何所どこ)” の例文
あいちやんはふたゝ福鼠ふくねずみはらたせまいと、きはめてつゝましやかに、『わたしにはわかりませんわ。何所どこからみん糖蜜たうみつんでたのでせう?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
のみならず、道徳の敗退はいたいも一所にてゐる。日本国中何所どこを見渡したつて、かゞやいてる断面だんめんは一寸四方も無いぢやないか。悉く暗黒だ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あんな大きな腫物はれもののあとなんてあるはずがないし、筋肉の内部の病気にしても、これ程大きな切口を残す様なやぶ医者は何所どこにもないのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これ面白おもしろい、近頃ちかごろ落語らくご大分だいぶ流行はやるから、何所どこかで座料ざれうとつ内職ないしよくにやつたら面白おもしろからう、事によつたら片商売かたしやうばいになるかもしれない。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
何故なぜかともうすに、いわうえから見渡みわたす一たい景色けしきが、どうても昔馴染むかしなじみ三浦みうら西海岸にしかいがん何所どこやら似通にかよってるのでございますから……。
しかし世界の何所どこにも、そんな現象がないのは、山頂の積雪は、それ自身の圧力で表面は融解し、時々の雨や雲霧で氷に固形し
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
さア隠すなら何所どこへ隠す、着物の衣嚢かくしとか其他先ず自分の身のうちには違い無いが其鋭利するどいものを身の中へ隠すのは極めて険呑けんのん
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
で、この一千万人の婦人等は何所どこ如何いかなる地におるものでも、毎日熱心に働いて国のため家のためにつくしつつあるのである。
すると最前何所どこかへ逃げた小い可愛い仔狸が、何所からかヒヨコヒヨコと出て来て、面白可笑おかしい手付腰付をして、踊り出して来たのです。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
今ではさすがに解消して、住民は何所どこかへ散ってしまったけれども、おそらくやはり、何所かで秘密の集団生活を続けているにちがいない。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
みのるは今朝早く何所どこと云ふ當てもなく仕事を探しに出た良人の行先を思ひながら、ふところ手をした儘、二階の窓に立つて空を眺めてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
見渡す大空が先ず雪に埋められたように何所どこから何所まで真白になった。そこから雪は滾々こんこんとしてとめ度なく降って来た。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
即ち偏頗へんぱなる心を全く取去り、その大目的として、必ずや円満なる人間を造るよう、即ち何所どこまでもソシアスとして子弟を薫陶するようにありたい。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それを、そんな事を云ッて置きながら、ずうずうしく、のべんくらりと、大飯を食らッて……ているとは何所どこまでおしおもたいンだかすうが知れないと思ッて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
………何? 行つたとは限らん?………阿呆らしい! 人の家の台所借つて、かしわの肉いたりして、リヽーのとこやなかつたら、何所どこへ持つて行きまんね。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おい、人をなぐらせて、相手を引込ませるつて言ふ法は何所どこにあるだ。おい、こら、相手を出せ、出さねえだか」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
それとも何所どこかに生きているのでしょうか? 洞穴のなかを、荒潮は大臼おおうすをひきずるような音をたて、あいかわらずはげしい渦巻をつくって流れています。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
有繋さすが渠女あれは約束の妻とも云ひかねて当座のがれの安請合をしたが其後間もなく御当人が第一に失恋を歌ふやうになつてからはプイと何所どこへか隠れて了つた。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
すると一日あるひ一人ひとり老叟らうそう何所どこからともなくたづねて來て祕藏ひざうの石を見せてれろといふ、イヤその石は最早もう他人たにんられてしまつてひさしい以前から無いと謝絶ことわつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
王大臣にうたは、我智馬の力に由って勝ち来ったに、馬死んでより他に侮られ外出さえ出来ぬ、何所どこかに智馬がないか捜して来いと。大臣相馬人うまみを伴れ、捜せど見当らず。
彼はいっそ何も云わずに此家ここを出て行きたいと思った。二度と帰らぬ決心で何所どこか遠い遠いところへ行ってしまいたかった。そうするとこの恥辱が自分とともに去るわけだ。
(新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
だからまあ何所どこへいっても人がおらないようなものです。それ故夜通し荷造りをしても、あるいは翌日人を雇うて送らしても人の疑いを惹き起すような事もなかったのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
とうとう何所どこにも見出す事が出来なかった、最後に銀座の或る大きな洋品店で聞いて見ると一つ有った筈だと棚の方をさんざんさがして呉れたが、とうとう発見が出来なかった。
政太夫は見てコレ按摩殿あんまどの貴樣きさま淨瑠璃じやうるりが好か何所どこぞで稽古でも仕たるかと尋ねけるに城富はハイ樣で御座りますがいまだ一かう稽古は致しません親掛おやがかりの身の上ゆゑ漸々やう/\はりと按摩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
というような訳となって、若井氏は少しも私の日限に遅れたことをとがめ立てをせず、製作を見て、何所どこか気に入ったものと見え、私に対して厚意をもっていろいろいうてくれました。
「日本の眼」が見つめたのは、何所どこまでも「無事の美」である。かかる美鑑賞は海外にその例を見ぬ。近代の西洋藝術はとかく「有事」に執し異常に走る傾きが見えるのではないか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
口癖くちぐせに仰せらるゝは、何所どこやら我が心の顔に出でゝ、卑しむ色の見えけるにや。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そんな神は宇宙間の何所どこにも居ない。それはただ人間の浅墓あさはかな心にのみ存在する。
下りた男は何所どこの誰か判らない。女が好きなのか、男が嫌ひなのか、それも判らない。次ぎの電車で望み通りに若い美しい女と差し向ひに坐る事が出来たらうか、それもまた判らない。
粤西えっせい孫子楚そんしそという名士があった。枝指むつゆびのうえに何所どこかにぼんやりしたところがあったから、よく人にかつがれた。その孫は他所よそへ往って歌妓げいしゃでもいると、遠くから見ただけで逃げて帰った。
阿宝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
若し、その女を本当に私が見たものとすれば、私は十年後か、二十年後か、それは分らないけれども、かくその女にもう一度、何所どこかで会うような気がしている。確かに会えると信じている。
幼い頃の記憶 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして直ぐ何所どこかへ出て行つてしまつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
何所どこぞでは五割つたと茶を冷まし同
大正東京錦絵 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
何所どこに残つて居りますか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
と手を合せて伏拝み何所どこの人だか知りませんから心のうちしきりと礼を云い、翌日あしたに成りますると此金これでお米を買うんだと云う
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何所どこへまいるにもいつもみこと御随伴おともをした橘姫たちばなひめがそうもうされることでございますから、よもやこれに間違まちがいはあるまいとぞんじます。
三四郎は見渡す限り見渡して、此外にもまだに入らない建物が沢山ある事を勘定に入れて、何所どことなく雄大な感じをおこした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「坊や! 坊や!」とを覚したおツ母さんは、きよろ/\其所そこらを見廻みまはしましたが坊やは何所どこにも居ませんでした。
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
から風の幾日も吹きぬいた挙句あげくに雲が青空をかき乱しはじめた。みぞれと日の光とが追いつ追われつして、やがて何所どこからともなく雪が降るようになった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして樹木の多い郊外の屋敷町を、幾度かぐるぐる廻ったあとで、ふと或るにぎやかな往来へ出た。それは全く、私の知らない何所どこかの美しい町であった。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
………何? 行つたとは限らん?………阿呆らしい! 人の家の台所借つて、かしわの肉いたりして、リヽーのとこやなかつたら、何所どこへ持つて行きまんね。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
正面より問進む目「えー、藻西太郎の伯父梅五郎ばいごろう老人の殺されたのは一昨夜の九時から十二時までの間ですが其間丁度藻西太郎は何所どこに居ました何をして」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
第二の買手は洋服の若い紳士で、その場で人力車を呼んで、持帰ったということであった。両方とも通りかかりの客で、何所どこの何という人だか勿論分らない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「オヤ何所どこかお悪う御座いますか」と細川はしぼいだすような声でやっと言った。富岡老人一言も発しない、一間はせきとしている、細川は呼吸いきつまるべく感じた。しばらくすると
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
英吉利イギリス海岸かいがんけば何所どこにでも、うみなかおよいでる澤山たくさん機械きかいられる、子供等こどもらくわすなぽじりをしてゐる、そして一れつならんでる宿屋やどや、それからそのうしろには停車場ステーシヨン
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
その森のおもてから目に見えぬほどづゝ何所どこからともなく青い色が次第に剥げていつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
こんな事をしていたら、何所どこにまた何時、東洋の存在理由が見出されようか。日本人はいつも模倣の暮しをせねばならぬのか。そんな必要はごうもあるまい。明治この方もう一世紀近い。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
召連めしつれ候と申に原田は是を聞其方が虎松なるか此脇差このわきざしを去月十一日稻荷町の十兵衞かたに於てこの治助にうりたるかとのたづねに虎松然樣さやうなりと答ふれば原田此品このしな何所どこから買出かひだしたか其買先を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
薄痘痕うすあばたのある、背の高い男で、風采は何所どことなく田舎臭ゐなかくさいところがあるが、其の柔和な眼色めつきうちには何所どことなく人を引付ける不思議の力がこもつて居て、一見して、僕は少なからず気に入つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
獄舎制度も面白くないが、教育制度もはなはだ面白くない。まるきり心霊の知識を欠ける人類は半盲人である。到底ろくな考えの浮ぶ筈がない。私は衷心ちゅうしんから、日本国民よ、何所どこに行くと叫びたい。