はべ)” の例文
私が伺いました日も、うわさに違わず、臨淄りんし侯曹植様には、丁儀、丁廙ていいなどという寵臣をはべらせて、前の夜からご酒宴のようでした。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに、いま自分の傍を離れて、かえって、見も知りもせぬ、あの奇怪極まる盲者もうじゃの傍へ神妙にはべっているムクの心が知れない。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
新婦は首をりて、否々、かどの口をばえひらきはべらず、おん身のこゝに來給はんはよろしからずと云ひ、起ちてかなたの窓を開きつ。
側にはべっていた西光法師も、前座主帰山の知らせに何か手をうたなくてはと、考えていた矢先だから、ここぞとばかり、一ひざ進めると
昔より天下の乱るゝことははべれど、足軽といふ事は旧記にもしるさゞる名目なり。此たびはじめて出来たる足軽は、超悪したる悪党なり。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
法海和尚は「今は老朽ちて、しるしあるべくもおぼえはべらねど、君が家のわざわいもだしてやあらん」と云って芥子けしのしみた袈裟けさりだして
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
また心き事はべりき、その大臣の娘おわしき、いろかたちめでたく世に双人ならぶひとなかりき、鑑真がんじん和尚の、この人千人の男に逢ひ給ふ相おわすとのたまはせしを
お米は引續いてお酌にはべり、夜もこつそりその部屋に忍んで來て居た。女中を相手に大言壯語をもてあそぶのは野呂の好むところだつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
いな此処ここには持ちはべらねど、大王ちとの骨を惜まずして、この雪路ゆきみちを歩みたまはば、僕よき処へ東道あんないせん。怎麼いかに」トいへば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
一日置きに診察して貰えるので、時にはまるで「お抱え医者」をはべらしているゼイタクな気持を俺だちに起させることがある。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
見かけることがめずらしくなかった彼女のかたわらにはいつも佐助がはべほかに鳥籠の世話をする女中が一人いていた女師匠が命ずると女中が籠の戸を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はらえを仕候也、と答えた。何しに紙の冠をばしたるぞ、と問えば、祓戸の神たちは法師をば忌みたまえば、祓をするほど少時しばしは仕てはべるという。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
紅巾が座中に現われた時から、宴にはべっていた人々の眼は、期せずしてそれに集まったが、今長老が首を捻ったので彼らも一斉に首を捻った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また浄瑠じょうるりほんなども心得ありて聞き候えば、随分役にたつものに候。さてまた別にしたためたる文に付き、うたをよみ候。ここにしるしはべりぬ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
清少納言こそ、したり顔にいみじうはべりける人。さばかりさかしだち、まなかきちらして侍るほども、よく見れば、まだいと堪へぬことおほかり。
たこよ蛸よと呼ばれて、いつもおそばちかくはべって若殿にけしからぬ事を御指南申したりして、若殿と共にげらげら下品に笑い合っているのである。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
なだらかな斜面を下に控え、ゆるやかに起伏する丘を左右にはべらし、遠く白波の立つ那覇の港を望みながら、都は静かに今も立っているのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
道鏡を少僧都に任じ、常に側近にはべらせ、押勝は遠ざけられた。彼はもはや上皇にとって、全く意味のない存在だった。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
どうやらあの十一人のかすめ取った女達をその左右にでもはべらせて、もう何かみだらな所業を始めているらしい容子です。
娘は脂ぎつた利右衞門のねやはべるために、門を入り、母はたつた一人の我家に悄然として歸る外は無かつたのです。
ピム、パムはあなたの左右からお対手にはべりたいようです。御気分のいいとき、ゆっくりと森や丘や泉の散策もいいかもしれません。本当にお大事に。
元日にある人のもとゆきければ、くいつみをいだし、ことぶきをのべてのち、これを題にして、めでたく歌よめとはべりければ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その祖父はかつて孫を此上なく寵愛ちようあいして、およそ祖父の孫に対する愛は、遺憾ゐかんなく尽して居つたにもかゝはらず、その死の床にははべつて居るものが一人も無いとは!
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
仏像をおえになった前に少数の女房だけをはべらせて、ゆるやかに仏勤めをあそばす院でおありになった。
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そのほどほどの人妻に成りたるものとやいはまし——仮初かりそめの筆すさび成りける枕の草紙をひもときはべるに
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ファブリイス伯爵夫人のわが伯母なることは、聞きてやおはさむ。わが姉もかしこにあれど、それにも知られぬを願ひて、君が御助みたすけを借らむとこそおもひはべれ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ぞ、や、なり、かなかな、はべる、なんど、手爾波てにはを合わされて助りますかい。……あとで竹永さん、貴下あなたが探りましたね、第一、愛吉が知っていたんだね。……
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分の卓子テーブルの前の、自分の廻転椅子に腰をかけて、ウイスキーの角瓶を手近にはべらして、万年筆をななめに構えながら西洋大判罫紙フールスカップの数帖とにらめっくらをしている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三月にわたる久きをかの美き姿の絶えず出入しゆつにゆうするなれば、うはさおのづから院内にひろまりて、博士のぼうさへつひそそのかされて、垣間見かいまみの歩をここにげられしとぞ伝へはべる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
柳沢吉保が、将軍を邸に迎え、宴席におのれの妻娘をはべらせた、というのをふうしたものだそうで、その作者である町絵師、英一蝶はなぶさいっちょうは、とがめをうけて流罪るざいになった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
イギリスのことわざに「いかなる英傑もかれそばはべ小姓こしょうには偉大と映じない」とある。これ英傑が偉大ならざるにあらずして、小姓こしょうが偉大ならざるがためである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
円価に直して、一人当り九百円に当るわけであるが、日本で、芸者か女給をはべらせて、一晩徹底的に飲み、二次会までやったら、とても一人前九百円ではあがらない。
パーティ物語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
異国に対して厳酷であると共に臆病であつた幕府は当時長崎在留の異国人の住居を出島の廓内くるわうちに禁制すると共に、一方丸山の遊女を毎夜そこにつかはし、はべらしめて
我が女子むすめ既に十七歳になりぬれば、朝夕に三三よき人がなあはせんものをと、心も三四おちゐはべらず。
「奥州名取のこおりに入りて中将実方の塚はいづくにやと尋ねはべれば、道より一里半ばかり左の方笠島といふ処にありと教ふ。降り続きたる五月雨さみだれいとわりなく打過ぐるに。」
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
小みどりは、まだおぼこであるとはいえ宴席へはべるのがしょうばいであるから世の生娘とは違って、大して人怖じはしない。招じられるがままに仙公の室に通ったのである。
純情狸 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
ただ割合いにわずらわされず勝手な懐疑と孤独とを自分にはべらせて居られるのを取柄として居る。
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「なおざえをもととしてこそ、大和魂やまとだましいの世に用いらるるかたも強うはべらめ」です。分りますか?
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
さは走り車の輪には薄墨にぬらせ給ひておおきさのほどやなどしるしには墨をにほはせ給へりし。げにかくこそかくべかりけれ。あまりに走る車はいつかは黒さのほどやは見えはべる。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「白馬の節会をあるひは青馬の節会とも申すなり。其の故は馬は陽の獣なり。青は春の色なり。これによりて、正月七日に青馬を見れば、年中の邪気を除くという本文はべるなり」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
何々して何々はべるというような雅文体や、何々し何々すべけんやというような漢文体なぞが行われてはいるが、それはある時代のある人々の心から、必然に生れ出た文章であって
文章を作る人々の根本用意 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一目で、雪之丞に、それが、かつて長崎で威を張った土部三斎と、当時、柳営りゅうえいの大奥で、公方くぼうの枕席にはべってちょうをほしいままにしているという、三斎の末むすめであるのをさとった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
町の芸者や半玉はんぎょくなども数名座にはべったのですが、彼女等もそれぞれ引取って了い、客は菰田邸に泊るものもあれば、それから又どこかへ姿を隠すものもあり、座敷は引汐ひきしおの跡の様で
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
晩餐ばんさんの時、ヘルンはいつも二三本の日本酒をさかずきかたむけながら、甚だ上機嫌に朗かだった。夫人や家族の者たちは、彼の左右にはべってしゃくをしながら、その日の日本新聞を読んできかせた。
古池やかわずとび込む水の音、この句に我が一風を興せしより、はじめて辞世なり。その後百千の句を吐くに、このこころならざるはなし。ここをもって、句々辞世ならざるはなしと申しはべるなりと
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
只、身すがらにといで立ちはべるを、紙子かみこ一衣ひとへは夜の防ぎ、かた、雨具、墨、筆のたぐひ、あるはさりがたきはなむけなどしたるは、さすがに打捨てがたく、路次のわづらひとなるこそわりなけれ
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
給仕にはべっている関白家の家来も、女も、あまりの怖ろしさに席を動くことが出来なかった。なにがしの大将、なにがしの少将も、この物凄い敵の前には言い甲斐もなく怖れ伏してしまった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見台けんだいに似た台を取り寄せさせ、新聞紙で、即製の肩衣かたぎぬをこしらえて、金五郎は正面の座についた。舞台はない。太枠もないので、徳弥とくやという芸者に、普通の三味線を持たせて、左にはべらせた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
やがて友之助と立花屋の主人あるじ召捕めしとって相生町あいおいちょうの名主方へ引立ひきたてゝまいりました。玄関にはかね待受まちうけて居りました小林藤十郎、左右に手先をはべらせ、友之助を駕籠から引出して敷台に打倒うちたお
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
枯れ芝の中に花さくふきとうを見いでて、何となしに物の哀れを感じはべる。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)