うご)” の例文
旧字:
庭の桔梗ききょうの紫うごき、雁来紅けいとうの葉の紅そよぎ、撫子なでしこの淡紅なびき、向日葵ひまわりの黄うなずき、夏萩の臙脂えんじ乱れ、蝉の声、虫のも風につれてふるえた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「巨人は薊の中にたおれて、薊の中に残れるはこの盾なり」と読み終ってウィリアムが又壁の上の盾を見ると蛇の毛は又うごき始める。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
海藻みるをかき乱したような黒髪の、水肌を慕うようにうごめく中に、白い顔が恐怖と苦悩にゆがんで、二つの眼ばかりが、星のごとく輝きます。
ふと一等墓地の中に松桜を交え植えたる一画ひとしきり塋域はかしょの前にいたり、うなずきて立ち止まり、かきの小門のかんぬきうごかせば、手に従って開きつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「ふゥむ、」と得意らしく小鼻をうごめかしながら毬栗頭はげチヨロケた黒木綿の紋付羽織をリウとしごいて無図むづと座つた。
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
のりになりて首をうごかすと、権太も釣込まれてその通に首を揺かし、極りの悪き風にて顔を下げ、月代さかやきの上に右の手をす。
日脚ひあしが斜めに樹の影を押して、微風が夕顔の白き花を吹きうごかすのを見ると何ともいはれぬ善い心持になつて始めて人間に生き返るのであつた。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
追いかけて頼んでも縋っても、旅客は知らぬ顔をしてずんずんと先に行く。初夏の日影は美しく光って、麦の緑が静かな午後の微風にうごいている。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
巡査が松明を振翳ふりかざす途端に、遠い足下あしもとの岩蔭に何かは知らず、金色こんじきの光を放つ物が晃乎きらりと見えた。が、松明の火のうごくにしたがって、又たちまちに消えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「待ッたか?」ト初めて口をきいた、なおどこをか眺めたままで、欠伸をしながら、足をうごかしなから「ウー?」
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
余の神経がうごいて居る為此の様に聞えるのか、将た秀子の決心が非常に強い為自から此の様な声を発するのかも知らぬけれど、背く事の出来ぬ命令である
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
黄昏たそがれ家を出で、暫らく水際に歩してた田辺に迷ふ。螢火漸く薄くして稲苗まさに長ぜんとす。涼風葉をうごかして湲水くわんすゐ音を和し、村歌起るところに機杼きじよを聴く。
客居偶録 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そこには、真新しい寒冷紗かんれいしゃづくりの竜幡りゅうはんが二りゅうハタハタとうごめいている新仏にいほとけの墓が懐中電灯の灯りに照し出された。墓標ぼひょうには女の名前が書いてあったが覚えていない。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
春の日の当っておる時に土地とか石とか草とかの上に、ゆらゆらとうごくところの或気を感ずる。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
星者は曾の気位の高いのを見ておべっかをつかった。曾は扇をうごかしながら微笑して聞いた。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
真常流注しんじょうるちゅう、外じゃくニ内うごクハ、つなゲル駒、伏セル鼠、先聖せんしょうコレヲ悲シンデ、法ノ檀度だんどトナル……
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ペオチアの田舎で菜摘みを事としたが、転じてアテーネの遊君となってより高名の士その歓を求むる者引きも切らず、一たび肢を張れば千金到り一たびこしうごかせば万宝る。
「日本は小なれどもかじのごとし。東洋の大船をうごかすはすなわちこの楫ならざるべからず」
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ギーギーという音がして、左右に帆柱がうごいたかと思うと、張り切った帆が弛んで来た。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よく見れば見も知らぬ人にて死してあるようなり。月のある夜なればその光にて見るに、ひざを立て口を開きてあり。この人大胆者にて足にてうごかして見たれど少しも身じろぎせず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
物を言う時には絶えず首をうごかす、其度にリボンが飄々ひらひらと一緒にうごく。時々は手真似もする。今朝った束髪がもう大分乱れて、後毛おくれげが頬をでるのを蒼蠅うるさそうに掻上かきあげる手附もい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そのたかんなのごとき巌に纏ふこと七巻半、鱗甲りんかふ風にうごき、朱をそゝげる眼は天を睨む、時に鎮西八郎射てこれをたふし、その脊骨数箇を馬に駄す、その馬重きに堪へず、嘶いて進まざりしところ
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
強い日光に照りつけられた海水の反映が室の壁と天井とに絶間たえまなく波紋のうごく影をゑがいてゐる。窓の上に巣を作つてゐる燕が、幾羽となく海の方へ飛んで行つては海草うみくさのちぎれをついばんで来る。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
怖いから眼をつぶったら、ガクリと音がしてうごいていた歯がぬけた。ポコンと穴があいて、血がいくらでも出る。口もゆすがせないで、きたない手でおじいさんは白い粉のくすりをつけてくれた。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
... 押えてうごかしてみると分ります。潰したての鳥は肉と骨と筋とんな別々になっているように肉だけクルクルと動きます。二、三日過ぎると肉が骨へ着いて前のように動きません。それにこわさとやわらかさとも違います」客
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
淡蒼うすあをい影をうごかす
ピアノ (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
うごいきほひに乗じて、我々の理想通りに文芸を導くためには、零砕なる個人を団結して、自己の運命を充実し発展し膨脹しなくてはならぬ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
蜥蜴は死んだのか、気絶したのか、少しも動かぬ。トラはわんぐりといはじめた。まだ生きて居ると見えて、蜥蜴のが右左にうごいた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
吾が近眼にはよくも見えねど、何やらん白繻子しろじゆすやはらかき白毛のふちとりたる服装して、牙柄がへいの扇を持ち、頭のうごく毎にきら/\光るは白光プラチナの飾櫛にや。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
蕪村の句は堅くしまりてうごかぬがその特色なり。ゆえに無形の語少く有形の語多し。簡勁の語多く冗漫の語少し。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
生憎あいにく柱損じて如何ともするあたわず、急に犢鼻褌ふんどしを解き、かいを左右のげんに結び、二人極力これをうごかす、忽ちにしてふんどし絶つ。急に帯を解き、これを結び、蒼皇そうこう以て舟をる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ねやの雨戸をがたがたとうごかすとも知らず、時々ひびく遠寺の鐘が、たえず無常を告ぐるとも知らず、東の窓の明くなりたるに驚きて、眼さむれば、あたかも小児が朝おき出でて
一夜のうれい (新字新仮名) / 田山花袋(著)
自惚れると妙な理窟がつくもんで、新聞記者の大洞福弥君、二学士の落第を聞いて鼻をうごめかした子。有繋さすがに妙子様頗る見識がある。学士の虚名を見破つた処は素晴らしいもんだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
たまたま不平を以って鳴けば、にわかに多言のとがめを獲、悔、ほぞむも及ぶなし。尾をうごかして憐を乞うを恥ず。今其罪名を責むるを蒙り、其状をせまらる。伏して竜鱗をち竜頷を探る。に敢て生を求めんや。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
落月情をうごかして江樹に満つ
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが一色いつしきになつてまはる。しろい棺は奇麗な風車かざぐるま断間たえまなくうごかして、三四郎の横を通り越した。三四郎はうつくしいとむらひだと思つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
蕪村の句は堅くしまりてうごかぬがその特色なり。故に無形の語少く有形の語多し。簡勁の語多く冗漫の語少し。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
影が水に映って、水が影をうごかして、影か形か、形か影か、深いか浅いか、一切分らない。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
木影こかげうごく。蛙が鳴く。一寸ちょっと耳をびちっと動かした母犬おやいぬは、またスヤ/\と夢をつゞける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やや旧派の束髪に結って、ふっくりとした前髪を取ってあるが、着物は木綿の縞物しまものを着て、海老茶色えびちゃいろの帯の末端すえが地について、帯揚げのところが、洗濯の手を動かすたびにかすかにうごく。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
津田は面喰めんくらった。彼の心は波のように前後へうごき始めた。彼はいっその事思い切って、何もかもお延の前にさらしてしまおうかと思った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
風が花をうごかして露の散る時、そのほか露の散る時は始めて露の見ゆる心地すれど、それも露の見ゆるにはあらでむしろ露が物の上に落つる音を聞きて知る位の事ならん。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ふっくらした厚い席の上で、彼女の身体からだうわつきながら早くうごくと共に、彼女の心にも柔らかで軽快な一種の動揺が起った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
終りには肩をすぼめて、恐る恐る歩行た。雨は満目まんもく樹梢じゅしょううごかして四方しほうより孤客こかくせまる。非人情がちと強過ぎたようだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
甲野さんは茶碗を前に、くすんだ万筋の前を合して、黒い羽織のえりを正しく坐っている。甲野さんが問いけられた時、囅然にこやかな糸子の顔はうごいた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
凡てが悉くうごいて、新気運に向つて行くんだから、取り残されちや大変だ。進んで自分から此気運をこしらへげなくつちや、生きてる甲斐はない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
津田の心はこの言葉を聴く前からすでにうごいていた。しかし行こうという決心は、この言葉を聴いたあとでもつかなかった。夫人は一煽ひとあおりに煽った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
投げいだしたる足の、長きもすそに隠くるる末まで明かに写る。水は元より動かぬ、女も動かねば影も動かぬ。只弓をる右の手が糸に沿うてゆるくうごく。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
云いてて紫のリボンは戸口の方へうごいた。ほそい手に円鈕ノッブをぐるりと回すやいなや藤尾の姿は深い背景のうちに隠れた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と女はうたいおわる。銀椀ぎんわんたまを盛りて、白魚しらうおの指にうごかしたらば、こんな声がでようと、男はきとれていた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)