たまもの)” の例文
内山君うちやまくん足下そくか此位このくらゐにしてかう。さてかくごとくにぼくこひ其物そのもの隨喜ずゐきした。これは失戀しつれんたまものかもれない。明後日みやうごにちぼく歸京きゝやうする。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
案外その開化のたまものとして吾々の受くる安心の度は微弱なもので、競争その他からいらいらしなければならない心配を勘定かんじょうに入れると
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
詩といふ神のめづらしきたまものにつきては、われ人となりて後、屡〻考へたづねしことあり。詩は深山の裏なる黄金の如くぞおもはるゝ。
行状の書する所は阿部正寧まさやすの初度のたまもので、「章服」は「御垢附御羽折」である。此賜は二月二日の生日に於てせられたこととおもふ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ほとんど同国の史記とは信じ難かるべし。然りしこうしてその進歩をなせし所以ゆえんもとを尋ぬれば、みなこれ古人の遺物、先進のたまものなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたくしやま修行場しゅぎょうじょうりながら、うやら竜宮界りゅうぐうかい模様もようすこしづつわかりかけたのも、まったくこの難有ありがた神社じんじゃ参拝さんぱいたまものでございました。
此時このときうれしさ! ると一しやくぐらいのあぢで、巨大きよだいなる魚群ぎよぐんはれたために、偶然ぐうぜんにも艇中ていちう飛込とびこんだのである。てんたまものわたくしいそ取上とりあげた。
父のたまものによって、将来世に立ち、まず押しも押されもせぬ人間一生をかく通り越し来たことは心に感謝する次第であります。
それら皆其の折の機根相応に神を見たる真実無妄むまうの経験として、わが宗教生活史の一鎖一環をなす者にあらずや。謝せよ、これ皆上天のたまもの也。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
私の地名研究は実は神保博士の激励のたまものと言ってもよかった。私の感じたところでは、狂人の言といえどもよく聴いていると何か趣意がある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし暗夜は暗夜の徳あって、孟子もうしのいわゆる「夜気やき」は暗黒のたまものである。いにしえの学者の言に、「好悪こうあくりょう夜気やききざす」と。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
梶原氏は、自分の新聞記者に對する應對が意外に練れてゐると云つて稱讚し、これを海外留學のたまものとする口吻をもらした。
要するに、予の半生はんせい将死しょうしの気力をし、ややこころよくその光陰こういんを送り、今なお残喘ざんぜんべ得たるは、しんに先生のたまものというべし。
それ神がそのゆたかなる恩惠めぐみにより造りて與へ給へる物にて最もその徳にかなひかつその最も重んじ給ふ至大のたまものは 一九—二一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
同氏の優れた経営手腕、及び難き精励刻苦のたまものであったことは、勿論もちろんだが、階級憎悪に燃えた労働者達にとって、そんなことは問題外であった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
冬などはすっかりお勤めが済んだころにやっと表が明るくなる。その代わり夜は早い。——あの血色はそのたまものであろう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
我々月々の生命をつなぐ米穀野菜の類は、百姓の粒々辛苦りゅうりゅうしんくの産出物であるは言わでもの事であるが、これが夫婦共稼ぎのたまものであることを思わねばならぬ。
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
此も偏に、あの講談通のお客のたまものといよ/\心から感泣して、そのお客の祝儀だけは開けても見ずに神棚へ、他の祝儀だけ計算すると廿余円もあつた。
落語家温泉録 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
それも実力競争のたまものさ。女の子が生れると赤飯を炊いて祝うというくらい勘定高い連中だから、高いと思えば一切買わない。自然物価が廉くならざるを
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一に西光寺さんの御親切のたまものであります。入庵以来幾月もたゝないのですが、どの位西光寺さんの御親切、母の如き御慈悲に浴しました事か解りません。
入庵雑記 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
自分の汗になつた肌を折々襲つて行くその心地好さ! これは山でなければ得られぬたまものと、自分はそれを真袖まそでに受けて、思ふさま山の清い※気けいきを吸つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そうしてそれは、日本民族が内にみずから養って来た力にもよるのであるが、それがこういう風に発展して来たのは、地理的事情その他の環境のたまものが大きい。
此頃毛利アラ次郎恭助出京ニて此刀を見てしきりにほしがり、私しも兄のたまものなりとてホコリ候事ニて御座候。
艦長が一声叫べば、あとは日頃の猛訓練のたまもので、作業は水ぎわだってきびきびとはかどるのであった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
東京の一角へ爆弾の一つもおっこって来るという日は別だが、今時は何処に戦争がある、といったような風景である、これというのも、彼の壮烈なる肉弾のたまものである。
どうかした拍子でふいと自然の好いたまものに触れる事があってもはっきり覚めている己の目はその朧気おぼろげさいわいを明るみへ引出して、余りはっきりした名を付けてしまったのだ。
そして私はひそかにこれをもって、水平運動のもたらしたたまものの一つだと観察しております。そして今やその第二期運動として、内容の充実が叫ばれてきたのであります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
しかるを近き頃、村田春海大人はるみのうし右のしよを京都にて購得かひえてのち、享和三年の春はじめて板本となし、世の重宝となりてよりのち学者がくしや机上つくゑのうへおくは、じつ春海大人はるみのうしたまものなりけり。
只彼の歌が多くは字句の細工を斥けて、趣味ある意匠を撰ぶに傾きたるは、當時に在りて極めて卓越せる意見にして、これこそ彼が萬葉より得來りたる唯一のたまものなりけめ。
万葉集巻十六 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
思想の自由を善用して世界の智識の一端に触れる事の出来たたまものですが、人でなしに扱われていた因襲の革嚢かわぶくろから生地きじの人間になって躍り出したのは結構な事であるとして
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それも専門家的の苦心惨憺さんたんというのでなくて、尋常じんじょうの言葉で無理なくすらすらと云っていて、これだけ充実したものになるということは時代のたまものといわなければならない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
人にも志誠まごころありながら、一一七世にせばめられてくるしむ人は、一一八天蒼氏てんさうしたまものすくなくうまれ出でたるなれば、精神を労しても、一一九いのちのうちに富貴を得る事なし。
正岡先生の御逝去が吾々のために悲哀の極みなることはもうすまでもなく候えども、その実先生の御命が明治三十五年の九月まで長延び候はほとんど天のたまものとも申すべきほどにて
師を失いたる吾々 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
こんな罪のない、つ美点に満ちた植物は、他の何物にも比することのできない天然てんねんたまものである。実にこれは人生の至宝しほうであると言っても、けっして溢言いつげんではないのであろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
しかれども言論出版をもって意見を公にするを得たるは実に当時印刷事業進歩のたまものなり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
然るに如何いかにして大久保のほとりに、かかる殆んど自然そのままの原野が残っているのであるか。不思議な事にはこれが実に俗中の俗なる陸軍のたまものである。戸山の原は陸軍の用地である。
それは、人生への出発の第一歩に、世間には幾らも上手うわてがいるぞという実例を、グワンと喰らわせてくれた沢庵たくあんおしえがあるし、また、宝蔵院や小柳生城を踏んであるいたたまものである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やや真面目になれ得たと思うのは、全く父の死んだ時に経験した痛切な実感のおかげで、即ち亡父のたまものだと思う。あの実感を経験しなかったら、私は何処迄だらけて行ったか、分らない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
のみならず、その両親の慈愛のたまものである結婚費用……三十幾粒の宝石は、赤軍がよく持っている口径の大きい猟銃を使ったらしく、空砲にめて、その下腹部に撃ち込んであるのでした。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
主人が人間のよはひの尋常の境をはるかに越してゐて、老後に罹り易い病のどれにも罹らずに、壮んな気力を養つてゐるのは、好い空気のたまものである。主人は生涯に赫々たる功名を遂げた人である。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
近郊各部落の方々の熱意のたまものでありまして、本官は、今回、選抜された優秀なる女工さんがたによって、かならずや、期待される以上の成果が、生みだされるにちがいないことを確信いたします。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
私が今日あるのはこの見識ある発案のたまものである。ことに、教育宗教局長で同時にスイス国聯邦参事院の一員であるルイ・リュショネー氏(Louis Ruchonnet)に負うところが大である。
自然のくばたまものの一番上等なものですのに。3105
米船の勝利はすべて速力のたまものだった。
登らんとするいわお梯子ていしに、自然の枕木を敷いて、踏み心地よき幾級のかいを、山霊さんれいたまものと甲野さんは息を切らしてのぼって行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これすなわち宗祖そうそ家康公いえやすこう小身しょうしんよりおこりて四方を経営けいえいしついに天下の大権を掌握しょうあくしたる所以ゆえんにして、その家の開運かいうんは瘠我慢のたまものなりというべし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夫の今日あるは亡き榛軒のたまものだとおもつたからである。榛軒の歿した時、棠軒は父の遺物として、両掛入薬籠りやうがけいれやくろうと雨具一式とを枳園に贈つたさうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
われは漸くにして媼のたまものを見ることを得き。その一通の文書は羅馬ロオマ警察封傳てがたにして、拿破里ナポリ公使の奧がきあり。旅人の欄には分明に我氏名を注したり。
望みは遠し、されど光のごとく明るし。熱血、身うちにおどる、これわが健康のしるしならずや。みな君がたまものなり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
わたくしのような強情かたくななものが、ドーやら熱心ねっしん神様かみさまにおすがりする気持きもちになりかけたのは、ひとえにこの暗闇くらやみ内部なかの、にもものすごい懲戒みせしめたまものでございました……。