熱燗あつかん)” の例文
「おっ、いわしだな」「鰯よ、こっちを酢にしてこっちを塩焼きにして、熱燗あつかんで一杯という趣向なんだ」「悪くない、おれもなにか手伝おう」
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
澄夫はうやうやしく大盃を押戴おしいただいたが、伝六郎が在合ありあ熱燗あつかんを丸三本分逆様さかさまにしたので、飲み悩んだらしく下に置いて口を拭いた。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鶯谷はさて置いて柳原にもない顔だ、於雪と云うのはどうしたろう、おや女の名で、また寒くなった、これじゃ晩に熱燗あつかんで一杯遣らずばなるまい。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを熱燗あつかんに解かして、一本の徳利に仕込みました——此處に酒の入つた徳利が二本ございます。いづれも模樣も何んにもない、伊萬里いまりの白い徳利。
熱燗あつかんを頼んでグビグビやりながら、隅の方を見ると、一人の洋服青年が、こちらに顔を向けて、ニヤニヤ笑っていた。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
愛想あいそぶりにちょっと行燈をかき立てて、注文の小皿こざら盛りと熱燗あつかんを守人の前へ置いてから、老爺はまた安へ向かって
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「全くその通りだ。さ、おりかさん、御馳走を頼むよ。今日こそは蟒の頭から熱燗あつかん一合ぶつかけてやるから。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
「現金な奴めが。了見の狭いところが少し気に入らぬが、力を貸してつかわすゆえに、家へ帰ったならば家内共に熱燗あつかんでもつけさせて、首長う待っていろよ」
二杯たべて出がけにもう一本正宗まさむねびん熱燗あつかんにつけさせたのを手にげながら饂飩屋の亭主がおしえてくれた渡し場へ出る道というのを川原かわらの方へ下って行った。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大鍋の中の油汁けんちん沸々ふつ/\と煮立つて来て、甘さうなにほひが炉辺に満溢みちあふれる。主婦かみさんは其を小丼こどんぶりに盛つて出し、酒は熱燗あつかんにして、一本づゝ古風な徳利を二人の膳の上に置いた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ぼうとなる大願発起痴話熱燗あつかんに骨も肉もただれたる俊雄は相手待つ間歌川の二階からふと瞰下みおろした隣の桟橋さんばしに歳十八ばかりのほっそりとしたるが矢飛白やがすりの袖夕風に吹きなびかすを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
昔なら土堤八丁どてはっちょうとか、浅草田圃あさくさたんぼなどというところで朝餉あさげ熱燗あつかんでねぎまとくると、その美味さ加減はいい知れぬものがあって、一時に元気回復の栄養効果を上げるそうである。
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
一学は熱燗あつかんの酒をぐっと一杯ひっかけ、ハ、ハ、ハ、と、はずみのついた声で笑いながら
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
「そりや面白うごわすな、一つつてみようぢやごわりませんか。」安物の武士道の鼓吹者は血をすゝるやうな気持で、ぐつと熱燗あつかんの酒を呷飲あふつた。「お互に一一代の積りでな。」
「ははあ、麦の酒ですか、麦の酒じゃ、熱燗あつかんにして飲むわけにゃあいきますまい」
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
するに空腹なる時は途中にてこまるならんとある杉酒屋へ入て酒を五合熱燗あつかんあつらへ何ぞさかなはなきやと問に最早みな賣切うりきれかつを鹽辛しほからばかりなりと答へけるをは何よりの品なりとて五合の酒を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今日浅草にいたかと思えばあしたは奥州街道に、——ゆうべ武蔵野をゴソゴソ歩いていたかと思えば今朝けさは音羽の筑波つくば屋あたりで、熱燗あつかんの湯豆腐に首をつッこんでいようというあんばい。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先生の熱燗あつかんはこうした生物嫌いの結果ですが、そのお燗の熱いのなんのって、私共が手に持ってお酌が出来るような熱さでは勿論駄目で、煮たぎったようなのをチビリチビリとやられました。
泉鏡花先生のこと (新字新仮名) / 小村雪岱(著)
それから早速草鞋わらぢを脱ぎの、行燈を下げたをんなと一しよに、二階座敷へせり上つたが、まづ一風呂暖まつて、何はともあれさむしのぎと、熱燗あつかんで二三杯きめ出すと、その越後屋重吉と云ふ野郎が
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや、昔日せきじつの面影なしさ。早い話が、風邪をひいても、こんなに何時までもぬけない。ゴホン、そら、せきが出たろう? 以前は牛肉を一斤食って熱燗あつかんを一本ひっかければ直ぐに治ったものだ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「どうも、あんまり結構な話でもねえ。面白くねえだろうから止めにして、台所には白鳥はくちょうが一本おったっている。熱燗あつかんをつけて、これで中々なかなか好い音声のどなんだ。小意気な江戸前の唄でもきかせようか」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それでもって拭い拭い熱燗あつかんのお酒を呑みつづけるのでした。
兄たち (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ただ熱燗あつかんけ物でも添えてもらえりゃ結構だ。」
熱燗あつかんに泣きをる上戸じょうごほつておけ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「すごい熱燗あつかんだ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「そんな時は、これに限る。熱燗あつかんをぐっと引っかけて、その勢いで寝るんですな。ナイフの一ちょうなんざ、太神楽だいかぐらだ。小手しらべの一曲さ。さあ、一つ。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今熱燗あつかんで一本やるから、それを呑んで寢てしまへ。俺はこれから八丁堀へ行つて、明日の朝迎ひに來る」
捨吉は急にかしこまって、小さな猪口ちょくを友達の前に置いた。ぷんと香気においのして来るような熱燗あつかんを注いで勧めた。一口めて見たばかりの菅はもう顔をしかめてしまった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ようやく酒が出て、ウォツカと、ビールと、ビールのコップに盛られた熱燗あつかんの日本酒とが交ぜこぜに勧められたが、露西亜人達のうちでも「お婆ちゃん」とカタリナとは日本酒を好んで飲んだ。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今、駒井能登守の屋敷を覗いて、米友に叱り飛ばされた折助も、おそらくは誰かに利用されて、隙見に来たものでありましょうが、この酒場へ逃げ込むと大急ぎで熱燗あつかんを注文して飲みました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なあに、今さ。ちょうどよかった。まア、一杯やって、暖まろう」と、中へ入って、型のごとき煮込や熱燗あつかんをとって、ほどよく酒もはらわたにまわってきた頃——阿能はさっそく口をきり出した。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まもなく久助は、命じられた熱燗あつかんの徳利を持って来て、お駒の前へ置いた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御覧ごらんよ、まだあの小父おぢさんがるよと小守娘こもりむすめの指を差しそろによればその時の小生せうせい小父おぢさんにそろなほこゝに附記ふきすべき要件えうけん有之これありあにさんの帰りは必ずよそのいへに飲めもせぬ一抔の熱燗あつかんを呼びそろへども。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
「冷じゃあやっぱり美味うまくねえ、こんな晩は熱燗あつかんでねえと、——」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
熱燗あつかんのコップを交換しているじゃないか。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「今熱燗あつかんで一本やるから、それを呑んで寝てしまえ。俺はこれから八丁堀へ行って、明日の朝迎いに来る」
蜀江しよくこうにしき呉漢ごかんあや足利絹あしかゞぎぬもものともしないで、「よそぢや、この時節じせつ一本いつぽんかんでもないからね、ビールさ。ひさしぶりでいゝ心持こゝろもちだ。」と熱燗あつかん手酌てじやくかたむけて
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
太郎はまたこの新築した二階の部屋へやで初めての客をするという顔つきで、めた徳利を集めたり、それを熱燗あつかんに取り替えて来たりして、二階と階下したの間をったり来たりした。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手酌に重なる熱燗あつかんの酒と業腹とが煮え合って、馬春堂は急に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熱燗あつかんに舌をやきつつ、飲む酒も、ぐッぐと咽喉のどつかえさしていたのが、いちどきに、かっとなって、その横路地から、七彩の電燈の火山のごとき銀座の木戸口へ飛出した。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを熱燗あつかんかして、一本の徳利に仕込みました——此処に酒の入った徳利が二本ございます。
たまらねえ。女房おかみさん、銚子をどうかね、ヤケという熱燗あつかんにしておくんなさい。ちっと飲んで、うんと酔おうという、卑劣な癖が付いてるんだ、お察しものですぜ、ええ、親方。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
熱燗あつかんが待つて居るよ、急がうぜ」
さけ熱燗あつかんのぐいあふり、雲助くもすけふうて、ちや番茶ばんちやのがぶみ。料理れうりかた心得こゝろえず。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「お世辞のいいこと、熱燗あつかんも存じております。どうぞ——さあいらっしゃい。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三番叟さんばそうすひもので、熱燗あつかん洒落しやれのめすと、ばつ覿面てきめん反返そりかへつた可恐おそろしさに、恆規おきてしたが一夜いちや不眠ふみん立待たちまちして、おわびまをところへ、よひ小當こあたりにあたつていた、あだ年増としまがからかひにくだりである。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鶯懷爐うぐひすくわいろはるめいたところへ、膝栗毛ひざくりげすこ氣勢きほつて、熱燗あつかんむしおさへた。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あすこいら一帯に、袖のない夜具だから、四布よのの綿の厚いのがごつごつおもたくって、肩がぞくぞくする。枕許まくらもと熱燗あつかんを貰って、硝子盃酒コップざけいきおいで、それでもぐっすり疲れて寝た。さあ何時頃だったろう。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
熱燗あつかん三杯、手酌でたてつけた顔を撫でて
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あまっさえ熱燗あつかんで、くまの皮に胡坐あぐらで居た。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)