、歩いていれば、窓の顔は四、五軒一目に見渡される。誰が考えたのか巧みな工風くふうである。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また、師の発明工風くふう中の空中飛行機を——まだ乗ってはいけないとの師の注意に反して——熱心の余り乗り試み、墜落負傷して一生の片輪になったのもある。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
何一つ美術品として工風くふうせられたものではないのです。ですが初代の茶人達は鋭くもそれ等のものの美に打たれました。その美の中に「道」をすら建てたのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「そんなに食ってみたいのなら、晩に自分たちで作って食いなさい。それも今のものそっくりの模倣じゃいかんよ。何か自分の工風くふうを加えて、——料理だって独創が肝心だ」
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「由っちゃん、何かいい工風くふうはないかしら。何でもいい、何でもいいから、俺はこの体を、思いきり、ぶっ飛ばしてみたいのだ、ね、ね、いっそ、高い山から飛下りてやろうか——」
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
等から生れた空想を一層興味を以て潤色し工風くふうした一種の恐怖的な神秘詩なのだから、人間の一面には、この化物を愛好し、その存在を守ろうとする一種の本能的な気持があるものだ。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
誰をどんな風に見たらいいかというようなことばかりに工風くふうを凝らして頭を悩ましたり、自分が少しでも余計なことをしゃべりはしないかと、しょっちゅう、そんなことが心配になるのだ。
令孃ひめ鎌倉かまくらごもりのうはさむねとヾろきてさとししばしはあきれしが、なほ甚之助じんのすけくはしくへば、相違さうゐなき物語ものがたりなかばきながらにて、何卒なにとぞめにやう工風くふうきかとたのまれて、さてなにとせん
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この事があつてから、道臣の家は千代松の工風くふうで、雨戸も門も總て内から嚴重に締りの出來るやうにした。井戸には蓋をして、夜は錠を下ろした。刃物といふ刃物は、小ひさなきりまで皆片付けた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
これからは私達の側で、できるだけ身体を動かすような事をして、できるだけ日光に当るような工風くふうをして、そしてもう少し丈夫になってくれさえすればよいのだ。それですっかり良くなるのだよ。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
遠州は自分の工風くふうした遠州流のものごしで叮嚀ていねいに挨拶しました。
利休と遠州 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
後には色々の工風くふうが積まれて、段々に、変つた文句も出て来た。
若水の話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
僕の家の料理を日本風の七厘や火鉢で拵えたら炭代ばかりが大変だ。そこにもやっぱり才覚があって炭の要らない工風くふうにしてある。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
以て冥々めいめいの間に自家の醜を瞞着まんちゃくせんとするが如き工風くふうめぐらすも、到底とうてい我輩の筆鋒をのがるるにみちなきものと知るべし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それに又仕掛けを自分で作るといふ事は、愉しい事の一つで、明日出掛けようとする時には、誰しも前夜に自分独特の工風くふうを凝らした仕掛けを用意する。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
我れ三文字屋さんもんじや金平きんぴらつと救世ぐせい大本願だいほんぐわんおこし、つひ一切いつさい善男ぜんなん善女ぜんによをしてことごと文学者ぶんがくしやたらしめんとほつし、百でツたむまの如くのたり/\として工風くふうこら
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
一々書留かきとめて道庵を歸しなほ種々しゆ/″\工風くふうの上先八丁堀長澤町の自身番屋じしんばんやゆき家主いへぬし源兵衞を呼出し店子たなこ甚兵衛の身元みもと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
のみならず、色々と新しい工風くふうを附加えもしました。例えば、毒薬の瓶の始末についての考案もそれです。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
美濃の南泉寺までは是非かんければならん、東海道筋も御婦人の事ゆえ面倒じゃ、手形がなければならんが、何うか工風くふうをして私がお送り申したいが、困った事で
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
明治の初年は一方において西洋文明を丁寧に輸入し綺麗に模倣し正直に工風くふうこらした時代である。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そもそもあのわずかな高価な貴族的な品物の、ほとんどすべてに見られる通有つうゆうの欠点は、一つに意識の超過により、一つに自我の跳梁ちょうりょうによるのです。一言で云えば工風くふう作為の弊なのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
然し、却つてまたそんな俗習家に限つて、禪など云ふ、義雄が催眠術の一種に過ぎないと不斷罵倒してゐる工風くふうを、この上もなくありがたがるものだと見ると、馬鹿にして見たくもなる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
むすめはどうかして修験者から逃れる工風くふうはないかと考えておりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何とかしてそれを八つ切にする工風くふうはないかと骨折ってみた。
お登和さん、そんな上等の料理は我々に入用にゅうようもありませんがく安直な西洋料理をお客に御馳走する工風くふうはありますまいか。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
されば今、公徳の美を求めんとならば、先ず私徳を修めて人情を厚うし、誠意誠心を発達せしめ、以て公徳の根本を固くするの工風くふうこそ最第一さいだいいちの肝要なれ。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
よしや一の「モルヒ子」になぬためしありとも月夜つきよかまかれぬ工風くふうめぐらしべしとも、当世たうせい小説せうせつ功徳くどくさづかりすこしも其利益りやくかうむらぬ事かつるべしや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
そしてこの日本特有な釣技といふものを研究してもらつて、いろいろの新発見、新工風くふうをしてもらい、将来明るく正しく釣道精神といふものを拓いて貰ひたい。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
丁度ちやうど八日目なり十日すぎての使者なれば彌々いよ/\役宅へ呼寄よびよせ召捕めしとる工風くふうなるべけれど四五日早く使者ししやの來る處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
整形外科と、眼科と、歯科と、耳鼻科と、美顔術、化粧術の最新技術に更らに一段の工風くふうを加え、それを組合わせて、容貌変改の綜合的技術を完成したまでである。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
江戸へくなれば一緒にというので、お隅を連れて来てずうっと貴方の処へ長熨斗を付けて差上げる工風くふう、富五郎の才覚、惚れた女を御新造にして金を三拾両只取れるという
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それ以外にそれ以上におびただしくかくれた佳作が存在する。特に使用せられた各種の日常の用器に素晴らしい作が残る。しいて茶趣味で工風くふうせられた作の如きは、むしろなんらの反省に価しない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
三味線につれて新工風くふう國風くにぶり舞踏の一なる、「木曾の御嶽おんたけさん」を稽古し、トコセ、キナヨ、ドン/\と云ふかけ聲などを擧げたりした連中は、すべてあちらこちらの椅子に陣取つてゐる。
英国人の工風くふうはじまるといふ。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのほかに色々のお粥もありますけれどもこれだけの法によって工風くふうしたら何でも出来ない事はありません。今度は御飯の料理に移りましょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
併し頭の禿げた連中は仕方が無いとして若い者は奈何どうかと云ふと、矢張やつぱり駄目だ。血気盛んな奴が懐中手ふところでをして濡手で粟の工風くふうばかりする老人連の真似をしたがる。
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
おひるすぎから、その頃兄の工風くふうで仕立てさせた、当時としては飛び切りハイカラな、黒天鵞絨の洋服を着ましてね、この遠眼鏡を肩から下げ、ヒョロヒョロと、日本橋通りの
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
朝夕ちょうせき一寸ちょっとした話のはしにもその必要を語り、あるいは演説にあるいは筆記に記しなどしてその方針に導き、又自分にも様々工風くふうして躬行実践きゅうこうじっせんつとめ、ます/\漢学が不信仰になりました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかしそれは高麗人の心情そのものの発露であって、決して個人的美意識から工風くふうせられたものではないのです。当時万般の器物皆そうであって、独り窯藝のみが優雅なのではありません。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)