一通ひととほ)” の例文
細々こま/″\しい臺所だいどころ道具だうぐやうなものはまでもあるまい、ふるいのでければとふので、小人數こにんず必要ひつえうだけ一通ひととほそろえておくつてた。其上そのうへ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれは一ぱん百姓ひやくしやうがすることはなくてはらないので、ことには副食物ふくしよくぶつとして必要ひつえうなので茄子なす南瓜たうなす胡瓜きうりやさういふもの一通ひととほりはつくつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あの、とほりだ。さすがに、たゝみうへへはちかづけないやうにふせぐが、天井裏てんじやううらから、臺所だいどころねずみえたことは一通ひととほりでない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
マアういふ事は滅多めつたにない事でございます、我々われ/\のやうな牛はじつに骨の折れる事一通ひととほりではありません、女牛めうししぼられる時の痛さといふのはたまりませんな
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
古墳こふんかたちと、それから外側そとがはつてゐた埴輪はにわについて、たゞいま一通ひととほりおはなししたのでありますが、これからは、古墳こふん内部ないぶにある石棺せきかん石室せきしつのおはなしをいたしませう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
はゝかねてそれはあまりに短氣たんきなりあのことば一通ひととほりはきいておりなされませぬかと執成とりなすを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
元より御憎悪強おんにくしみつよわたくしにはさふらへども、何卒なにとぞこれは前非を悔いて自害いたし候一箇ひとりあはれなる女の、御前様おんまへさま見懸みかけての遺言ゆいごんとも思召おぼしめし、せめて一通ひととほ御判読ごはんどく被下候くだされさふらはば、未来までの御情おんなさけ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
巴里パリイの道ももう此辺このへんはアスフワルトでもなければ切石きりいしを敷いた道でもない。清水の三年ざか程の勾配をのぼる靴はかなり迷惑な土ぼこりを身体からだに上げる。八月の中頃であるからだ暑さも一通ひととほりではない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
で、たゞちに木材もくざい伐更きりあらためて、第二だいにざうきざみはじめた。が、またさくたいする迫害はくがい一通ひととほりではないのであつた。ねこんで行抜ゆきぬける、ねずみかじる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗助そうすけ昨夕ゆうべから今朝けさけての出來事できごと一通ひととほつまんではなしたうへ文庫ぶんこほかなにられたものがあるかないかをたづねてた。主人しゆじんつくゑうへいた金時計きんどけいひとられたよしこたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
夕暮ゆふぐれ店先みせさき郵便脚夫いうびんきやくふ投込なげこんできし女文字をんなもじ書状ふみ一通いつゝう炬燵こたつ洋燈らんぷのかげにんで、くる/\とおびあひだ卷收まきをさむれば起居たちゐこゝろくばられてものあんじなること一通ひととほりならず、おのづといろえて
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けて最初さいしよのめがねで召抱めしかゝへた服部家はつとりけ用人ようにん關戸團右衞門せきどだんゑもん贔屓ひいきと、けやうは一通ひととほりでなかつた。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
オヽおもしろし覺悟かくごとはなん覺悟かくご許嫁いひなづけ約束やくそくいてしゝとのおのぞみかそれは此方このはうよりもねがことなりなんまはりくどい申上まをしあぐることのさふらふ一通ひととほりも二通ふたとほりもることならずのちとはいはずまへにてれてるべしれてらん他人たにんになるは造作ぞうさもなしと嘲笑あざわらむねうちくは何物なにもの
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此家このやうち一人ひとりもなし老婆ばあさまも眉毛まゆげよまれるなと憎々にく/\しくはなつて見返みかへりもせずそれは御尤ごもつとも御立腹ごりつぷくながられまでのことつゆばかりもわたくしりてのことはなしおにくしみはさることなれど申譯まをしわけ一通ひととほりおあそばしてむかしとほりに思召おぼしめしてよと詫入わびいことばきもへずなんといふぞ父親てゝおやつみれは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)