雨露あめつゆ)” の例文
あゝサウルよ、汝の己がつるぎに伏してジェルボエ(この山この後雨露あめつゆをしらざりき)に死せるさまさながらにこゝに見ゆ 四〇—四二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
成経 何か形見かたみに残したいがわしに何もあろうはずがない。このふすまをあなたにのこします。わしはこれで雨露あめつゆをしのぎました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
非情ひじやうのものが、こひをしたとがめけて、ときから、たゞ一人ひとりで、いままでも双六巌すごろくいはばんをして、雨露あめつゆたれても、……貴下あなたことわすれられぬ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手荷物てにもつにしてのみゆかしき妻戀坂下つまこひざかした同朋町どうぼうちやうといふところ親子おやこ三人みたり雨露あめつゆしのぐばかりのいへりてからひざをばれたりけり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いえいえ、雨露あめつゆさえしのげばけっこうです。布団ふとんなんぞの心配しんぱいはいりませんから、どうぞおめなすってください。」
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
せめて雨露あめつゆをしのぐところはないかと探してみると、渚から五町ほど東になったところに、高さ六尺ばかり、幅七、八尺の岩穴を二つ見つけたので
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
君が僕の家に置いてくれと要求する意味は、雨露あめつゆを防ぐの方法を与え、三度の食事を今後一年二年ないし五年十年とも寄食きしょくさせよというのではないか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
白木綿しろもめんが、ねずみ木綿とまがうほど、ほこり雨露あめつゆに汚れていた。油気のない髪、日焦ひやけ痩落やせおちている頬、どことなく、志を得ない人間の疲れと困憊こんぱいまとっていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうしてそれがことごとく西洋館である。しかも三分の一は半建はんだてのまま雨露あめつゆさらされている。他の三分の一は空家あきやである。残る三分の一には無論人が住んでいる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
多恨のダビデが歌ふて「ギルボアの山よ、願はくは汝の上に雨露あめつゆ降ることあらざれ、亦供物そなへもの田園はたもあらざれ、彼処かしこに勇士の干棄たてすてらるればなり」とこくせし山也。
南無帰命頂礼なむきみょうちょうらい地蔵菩薩——お別れのついでにこの笠をさし上げましょう、峠の上は下界より嵐がひどいことでござりますから、たとえ一晩でもこの笠で雨露あめつゆしのぎ下さいまし」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
野外やぐわいさら雨露あめつゆうたれて鳶烏とびからす餌食ゑじきと成こと我が恥よりは先祖せんぞ恥辱ちじよくなりかへす/″\も口惜くちをしき次第かな女房おみねさぞかなしなげくらんと五ざうしぼる血の涙に前後正體無りけるやゝ有て心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其処は住居と云ふものの、手狭でもあれば住み荒してもあり、僅に雨露あめつゆしのげるだけだつた。乳母はこのほそどのへ移つた当座、いたはしい姫君の姿を見ると、涙を落さずにはゐられなかつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
くもあたゝかなる気を以て天にのぼり、かの冷際れいさいにいたればあたゝかなるきえて雨となる、湯気ゆげひえつゆとなるがごとし。(冷際にいたらざれば雲散じて雨をなさず)さて雨露あめつゆ粒珠つぶだつは天地の気中にるを以て也。
やれ嬉しやと切石きりいしを拾うて脇差のつかに打付け、たもとにあり合う綿に火を移し、枯枝にその火を掛けて焚火たきびをなし、またの枝を折って樹から樹を柱に、屋根をこしらえて雨露あめつゆしのぐの棲家すみかとなし
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「わたしは見たわけじゃありませんが、なんでも白木の箱が出たそうですよ。その犬がくわえ出して来たんです。箱は雨露あめつゆにさらされているが、そんな古いものじゃ無さそうだということでした」
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家の構造つくりは、唯雨露あめつゆを凌ぐといふばかりに、きもし囲ひもしてある一軒屋。たまさか殿城山の間道を越えて鹿沢かざは温泉へ通ふ旅人が立寄るより外には、ふ人も絶えて無いやうな世離れたところ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おれの家はだだつ広い野原で、蒼黒い雨雲が屋根の代りになるのだよ。鷲めがおれの鳶いろの眼球めだまをつつき、哥薩克男子をのこのこの骨は雨露あめつゆに洗はれて、やがては旋風の力でひからびてしまふことだらう。
いそに漂着ひょうちゃくしたる丸太や竹をはりけたとし、あしむすんで屋根をき、とまの破片、藻草もぐさ、松葉等を掛けてわずかに雨露あめつゆけたるのみ。すべてとぼしく荒れ果てている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
高坂は語りつつも、長途ちょうとくるしみ、雨露あめつゆさらされた当時を思い起すに付け、今も、気弱り、しん疲れて、ここに深山みやまちり一つ、心にかからぬ折ながら、なおかつ垂々たらたらそびらに汗。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だって、七年も雨露あめつゆをしのいで来た屋根の下じゃないか。」
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「では、これから戻っても、雨露あめつゆだけはしのげるな」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古びた雨漏あまもりだらけの壁に向つて、と立つた、見れば一領いちりょう古蓑ふるみのが描ける墨絵すみえの滝の如く、うつばりかかつて居たが、見てはじめ、人の身体からだに着るのではなく、雨露あめつゆしのぐため
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雨露あめつゆ黒髪くろかみしもと消え、そですそこけと変って、影ばかり残ったが、おかおの細くとがったところ、以前は女体にょたいであったろうなどという、いや女体の地蔵というはありませんが、さてそう聞くと
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
う/\降るのとたまつたので濡れとおつて、帽子からしずくが垂れた時は、色も慾も無くなつて、むしろが一枚ありや極楽、其処そこで寝たいと思つたけれど、うしてお世話になつて雨露あめつゆしのげると
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すかりとれるぞ。のこらずすべい。兵粮へうらうはこぶだでの! 宿やどへもほこらへもかへらねえで、此処こゝ確乎しつかり胡座あぐらけさ。下腹したはらへうむとちかられるだ。雨露あめつゆしのぐなら、私等わしら小屋こやがけをしてしんぜる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……いかにや、年ふる雨露あめつゆに、彩色さいしきのかすかになったのが、木地きじ胡粉ごふんを、かえってゆかしくあらわして、萌黄もえぎ群青ぐんじょうの影を添え、葉をかさねて、白緑碧藍はくりょくへきらんの花をいだく。さながら瑠璃るりの牡丹である。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胸騒むなさわぎがしながら歩行あるいたけれども、不思議なものはの根にも出会でっくわさない、ただのこはれ/″\の停車場ステエションのあとへ来た時、雨露あめつゆさらされた十字の里程標りていひょうが、枯草かれくさの中に、横になつて居るのを見て
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)