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ふりがな文庫
“
潤
(
うる
)” の例文
父の眼には涙はなかつたが、声は
潤
(
うる
)
んでゐてものが言へないので、私は勇気を鼓して「お
父
(
と
)
う、用心なさんせ、左様なら」と言つた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
谷崎君は平安朝の文学の清冽な泉によって自己の詩境を
潤
(
うる
)
おしているとゝもに、江戸末期の濁った趣味を学ばずして身に
具
(
そな
)
えている。
武州公秘話:02 跋
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
彼女は眼を
潤
(
うる
)
ませてその言葉を繰り返した。弱い苦しそうな声で、そして力のない
咳
(
せき
)
をした。貞吉も同意見らしく何も言わなかった。
汽笛
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
が、我らの日常生活を
潤
(
うる
)
おすプログラムは、でたらめになってはいけないと同時に、あまり
頑固
(
かたくな
)
になり過ぎても嬉しいことではない。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
大和の国には
神
(
かん
)
ながらの空気が漂うている、天に向うて立つ山には建国の気象があり、地を
潤
(
うる
)
おして流れる川には泰平の響きがある。
大菩薩峠:04 三輪の神杉の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
▼ もっと見る
谷崎君は平安朝の文学の清冽な泉によって自己の詩境を
潤
(
うる
)
おしているとゝもに、江戸末期の濁った趣味を学ばずして身に
具
(
そな
)
えている。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
葉子は目を
潤
(
うる
)
ませたものだったが、その時分から見ると、退院後に起こった事件をも通りこして、二人の神経も大分荒くなっていた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
左側の料理場らしい処から男の声がすると
小柄
(
こがら
)
な
婢
(
じょちゅう
)
が出て来たが、あがる拍子にみると、左の眼がちょと
潤
(
うる
)
んだようになっていた。
牡蠣船
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
その街角へ現われて街灯の下へ
辿
(
たど
)
りつくと、まるで自分が
潤
(
うる
)
んだ灯に
縋
(
すが
)
りついた
守宮
(
やもり
)
ででもあるような
頓狂
(
とんきょう
)
な淋しさが湧いてきた。
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
心をかれのいと深き願ひにとめ、少しくかれを露にて
潤
(
うる
)
ほせ、汝等は彼の思ふ事の出づる
本
(
もと
)
なる泉の水をたえず飮むなり。 七—九
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
哀れな小さい囚人はかうして泣き
疲
(
つか
)
れたあと、
何時
(
いつ
)
もその
潤
(
うる
)
んだ
眶
(
まぶた
)
に幽かな燐のにほひの沁み入る薄暗い空氣の氣はひを感じた。
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
彼らの美に守られずしては、温かくこの世を旅することが出来ぬ。工藝に
潤
(
うる
)
おうこの世を、幸あるこの世といえないであろうか。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
各所の穀倉を穀物でみたし、各所の穴藏を葡萄酒でみたした一七六〇年のなごやかな秋は、この片田舍をもその富で
潤
(
うる
)
おした。
ユダヤ人のブナの木:山深きヴェストファーレンの風俗画
(旧字新仮名)
/
ドロステ=ヒュルスホフアネッテ・フォン
(著)
豊かなデリケエトな唇は、不思議に末子でもあり清でもある、小さな、細い〔時にきらきらと
潤
(
うる
)
んで光る〕
柔
(
やさ
)
しい眼は清にその
儘
(
まま
)
であった。
青べか日記:――吾が生活 し・さ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「ウーム、不思議なものが手に入った!」読み行くうちに二人の表情、驚異となり、歓喜となり、
怪訝
(
けげん
)
となり、また感激に
潤
(
うる
)
む眼となった。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
降る雨は、夜の目を
掠
(
かす
)
めて、ひそかに春を
潤
(
うる
)
おすほどのしめやかさであるが、軒のしずくは、ようやく
繁
(
しげ
)
く、ぽたり、ぽたりと耳に聞える。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
女もそこに坐って、黙って母親と私との話を聴いていたが、大きな黒い眼がひとりでに大きくなって充血するとともに玉のような露が
潤
(
うる
)
んだ。
黒髪
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
暗い方へ一寸這入つて、もとの灯のさした中を見ると、瀬戸物の小さいかけらの土に埋れたのが、金色の灯を写して
潤
(
うる
)
んだやうに光つてゐる。
桑の実
(新字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
ルウヴルの美術館でリユブラン夫人の
描
(
か
)
いた自画像の前に立つても
其
(
その
)
抱いて居る娘が、自分の
六歳
(
むつつ
)
になる娘の
七瀬
(
なゝせ
)
に似て居るので思はず目が
潤
(
うる
)
む。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
……其時は自分はバイロンの
轍
(
てつ
)
を踏んで、筆を劍に代へるのだ、などと論じた事や、その後、或るうら若き美しい人の、
潤
(
うる
)
める星の樣な
双眸
(
まなざし
)
の底に
葬列
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
「
潤
(
うる
)
んだような春の月も、泣いているような朧ろの空も、こうやって二人で見ることは未来
永劫
(
えいごう
)
もうあるまい……」
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
その代りに黒く
潤
(
うる
)
んだ眼……小さな紅い唇……青い長い三日月眉……ポーッと薄毛に包まれた耳……なぞが
交
(
かわ
)
るがわる眼の前に浮かんで来たと思うと
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
おとよはこの時はらはらと涙を
膝
(
ひざ
)
の上に落とした。涙の顔を
拭
(
ぬぐ
)
おうともせず、
唇
(
くちびる
)
を固く結んで頭を下げている。母もかわいそうになって
眼
(
め
)
は
潤
(
うる
)
んでいる。
春の潮
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
まったく
途方
(
とほう
)
に
暮
(
く
)
れたのであろう。
春信
(
はるのぶ
)
の
顔
(
かお
)
を
見
(
み
)
あげたおせんの
瞼
(
まぶた
)
は、
露
(
つゆ
)
を
含
(
ふく
)
んだ
花弁
(
かべん
)
のように
潤
(
うる
)
んで
見
(
み
)
えた。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
障子をもう一枚開け
拡
(
ひろ
)
げて、月の出に色も
潤
(
うる
)
みだしたらしい
不忍
(
しのばず
)
の夜の春色でわたくしの傷心を引立たせようとした逸作も
遂
(
つい
)
に
匙
(
さじ
)
を投げたかのように言った。
雛妓
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
鶴子は何か言おうとしたが、自分ながら声が
顫
(
ふる
)
えはせぬかと思ってそのまま
俯向
(
うつむ
)
くと、胸が急に一杯になって来て、どうやら眼が
潤
(
うる
)
んで来るような心持がした。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「そんでもどうにか
家
(
うち
)
も
拵
(
こせ
)
えたから、
爺
(
ぢい
)
ことも
連
(
つ
)
れてくべよなあ」おつぎの
聲
(
こゑ
)
は
漸次
(
ぜんじ
)
に
潤
(
うる
)
んで
低
(
ひく
)
くなつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
火鉢の火は衰えはじめて、
硝子
(
ガラス
)
窓を
潤
(
うる
)
おしていた湯気はだんだん上から消えて来る。私はそのなかから魚のはららごに似た憂鬱な紋々があらわれて来るのを見る。
冬の蠅
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
十五節—二十節においては友を沙漠の
渓川
(
たにがわ
)
に
譬
(
たと
)
えて、生命を
潤
(
うる
)
おす水を得んとてそこに到る
隊客旅
(
くみたびびと
)
(Caravan)を失望
慚愧
(
ざんき
)
せしむるものであるとなしておる。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
目のせいか、桜の花が殊に
潤
(
うる
)
んで見えた。ひき続いては出遅れた若葉が長い事かじけ色をしていた。
歌の円寂する時
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
母は黙って
此方
(
こちら
)
を向いた。常は滅入ったような蒼い
面
(
かお
)
をしている人だったが、其時
此方
(
こちら
)
を向いた顔を見ると、
微
(
ぼッ
)
と
紅
(
あか
)
くなって、眼に
潤
(
うる
)
みを持ち、どうも
尋常
(
ただ
)
の
顔色
(
かおいろ
)
でない。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
深夜の月の光の中に、
潤
(
うる
)
んだような曇を感ずるのは、何人にも味い得べき趣であって、しかも容易に句にし得ぬところのように思う。「光に曇る」の語もいい得て妙である。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
と同時に眼鼻立ちは、愛くるしかるべき
二重瞼
(
ふたえまぶた
)
までが、遥に初子より寂しかった。しかもその二重瞼の下にある眼は、ほとんど憂鬱とも形容したい、
潤
(
うる
)
んだ光さえ
湛
(
たた
)
えていた。
路上
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それならもう、戦争も済んだんですから、いつでも長崎へ帰れるじゃありませんか! といったのに対して、ジーナは切れ長な眼を
潤
(
うる
)
ませながら、こういう話をしてくれました。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
前にいる女の真の魂を、その両眼の
潤
(
うる
)
んだ熱烈なヴェール越しに読み取り得るには、クリストフはまだ、個人によりもむしろ多く民族に属してるその眼に十分慣れていなかった。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
といううちに早や言葉が
潤
(
うる
)
んで参ります。親子の情としては
然
(
さ
)
もあるべきことでございましょう、我子が
斯様
(
こんな
)
碌でもないことを致し、
他人
(
ひと
)
を悩めると思いましたら堪りますまい。
根岸お行の松 因果塚の由来
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
と軽口に、奥もなく云うて
退
(
の
)
けたが、ほんのりと
潤
(
うる
)
みのある、
瞼
(
まぶた
)
に淡く影が
映
(
さ
)
した。
南地心中
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
先生はふいと口を
噤
(
つぐ
)
んだ。そして窓の方に顏を
反
(
そむ
)
けて
佇
(
たたず
)
んだ。黒のモオニングを着た先生の背中は幽かに波打つてゐた。怒りの感情の高潮しきつたその眼には、何時か涙が
潤
(
うる
)
んでゐた。
猫又先生
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
窓という窓の厚ぼったい板戸をしっかり
下
(
おろ
)
した上に、
隙間
(
すきま
)
隙間にはガーゼを詰めては置いたのだが、霧はどこからともなく流れこんできて廊下の曲り角の
灯
(
あかり
)
が、夢のようにボンヤリ
潤
(
うる
)
み
人造人間殺害事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
今は早や凝つた形の雲とては見わけもつかず、一樣に露けく
潤
(
うる
)
んだ
皐月
(
さつき
)
の空の朧ろの果てが、言ふやうもなく
可懷
(
なつか
)
しい。次いでやや暫くの間、死んだやうな沈默がこの室内に續いてゐた。
一家
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
空寒き
奥州
(
おうしゅう
)
にまで帰る事は
云
(
い
)
わずに
旅立
(
たびだち
)
玉う
離別
(
わかれ
)
には、
是
(
これ
)
を出世の
御発途
(
おんかどいで
)
と義理で
暁
(
さと
)
して
雄々
(
おお
)
しき
詞
(
ことば
)
を、口に云わする心が
真情
(
まこと
)
か、狭き女の胸に余りて案じ
過
(
すご
)
せば
潤
(
うる
)
む
眼
(
め
)
の、涙が無理かと
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
土地の生産力を
大
(
おおい
)
に
潤
(
うる
)
おすわけならば格別であるが、若干の価をも得られべきでないことは、樹木を見ると、大概わかってしまう、売る方のみでなく、現にそれを買った商人は、樹も小さいし
上高地風景保護論
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
夕靄が
烟
(
けぶ
)
るように野末にたち
罩
(
こ
)
め、ものの輪廓が、ほの暗い、はるか
遠方
(
おちかた
)
にあるように見えた。道ばたに三本立っている見あげるような
樅
(
もみ
)
の木までが、まるで泣いてでもいるように
潤
(
うる
)
んで見えた。
親ごころ
(新字新仮名)
/
ギ・ド・モーパッサン
(著)
紫色の
潤
(
うる
)
みを帯びた大きな目は傍で観て居る人々を
睥睨
(
へいげい
)
するかのやう。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
お高祖頭巾のなかの切れ長の目が、いつしかシットリ
潤
(
うる
)
んでいた。
寄席
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
彼女は熱い吐息をボアの羽根毛のなかに
漏
(
もら
)
した。彼女に何物かが
潤
(
うる
)
んで見えた。
何処
(
どこ
)
かに生温い涙の匂ひを
嗅
(
か
)
ぐやうに思つた。明子は眼をつぶつて
頸
(
くび
)
を縮め、ボアの羽根毛のなか深く顔を埋め込んだ。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
といったような悲しみの歌を読むと、私の目はひとりでに
潤
(
うる
)
んだ。
九条武子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
その代りに夜は溢れるように露が何でもかんでもを
潤
(
うる
)
おした。
田舎医師の子
(新字新仮名)
/
相馬泰三
(著)
藤三は生れて始めて情慾に眼を
潤
(
うる
)
ませた。
刺青
(新字新仮名)
/
富田常雄
(著)
その
中
(
うち
)
に彼女の眼が
潤
(
うる
)
んで来た。
火
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
潤
常用漢字
中学
部首:⽔
15画
“潤”を含む語句
浸潤
湿潤
潤沢
利潤
谷崎潤一郎
潤色
潤滑油
秀潤
刪潤
温潤
潤筆料
潤味
徳潤
辻潤
迂潤
豊潤
潤州
潤澤
岡本潤
鮮潤
...