下宿げしゆく)” の例文
下宿げしゆくには書物しよもつたゞさつ『千八百八十一年度ねんどヴインナ大學病院だいがくびやうゐん最近さいきん處方しよはう』とだいするもので、かれ患者くわんじやところときにはかなられをたづさへる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
宗助そうすけはそれがにかゝるので、かへりにわざ/\安井やすゐ下宿げしゆくまはつてた。安井やすゐところみづおほ加茂かもやしろそばであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
濱野はまのさんは、元園町もとぞのちやう下宿げしゆく樣子やうすつてた。——どくにも、宿やどでは澤山たくさん書籍しよせき衣類いるゐとをいた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かいしての、R大使館たいしかんからの招待日せうたいびだつたので、そのかれはかまなどつけて、時刻じこくがまだはやかつたところから、I下宿げしゆくつて一とはなししてからかけた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
アヽ杉山君すぎやまくんうか過日くわじつうもぼくえらうた、前後忘却ぜんごばうきやくといふのはの事かい、下宿げしゆくかへつて翌日の十時すぎまで熟睡じゆくすゐをしてしまうたがアノやうた事はあまり無いよ
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さとしわれながらあきれるばかり、天晴あつぱ未來みらい文學者ぶんがくしや此樣このやうのことにて如何どうなるものぞと、しかりつけるあとよりこヽろふらふらとるに、是非ぜひもなし是上このうへはと下宿げしゆく世帶しよたい一切いつさいたヽみて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
然れども久米は勝誇かちほこりたる為、忽ち心臓に異状を呈し、本郷ほんがうまで歩きて帰ることあたはず。僕は矢代と共に久米をかつぎ、人跡じんせき絶えたる電車通りをやつと本郷の下宿げしゆくへ帰れり。(昭和二・二・一七)
その頃の赤門生活 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
町方等へ下宿げしゆく致しけり偖又享保十年十月廿九日願人ねがひにん憑司夫婦を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そりや下宿げしゆくからこんなところうつるのはかあないだらうよ。丁度ちやうど此方こつち迷惑めいわくかんずるとほり、むかふでも窮屈きゆうくつかんずるわけだから。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
毛布けつとねてむつくり起上おきあがつた——下宿げしゆくかれた避難者ひなんしや濱野君はまのくんが、「げるとめたら落着おちつきませう。いま樣子やうすを。」とがらりと門口かどぐち雨戸あまどけた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
南明館なんめいくわんあたりのくら横町よこちやうはじめてくち利合きゝあひ、それからちよく/\をとこ下宿げしゆくへも出入しゆつにふした事情じゞやう大体だいたいわかる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
まあなんおもふておいでなさると此樣こんことひかけるに、おつしやるまでもなく、どんなに家中うちぢうさびしくりましよう、東京こゝにおいであそばしてさへ、一ト月も下宿げしゆくらつしやるころ日曜にちえうまちどほで
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
始め關係かゝりあひの者一同本多家より差送りに成しかば九助は入牢じゆらう九郎兵衞夫婦并に村役人共は馬喰町三丁目伊勢屋惣右衞門方へ下宿げしゆく申付られ下伊呂村役人はをさめ宿淺草平右衞門町坂本屋傳右衞門方へ下宿松本理左衞門始め掛役人は主人方へ預けに相成たり却てとく駿河するがの國府中彌勒みろく町二丁目なる小松屋にては
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
下宿げしゆく生活せいくわつはもうめて、ちひさいうちでもりやうかとおもつてゐる」とおもひがけない計畫けいくわくけて、宗助そうすけおどろかした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「こいつをらく切拔きりぬけないぢや東京とうきやうめないよ。」と、よく下宿げしゆく先輩せんぱいつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
和田わださんがまだ學校がくかうがよひをして、本郷ほんがう彌生町やよひちやうの、ある下宿げしゆくとき初夏しよかゆふべ不忍しのばずはすおもはず、りとて數寄屋町すきやまち婀娜あだおもはず、下階した部屋へや小窓こまど頬杖ほゝづゑをついてると、まへには
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まだ我樂多文庫がらくたぶんこ發刊はつかんらない以前いぜんおもふ……大學だいがくかよはるゝのに、飯田町いひだまち下宿げしゆくにおいでのころ下宿げしゆく女房かみさんが豆府屋とうふやを、とうふさんとむ——ちひさな下宿げしゆくでよくきこえる——こゑがすると
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あいにくかぜつよくなつて、いへ周圍まはりきまはるゆきが、こたつのしたふきたまつて、パツとあかりさうで、一晩ひとばんおびえてられなかつた。——下宿げしゆくかへつた濱野はまのさんも、どうも、おち/\られない。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)