いずみ)” の例文
浴衣ゆかたかみの白い老人ろうじんであった。その着こなしも風采ふうさい恩給おんきゅうでもとっている古い役人やくにんという風だった。ふきいずみひたしていたのだ。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それはね、おとうさま、きのう、あたしが森のなかのいずみのそばにすわって、あそんでいたら、きんのまりが水のなかにおちてしまったの。
私が其の名音にった時は、昭和三年で六十位であった。其の名音は、最初いずみの某と云う庵にいて有徳の住持につかえていた。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「もし仙人せんにんがわたしをおしどりにしてこのいずみの上にはなったならばお前はどうするつもりか。」と若者わかものは池のおもてからをはなさないでいった。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
くわなら、ぼく明日あした学校がっこうってきてあげる。びんのなかみずれてさしておきたまえ。」と、いずみが、おしえました。
芽は伸びる (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこには泉殿いずみどのとよぶ一棟ひとむね水亭すいていがある。いずみてい障子しょうじにはあわい明かりがもれていた。その燈影とうえいは水にうつって、ものしずかな小波さざなみれている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少し行くと、おいしそうな果物くだものの木がありました。そのそばに、きれいな水がふき出しているいずみもありました。
「道理でお昼に待ちぼうけを食ったわ。伯母さんもいずみの水町さんがお出になるって、張り切っていたのに」
田園情調あり (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
自分が云おう云おうとして云えなかった物が、其処に滾々こん/\としていずみの如く流れて居るのを会得する。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
横にもたてにも水をひく工事は発達して、掘井戸ほりいどは家々にちかくなり、共同のいずみまでみにゆくひつようが、多くの村里むらざとではなくなってしまった上に、さらに手桶ておけというものが発明せられて
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これにって人智じんちは、人間にんげん唯一ゆいいつ快楽かいらくいずみとなつている。しかるに我々われわれ自分じぶん周囲まわりに、いささか知識ちしきず、かずで、我々われわれはまるで快楽かいらくうばわれているようなものです。勿論もちろん我々われわれには書物しょもつがある。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ちょっとした広場のまん中にいずみがあって、木かげがこんもりしている所を見つけると、わたしはハープを下ろしてワルツを一曲ひき始めた。曲はゆかいな調子であったし、わたしの指も軽く動いた。
せい小川おがわへ、せいもといずみへと1200
それから、おばあさんは、女の子の手からいずみのなかへすべりおちた糸巻いとまきもかえしてくれました。そのとき、門がしまりました。
かりの童子とっしゃるのは。」老人は食器しょっきをしまい、かがんでいずみの水をすくい、きれいに口をそそいでからまた云いました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
女神めがみこえは、えない、不思議ふしぎいずみのように、若者わかものたましいに、ささやくと、かれは、なみだぐましい感激かんげきにむせびました。
海の踊り (新字新仮名) / 小川未明(著)
夜になり月がのぼって、池の面が白くかぎろいはじめるころ、若者は恋人をともなって、芝草しばくさの上のつゆをふみながらふたたびいずみのほとりにやってきた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
軍兵ぐんぴょうどもは、沙漠さばくいずみを見つけたように口々に声をもらした。そのほとりには、小さなやしろがあるのも目についた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども、ぶくろのなかには石がいっぱいつまっていますので、のどがかわいてたまりません。それで、いずみへいって、水をのもうとしました。
(いいえ。さっきのいずみあらいますから、下駄げたをおりして。)老人は新らしい山桐やまぎりの下駄とも一つ縄緒なわおくりの木下駄を気のどくそうに一つもって来た。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
みじんになった陶物すえもの破片はへんを越えて、どッ、いずみをきったような清水しみずがあふれだしたことはむろんだが、ねこもでなければ呂宋兵衛るそんべえ正物しょうぶつもあらわれなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おかいこのはなしをしていたのです。先生せんせいぼくのおかいこはおおきくなりました。」と、いずみが、いいました。
芽は伸びる (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしがこれをふきはじめると、まずいずみの水は上方から深山の大気のようにすんでくる。そして魚たちの心、鳥たちの心、花たちの心も水と同じようにすんでくる。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「このつぎのいずみにいくまで待つよ。だけど、こんどはおまえがなんていったって、のむからね。もう、のどがかわいてかわいて、たまらないんだ。」
道の左側ひだりがわが細い谷になっていてその下でだれかがかがんで何かしていた。見るとそこはきれいないずみになっていて粘板岩ねんばんがんけ目から水があくまであふれていた。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すぐその日から、宮庭きゅうていいずみのほとりに、大理石でとうをたてることをおおせつかりました。けれど、心の美しい巨男おおおとこは、けっしてなげいたり、悲しんだりしなかったのですよ。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
翌日よくじつ学校がっこうへいくと、いずみはしんせつにびんのなかくわえだをさして、ってきてくれました。
芽は伸びる (新字新仮名) / 小川未明(著)
鎌倉いずみやつ浄光明寺じょうこうみょうじは、ほんの一堂に庫裡くりがあるだけの、草寺くさでらだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして、もうひとりの女の子は、おかあさんのいいつけで、いずみのそばにすわって、糸をつむぐことになりました。
まことにおたがい、ちょっと沙漠さばくのへりのいずみで、おにかかって、ただ一時を、一緒いっしょごしただけではございますが、これもかりそめのことではないとぞんじます。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
にんは、かしのしたこしろして、西南せいなん国境くにざかいにある金峰仙きんぷせんほうながら、まだあのたかやまみねには不死ふしいずみがあるだろうかというようなことをはなして空想くうそうにふけりました。
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二人ふたりはかわりばんこに、いずみのふちの、しだやぜんまいのうえ両手りょうてをつき、はらばいになり、つめたいみずにおいをかぎながら、鹿しかのようにみずをのみました。はらのなかが、ごぼごぼいうほどのみました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
かわいそうな女の子は、まい日大通りへでて、いずみのそばにこしをおろして、指からがでてくるほど、たくさんの糸をつむがなければなりませんでした。
流沙るさの南の、やなぎかこまれた小さないずみで、私は、いった麦粉むぎこを水にといて、昼の食事しょくじをしておりました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これをくと、たちまち、ちいさなむねへ、よろこびがいずみのように、こみあげました。
空にわく金色の雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
魔法使まほうつかいの女というものは、みんな、そんなふうにそうっと歩くものなのです。そして、この女は、森のなかのいずみという泉に、魔法をかけておいたのでした。
ああ、ただも一度いちど二本の足でぴんぴん歩いてあの楽地らくちの中のいずみまで行きあのつめたい水を両手りょうてすくってむことができたらそのままんでもかまわないとう思うだろう。
と、大声でさけびながら、おかあさんヤギといっしょに、大よろこびで、いずみのまわりをおどりまわりました。
みちが林の中に入り、達二はあの奇麗きれいいずみまで来ました。まっ白の石灰岩せっかいがんは、ごぼごぼつめたい水をき出すあの泉です。達二はあせいて、しゃがんで何べんも水をすくってのみました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
王さまのおしろの近くに、こんもりとしげった森がありました。森のなかには古いボダイジュが一本立っていて、その木の下からいずみがこんこんとわきでていました。
ですから、カエルのほうは、もとのいずみのなかに、すごすごとかえっていくよりほかはありませんでした。
おとうさんは、男の子のひとりをおおいそぎでいずみにやって、洗礼せんれいの水をもってこさせようとしました。すると、ほかの子どもたちも、いっしょにかけていきました。
「ねえ、ぼくはのどがかわいちゃったよ。いずみのあるところがわかりゃ、いってのんでくるんだけどなあ。おやっ、なんだかさらさらいう水音がきこえるようだよ。」
それから、オオカミはいずみのところまできました。