あず)” の例文
白い胸掛むねかけをした鶴子は、むしろ其美しきをえらんでみ且摘み、小さな手に持ち切れぬ程になったのを母の手にあずけて、また盛に摘んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あずかってもらう産婆さんには一円でも高いとおっしゃいますかとこう一本突込まれて亭主は渋々ながら二円の祝儀を出したという事です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
役場をあずかっている人で、典獄てんごく(刑務所の役人)と代理執行官だいりしっこうかんをかねていた人は、わたしたちをろうに入れることをこのまなかった。
春になると、北上の河谷かこくのあちこちから、沢山たくさんの馬がれて来られて、の部落の人たちにあずけられます。そして、上の野原にはなされます。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あわてた与吉、かたわらに荷を出していたところてん屋の小僧、チョビ安という八つばかりの少年に壺をあずけて、おしりに帆上げて逃げだした。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
正二しょうじは、こんな時計とけい学校がっこうっていったら、きっと小谷おたにや、もりわらわれるだろうとおもったので、おかあさんに、あずかってもらうことにしました。
正二くんの時計 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夜半観測の間合まあいなどには暖炉に向いながら、旧里ふるさとあずけ置きたる三歳の小児しょうにが事など始めて想い起せし事もありたり。
げんただいま命様みことさまにはなにかの御用ごようびて御出おでましになられ、乙姫様おとひめさまは、ひとりさびしくお不在るすあずかってられます。
このとおり、あっしがふところにあずかっておりやすから、どうか親船おやぶねったで、おいでなすっておくんなせえやし
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
多分たぶん、一おくや二おくかねはためていたとおもうですが、これをまた、銀行ぎんこうにもあずけず、株券かぶけんにもせず、どこかにかくしてつていやがつたにちがいないです。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
また豊野の停車場にては、小荷物あずけんといいしに、聞届ききとどけがたしと、官員がほしていいしを、いためしに、後には何事をいいても、いらえせずなりぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
廉子はじめ後宮の女人にょにんたちもすべて、諸家の“あずめ”となって分散されていたのである。また新朝廷の、久我こがノ右大臣へも事のよしを報じてもどった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この着物を売ればその位の金にはなるではないか。大小をあずければいが、是れはして行かねばならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
過日こないだ長六爺ちょうろくじじいに聞いたら、おいらの山を何町歩なんちょうぶとか叔父さんがあずかって持っているはずだっていうんだもの、それじゃあおいらは食潰しの事は有りあしないじゃあないか。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これまでの僕の知識によると、料理店の構造は、まず玄関を入ると、お帽子ぼうし外套がいとうあずかりじょがあり、それから中へはいると広間があって、ここで待合わせたり、茶をのんだりする。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「わしはこの仔牛こうしをあずけられたのだ。ところが、いまだに、りにないのでよわっているところだ。すまねえが、おまえら、わけして、あずけていった子供こどもさがしてくれねえか。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
なに、今になって退くような奴らは、皆大学様の御左右ごさうをうかがって、万一お家お取立てになった場合、真先にお見出しにあずかろうという了簡りょうけんから、心にもない義盟に加わってきたのだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
その葬喪の席で神と闘って勝負あずかりの一件を自慢し語ったとは無鉄砲な男だ。
証拠のないことだし、自分も暗い饗応きょうおうあずかっているので、素知らぬ顔をしてパリーへ着いたが、大使館へ出頭して外交郵便夫の役目を果すと同時に失踪しっそうしてしまった。その後大戦は始まる。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「それじゃあずけておこう。これは叔父様おじさまが西洋からおみやげに持って来てくだすったのだ。まだのこぎりだのかんなだのがあったけれど、なくしてしまった。こんなものがそんなにこわいならきみにあずけるよ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うで七日なのかあいだあずけておくぞ。」
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かれはわずか息のつまったようなごえを立てたが、やがて手早く前足をわたしの手にあずけて、じつとおとなしくしていた。
「へい、あるすじより頼まれまして、風呂敷に包んだ木箱を一つ、あずかっておりますが、何がはいっておるかは、この爺いはすこしも存じませんので」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わしふるくからこの瀑布たきあずかっている老人としより竜神りゅうじんじゃが、此度このたびえんあってそなた手元てもとあずかることになってはなはよろこばしい。
それほどまでにいうんなら、仕方しかたがない、あずかろう。そのかわり、太夫たゆうりにたにしても、もう二ふたたすことじゃないから、それだけはしかねんしとくぜ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ソコで大小も陣笠じんがさ一切いっさいの物はヴエンリートの家にあずけて、丸で船頭か百姓のような風をして、小舟に乗込み、舟は段々東にくだってとう/\羽根田はねだの浜から上陸して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは、あにかねあずけておいた銀行ぎんこうがつぶれて、みんなかねをなくしてしまったことであります。
くわの怒った話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ご大切な宝物ほうもつとやらを、父とわたくしとで、おあずかりもうしておりましたが、そのために、親娘おやこの者が、ひとかたならぬ難儀なんぎをいたしておりますゆえ、きょう、お通りあそばしたのをさいわ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その疑問はあずかりとしておいてほかにも疑問の種があった。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
七日なのかあいだうであずけておくぞ。」
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
わたしたちは町に着いて、あのときヴィタリスや犬ととまったことのある宿屋やどやに荷物をあずけて、すぐ獣医じゅういさがし始めた。
「いや、待て。わからねえぞ。なんだか知らねえが、あずかっている物を出せとか言って、大声をあげているぜ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わたくしなども矢張やは一人ひとり竜神りゅうじんさんの御指導ごしどうあずかったことは、かねがね申上もうしあげてりますとおりで、これはわたくしかぎらず、どなたもみな、その御世話おせわになるのでございます。
おめえがいやだとかぶりをりゃァ、おいらはひとからあずかった、大事だいじかねとしたかどで、いやでも明日あした棒縛ぼうしばりだ。——そいつもよかろう。おめえはかげでわらっていねえ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ぼくですか、見物けんぶつじゃありませんよ、消防しょうぼうのてつだいをしました。自転車じてんしゃ他所よそいえあずけておいてみずはこんだのです。隣組となりぐみでやるバケツのリレーは、あわてるときは、だめですね。
火事 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それからかれはエチエネット、アルキシー、バンジャメンと順々じゅんじゅんにキッスして、リーズをねえさんの手にあずけた。
もう、そのときは、そんなどころではありません。などは、どうでもよかったのです。ともだちのうちたよって、あめのやむまでって、かえりには、その無花果いちじくはちあずけてゆきました。
ある男と無花果 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「バルブレンのおっかあ、こっちのもたっしゃだよ。相変あいかわらずかせいでいる、よろしく言ってくれと言って、このお金をあずけてよこした。数えてみてください」
仕事しごとはみな奉公人ほうこうにんがしてくれるし、かね銀行ぎんこうあずけておけば、利子りしがついて、ますます財産ざいさんえるというものだ。もうこんなくわなどを使つかうことはあるまい。まったく不要ふようなものだ。
くわの怒った話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「さあ、犬とさるをれて出て行ってくれ。親方の荷物はあずかっておく。親方が刑務所けいむしょから出て来れば、いずれここへるだろうし、そのときこちらの始末しまつもつけてもらおう」