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薄
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すすき
ふりがな文庫
“
薄
(
すすき
)” の例文
汽車に連るる、野も、畑も、
畑
(
はた
)
の
薄
(
すすき
)
も、薄に
交
(
まじわ
)
る
紅
(
くれない
)
の木の葉も、紫
籠
(
こ
)
めた野末の霧も、霧を
刷
(
は
)
いた山々も、皆
嫁
(
ゆ
)
く人の背景であった。
革鞄の怪
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
うごめかす鼻の先に、得意の
見栄
(
みえ
)
をぴくつかせていたものを、——あれは、ほんの表向で、内実の
昨夕
(
ゆうべ
)
を見たら、招く
薄
(
すすき
)
は
向
(
むこう
)
へ
靡
(
なび
)
く。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
桔梗
(
ききょう
)
や
女郎花
(
おみなえし
)
のたぐいはあまり愛らしくない。私の最も愛するのは、へちまと百日草と
薄
(
すすき
)
、それに次いでは日まわりと
鶏頭
(
けいとう
)
である。
我家の園芸
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
物は言はで
打笑
(
うちゑ
)
める富山の
腮
(
あぎと
)
は
愈
(
いよいよ
)
展
(
ひろが
)
れり。早くもその意を得てや
破顔
(
はがん
)
せる
主
(
あるじ
)
の目は、
薄
(
すすき
)
の
切疵
(
きりきず
)
の如くほとほと有か無きかになりぬ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
霜枯
(
しもが
)
れそめた
矮
(
ひく
)
い
薄
(
すすき
)
や
苅萱
(
かるかや
)
や他の枯草の中を、人が踏みならした路が
幾条
(
いくすじ
)
か
麓
(
ふもと
)
から
頂
(
いただき
)
へと通うて居る。余等は其一を伝うて上った。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
▼ もっと見る
それに、うちの庭と、いまあの方の立っていらっしゃる場所との間には、
薄
(
すすき
)
だの、細かい花を咲かせた
灌木
(
かんぼく
)
だのが一面に生い茂っていた。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
天の探女姫を縄にて縛りたり、夫婦驚きてこれを援け天の探女を縛り、
此女
(
こやつ
)
薄
(
すすき
)
の葉にて
鋸
(
ひ
)
かんとて薄の葉にて鋸きて切り殺しぬ
十二支考:01 虎に関する史話と伝説民俗
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
幾条もの傷を手の甲に
拵
(
こしら
)
へながら、口惜しさに夢中で
薄
(
すすき
)
の穂をもぎ折つた幼い頃の記憶を私は秋になるとなつかしく想ひ出す。
秋の七草に添へて
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
庭の木の小さかったのが大きくなって広い
蔭
(
かげ
)
を作るようになっていたり、ひとむら
薄
(
すすき
)
が思うぞんぶんに
拡
(
ひろ
)
がってしまったりしたのを整理させ
源氏物語:33 藤のうら葉
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
其処から少し左に離れて
薄
(
すすき
)
村で建てた祠がある。両祠とも各其村の方に向けて建てるのだそうだ。祭神は
伊弉諾
(
いざなぎ
)
、
伊弉冉尊
(
いざなみのみこと
)
。
奥秩父の山旅日記
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
栗の木の株間株間には、
刈萱
(
かるかや
)
や
薄
(
すすき
)
が
背丈
(
せたけ
)
ほども伸びて、毎年秋になると人夫を雇って刈らせるのだったが、その収入もかなりあるようだった。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
ただし注意を怠ると、繩が蛇に見えたり、
薄
(
すすき
)
が幽霊に見えたりして、これを見た当人は確かに蛇や幽霊を見たと信じている例はいくらでもある。
我らの哲学
(新字新仮名)
/
丘浅次郎
(著)
嘗
(
かつ
)
て天皇の行幸に御伴をして、山城の宇治で、秋の野のみ草(
薄
(
すすき
)
・
萱
(
かや
)
)を刈って
葺
(
ふ
)
いた
行宮
(
あんぐう
)
に
宿
(
やど
)
ったときの興深かったさまがおもい出されます。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
秋山のなぞへの
薄
(
すすき
)
、ひとつらね揺りかがやけり。秋山の名も無き山の、草山の、山の端薄、その穂の薄、揺りかがやけり。
観相の秋
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
「
薄
(
すすき
)
が野山で招いている。落ち鮎が川に
瀬走
(
せばし
)
っている、ほんにもう秋がおとずれて来た。なんという寂しい眺めであろう」
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
土手の道を、
薄
(
すすき
)
の枯葉の蔭を、
黄櫨
(
はぜ
)
の枯枝の向うを、やがて畑の向うを曲って行く兄の後姿をぼんやりと眺めながら私は、突っ立っていました。
仁王門
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
美しい糸を包んだ
薄
(
すすき
)
は日に/\伸びてゆき、山上の荘は秋もまだ訪ずれぬのに、昼さえ澄んだ虫の声をきくのであった。
六甲山上の夏
(新字新仮名)
/
九条武子
(著)
花はないが、
薄
(
すすき
)
も好きで、例の百日紅の下に傲然とはびこっている。真夏には
糸瓜
(
へちま
)
棚が出来て、その下で、実が長くなるのをよろこんでいられた。
解説 趣味を通じての先生
(新字新仮名)
/
額田六福
(著)
「わたし休まなくとも、ようございますが、早速お母さんの罰があたって、
薄
(
すすき
)
の葉でこんなに手を切りました。ちょいとこれで結わえて下さいな」
野菊の墓
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
秋はしだいにたけて、
楢
(
なら
)
の林の葉はバラバラと散った。虫の鳴いた
蘆原
(
あしはら
)
も枯れて、白の
薄
(
すすき
)
の穂が
銀
(
しろがね
)
のように日影に光る。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
……三人の行くてには、まだ刈られない
薄
(
すすき
)
の立枯が、ぼう/\とそのまゝわびしく、水のように白く束ねられていた。
春泥
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
池畔は
薄
(
すすき
)
が密生してゐた。池といつても水は涸れ涸れで一面
絨毯
(
じうたん
)
を敷詰めたやうに、苔のやうな草で蔽はれてゐた。
霧ヶ峰から鷲ヶ峰へ
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
曇っていた空に雲ぎれがして
黄昏
(
ゆうぐれ
)
の西の空は
樺
(
かば
)
色にいぶっていた。竹垣をした人家の垣根にはコスモスが咲いていたり、畑地の
隅
(
すみ
)
には
薄
(
すすき
)
の穂があった。
藍瓶
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
薄
(
すすき
)
の絵を見て、それが芸術上愚にもつかぬ絵であっても喜んでいて、本当の薄を見るとき軽視するがごときだ。
世界の「料理王逝く」ということから
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
で、夢見心地でこの広々とした原っぱを通り過ぎると、間もなく物凄い
薄
(
すすき
)
の大波が
蓬々
(
ほうほう
)
と
生
(
お
)
い
繁
(
しげ
)
った真に芝居の難所めいた古寺のある荒野に踏み入る筈だ。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
「此処だったわね」おつるが扇子を落した処で立停った、「この
薄
(
すすき
)
のこっちの
処
(
ところ
)
だったわ、なつかしいわね」
扇野
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
せめてはレールの
傍
(
かたわら
)
に
菫
(
すみれ
)
が咲いて居るとか、または汽車の過ぎた後で
罌粟
(
けし
)
が散るとか
薄
(
すすき
)
がそよぐとか言うように他物を配合すればいくらか見よくなるべく候。
歌よみに与ふる書
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
僧侶とも俗人とも区別のつかないまでに
髭
(
ひげ
)
も髪もぼうぼうと乱していたが、雑草がからみあい、
薄
(
すすき
)
が一面に靡き伏しているなかに、蚊のなくほどの細い声で
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
田園調布の町も
尾久
(
おぐ
)
三河島
(
みかわしま
)
あたりの町々も震災のころにはまだ
薄
(
すすき
)
の穂に西風のそよいでいた野原であった。
葛飾土産
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
津の国を吹く風の音いろが
薄
(
すすき
)
の穂がしらをしずかにゆすっては、
迥
(
はる
)
かにすぎてゆくような遠い思いであった。とらえがたいものが物の
精神
(
こころ
)
になって見えて来た。
荻吹く歌
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
浜に上って当てもなしに
路
(
みち
)
をあるいて行くと、或る家の庭の
薄
(
すすき
)
の
垣
(
かき
)
に、なくした釣縄が洗って
乾
(
ほ
)
してある。
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
うしろの土手の
自然生
(
しぜんばへ
)
を弟の亥之が折て来て、
瓶
(
びん
)
にさしたる
薄
(
すすき
)
の穂の招く手振りも哀れなる
夜
(
よ
)
なり。
十三夜
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
古
釣瓶
(
つるべ
)
へ
薄
(
すすき
)
と野菊の投げいれ、わき床にはあしと柳の盆栽、別室にはお約束の灯心十余筋をいれた灯明皿を置いて型通りの道具立て、万端整ったところで場所柄だけに
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
かんざしも夏には銀製の
薄
(
すすき
)
のかんざしをさしたもので、見るからに涼しげな感じのものでした。
絵筆に描き残す亡びゆく美しさ
(新字新仮名)
/
上村松園
(著)
これは
薄
(
すすき
)
の葉の垂れた
工合
(
ぐあひ
)
が、殊に出来が面白い。小林君は専門家だけに、それを
床柱
(
とこばしら
)
にぶら下げて貰つて、「よろしいな。銀もよう焼けてゐる」とか
何
(
なん
)
とか云つてゐる。
京都日記
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
薄
(
すすき
)
よりも穂の多い剣の林の中を、名にし負う新撰組、御陵隊が、
屍
(
しかばね
)
の山、血の河築くその中を、
腥
(
なまぐさ
)
い風の上を悠々閑々として、白衣の着流しで、ぶらついていたという噂を
大菩薩峠:41 椰子林の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
白い
髭
(
ひげ
)
が鼻の下にガサガサと
生
(
は
)
えて、十二月の野原の
薄
(
すすき
)
のような頭髪が、デコボコな
禿
(
はげ
)
た頭にヒョロヒョロしている。悪口すれば、
侏儒
(
くもすけ
)
ともいえる、ずんぐりと低い醜い人だ。
旧聞日本橋:08 木魚の顔
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
何処か谿の方で馬の
嘶
(
いなな
)
き声はするけれど人影は見えない。山を下つて
薄
(
すすき
)
の簇生してゐる細い川堤を通つて行くと、蝙蝠が薄の中から飛び出して、二三羽づつ夕空に舞つてゐる。
伊良湖の旅
(新字旧仮名)
/
吉江喬松
(著)
家のすぐ傍を石炭や礦石を運ぶ電車が、夜昼のかまいなく激しい音を立てて運転していた。丈の低い笹と
薄
(
すすき
)
のほかには生ええない周囲の山々には、雪も厚くは積もれなかった。
贋物
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
唯一本の筍誤って柵の中に生ひ出でたるが
丈
(
たけ
)
高く空を突きたるも、中々に心ある様なり。其側に西行の歌を刻みたる碑あり。枯野の
薄
(
すすき
)
かたみにぞ見ると詠みしはこゝなりとぞ。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
薄
(
すすき
)
だの、もう
夙
(
はや
)
くにあの情人にものを訴へるやうなセンチメンタルな白い小さい花を失つた
野茨
(
のいばら
)
の一かたまりの藪だの、その外、名もない併しそれぞれの花や実を持つ草や灌木が
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
実生
(
みしょう
)
の小松やら、
合歓
(
ねむ
)
、女竹、草には
薄
(
すすき
)
、
苺
(
いちご
)
、
蕗
(
ふき
)
の類などが雑生していたというから——慶長十七年の春四月の頃だったという、武蔵と巌流との試合が行われた当時の島の風趣は
随筆 宮本武蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それは戦乱の世なら
萱
(
かや
)
や
薄
(
すすき
)
のように
芟
(
か
)
り倒されるばかり、平和の世なら自分から志願して
狂人
(
きちがい
)
になる位が
結局
(
おち
)
で、社会の難物たるに
止
(
とどま
)
るものだが、定基は
蓋
(
けだ
)
し丈の高い人だったろう。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
そして、近く岸の
薄
(
すすき
)
のはずれにこちらへ帰る帆がまた一つある。どこから帰ったのかとはじめは
訝
(
いぶか
)
しむ。そのうちに、これは一番はじめのがこちらへ近づいたのではあるまいかと疑う。
千鳥
(新字新仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
また辺り一帯には松の
疎林
(
そりん
)
があり、樹間をとおして広々とした田野がみえる。刈入れのすんだところは稲束が積みかさねられ、
畔道
(
あぜみち
)
には
薄
(
すすき
)
が秋の微風をうけてゆるやかになびいている。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
大阪谷町の
薄
(
すすき
)
病院の院長、大阪府会議長の薄恕一氏と、親友であり、早世して、非常に惜しまれたが、その為、この薄氏と親しくなり、
殆
(
ほとん
)
ど育つか、育たぬか分らなかった私が、とにかく
死までを語る
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
真昼の電車の窓から海岸の
叢
(
くさむら
)
に白く光る
薄
(
すすき
)
の穂が見えた。砂丘が
杜切
(
とぎ
)
れて、
窪地
(
くぼち
)
になっているところに投げ出されている叢だったが、春さきにはうらうらと
陽炎
(
かげろう
)
が燃え、
雲雀
(
ひばり
)
の声がきこえた。
秋日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
白穂は水面に立って、
薄
(
すすき
)
のように風にそよぎ、細雨に空しくゆれている。水の中に、農家が点在して見えた。それらの農家と農家との間には、小舟ででも通行するしかない水の深さに見えた。
播州平野
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
稲穂は
種々
(
いろいろ
)
で、あるものは
薄
(
すすき
)
の穂の色に見え、あるものは全く草の色、あるものは
紅毛
(
あかげ
)
の房を垂れたようであるが、その中で濃い
茶褐色
(
ちゃかっしょく
)
のが
糯
(
もちごめ
)
を作った田であることは、私にも見分けがつく。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
古くなって手ずれたせいもあろうが、それはほんのりとした夢である。一むらの
薄
(
すすき
)
が金線あざやかに、穂先を月のおもてに
靡
(
なび
)
かせる。薄の穂は乱れたままに、蓋から胴の方へ
食
(
は
)
みだして来る。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
薄
常用漢字
中学
部首:⾋
16画
“薄”を含む語句
薄暗
薄明
薄暮
薄氷
薄笑
薄命
薄紅
薄倖
薄紗
薄荷
薄情
薄衣
薄闇
薄汚
薄化粧
薄茶
薄気味
薄穢
薄光
薄墨
...