掃溜はきだめ)” の例文
人目を避けて、うずくまって、しらみひねるか、かさくか、弁当を使うとも、掃溜はきだめを探した干魚ほしうおの骨をしゃぶるに過ぎまい。乞食のように薄汚い。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よくまアこんないやらしい言葉を掃溜はきだめから掻きまはして拾つてきたと思ふやうなことをおたがひに蔭で叩きあつてゐたのである。
足のない男と首のない男 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
また小使を呼んで、「さっきのバッタを持ってこい」と云ったら、「もう掃溜はきだめててしまいましたが、拾って参りましょうか」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尤ものちには悪友の悪感化を受けて、友達と一緒に近所の掃溜はきだめへ首を突込み、しゃけの頭をしゃぶったり、通掛とおりがかりの知らん犬と喧嘩したり
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
掃溜はきだめへたかって腐敗物をめたくちばしで出来たての食物を舐めますからその気味の悪い事、つまり有毒細菌を運搬して歩くのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この本所ほんじょの裏町では、彼女の高貴めいた身装みなりだの端麗たんれいな目鼻立ちが、掃溜はきだめの鶴と見えるらしく、妙な尊敬を持つのだった。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも、それと同時にそんな問題は、列国ブルジョアジーの掃溜はきだめである共同租界の人々からは、考えて頂かない方が結構な問題でもございますわ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「もう宜いわ、友三郎さんも分家をなされば今頃は否応なしに平民よ。失礼ながら掃溜はきだめへ落ちていらっしゃるのよ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
番頭「それはね、彼処あすこの魚屋の裏へ這入ると、一番奥のうちで、前に掃溜はきだめ便所ちょうずばが並んでますからじきに知れますよ」
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長老はさんざんののしりながらその死体をこまかく刻んで、塵といっしょに掃溜はきだめに捨てたという話である。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
いい相談があるとだまされて、掃溜はきだめのようなきたない長屋の奥へ引っ張り込まれて、三日のあいだ、腹さんざん慰み物にされて、身ぐるみ剥がれて古浴衣一枚にされて……。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殺風景な、あかるくない電灯に照された留置場で、彼女の姿は掃溜はきだめに咲いた大輪の花にも譬うべきであろうか。康雄にとっては、まことに、いじらしさの限りであった。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「お前達まへたちは大うそつきだ。黄金きんを出すどころか、したゝかにうんこをしたので、わたしは腹が立つて火吹竹でどやしつけたら、死んでしまつたから、裏の掃溜はきだめに棄てゝしまつた。」
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
番人もむごいぞ、頭を壁へ叩付けて置いて、掃溜はきだめへポンと抛込ほうりこんだ。まだ息気いきかよっていたから、それから一日苦しんでいたけれど、彼犬あのいぬくらべればおれの方が余程よッぽど惨憺みじめだ。
何しろ米の出來るくににゐる田舎者ゐなかものが、こめの出來ない東京へ來て美味うまめしあり付かうとするんだからたまらん………だから東京には塵芥ごみが多い。要するに東京は人間の掃溜はきだめよ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ただ驚いたのは、掃溜はきだめいって見ても浜辺に行て見ても、鉄の多いには驚いた。申さば石油の箱見たような物とか、色々な缶詰の空壳あきがらなどが沢山たくさんてゝある。れは不思議だ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
野中の掃溜はきだめへ捨て鶏犬のつつくらうに任すと書いた、眼前の見聞を留めたもの故事実と見える。
村の衛生係が草鞋ばきの巡査さんとどぶ掃溜はきだめを見てあるく。其巡査さんの細君が赤痢になったと云う評判が立つ。かねや太鼓で念仏ねんぶつとなえてねりあるき、厄病禳やくびょうばらいする村もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
他所の掃溜はきだめあさってみたり。物を貰うて又生き延びるよ。そのうち正気に帰るにしても。そこでこの世の悲しさ辛らさが。遣瀬やるせないほど身にみ渡る。又は吾身の姿に恥じて。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
掃溜はきだめに鶴の降りたやうな清純な感じのするのが、幾日かとゞこほつた日濟しの金——と言つても、さしに差した鳥目を二本、たもとで隱してそつと裏口から覗くと、開けつ放したまゝの見通しの次の間に
うら垣根外くねそとさ、つちはかたであかつぽうろくだが、掃溜はきだめみつしらんでいたところだから、れがたとえんのさ、おもひのほか土地とちきらあねえもんだよ、んなもんでもつくつちやくはにやわるかんべが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
新しいおもちゃを貰った子供が古い方を掃溜はきだめに投込んでしまうように、新しい学説の前にはすべての古いものがみんな駄目になったように思う人が万一あるとしたら、それはもちろん間違いである。
スパーク (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一茶の「掃溜はきだめ赤元結あかもとゆいや春の雨」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
人目を避けて、うずくまつて、しらみひねるか、かさくか、弁当を使ふとも、掃溜はきだめを探した干魚ほしうおの骨をしゃぶるに過ぎまい。乞食こじきのやうに薄汚うすぎたない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
垢のついた仕事着にちょッ切帯きりおび、身なりはひどいが、襟元の奥が肌白く見えて、この寄子よりこ部屋ではどうしても掃溜はきだめに鶴。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魚のアラが極く上等ですし牛肉の屑でも魚の骨でも野菜の屑でも何でも掃溜はきだめへ捨てるものを大きな鍋へ入れて水から一時間も煮てそれをります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
歴としたうちの飼い犬でありながら、品性の甚だ下劣な奴等で、毎日々々朝から晩まで近所の掃溜はきだめ𩛰あさり歩き二度の食事のほか間食かんしょくばかりむさぼっている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いっさいの重荷をおろしてらくになりたいのです。兄さんはその重荷を預かって貰う神をもっていないのです。だから掃溜はきだめか何かへててしまいたいと云うのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それがきょうの午前中に忍び込んできて、女中の知らない間に蒲焼の一と串をくわえ出して、裏手の掃溜はきだめのところで食っていたかと思うと、口から何か吐き出して死んでしまった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大酒たいしゅのために一家分散して昨今は博多瓦町の町外れ、万延寺境内に逼塞ひっそくし、福岡博多の町々を徘徊して物を貰い、又は掃溜はきだめあさりながら行く先々の妙齢の娘の名前、年齢、容色、行状
ただし正確に鶏を指すにはコンモン・ファウル(尋常鳥)、またダングヒル・ファウル(掃溜はきだめ鳥)というて近属のピー・ファウル(孔雀)、ギニー・ファウル(ホロホロ鳥)等と別つ。
うもしからぬ事を、なんぼおまへさんは人がいからつて、よもや証拠しようこのない事をひなさるまい。甚「エヽありますとも、アノ一ばんおく掃溜はきだめまへいへのおせきさん、かた証拠人しようこにんです。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
掃溜はきだめに鶴の降りたような清純な感じのするのが、幾日かとどこおった日済ひなしの金——といっても、さしに差した鳥目ちょうもくを二本、たもとで隠してそっと裏口から覗くと、開けっ放したままの見通しの次の間に
掃溜はきだめのような窪んだ表の街も夜になると祭りのように輝いた。その低い屋根の下には露店が続き、軽い玩具や金物が溢れ返って光っていた。群集は高い街々の円錐の縁から下って来て集まった。
街の底 (新字新仮名) / 横光利一(著)
今はコスモスの真盛まさかりである。濃紅、紅、淡紅、白、庭にも、園にも、畑にも、掃溜はきだめはたにも、惜気もなくしんを見せて思いのまゝに咲きさかって居る。誰か見に来ればよいと思うが、終日誰もぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
掃溜はきだめの証拠よ。華族が不始末を仕出来すと何うなって?」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何とかが如何どうとかして、掃溜はきだめの隅で如何どうとかしている処を、犬に吠付かれて蒼くなって逃げたとか、何とか、その醜穢しゅうわいなること到底筆には上せられぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「いずれそうよ、出処はたしかなものだ。川尻権守ごんのかみ溝中どぶのなか長左衛門ね、掃溜はきだめ衛門之介などからおさがり遊ばしたろう。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
繁殖するのは家の中で子を生むからです。掃溜はきだめなぞへも折々石油を振りかけておくと蠅の卵が死んでしまいます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
殊に色街の掃溜はきだめには、怠け者の地廻じまわりとかなんとかいって、そういう野郎がいかねない。……だがまア、よくお前たちは辛抱してるなあ、今におやじも眼をさますだろう。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのときは丁度ヨーロッパ大戦の最中で、非戦国のスイスは各国の思想家の逃避地のこととて、街は頭ばかりをよせ集めた掃溜はきだめみたいなものだ。スイスを一歩外へ出れば現世は血眼ちまなこの殺し合いだ。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
鼻糞はなくそ記事の軽重、大小を見分けるためにはとり餌箱えばこ式の県予算、さい河原かわら式土木事業の進行状態、掃溜はきだめ式市政の一般、各市町村のシミッタレた政治分野、陣笠代議士、同じく県議、ワイワイ市議
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この私に掃溜はきだめへ捨てろといふ大むづかりだ、見るのもイヤだと言つた
一 流し元と掃溜はきだめとは気をつけて衛生に害なきよう且肥料こやしにすべき事
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
このほかにもパンの用い方は沢山ありますから決して古パンやパンくずなぞを掃溜はきだめへ捨てるものでありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私はそれが可羨うらやましい。いぬの子だか、猫の子だか、掃溜はきだめぐらいの小屋はあっても、縁の下なら宿なし同然。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、王の茶店婆さんなどにしてみれば、なおのこと、掃溜はきだめの鶴とも見えたに相違なかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねぎきっても人参にんじんや大根を切ても頭としっぽの捨てるような部分を掃溜はきだめへ捨てないでスープの中へ入れる。そうして火鉢の火のいている時は夜でも昼でも掛け通しておく。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この容色きりょう三絃いともちょっと響く腕で——ころ同然な掃溜はきだめへ落ちていると分りますと、一夜妻のこの美しいのが……と思う嬉しさに、……今の身で、恥も外聞もございません。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二枚の板戸をてた先生のねぐらが、何事もなく待っていて、そこに掃溜はきだめへ鶴のような若い女を迎え、何はなくとも春のようで、行燈あんどんの明りまでがいつもの晩より明るい気がする。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)